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隣の転校生は重度の中二病患者でした。  作者: 夏風陽向
「求愛と破壊のすれ違い」
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求愛と破壊のすれ違い part24

 つい昨日まで当たり前のように一緒にいた2人の女子が、打って変わって一緒にいないどころか、一言も会話を交わしていない。


 知る人からすれば奇妙な光景ではあるが、それに気付いて、わざわざ指摘するクラスメイトは誰一人としていなかった。


 ―――強いて言うなら、昼食時に詩織(しおり)真悠(まゆ)を置いて何処かに行ってしまい、残った真悠は黒山(くろやま)の元へ寄って一緒に昼食の弁当を食べていたので、事情を何も知らない男子クラスメイト諸君の間で嫉妬が渦巻くくらいの変化はあった……。


 全体的に見れば、日常的にあまり変化はないが、実を言うと真悠ファンにとって今の状態は好機だった。


 普段は詩織という番犬が近くにいるので手を出せないが、今日は違う。……はずだったのだが、数々の嫌がらせを回避してきた黒山が近くにいるので、中々に手を出せずにいた。


 真悠はその危機感に気付いていないが、黒山は何度もこちらの様子を伺う存在(複数)いるのを感じていたので、色んな意味で詩織奪還を急がなければならないと心に思った。


 放課後になっても、その存在が消えないわけではない。しかし、彼らに構っている場合ではなかった。



「それで黒山くん。どうするのー?」



 真悠はいつもの能天気な(よく言って明るい)テンションを下げることなく、黒山に問う。

 幼馴染のことなのだから、事の重大さは理解しているものの、こういった経験に乏しい真悠は作戦を考えられなかった。



「手はある。……だが栗川。行くのは俺1人だ」


「よーし、わかった! ……って、え?」


「…………」


「えーっ!?」



 無言で真悠を見つめる黒山。それに屈せず、ひたすら驚きの声を何度も上げ続ける真悠。


 側から見れば、そのやりとりはまさに「馬と鹿」だった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 少し前までは、唯香(ゆいか)がクラスメイトと話し終えるのを待ってから一緒に下校していた充だが、今日からもうその必要はない。


 自分が何も言わなくても、自ずと唯香や詩織は充の元へ集まり、すぐさま一緒に下校しようとする。


 もちろん、そこには唯香や詩織よりも前から充と一緒にいる女生徒の姿もあった。


 充が唯香と共に教室を出ようとすると、2人の目の前に颯太(ふうた)が現れた。



「……? どうしたんだい、颯太?」


「充。おめぇ、まさか『両手に花』どころか『花園』で集団下校しようとしてねーだろうな?」


「……花園とはよく言ったものだね。もちろん、そのつもりだけど」


「そんな半端な真似して、どういうつもりだ?」



 颯太の真剣な表情に、充は「ふふっ」と笑いをこぼし、すぐに真剣な表情へと変えた。



「安心して欲しい。俺にとって、1番大切な存在は槙田(まきた)さんだよ」


「本気で言ってんだろうな?」


「もちろんだよ。嘘はつかない」


「…………」



 その言葉を聞いて、颯太は唯香の顔を一瞬だけ見た。決して悲しみを感じているような表情をしていない。しかし、かといって幸せそうかと言うと、それも違う。


 こちらを見る2人に背中を向けて、充に警告をする。



「充。もしも、おめぇが唯香を悲しませたら、いくらおめぇが相手でも許さねー。肝に銘じておけよ?」


「颯太は心配性だね。大丈夫、俺が必ず幸せにするよ」



 颯太は少しだけ口元を綻ばせ、そのまま教室を出て行き、充を待つ女生徒の間をすり抜けて下校した。


 ―――その女生徒の中に、詩織がいることを確認しながらも。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 充と女生徒の集団が靴を履き替えて再び集合し、下校しようとする姿を黒山は逃さず捉えていた。


