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第102章:残されたシグナル



ミジキは、追いついてきたアセシアにステシアを託し、炎の立ち込める煙の中から足早に歩み出た。片手の胸元に掲げた掌には、親指の爪ほどの大きさのスライムの細胞が乗っていた。熱や雨粒を防ぐために、彼女自身が張った薄い魔力の結界で包み込まれている。


出っ張った岩陰の奥では、アセシアが大きな白いマントの上でぐっすりと眠るステシアの傍らに座り、そのすぐ近くでは二人の従者が警戒に目を光らせていた。アセシアの長い白髪は湿って細い肩に貼り付いていた。


「ステシアはすっかり眠っています」アセシアは声をひそめて言った。「肩の火傷も綺麗に塞がりましたが、まだあまり動かさないほうがよさそうです」


「ありがとう」ミジキは普段よりもかすれた声で答えた。「ステシアを頼めるね」


アセシアの視線がミジキの手のひらに移ると、その表情が凍りついた。「それは……」


「ブルーベルよ」ミジキが短く告げた。


アセシアは思わず手で口を覆い、言葉を失ったのち、おそるおそる尋ねた。「では……ブルーベル様の本体は……?」


「もう残っていないわ」ミジキは静かに言った。「この細胞が、生き残った唯一の破片よ。魔導核が致命的に破壊されていて、新しい細胞を再生させることができないわ……声を発することすら、もうできないの」


「それじゃあ、彼女は……」アセシアはそれ以上の質問を飲み込んだ。


「まだ生きているわ。私が感じ取れる」ミジキは力を込めて言った。「ただ、残されたエネルギーがあまりにも少ないけれど」


アセシアは従者に合図を送った。若者は慌てて、負傷者回復用の清らかな魔力水が入った小さなガラス瓶を差し出した。ミジキはそれを受け取ると、慎重にその小さな細胞を瓶の中へと落とし込んだ。細胞は水面を揺らすこともなく、静かに瓶の中心へと沈んでいった。


「ブルーベル」ミジキはガラス瓶を目線の高さまで持ち上げ、優しく呼びかけた。「もし聞こえているなら……一度揺れてちょうだい」


二人は息をひそめて、瓶の中の小さな細胞をじっと見つめた。


かすかに、しかしはっきりと、細胞が一度揺れた。あまりにも弱々しかったが、確かに意志が伝わるには十分だった。


アセシアは息を呑み、目に涙を浮かべて自然と零れ落ちるのを止められなかった。ミジキはきゅっと唇を噛み締め、さらに問いかけた。「もし違うなら、二度揺れて。わかるかい?」


細胞はもう一度、一回だけ揺れた。


「えらいね……」ミジキは震える声で絞り出した。「こんなひどい真似をしたのは……ベアトリクスなのね?」


細胞が一度揺れて肯定した。その直後、そこにかすかに宿っていたミントグリーンの光が、消えかかるように急速に弱まった。


「もうやめて!」アセシアが慌てて制止した。「答えるたびに、彼女は残された命のエネルギーを削っているのよ!」


ミジキはゆっくりとうなずき、ガラス瓶を下ろして胸にしっかりと抱きしめた。「ごめんね、ブルーベル……もう聞かないから、ゆっくり休んで」


「パパ……」


白いマントの上から、か細い声が響いた。ステシアがうっすらと目を開ける。その顔色は依然として青白い。ミジキはすぐに彼女の傍らに膝をつき、アセシアと話していた時とは打って変わって、どこまでも柔らかく優しい声で語りかけた。


「パパはここにいるよ。無理に起き上がらなくていいからね」ミジキはガラス瓶を持ち上げてステシアに見せた。「ほら、ブルーベルもここにいるよ。ちょっと小さくなっちゃったけどね」


ステシアはガラス瓶の中の細胞を見つめ、大粒の涙をこぼした。「らおが悪いんだ……らおがブルーベルを守れなかった……っ!」


「謝る必要なんてないよ」ミジキは彼女の髪を優しく撫でた。「よく頑張って戦ったね……さあ、ゆっくり休みさい。残りのことは全部パパが何とかするから」


ステシアは力なくうなずき、再びゆっくりとまぶたを閉じた。その呼吸は次第に穏やかで規則正しいものになっていった。


ミジキはすっと立ち上がり、アセシアに向かっていつもの落ち着いたトーンで告げた。「アセシア、ステシアとブルーベルを連れて、先にアセシア王国へ戻ってくれないか。あそこなら、私が今持っているよりも優れた治療設備や治癒師たちが揃っているはずだ」


「わかりました」アセシアは即座に引き受けた。「王宮で最も静かな部屋を用意させます。すぐに優秀な治癒師を呼んでブルーベル様の魔導核を診察させますわ」そして少し言い澱んだ。「……それで、あなたは?」


「私はベアトリクスを見つけ出す」ミジキの視線は、禁忌の領域の入口から今なお立ち上る黒煙を捉えていた。「彼がこれ以上、勝手な真似をする前にね」


アセシアは深くうなずき、その意図を理解した。彼女は古代のアーティファクトを掲げると、その足元に白銀色の巨大な魔法陣が眩く展開した。二人の従者は慎重にステシアの体を支え起こす。


ミジキはガラス瓶を両手で丁寧にアセシアへと手渡した。「二人を頼んだよ」


「お約束します」


光の魔法陣が激しく眩い光を放って消え去り、その場には雨の中、ミジキ一人だけが残された。彼女はそっと手を差し伸べる。禁忌の領域の上空に激しく降り注いでいた雨が次第に激しさを増し、内部で燃え盛るすべての炎を完全に消し去っていこうとしていた――。

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