女剣士は令嬢と共に 中3
定例報告会がほとんど意味を成さない程に早く終わった為、代表者たちはまだ日が暮れる前に旧・虹園塾を後にすることとなった。
定例報告会が終了する時間帯は場合によって異なり、何かしら重大な事件があって、その対策を話し合うとなればもっと帰りは遅くなる。
日が暮れてしまい、辺りが暗くなったのであれば、針岡が責任を持って女子2人……奈月と沙希を送っていくが、今日はまだ日が暮れていないので2人は徒歩で家へと向かっていた。
時間が不定であるこの日だけは、沙希と奈月が一緒に帰ることが出来る。これがもし、定例報告会の終了時間が予め決まっていたのだとしたら、間違いなく沙希の母が迎えにくることだろう。
或いは、終了したことを沙希が母に連絡すれば迎えに来ることになるが、沙希自身、奈月と一緒に下校することができる時間を大切にしたかった。
沙希も奈月も上機嫌で帰ることの出来る日なはずだが、今日の奈月はどこか浮かない顔をしていた。
「どうしたの、奈月?」
いかにも奈月の心情がわからないかのように質問をしているが、実際のところ沙希には「奈月が気にかけていること」がなんとなくわかっていた。
沙希の能力『繋がられる為の類似点』は任意発動しなければ、相手の思考・感情を読み取ることができない。しかし、この能力には例外があって、最初から「相手と共通していること」に関しては自然と勝手にわかってしまうのだ。
つまり、今の奈月が気にかけていることは、沙希にとっても気になってしまう事柄だということである。
それでも沙希は、敢えて奈月に考えを問うことにしたのだった。
そして奈月は素直に答える。
「……先週会った時もそうだったけど、透夜はもう、ボク達のことを友達だと思ってないのかなぁ。昔に比べて透夜、すごく冷たい気がするんだ」
「それには同感ね。だけど、何も事情なくああいう態度を取る男だとは思えないわ。一緒にいられた時間はわずか1年程度だったけれど、透夜は表面的に冷静でも中身は熱い男だったはず。今でも透夜の心は読み取れないけれど、きっとその心は今も変わらないはずよ」
「そうかな……? そうだといいな」
徐々に沈んでいく西日を見て歩きながら、奈月はそう呟いた。
少しずつ辺りが暗くなっていくのに時間の流れを感じつつ、沙希は奈月に言ったことを自分にも言い聞かせて歩く。
これ以上、黒山透夜の話をしても帰り道が楽しくなる気がしない。沙希は話題を変えようと、目前に控えた夏休みの過ごし方について思考を切り替えた。
「ところで奈……」
「ぬっ!」
沙希が奈月の名を呼ぼうとした瞬間、奈月は振り返って竹刀袋に入った竹刀を一瞬にして取り出し、抜刀しかけた状態で防御した。
話に夢中になっている隙を狙った不意打ちだ。
相手も同じ竹刀で、奈月に打ち勝とうと力を込める。
相手が男だということもあって、力勝負では部が悪い。奈月は相手の力を利用して後方へさがり、距離を置いた。
それに合わせて沙希も相手との距離を取る。
「一体、何だと言うの……!?」
「明確な敵意を感じる。殺意……というほど物騒な気配ではないけど、明らかにボクを狙っているのがわかるよ」
「奈月、どうする?」
奈月は抜刀と同時に能力『輝かせる為の美しき剣』を発動していた。その証拠に、奈月が持っている竹刀は光り輝いている。
この能力には2種類の効果がある。1つは接触した生命のない物体を切断する効果。そして残るもう1つは、命ある存在に対して「切断の痛み」を感じさせる効果だ。
能力を発動した奈月の剣と接触した時点で相手の竹刀は切断されているはずだが、現に切断されていない。それはつまり、相手も重度の中二病患者で、竹刀に能力を乗せているということだ。
しかし、奈月は自身の能力が効果を成さなかったことを確認するより前に相手が重度の中二病患者だと認識していた。……といっても、相手を見て認識したのではなく、自分に対して振られた竹刀が「普通の竹刀では感じられることの出来ない危険性」を直感で察知したからだった。
相手にとって不足なし。
奈月はそう捉え、沙希の問いに対してたった一言で答えを返した。
「倒す!」
その途端、奈月の剣が再び輝くのと同時に奈月は反撃に出た。
相手とは違って一撃に重きを置くよりも、手数で攻める。