 黒山自身は既に下履きへと履き替えていたので、充一行が校門から外に出る前に、接触しようと早歩きで接近する。


 すると、あと一歩のところで黒山はすぐ横から声を掛けられた。それは決して、友好的なものではなかったが。



「待てよ」



 黒山が反応して声がした方向を見ると、そこにはあからさまに怒りを露わにした颯太が睨んでいた。


 流石に、後ろで巻き起こる異変に気付かない充ではなかった。



「あれ、颯太? どうしたんだい? 先に帰ったんじゃなかったのかい?」


「気にすんな。おめぇはさっさと行け」


「……颯太。先輩相手にそんな形相をしたら失礼なのではないかな?」


「うるせぇ。こいつは唯香の幸せを阻もうとする野郎だ。俺が相手するから、おめぇは早く行け」


「あ、ああ。わかったよ」



 充を追わせないよう、颯太は黒山の正面に立った。


 彼らが遠ざかるのを確認してから、改めて敵対の意思を示す。



「もっと冷静な人だと思ってたんだが、残念だなぁ!」


「……やはりな。俺の邪魔をしに来ると思っていた」


「あぁ? 何勘違いしてるのかよくわかんねーけど、邪魔してんのはおめぇの方だ!!」



 颯太は怒りを叫ぶのと同時に右足を軽く上げ、そして力強く踏み込んだ。すると、危険がないように舗装されていたはずのコンクリートがひび割れた。


 黒山はそれが威嚇だということを感じ取ったが、それでも怯えたり退いたりする素振りは見せない。


 それどころか、穏便に解決しようとせず、構えた。



「あぁ? いいんですかぁ、黒山先輩よぉ! ここでやったら、他の生徒にも被害が及ぶんじゃねーのかぁ!?」


「…………」



 黒山は颯太の言葉を無視し、無言で颯太に襲い掛かる。


 颯太の頬を目掛けて右手を振りかぶった。もちろん、それに反応できない颯太ではない。



「ははっ! 俺に接近戦を挑むだなんて……馬鹿なんじゃねーの!?」



 それに応戦し、颯太も右手を振りかぶって黒山の拳に自身の拳をぶつけた。

 颯太はそこでもう勝敗が決まると確信していた。ただ拳に拳で応戦したのではなく、黒山の拳を砕こうと『破壊』を躊躇いなく使ったからだ。



 ―――しかし。



「いってぇ!」


「くっ……!」



 互いに拳を痛めるだけの結果に終わった。


 痛む右手を冷ますように振りながら、颯太はこの状態を不可解に思った。



「は? なんで拳が『破壊』されてねーんだ?」


「…………」



 後輩とはいえ、今は敵となった颯太に説明してやるほど黒山は親切ではなかった。


 もちろん、これは颯太の『破壊』に対して黒山の『拒絶』が働いた結果だ。


 だがしかし。実を言うと、黒山は颯太の『破壊』を『拒絶』するつもりで拳を出したのではなく、颯太という存在を『拒絶』して吹き飛ばすつもりだった。


 ところが、実際に使ってみると2つの能力が互いを相殺するだけで終わった。黒山にとっても、これは計算外だ。



「…………」



 計算外の結果を引きずることなく、黒山は次に右手で指鉄砲を作り「鉄砲の型」を発動させ、颯太の意識を刈り取ろうと拒絶の弾を連射した。


 実際の弾丸よりもかなり遅い拒絶弾に、颯太は当然反応した。



「うざってぇ!!」



 いくつか放たれた拒絶弾を避けようとせず、全て両手の裏拳で『破壊』した。



「……なっ」



 拒絶弾を『破壊』されるところまでは予想済みだったが、まさか放った弾「全て」を『破壊』し切られるとは思っていなかった。



「はっ! あんたでもそんな顔をするんだなぁ! お返しだぁっ!!」



 颯太は威嚇時と同じように地面を『破壊』し、その破片を拾って投げつけた。


 重度の中二病患者同士の戦いとしてはかなり地味な攻撃であり、投げた破片にも特殊な要素は無い。

 しかし、黒山も人間だ。人間相手の攻撃手段としては常識的に危険だと言える。


 それに、物質的な攻撃は黒山にかなり有効的な手段だ。



「ちっ」



 意思を持たない破片相手に『拒絶』は使えない。


 黒い弾よりも遥かに早い破片を回避すべく、黒山は自身の限界を『拒絶』して高速移動し、逃れた。



「何だよそれ。チートかっての。……けど、いくら黒山先輩といえど、弱点はあるんだなぁ!」


「…………」


「はぁっ!」



 颯太は再び足元に転がる破片を拾い上げ、黒山に向けて投げつけた。その直後、黒山が避ける為に移動する場所を予測して走った。


 その予測通りに黒山は移動し、すかさず黒山の腹を目掛けて右手を振りかぶって突き出した。



「くっ!」



 黒山が自身の限界を『拒絶』しているとはいえ、目から脳へ情報が送られる速度は変わらない。

 黒山は間一髪、後ろへ跳ぶことで回避するが、颯太の攻撃が止んだわけではない。


 今まで何度も唯香を守ってきただけあって、颯太の攻撃は半端なものではなかった。黒山を追うように左足を出し、それを軸に右足で黒山の足を蹴った。



