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隣の転校生は重度の中二病患者でした。  作者: 夏風陽向
「求愛と破壊のすれ違い」
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求愛と破壊のすれ違い part18

明けましておめでとうございます! 今年はもっと、面白い作品が書けるよう精進して参りますので、何かとよろしくお願い申し上げます。

 襲ってきた男に対し、いつも先頭きって逃走を図ったのは颯太(ふうた)だった。


 こうした時、いざ目の前に襲撃者が現れると恐怖で足がすくんで動けない。


 今まで颯太任せだった、自分の無力さを痛感しつつ、逃げ出すことも出来ずに目をぎゅっと瞑る。



「うん。残念ながら、彼女にとって君は運命の相手ではないようだ」


「え?」



 突然、後ろから聞こえた声に振り返ると、そこにはクラスメイトである萩野(はぎの)(みつる)がいた。


 襲撃者にとっても予想外の乱入者だったのだろう。本能の命ずるままに唯香を襲おうとした動きを止めて、充の方を睨みつけている。


 一方、充の方は特に強張った表情などせずに、至っていつも通りの表情だ。しかし、いつもと違う点をあげるのであれば、彼の左手には弓が握られていた。



「萩野……君?」


「やあ、槙田(まきた)さん。『どうしてここにいるのか?』って聞きたそうな顔だね。それは後でちゃんと説明するよ。……今はとりあえず」



 充は唯香に笑顔で答えると、弓を構えて(つる)を引っ張った。僅かな月明かりで照らされた弓は美しく銀色に光っている。


 背中に矢筒を背負っている様子はないので矢が無いはずだが、弦を引っ張るのと同時に淡い光が収束して1本の矢を形成した。



「…………」



 無言でそれを放つと、光の軌道を描いて相手の(ひたい)に命中した。もう少し距離があれば反応出来たかもしれないが、見かけよりもかなりの速さで矢が走ったのだ。



「…………はっ!」



 命中した光の矢が消えたのと同時に男は我に返った。


 充はそうなることをわかっていたかのように近付き、彼を導く。



「この出来事は貴方の汚点とはなりません。少し間違えただけ……。貴方には貴方の運命がありますから」


「あ、ああ、そうだな。俺は失礼するよ……」



 充の導きに素直に従った男はそのまま去り、充は唯香の方へと向き直した。



「槙田さん、怪我はないかい?」


「う、うん……。萩野君、今のは何……?」


「あー……」



 充は困ったように笑いながら、右手の人差し指で自分の頬を軽く掻く。



「それは企業秘密ってことで……ダメかな?」



 好奇心故に「駄目!」と答えたいところではあるが、ここで颯太のように仲違いしたら洒落にならない。それに、颯太と充が仲良くしている場面は珍しくない光景となっているが、唯香と充はそれほど仲が良いというわけではない。


 クラスメイトではあるが、ほぼ「他人」なので、唯香はそれ以上の追求をしないことにした。



「うん、わかった! 助けてくれてありがとう!」


「どういたしまして。企業秘密は答えられないけど、それ以外なら答えられる。家まで送りながら答えるよ」


「ありがとう!」



 充の握っていた弓が淡い光の粒になって消えるのを見てから、2人は帰り道を歩き始めた。



「萩野君も家こっちなの?」


「いや。逆方向……とまではいかないけど、方向は違うかな」


「えっ、それじゃあ、遠回りになっちゃう……」


「まあ、そうなんだけど……状況が状況だからね。何だかんだ言って颯太が残ってくれれば問題無かったんだけど、彼は帰ってしまったからね」



 結果的に、充の判断は正しかったと言える。


 しかし、この判断をするには彼が唯香の持つ『謎の体質』を知っている必要がある。いくら仲が良いといえども、颯太が他人にそれを話すようには思えないので唯香は疑問に思った。



「萩野君は、私のことをどこまで知っているの……?」



 何も知らない人がこの台詞を聞けば、唯香のことを「どこか痛い人」か「闇を抱えている人」だと見るだろう。


 充は期待通り、そんな勘違いをしなかった。



「正直言って何も知らないよ? ただ、俺も先程の彼のように槙田さんから『何か』を感じている。不思議なことに『他の誰かも君のことを狙うだろう』という予想が出来たので、君のことを見ていたんだ」


「えっ。でも、萩野君は私を襲わないよね……?」



 この質問にも、充は少し困った。



「幸いなことに、俺はまだ理性を保っているから大丈夫」



 実を言えば、充はかなり頑張って理性を保っている。いつ理性が飛んでもおかしくないくらいなのだが、それまでに颯太がどうにかしてくれると信じているし、それをわざわざ唯香に伝えて不安にさせたりはしない。



