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『煌月君。こちらがセイバー第一隊の責任者、鈴原夏樹さんよ』
『初めまして、七瀬君。鈴原夏樹と言います』
『…初めまして、七瀬煌月です』
15歳の時、初めて夏樹と出会った。
西アメリカの、日本人街と呼ばれる区域の孤児院。
そこで育った俺には、人は信じてはいけないものだという思いしかなく、(親でさえ子供を捨てるんだ、赤の他人なんてもってのほかだ…)と考えていた。
だから、街の治安を守るという『セイバー』と呼ばれる自治部隊に関しても、単なる偽善者の集まりだとしか思っていなかった。
それなのに、ある日突然院長が「煌月君。少しの間、セイバーの人達と行動を共にしてみない?」と言ってきた時は、いったい何事かと思った。
内心、これで俺が事件に巻き込まれて死ねば、食い扶持が一人減る分、孤児院も楽になるからかもしれない…、と院長の事を心の内で疑ってもいた。
だからもちろん、夏樹の事も冷めた目で見ていた。
そんな考えが180度変わったのは、セイバーと行動を共にして4ヶ月目のある事件だった。
その頃になると、なんとなくだけど、人に対する不信感が薄くなってきていて、物事を見る目も変わってきた気がする。
事件当日の昼間、セイバーの人達が待機している小さなビルの一室で、俺も他の隊員達に混じりながらコーヒーを飲んでいた。
その時、無線から緊急連絡が入った。
今でも忘れられない、あの無線…。
『エマージェンシー発令!手の空いている隊員は速やかに現場に急行せよ!場所は6区のガーデンストリート。ラファエル孤児院。ライフルを持った男3名が暴れているとの通報があった。各自防弾着を着用の上、早急なる対応を』
そこでブツっと無線の切れる音がしたと同時に、同じ部屋にいた隊員数名が一斉に動き出した。
でも、俺は一人呆然と椅子に座っていた。
…ラファエル孤児院?
それは俺の住んでいる施設の名前。
こんな休日の昼間なら、施設には全員揃っているだろう。
…どうして…。
その間にも、既に身支度を整えた隊員達は部屋を出て行く。
『…俺も…行かなきゃ…』
急がなければ!という思いとは裏腹に、フラリとした動作で椅子から立ち上がり、思うように動かない足を引きずるように歩き出した。
『クソッ!あのライフル、実弾フル充填かよ!いったいどれだけ弾を持ってんだ!』
『ケン、弾切れを願うのは諦めろ。せいぜい頭を打ち抜かれないように気をつけるしかないさ』
現場に着くと、建物の影から孤児院の様子を窺っている二人の隊員がいた。
『孤児院の人達は無事なの?』
二人の背後から声を掛けると、一瞬ビクっと体を強張らせた後に深い溜息を吐かれた。
『坊や。突然背後から来るのはやめようぜ。……って、お前!防弾着はどうした?!』
『着てこなかったのか?!馬鹿野郎!絶対ここから動くなよ!』
俺の、Tシャツにジーンズという軽装を見た二人の形相が、鬼のように変わる。
その時、隣の建物の影から誰かが出てくるのが見えた、そしてそのままこちらへ走り寄ってくる。
『…鈴原さん』
『どうした、何を騒いで…、っ…煌月?!』
この人も同じ反応。
ここまできてやっと、自分のとった行動の馬鹿さ加減に気がついた。
これじゃ単なる足手まといだ。
孤児院が気になるけど、ここは一度戻った方がいいだろう…。
そう判断した俺は、その場から歩き出そうとした。
『現場中心部のリチャードです。たった今、犯人3名の射殺が確認されました』
『了解した。ご苦労様リチャード。俺も今からそちらに向かう』
『ラジャ』
鈴原さんが身に着けている無線連絡が、唐突に事件の終わりを告げた。
…犯人が射殺されたなら、俺も行っていいだろうか…。
チラリと鈴原さんを見ると、俺の思いがわかっていたのだろう、すぐさま頷いてくれた。
思わず微笑を返し、その場から走り出す。
こうなって気付いたけど、俺は結構あの孤児院が好きだったらしい。
早く皆に会いたい。
その思いで、孤児院の敷地に足を踏み入れた。