「おらぁっ!」


「ぐっ!」



 どちらかというと「足払い」の効果があった蹴りは狙い通りに黒山を転ばせた。黒山にとって幸いなことに、足は『破壊』されていなかった。


 制服を土で汚しながらも颯太の追撃を転がって躱し、立ち上がって距離を取る。


 まだまだ追撃を試みながらも、颯太は声を上げて笑った。



「ははははははっ! 残念ながら、俺が『破壊』したのは足じゃねー。そのチート級な脚力だ!!」



 自身の体にかけた『拒絶』が効果を失い、身体能力がいつも通りになっていたことに黒山は気付いた。


 だからといって、闘志を失うことはない。



「……はっ!」


「アァ!」



 止まない攻撃の隙を見て、黒山は颯太に反撃をする。颯太自身を『拒絶』して吹き飛ばすことを諦め、自分の体を『破壊』されないように『拒絶』を乗せて左ストレートを放つ。


 しかし、あっさりと颯太の右手にガードされてしまう。



「軽いなぁ。教えてやりますよ先輩。攻撃ってのはぁ、相手を殺すつもりでやるんだよぉ!」



 仕返される左ストレートに黒山も反応してガードするが、それを織り込んでいた颯太は右手で黒山の腹を殴り、瞬間のダメージに目を見開く黒山を、歪んだ笑顔で見つつ、右足で顔に蹴りを入れた。


 もちろん黒山も黙ってやられるわけではない。どうにか蹴りはガードしたものの、その威力は重く、黒山を再び地面に転がした。



「ごほっ! げふっ!」



 的確に鳩尾を突かれ、黒山は咳き込んだ。


 そんな黒山に追撃せず、颯太はただ見下ろした。



「なんですかぁ? こんなもんですかぁ? そんなわけねーよなぁ? 俺の勘は告げてるぜぇ? あんたは本気出せばもっとやべーってなぁ!」


「はぁ……はぁ……」



 唾液を地面に垂らしながらも、どうにか呼吸を取り戻した黒山はゆらりと立ち上がる。



「颯太。本当に、あの状態が幼馴染の幸せに繋がると思っているのか?」


「……あぁ?」



 颯太の顔は、歪んだ笑みから再び怒りの表情へと変わった。



「槙田唯香は萩野充の能力によって運命を決められている。それが本当に、彼女の幸せなのか?」



 黒山の言うことは事実だ。颯太を揺さぶる為の嘘ではない。しかし、颯太はそれを冷静に受け止めなかった。



「うぜえ……うぜえうぜえうぜえうぜえ、うぜえぇ!!」



 右足で地面を力強く踏むと、黒山の方に向かって亀裂が走り、地面を割った。



「なっ!?」



 深く割れた地面の窪みに落とされると、黒山は辛うじて地面に両腕をついて、落下を阻止した。


 そこまで深く割れているわけではなく、精々200cmくらいの深さだ。だがそれでも、しばらく黒山を大人しくさせるには充分だ。



「おめぇが唯香の何がわかるってんだ? 俺でさえ、あいつの幸せが何なのかをわかってねえのに、おめぇ如きが唯香の幸せを語るんじゃねーよ」


「…………ふっ!」



 黒山は颯太の話を聞きながら、ただ颯太を見上げているだけでなく、腕の力で落ちないように支えながら足を地面に着くまで上げ、足の裏を地面に着けてそのまま立ち上がった。



「……お前にとって1番大切な人の幸せを他人任せでいいのか? 今の状態が、本当に槙田唯香自身が望んだものだと、お前は言えるのか?」


「うるせーんだよ!!」



 颯太は黒山を黙らせようと、足元にあった破片か石ころかわからないものを黒山目掛けて蹴り上げた。


 偶然か。黒山の顔を直撃する軌道だったが、黒山は首を傾けて躱す。

 風で揺れる黒山の横髪をかすり、後方で落下し、コンクリートの上を転がった音が聞こえた。


 颯太は両手をズボンのポケットに手を突っ込み、睨みながらゆっくりと黒山の目の前まで進んだ。



「充を疑ったり、唯香の幸せについてわかったような口を聞いたり、ほんとむかつくなぁ。……けど、いつか助けて貰った恩もある。撤退するなら今のうちだ」


「せっかくだが、退くわけにはいかない。俺は一刻も早く、萩野充から梶谷を取り戻す」


「そいつは残念だ。俺は友達を信じる……だから、おめぇはここで俺が『破壊』してやる」


「悪いが、壊されるべきは萩野充の野望だ。お前の無意味な『破壊』を『拒絶』する」



 颯太は袖を捲り、黒山は「武装型」で両腕を禍々しいものへと変え、再び激突した。

読んで下さりありがとうございます! 夏風陽向です。


黒山VS颯太を早く書きたくて仕方がありませんでした!!

この作品を書き始めてから1年半くらいになると思いますが、ここまで黒山相手に戦えるのは颯太と鎌田くらいだと私は思います。


更に、ここまで黒山にダメージを与えたのは間違いなく颯太が初めてです! こういう相手が欲しかった!!


それではまた来週。次回もよろしくお願いいたします!

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