「……とまあ、俺には俺なりの狙いがあってあそこにいたんだよ。予想通り敵が現れたから出てきたんだけど、手遅れにならなくて良かった」


「……うん。本当にありがとう」



 颯太がいない状況下で絶望していた唯香にとって、充の助けはかなり心強いものだった。それは何度お礼を言っても足りないほどだと言える。



「槙田さん。これから俺の言うことをしっかり聞いてね」


「……うん?」



 隣を歩く充の顔を見上げると、かなり真剣な表情に変わっていた。


 愛の告白とか、そういったものではない。どちらかといえば「深刻」という言葉が似合う雰囲気だ。



「どうやら颯太は感じていないようだけど、君たちが思っている以上に君の状態は危険だ。ランダムというか突発的というか……時折、君から発せられる甘い香りが、それに反応した男を寄せ付けている。しかもタチの悪いことに、節度なくひたすら、といった感じだからね」


「あ…………」



 充の言葉を聞いて、唯香はピンときた。


 今まで、会ったこともない男性に襲われてきたのは、自分の『体質』が無差別に引き寄せていたからなのだと合点がいったからだ。


 しかし、それでも謎はまだ残る。


 何故、颯太にはそれが効かないのか? 何故、そんなことが起こっているのか? というか、そもそも甘い香りとは何なのか?


 特に女子としては、匂いの方が気になる。



「その……私って、どんな匂いがするの??」


「えっ」



 その疑問に、充は意表を突かれた。


「うーん……」と唸って悩んだ結果、出た答えがこれだ。



「言っておくけど、普段から甘い香りがするわけじゃないよ? 普段の匂いは俺よりも颯太の方がよっぽど詳しいんじゃないかな? ただ、甘い香りがどんな匂いなのかという質問に答えるのは難しいなぁ……。なんとも形容した難いけど『とにかく甘い香り』としか言いようがないや」


「そう? ……まあ、変な匂いじゃないなら一安心、かな」


「…………」



 いくら年上の女子に普段から囲まれた充といえども、それについて何かコメントすることは出来なかった。

 そこはむしろ無理にコメントしようとせずに聞き流すのが無難なので、充が反応を躊躇って正解だった。


 その後、真剣な話は続かず他愛もない話をしているうちに唯香の家へ辿り着き、あっさり2人は「また明日」と言って別れた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 翌日。一足先に登校して机に突っ伏している颯太の背中を充が強く叩いた。



「いってぇ!!」


「おはよう、颯太」



 思いのほか大きな声に、クラスメイトは一瞬驚いて颯太を見るが、すぐにそれぞれ中断していた話や作業を再開させた。



「いてぇじゃねーかよ、充!」


「…………」


「あぁ?」



 充がいつになく無言で真剣な表情をしているので、颯太は音楽を止めてイヤホンを耳から外し、体ごと充の方へと向けた。



「んで、何か言いてーことがあるんじゃねーの?」


「ああ、その通りだ。昨日、槙田さんが襲われかけた」


「何!? で、あいつはどうなったんだ!?」


「俺がそこにいたからどうにか対処したけど、颯太はこのままで良いと思っているのかい?」


「…………」



 細かいことは追求せず、颯太は無言で充から視線を外した。


 颯太の中でまだ具体的にどうするか定まっていないのだと充は解釈する。だがしかし、充にとってこの状況が続くのはかなり好ましくない。



「颯太。言っておくけど、俺もいずれは襲撃者と同様に槙田さんを我が物にしようとするだろうね。時間はかなり限られている」


「…………俺は」


「……………」


「いや、なんでもねー」


「はぁ。今日すぐに! って話ではないけど、その日がいつ来るかはわからない。その時、君は一体どうするのか、ちゃんと考えるんだよ?」


「ああ、わかってる。……充」


「ん? なんだい?」


「ありがとな」



 その一言には、いろんな面での感謝が含まれている。

 颯太の珍しく良い意味での素直さを感じて、充は「フッ」と優しい笑顔になった。



「さ、授業の準備をしようか」


「そうだな」



 当たり前の話だが、充には「心を読む」などという超能力はない。


 この時、まったく気付いてなかったが、颯太の心の中では「お前なら任せられるかもしれねーな」という気持ちが出始めていた。


 そして、どこまでも紳士的であった充もこの時、少しずつ変わり始めていた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「一難去ってまた一難」という言葉がある通りに、1つ嫌なことが終わったと思ったらすぐにまた別の嫌なことがやってくるということが、人生の中で数えきれないほどあるものだ。


 実を言うと、颯太に色々と親切に警告する充だが、好き好んでそれをやっているわけではない。颯太にとっても比較的苦痛なことなので、出来ることなら、くだらない冗談で笑い合うような毎日を送りたいとさえお互いに思っている。