その猛攻に対して表情に余裕を失いつつも、相手は奈月の剣を受け捌いた。
「これはこれは……」
「…………」
相手は言葉を何も出さず、ただ奈月を倒そうと反撃を試みる。
そしてその試みは功を奏して、奈月に致命的なダメージを与えられる「腕」を狙って振り下ろされるが―――
「甘いよ!」
それは奈月の思惑通りの流れ。奈月は最低限の動きで、自身の輝く剣を相手の剣に当てて絡め、切り上げて相手の剣を空へと飛ばした。
「せぇぇいっ!!」
主武装を無くし、次なる武器を探そうとする隙を逃さず、奈月は相手の両手に対して「当たるスレスレ」で剣を振った。
剣を実際に当てないことで、奈月は相手に「切断された痛み」ではなく「斬り付けられた痛み」を与えようとしたのだ。
狙い通り、相手は両手の痛みで力を失い、剣を地面に落とした。
「ボクの完勝だね! さーて、ここ最近色んな人を襲っているというのは君も同じなのかな? その動機をぜひ、教えてほしいところだね」
「…………」
相手は黙り、俯く。
要因こそ不明なものの、彼が「話せない」ということに変わりはない。リスクはあれど、事件解決の為には沙希の力が必要不可欠な状況となってしまった。
「……私がやるわ」
戦闘に関しては見ていることしか出来なかった沙希だが、ここは自ら能力を使う為に前に出る。
そして目を閉じ、俯く彼の中身へと入っていく。
「……っ!」
沙希の表情が少し強張る。
奈月にとっては不本意なことだが、この状態での使用は彼の思考や感情はもちろん、感覚まで同調してしまう。それはつまり、奈月の能力によって与えられた痛みを沙希も感じてしまうということだ。
奈月が心の中で謝っていると、予想より早く沙希は能力を解除して目を開いた。
ただ、その目の開き方はいつも通りではなく勢いのあるもので、奈月は沙希が緊急で何かを伝えたいのだと察した。
―――それが「警告」だとまでは察することが出来なかったが。
「奈月、離れなさい!」
「え?」
沙希の言葉に反応して奈月が痛みに俯いているはずの彼を見ると、痛みに抗って竹刀を握り直していた。
そんな状態で満足に戦闘出来るはずがない。
しかし、彼の狙いは己の犠牲をものともしない特攻だった。
「あああああっ!!!」
不気味さを感じさせる雄叫びをあげて、男は剣先を奈月に向けて全力で突進した。
「くぅっ!!」
奈月はその攻撃に反応出来た。だが、先程のように「スレスレ」の手加減を出来る余裕がない。
「切断された痛み」を受けることで、激痛によるショックで体に異常が発生して死に至るという可能性もあり得る。
そうなればこの先、奈月がどんな人生を送ることになるのか予想できるものではないが、まともな人生を送ることが出来ないのは言うまでもないだろう。
「奈月!」
沙希が奈月の名を呼んだ瞬間、奈月の剣が男に振り落とされた。男の方もただやられるわけではなく、体勢を崩しながらも確かに剣先を奈月の右足に当てていた。
「…………」
「…………」
しかし、両者とも動きがない。
沙希が奈月の元へ恐る恐る歩み寄ると、奈月は「ほっ」と安心した顔をしていた。
そんな奈月の表情に沙希が首を傾げると、後ろから見知った男が歩いてきた。
「悪いが、お前達の白熱戦は俺が『拒絶』した」
奈月と後ろを振り返った沙希が目を向けた先には、全身が黒に包まれた私服を着て、左手を腰に当てて立っている黒山透夜がいた。
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その後、男は気を失わずにいたが、黒山の「目」には彼が重度の中二病患者であるようには見えなかったので、そのまま黒山が呼んだ車で連行されていった。
その様子を見て、奈月が心配そうな表情と声色で黒山に問う。
「透夜、あのまま連行させて大丈夫だったの?」
一方、黒山は淡々と答える。
「問題ない。彼は重度の中二病患者ではないからな。ただ、それでも何者かの能力によって擬似的に能力者となっていた。……それは沙希にも感じたんじゃないのか?」
「え、ええ。だけど、透夜のように明確にわかったわけではないわ。所詮、感覚的に違和感を感じた程度だもの」
「そうか」
「……ところで、透夜は何でこんなところにいるの? 雪消さんと帰ったんじゃなかったっけ?」
奈月の質問は沙希にとっても気になったことだった。
