求愛と破壊のすれ違い part17
今回は寝落ちしませんでしたよ! 偉い!(当たり前です)
詩織と真悠は、授業間の休み時間2回を有効活用して打ち合わせをした。
黒山から話を聞く場所や、どうやってそこまで黒山を連れて行くか等、どうにか6時限目が始まる前には話がまとまり、それを放課後に実行することとなった。
そもそも何故、2人が黒山に対してこんなことをしようと考えたのか。それは何も正義感だとかそういったものではない。
4時限目が始まる直前、授業が「世界史」だということを伝え、教科書とノートを「現代文」から「世界史」へ変えさせたのだが……。
いざ授業が始まり、黒山が先生に「黒山、このページを読め」と指名されると、何故か「現代文」の教科書を読み始めたのだ。
授業が始まる直前に「世界史」の教科書を出してあったはずなのに、だ。
成績が優秀だと皆に知られている黒山が、どんな成績不振な生徒でもやらかすことがないミスをするので、驚くクラスメイトもいれば、大爆笑するクラスメイトもいた。
そんな事情があり、詩織と真悠は「これは本当に放置するのはまずい」と感じ、何が何でも黒山から話を聞くことにした。
―――そして放課後。
「黒山君、ちょっといい?」
帰り支度をしている最中の黒山に、詩織が話しかける。
「この後、ちょっといいかな? ぜひ、何に悩んでいるのか聞きたいんだけど?」
「……申し出はありがたいが、言ったはずだ。俺が1人でどうにかすると」
「ま、あんたならそう言うと思ってたけどね」
「…………?」
そこに遅れて真悠がやってきた。彼女は黒山に笑顔で問う。
「一緒に来てくれる……よね?」
「いや、だから俺は……」
黒山に色仕掛けのようなものは通用しない。大抵の男子は真悠の「上目使い」でイチコロだが、黒山にそれが通じないことは2人もよくわかっている。
だから彼女たちがとった手段は―――
「!?」
黒山はそれを見て驚いた。
まだ教室内にクラスメイトが残っているというのに、真悠は紺桔梗の色をした渦を、自身の腹の手前に発生させたのだ。
能力を発動させた真悠との戦闘経験がある黒山は、そのやばさを感じとり、両手を上げた。
「わ、わかった……」
黒山が渋々ではあるが了承したところで、真悠は紺桔梗の渦を消し、詩織と笑顔を見合わせてハイタッチした。
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颯太は充以外に友達がいないが、唯香は違った。
もとより、誰とでも仲良くなれる性格だった唯香は、これを機にクラス内のあちこちで友達を増やしたようだ。
いまだ颯太との仲直りに勇気が出せないでいる唯香は、昼休み、一緒に昼食をとったクラスメイトとは別のクラスメイトと教室に残って笑顔で話していた。
一方、唯香との仲直りは無理だと感じている颯太は、唯香の状態をしっかりと観察しながらも「もう、俺には関係ねーことだ」と内心で思いながら深い溜息を吐き、イヤホンを耳にかけて音楽を再生し、鞄を持って教室を出ていく。
そんな颯太の姿を、充と唯香はそれぞれしっかりと見ていた。
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詩織と真悠が黒山を引き連れて来た場所は、かつて黒山が2人に《トロピカル・エクストラ・サマーエディション》を奢らされた喫茶店だった。
黒山の財布からお金が羽をつけて飛んでいった場所でもあるので、黒山にとっては恐怖の代名詞と言ってもおかしくないくらいではあったが、今となってはそれも苦いようでいい思い出でもある。
流石に4月には《トロピカル・エクストラ・サマーエディション》はないようで、代わりに《ボリュームランチ・オブ・スプリングエディション》という季節限定のランチメニューがあるようだ。
といっても、今は放課後を迎えた午後4時。本日のランチメニューは終了しており、通常のメニュー表がテーブルの上に置いてあった。
詩織と真悠の2人はケーキとお茶のセットを注文し、黒山はコーヒーを単品で注文した。
「……それで、あんたは一体、どんなことで悩んでるのよ?」
前置きもなく、注文を聞いたウェイトレスが下がっていくのと同時に詩織は本題に入った。……前置きがないのだから、本題も何もないが。
ここまで来ても、黒山は抱えている悩みを2人に共有するのを躊躇っている。
何と言っても、今回は実際に怪我人が出ている。今のところ、女性が怪我をしたという話はないし、骨を砕いている颯太が詩織と真悠の2人に能力を使うとは考えられない。
