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『なんだよ…これ…』


孤児院の敷地内は、荒れに荒れていた。

あんなに綺麗に咲いていた花も花壇も、跡形もなく粉砕されている。

孤児院の建物も、あちらこちらに銃弾の乱射跡があり、1つとして無事な窓ガラスが無い。


こんな中、皆はどこに隠れているんだろう…。


イヤな予感が頭を過る。

割れて床に飛び散ったガラスをジャリ…ジャリ…と踏みしめながら、リビングだった場所に向かった。





そこで俺が目にしたものは、まさに地獄絵図とでもいおうか…。


小さな子を守ろうとしたのだろう、年長者が小さな子達に覆い被さったまま床に倒れている。

だからと言って、庇われた子が生きている様子もない。

床にあるおびただしい血溜まりが、その場にいる全員の絶命を告げていた。


『嘘…だろ…?』


ショックのあまり、ともすれば立ち止まりそうになる足を必死に動かして、皆の元に近づく。

近づくたびに強くなる噎せ返る程の生臭い血の匂いに、吐き気が込み上げてきた。


今朝まで笑っていたはずの皆の顔には、いまや赤い血がへばりつき、顔は青白くなって、幸せそうだったあの時の表情は見る影もない。


『…ど…して…』


ガクリと床に膝を着いた。

その途端、ジーンズに血が染みこんでくる。

既に冷たくなっているその感触に、本当に死んでしまったのだと理解した。

周りのセイバー達の同情を含んだ視線が、全て俺に向けられている。


その時、隣の部屋にいたセイバーの一人が声を上げた。


『おい!この人まだ息があるぞ!』


途端にバネのように床から立ち上がって隣の部屋に向かう。


誰だ?…誰が生きてるんだ?!

誰でもいい、とにかく生きていてくれれば誰でもいい!


祈るような思いで部屋に入ると、そこに倒れていたのは数人の幼児と…院長だった…。


俺が部屋に飛び込んだ瞬間、その気配を感じたのか院長の目がゆっくり開いた。


『…こ…うづき…君…』

『院長!』


息せき切って走り寄ると、院長の横にいた隊員がその場をどいて場所をあけてくれる。


『院長、どうしてこんな事に!』

『煌…月…くん…、落ち着いて…。私の息がある内に、言っておきたい…ことが…あるの…』

『そんな事より、病院へ!』

『もう…無理だって…わかってるわ…。それよりも、話を…聞いて…ちょうだい』


途切れ途切れの息の合間に必死に言葉を紡ぐ院長の様子に、愕然とした。

目が虚ろだ。顔からは血の気が無くなっている。


…もう…助からない…。


床に両膝を着いて、院長の片手を両手でギュッと包みこんだ。

俺の生命力が少しでも院長に流れ込めばいいのに!


『…貴方を…セイバーに…入れたのは、…少しでも、貴方に…人を好きになって…ほしかったから…なの…』

『…え…?』

『人を…信じられないまま…進んでいったら…、っ…貴方はとても…辛くなるわ…。セイバーなら…大丈夫だと…思ったの…』

『院長…、そんな…事を…』


俺がいなくなれば孤児院の運営が楽になるからだろう…とか、そんなネガティブな想像して、全く院長の事を信じていなかった自分が情けなくなった。


…なんて馬鹿なんだ…っ…。こんな…、こんな最後になって、院長の愛情を知るなんて…!


涙が馬鹿みたいに零れ出す。


ボタボタボタボタ


床に落ちる透明な雫。

そんな俺を見て、まるで我が子を見るような微笑みを浮かべる院長。


『セイバー隊に…理由を話して…貴方を見守ってくれるように…お願いしたの。…でも、どこの隊も、足手まといになるから…って引き受けてくれなくて…。その時、鈴原さんだけが…こころよく…承諾してくれた…のよ…』

『…鈴原さん…が…?』

『そう…よ。…あの人は、信じて大丈夫だから…安心…しなさい…。私が言いたかったのは…それだけ…。貴方が…生きていてくれて…本当に……良かっ…た……』

『……い…んちょう…?』


微笑を浮かべたまま、静かに瞳が閉じられた。


『…嘘…だ、俺まだゴメンナサイも言ってない……ありがとうさえ…言ってない…のに…、なんで…っ…!』


ダン!っと、拳を床に叩きつけた。

何度も、何度も…、床が壊れてしまうんじゃないかというくらいに、叩き続けた。


どうして死ななければいけないんだ?!

誰も悪い事はしてないのに、なんで!

一番捻くれていた俺だけが生き残って、なんで皆が死ななきゃならないんだよ!

…こんな事なら、こんな事になるならこの世界全部が破壊されてしまえばいい!


そんな思いで何度も何度も拳を床に叩きつけた。痛みすら感じない。

ただ、…悔しくて…哀しくて…。


けれど突然、俺の手が何かに包み込まれた。優しく暖かな何か。

驚いて横を見ると、いつの間にか来ていた鈴原さんが、同じように床に膝を着いて俺の拳を両手で包み込んでいた。

その顔は、苦しみに満ちていた。


『煌月…、もうやめろ。…そんな煌月を見たら、ルイズ院長が悲しむ。今までありがとうって、感謝の気持ちを込めて見送ってやるんだ。…悲しみだけじゃ、逝く者も、生きてる者も、辛いだろ』

『…鈴…原さん…』


《鈴原さんだけが、こころよく承諾してくれたのよ》


苦しさに満ちた表情の鈴原さんを見ていたら、そんな院長の声が頭に響いた。

その瞬間、凍っていた心が緩やかに溶け出し、それが号泣という形となって溢れ出す。


『…っ…ぅ…ぁああああーーーーー!』


鈴原さんの胸に縋り付いて、喉が裂けるほど声を出して泣いた。

馬鹿みたいに、狂ったみたいに、ただひたすら喚いて涙を流した。

泣いても泣いても、涙が止まることはなく…。

そしてその間、鈴原さんは俺を力いっぱい抱きしめていてくれた。









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