 ようやく憂鬱に思っていた朝の警告が終わったというのに、昼休憩なってまた一難がやってきた。



「唯香ちゃん、いるー?」



 昼休憩が始まったのと同時に1年2組の教室にやってきたのは詩織(しおり)真悠(まゆ)だった。


 偶々、教室の出入口と席が近いということもあって、2人の存在にいち早く対応したのは颯太だった。



「あれ、かわい子先輩としーちゃん先輩じゃないっすか」


「あっ、ふーた君、やっほー! 唯香ちゃん呼んでもらっていーい?」


「……はい」



 本当は断りたいところだが、先輩のお願い事なので渋々ではあるが応える。


 ……もう1つ理由をあげるなら、颯太にとって詩織の印象は「怒ると恐い人」だから歯向かわなかった。



「……おい、唯香」


「……な、なに?」



 つい先週まででは考えられないほどのギクシャク。唯香と一緒にお昼の弁当を食べるために準備していたクラスメイトも、ほんの少し気まずい雰囲気を出しているが、颯太はそれを一切無視した。



「かわい子先輩としーちゃん先輩が呼んでる」


「あ……わかった。ありがと」


「…………」



 本当に用件だけ伝えて、颯太はそのまま席に戻る。


 唯香は「ごめん、ちょっと待ってて!」と友達に告げると、小走りで詩織と真悠の元へ向かった。


 対応してくれた颯太に用件を伝えたのは真悠だったが、唯香に直接話すのは詩織の役目だ。



「急に呼び出してごめん。ちょっと聞きたいことあるんだけど、時間作ってもらえるかな?」



 気さくさ半分と真剣さ半分を感じさせる詩織の声のトーンに、唯香は「級長会のことかな?」と予想する。



「え、ええ。もしあれなら、お昼ご一緒しながらでもいいですけど……」


「いや、そこまでしなくていいかな。友達とお弁当を食べてからでいいから、連絡頂戴」


「あ、はい! わかりました!」



 前回、顔合わせの第1回目の級長会で2人は連絡先を交換しているのでいつでも連絡を取り合うことが出来る。


 だから今ここで連絡先を交換する、ということは無かった。



「じゃっ、また後でね」


「じゃーねー!!」



 軽く右手をあげる詩織と、素早く手を振る真悠に唯香は一礼をして友達の元へと戻る。



「なになに!? 唯香ったら、何かやらかしたの!?」


「幼馴染揃って、いきなり先輩に目をつけられるだなんて!!」



 友達はかなり興味深々のようだ。唯香は困った顔で答える。



「ち、違うよー! 颯太の方はよくわかんないけど、私は多分、級長会のことだろうから大丈夫だよ!」


「なーんだ」



 まだ高校生といえども、女子はこういった「唐突な謎の出来事」について話すのが好きだ。これに何かしらドラマを感じさせる出来事であるならば彼女たちは満足しただろうが、至って真面目な学生らしい話に「期待外れ」と言わんばかりに肩を落とす。



「さっ、先輩が待っているんだからさっさと食べるよ!」



 先輩を待たせまいと急ぎ食べ始めた唯香を見て、他の友達も食べ始めた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 颯太にとっての「一難」とは唯香に用件を伝えることだけではない。


 席に戻って座ろうとすると、珍しく充が颯太の席の近くに立っていた。



「あ? おい、充。お前、先輩方と食べるんじゃなかったのか?」


「……んてことだ」


「……充?」



 普段と違う充の雰囲気に、颯太は「何事か」と横目で充の顔を見る。

 すると、彼は目を見開いて何かをボソッと呟いていた。



「おい充!」



 颯太の攻撃的な呼び声で、充は「はっ!」と我に返った。



「……颯太、君は彼女と知り合いなのかい?」


「あぁ? あの先輩2人のことなら、確かに知り合いっちゃぁ知り合いだが。お前、どっちかに惚れたのか?」


「っ!? むしろ君は、彼女を見て何も思わなかったのかい!?」


「はぁ?」



 充がどちらのことを言っているのかわからなかったが、唯香と同様に異性からちょっかい出されやすいという真悠のことを頭に思い浮かべた。



「かわい子先輩のことか? 確かに、あの人はモテそうだからなぁ」


「かわい子先輩……というのは、どちらのことを言っている?」


「あぁ? あの、ほら、ふわふわした感じの……」


「確かに彼女も魅力的ではあると思うが、俺が言っているのはその隣にいた女先輩のことだ!」


「あ? ああ……しーちゃん先輩のことか。何も思わないのか……って、恐いとしか思わねーけど?」


「ああ……なんということだ!! こんなこと初めてだ。俺は一体……っ!」



 こんなに乱れた心を露わにする充を見るのは、颯太にとって初めての経験だ。そして、何にそんな動揺しているのかを尋ねる。



「お前、さっきから何を言ってるのかよくわかんねぇよ! むしろお前は、しーちゃん先輩を見て何を感じたんだよ!?」


「……運命だ」


「は?」


「俺は今日、2人の女性から運命を感じている」

読んで下さりありがとうございます! 夏風陽向です。


ついに充の正体が垣間見えたと思います。なんか章を重ねる度に部分数が多くなっているような気がしてきますが、ちゃんと終わりに向かって走ってますので、安心してください!


それではまた来週! 次回も読んでくださいますよう、お願い申し上げます!

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