何かとタイミングが良い(悪い?)のは今に始まったことではないが、雪消涼と先に出て行ったにも関わらず、ここにいるのは2人にとって不可解なことだ。
「ああ」
すると、黒山はそう反応しながら、ズボンのポケットから「何か」を取り出し、2人の前で手を開いて見せた。
「「御守り?」」
沙希と奈月は声を合わせて、それが何なのかを言い当てた。
「そうだ。奏太はともかく、2人は能力による代償が人格に影響を及ぼすものだからな。いざとなった時、これを使えば『拒絶』で可能な効果をその場で受けることができるものだ。しかし、これは一回限りで、能力の内容や範囲によって制限時間が異なる。代償を『拒絶』する程度なら1日は持つだろう」
黒山は自分の手のひらにある2つの御守りを真顔で見ながら、2人に効果を説明した。
「えーっ、すごーい!」
奈月はその効果に驚き――――
「……そんなもの、貰っていいのかしら?」
沙希は御守りに貴重性を見出して、本当に貰って良いものなのか尋ねた。
「ああ、活用してくれ。本当は先程の定例報告会で渡そうと思っていたのだが、あの建物の異常なボロさに思うところがあってな、忘れてしまっていた」
「プッ! あははは!」
「ふふふ……」
意外な茶目っ気を真顔で語る黒山に、奈月と沙希の2人は噴き出してしまった。
予想外に笑った2人を見て黒山は頭を抑えた。
「取り敢えずだ。これ以上、何かを起こすわけにはいかないからな。2人は俺が送っていく」
「ほんと!?」
「へぇ。それではお言葉に甘えようかしら」
気遣ってのことではないものの、黒山の提案に2人はわかりやすく喜んだのだった。
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久々の3人での帰宅路。
黒山の表情にどこか冷たさを感じた奈月は、自分の悩みを思い出し、思い切って黒山にぶつけてみることにした。
「ねぇ、透夜」
「なんだ?」
「透夜にとって、ボクや沙希ちゃんってどんな存在?」
まさか本人にそれを問うとは思わなかったのだろう。沙希は奈月の行動力に驚いて目を見開いたが、黒山の口から語られる言葉にすぐ注目した。
「どんな……か。そうだな、昔よく遊んだ仲といったところだろうか?」
「友達じゃないんだ? ボク達が友達だったのはもう、過去の話だってこと?」
「そうだ」
「っ! それは、ボクと沙希ちゃんが女の子で、透夜が男の子だから……? ボク、そういうの気にしないよ!」
「違うんだ、奈月」
辺りがもう暗くなっている。お互いに表情を視覚で読み取ることが出来ず、街灯のわずかな灯りが断片的な情報を与えるだけだった。
しかし、奈月と沙希は黒山の表情が何となく「悲しそう」になっているのがわかった。
「今の俺には友達という存在が必要ないからだ。俺は『孤高』であるべきだというだけ」
「そんなことないよ! ボクはそう思わない。だから昔みたいに仲良くしようよ!」
「それは出来ないし、俺はそれを望まない。もしも2人が諦めないと言うのであれば、俺はお前達を『拒絶』する」
「そんな……」
黒山に問いかけた奈月はもちろん、話を聞いていた沙希も悲しみを感じた。
何が黒山をこんなに変えてしまったのだろうか。
「…………だが」
黒山の話には続きがあった。『孤高』であることを自己の存在定義としている黒山だが、それでも完全に奈月と沙希を他人としてみることが出来ないでいた。
「俺には友達も仲間も必要ないが、お前達2人と過ごした時間は嘘偽りではない。……だから、そうだな。『仲間のような存在』といったところだな」
それが『孤高となる為の拒絶』という能力を持ち、武器として戦う黒山の精一杯だった。
もし、奈月と沙希をかつてのように「仲間だ」と認識してしまえば、黒山の能力はほとんど意味を成さないものとなってしまうだろう。
しかし、そうとは知らない奈月と沙希の2人は、黒山の心がこの何年かで変わってしまったことが悔しかった。
その後、特に話すことなく、2人はそれぞれ家にいる着いたのだった。
読んで下さりありがとうございます! 夏風陽向です。
今回の話も、次週か再来週あたりに終わりを迎えられれるかな、と思います!
それではまた次回。来週も読んでくださると嬉しいです!




