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隣の転校生は重度の中二病患者でした。  作者: 夏風陽向
「求愛と破壊のすれ違い」
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求愛と破壊のすれ違い part25

 嶺井(みねい)颯太(ふうた)が『全てを覆す為の破壊』という能力を手に入れ、重度の中二病患者となったのは、彼が中学生になって間もない頃だった。


 小学校低学年の時には至って普通に過ごせていたにも関わらず、学年が上がっていくにつれて発生しだした唯香(ゆいか)の『謎の体質』。最初こそは自力で唯香を守ってきた颯太だったが、彼は次第にこう思うようになった。


 ―――「何故、唯香がこんなに怖い思いをしなくてはならないのか」と。


 唯香の不安げな顔を見ていくにつれ、颯太は唯香を苦しめる『謎の体質』という理不尽に対し、怒りを募らせていた。



「いつか必ず、その理不尽をぶっ壊してやる!」



 そう、心に使ったある日の夜。重度の中二病を患う時の特徴である「自分と話す夢」を見た。



『よう』


「あぁ?」



 変声期を迎えたばかりの若干掠れた声が2つ。


 颯太と颯太が夢の中で向き合っていた。もう1人の方が気さくに挨拶してきたが、颯太自身にとっては気持ちの良いものではなかった。


 むしろ、変声期を迎えたばかりの自分の声にイラつきを覚えたが、自分の現在地を把握しようと辺りを見回していたら、怒りよりも驚きが大きくなった。



「なんで学校なんだ? それに唯香と……アイツは……」



 その静止した光景に見覚えがあった。学校に見覚えがあるのは毎日通っているのだから当たり前だが、唯香と唯香を襲おうとしている男子にも見覚えがあった。



『そうだ。ついこの前、俺が唯香を助けたシチュエーションだ』



 もう1人から説明を受けて、颯太も「ああ」と思い出す。すると、全てを回想し終える前に場面が変わった。


 それもまた、別の男子にしつこく言い寄られていた時の静止したものだった。



「……こんなもん見せてなんだってんだ? 我ながら、趣味がいいと言えねーな」


『もちろんわかってる。けど、俺は思ったはずだ。これが唯香に定められた運命なら、ぶっ壊してやると。そんな運命、覆して普通の生活を送らせてやると』


「ああ、そうだな。んで、それがなんだってんだ? どうあがいても、俺は俺に出来ることしか出来ねぇ。今はまだ、あいつを救うことが出来ねぇ」


『はっ……』



 己の無力さを強がりながらも嘆く颯太に、もう1人の方は鼻で笑って首を横に振った。



「なんだよ?」


『今まではそうだったかもしれねぇ。……けど』



 そう言いながら、もう1人の方はおもむろに唯香に言い寄っている男子の頭に触れると、頭から足に向かってヒビ割れ、ガラスのような音をたてて粉々になって砕け散った。



『今宵を境に変わる。あいつに降り掛かる理不尽をぶち壊す』


「…………」


『覚悟はあるんだろ? おめぇが望めば、おめぇにも使える。望まねぇならそれはそれでいい。そしたら無力のままだけどな。……どうする?』


「問われるまでもねぇ。あいつを救うためなら、俺は……」



 颯太は残った唯香の頭に手を乗せると、その仮初めの存在も同じように『破壊』した。



「俺は化け物にだってなってやるぜ」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 颯太による攻撃を後方に下がって躱すうちに、黒山の背中が校舎の壁に当たった。



「……っ!?」


「ふっ!」



 颯太の右ストレートを間一髪のところで躱すと、黒山はそのままくるりと180°体の向きを変え、颯太の背後を取る形で後ろに下がった。


 回避された颯太の右手は校舎の壁にめり込み、時間差で壁にヒビが入った。



「ちょこまかとうぜーなぁ!」


「…………」



 能力に頼らず戦ってきた経験を満遍なく生かしており、流石の黒山も苦戦していた。


 颯太の持つ『破壊』は触れた物質を壊すだけが脅威ではない。今、この場限定の効果だが、黒山は自身の限界を再度『拒絶』することができなくなっている。


 だが、黒山も重度の中二病患者を無効化してきた実績がある。決して颯太に劣っているわけではない。



「…………」



 校舎の壁から手を引き抜き、振り返った瞬間を狙って、黒山は武装型で禍々しくなった右手で颯太の腹を思いっきり殴った。



「ぐおっ!」



 攻撃と回避に強い颯太だが、打たれ強さを見せる場面が少なかったからか黒山の攻撃に対して受け身を取れず、うずくまるような姿勢で激しく壁と背中をぶつけた。


 後頭部をぶつけなかったのは幸いと言えるだろう。しかし、受けた衝撃は大きい。思うように呼吸できない苦しさと背中の痛みが、颯太を苦しめた。



「げふっ……がはっ! ……っはぁ」


「……先ほどの仕返し、だな」


「ふぅ……ふぅ……くそが」



 ようやく思うように呼吸が出来るようになり、よろけながらも立ち上がろうとする颯太を黒山は見下ろしていた。


 そして、このまま戦闘が再開される前に口を開く。



「颯太、俺から提案がある」


「あぁ? 負けを認めろってなら、無理な話だぜ?」


「違う。ここは1つ、萩野(はぎの)(みつる)が黒なのか白なのかを、今すぐ見に行かないか?」


「はぁ?」


「萩野充が白なのであるならば、俺は大人しく引き下がる。俺が約束を違えて諦めなければ、2人で結託して俺と戦えばいい。……だがもし、萩野充が黒なのであれば……」


「適切な処置を……ってことか。面白え。だが、本当に充が白だった場合、俺はおめぇを許さねぇからな」


「望むところだ」



 颯太は充を信じているので、この提案を断ることはしなかった。黒山が約束を守ろうが破ろうが、充と結託して倒すつもりだ。


 自分1人では互角が精一杯だろうが、自分と同じく唯香を守った実績のある充と組むのであれば、勝つ気しかしない。


 だが、この提案に問題があるとすれば―――



「つーか、充は先に帰ったってのにどうするつもりなんだぁ?」



 颯太の問いに、黒山は「フッ……」と鼻で笑い……。


 次いで、なかなかのドヤ顔で言った。



「それについては問題ない」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……これは一体?」



 複数の女生徒を連れて下校しようとした充は、ある違和感に気付いた。


 というのも、いざ校門を出ようとするが、見えない『何か』に遮られて出ることが出来ない。



「どなたか、これについて知っている人はいませんか?」



 充と一緒にいる女生徒は、決して操られているわけではない。日常生活に異常性が出ない程度に、自分の中での最優先事項が充になるというだけだ。


 強いて言うなら「充の中で自分が1番ではない」ということがわかっていながらも、彼と共に人生を全うしようという考え方こそは異常だが、それ以外の思考や動作は本人に由来している。


 推測の域ではあるが、この状況に心当たりがある詩織(しおり)は手を挙げた。



「何か知っているんですか?」


「まあね。恐らくだけど、萩野君や唯香ちゃんのように特殊な能力を持つ人が私達を閉じ込めているんだと思う」


「うーん、なるほど。それが誰なのか、心当たりは……?」



 そればかりは詩織にもわからない。目を瞑って、横に首を振った。



「もしかしたら、別に出口があるかもしれません。他を当たってみましょう」



 一同が縦に首を振ったのを見て、充は颯太と黒山が衝突している場所を避けるように、遠回りで反対側へと向かった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「恐らく、既に校門へは行って確認したはずだ。そうなると、裏門から出ようとするだろう」



 黒山は颯太と裏門の方へ歩きながら、そう説明した。


 颯太は、そもそもこの学校に裏門があるのを知らなかったので、黙って聞いていた。


 黒山の言う通り、瑠璃ヶ丘高校には裏門が存在する。しかし、基本的にそこは教職員や保護者が車を校内に入れるために用いられる。


 そこを生徒が自由に使えるようにすると、事故の危険性がある為、生徒は使用禁止になっている。もっとも、存在を知らなければ使用も何も無いのだが、中には裏門の存在に気付く生徒も少なくないので「生徒は使用禁止」と赤文字で書かれた看板が横に立っている。



「裏門があるのは意外だったが、それなら他の出口もあるんじゃねぇのか? そうなると、裏門とは限らねぇだろ」


「この学校は不審者対策に周囲を木で囲ませている。本当に最終手段として用いるだろうが、まあ、普通は無理だろうな。……お前ではない限り」


「……かもしれねぇな」



 実際、颯太は植物に向かって『破壊』を使ったことがないので具体的な効果はわからないが、黒山は颯太なら何かしらの形で『破壊』出来るだろうと思っている。



「…………」


「…………」



 黒山は元から基本的に無口なのだが、颯太は敵となった黒山に今更話せることがなかった為、少し気不味い中、無言で歩いていた。


 会話に思考を割かなくていい分、周囲の状況に意識が向けられる。颯太はこの空間の異常性に気付いた。



「そういや……この時間からまだ学校に生徒がいるだろうに、誰もいねぇのはどういうことだ?」



 敵となった颯太に答えてやる義理はないが、黒山は敢えて答えた。



「この空間は俺達と萩野充。それと、一緒にいる女生徒だけが存在している。そもそもこの校庭は能力によって切り取られたコピー空間だ。能力者の意思が働かない限り、勝手に入ることが出来なければ出ることも出来ない」


「よくわかんねぇが、なんでもありかよ……」



 黒山の説明に少し不満を覚えた颯太だが、同時に納得が出来た。


 正直、黒山と戦う上で「誰かを巻き込んでしまうかもしれない」と颯太は思っていたが、実際のところ『誰も』通り掛からなかった。


 そのリスクは黒山も考えるはずなのに、それでも戦うことにしたのは、巻き込まれる人間が誰一人としていないことを知っていたからなのだと、気付いた。



(……それはともかくとして、どうやってこいつをぶっ壊してやろうか)



 颯太があれこれと考えながら歩いているうちに、視線のずっと先で固まっている女生徒の姿が見えた。


 その中に詩織と唯香がいるのも見えたので、そこに充がいることに間違いはない。



「さて、そろそろ接触だ。……約束を違えるなよ?」


「わかってるっつーの。おめぇこそ、逃げんなよ?」



 お互い、縦に首を振ったのを確認すると、颯太は歩きながら大声で充の名を呼んだ。



「充!」


「ん……? おや、颯太。先輩と仲直りしたのかい?」



 充は女生徒の塊の中から出てくると、少し場違いな雰囲気を出して颯太に問いかけた。



「そんな呑気なこと言ってる場合か!」


「ああ、そうだよね。全く……学校から出られなくて困っているんだよ。颯太もそうなんだろう?」


「いや違え。おめぇに聞きてーことがあんだよ」


「ん……? なんだい?」


「おめぇ、本当に正当なやり方で唯香と付き合うことになったんだよな?」


「……もちろんだとも」


「じゃあ、なんでしーちゃん先輩が一緒にいる? 元々一緒にいた他の先輩はともかく、かわい子先輩を差し置いておめぇと一緒にいるなんておかしくねぇか? どういうつもりだ?」


「…………」


「おめぇ、前に『運命云々の前に、人として二股はしない』って言ってたよな? この状況は一体なんなんだよ?」


「…………」



 それまで笑顔で颯太の話を聞いていた充は、颯太の鋭い質問に真顔へと変わった。


 無言の末、大きく溜息を吐くと、整った顔で黒山の方を鋭く睨んだ。



「困りますね。俺の友達に一体何を仕込んだのですか?」


「何も? これは颯太の純粋な質問だが?」


「……仕方がない。俺の目的を達成する為だ」



 充は左手に銀色の弓を発現させると、右手で(つる)を引っ張った。

 すると、淡い光が収束して1本の光の弓を形成した。その(やじり)は颯太の方を向いている。



「……充。こりゃどういうつもりだ」


「颯太。俺にとって君は掛け替えのない友達だ。敵対したくない。だから、君には『僕に協力する』という運命を辿ってもらうよ」



 充は颯太に向かって光の矢を放った。これで颯太は完全に協力者になると確信していた。


 ―――しかし。



「残念だぜ、充。俺はおめぇを信じていたんだがな」



 颯太は矢の向かってくる先が頭だと予想し、頭上に右手を挙げると、ちょうどそこに光の矢が走ってくる。

 颯太の右手と光の矢がぶつかると、光の矢は颯太の『破壊』に反応して砕け散り、淡い光の粒が降り注いだ。



「なっ!? そんなことが!」



 颯太の『破壊』に驚く充をよそに、颯太は黒山の方を見た。



「どう思う? 黒山先輩よぉ!」



 黒山は顎に手を当てて答える。



「間違いなく、この能力を使って梶谷や槙田唯香の運命を歪めたな」


「あぁ? 唯香もか? どうなんだ、充」


「…………」



 充は銀色の弓を構えたまま、無言で颯太と黒山の2人を見ていた。彼が何を考えているのか、颯太にはわからなかったが、そんな彼を見て鼻で笑った。



「はっ! まあ、事実がどうあれ……おめぇのやったことは許されねぇよ、充ぅ!!」



 颯太と黒山が並んで、ゆっくりと充に迫る。


 すると、彼を庇うかのように唯香と詩織が2人の前に立ちはだかった。

読んで下さりありがとうございます! 夏風陽向です。


嶺井颯太というキャラクターを考えた時「コンクリートとか能力で壊せちゃうやつがいいな」と思って登場させました。

その時は漠然的に『破壊』をキーワードにしようと決めていただけでしたが、颯太の戦闘シーンを書いている時にふと思ったんです。


「破壊って、そもそもなんだろう?」


単なる壊すことだけではなく、きっと思いもしない現象も破壊の1つになっているのではないかと思い調べてみると「破壊力学」というものを見つけました。

正直、私は特別なにかの分野を特化して学んだ経験がありませんので、破壊力学を理解しようとも理解できない部分がそれなりにありました。


足りない頭で考えて理解し、颯太の能力の使い方をもう少しバリエーション豊かにしたいなと思っております。


この章も次回かその次くらいで終わると思いますが、それまでも……それから先もぜひ、お付き合い下さいますよう、お願いいたします。


それではまた来週。次回も読んで下さると嬉しいです!

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