しかし「使わない」とも言い切れない。昼休みの一件から、彼が何かを抱えていることを何となく察することが出来たが、内容によっては本人の心にかなりの負担が掛かり、能力の暴走へと繋がりかねない。
そんな危険が予想されるから、黒山は2人を巻き込むわけにはいかなかった。
「いや、やはり2人を巻き込むわけには……」
「……真悠」
「うんっ!」
詩織に名前を呼ばれ、真悠は右手のひらを差し出すように前ヘ出すと、そこからまた紺桔梗の色をした渦が現れ―――
「わかった、わかった」
黒山が両手を前に出して宥めるようにそう言うと、真悠は満足そうな笑顔でそれをしまい込んだ。
「……俺が考えていたのは、颯太とその幼馴染のことだ」
「え? あの2人がどうかしたの?」
詩織は意表を突かれた。まさか、入学してから間もない彼らの名前が出るとは思わなかったからだ。
それに加え、詩織から見れば2人は至って普通にいい子だ。今までの経験上、重度の中二病患者関係で問題を起こす輩はロクなのがいなかったので、かなり意外だった。
「一昨日、梶谷と別れた後に向かった先には颯太とその幼馴染がいた。どうやら、颯太の幼馴染には異性にちょっかい出されやすいという『謎の体質』があり、今までずっとちょっかい出してきたやつを、颯太が自身の能力を用いて撃退してきたという。そして一昨日もそうだった」
「うん? ってことは、颯太君と戦わないといけないってこと?」
「いや、そうじゃない。あくまで防衛的な能力行使だから問題はない。やりすぎ感はあるがな。ただ、俺が問題としているのは、颯太の幼馴染は重度の中二病患者であり、その能力が災いを起こしているのではないかと思っている。だから幼馴染の方をどうにかしたいのだが……」
ここまでの話を聞いて詩織と真悠は、黒山が何故悩むに至っているのかがよくわからなかった。重度の中二病患者を取り締まるなど、彼にとっては朝飯前だと思っているからだ。
しかし、黒山が悩んでいる要因は「唯香の能力をどうにかすること」ではない。
「俺と彼女には接点がない。幼馴染である颯太に協力を仰いだが、何故か協力できないと言った。一昨日、2人の間に何かしらの事があったのだと推測は出来るが、何故協力できないのかがイマイチ理解できない。能力をどうにかするにも、ただ力づくで『拒絶』すれば良いというものでもないしな」
「うん? 唯香ちゃんと接点があればいいの? だったら、級長会でペアになった私がどうにかしてあげられるけど?」
「……っ! 本当か!? それはありがたい。が、しかし、もう1つ問題がある」
「これ以上、何があるってのよ」
「颯太の幼馴染が重度の中二病患者であることは間違いないが、その能力が本当に『謎の体質』なのかがわからないということだ」
その発言に固まる3人。
そこで丁度良いところに、ウェイトレスが注文したものを持ってきて、伝票も一緒に置いていくと「ごゆっくり」と言って、3人がどんな表情をしているのかも特に確認せず、仕事だけをこなして可憐に去っていった。
最初に口を開いたのは真悠だった。
「えー? でも黒山くん、見ただけで相手がどんな力を持っているのかわかるんじゃなかったっけー?」
「いや。俺はあくまで重度の中二病患者だというのがわかるだけであって、能力の内容については発動中のところを見ないとわからない」
黒山が今まで戦ってきた相手は、すぐに目の前で能力を発動してきたのですぐに中身がわかった。
大体の重度の中二病患者は似たような能力を身に付けるので、経験上からどう戦えばいいのかわかるし、そもそも相手が「害意」や「敵意」を持っているのであれば、それを『拒絶』すればいいだけのことだ。
「だからまず、颯太の幼馴染が持つ『謎の体質』が重度の中二病なのかということと、それからそれが発動する条件がわからないとどうしようもない。本人も無自覚らしいしな」
重度の中二病患者が持つ能力は普通、自分の意思によって発動される。ただし、能力に目覚めてから直後はどちらかというと、夢の中で見たもう1人の自分が主導権を握って能力を行使することが多い。
しかし、そこには必ず「能力を使おうとした理由」が存在するはずだ。無意識であっても、何かしらの状態・状況・感情が引き金となる。
黒山的には、そこを颯太に調べて欲しかったのだが完全にあてが外れた。颯太には「どうにかする」と言ったものの、能力を行使している自覚もない女子高生に無理矢理カウンセリングを受けさせるわけにもいかず、八方塞がりだった。
時間が解決してくれるような、時間が掛かっても問題ない案件ならともかく、今回の場合は襲われる唯香の身が危険だし、颯太がそれを撃退するといっても、颯太や相手に危険が及ぶ。
できることなら、一刻も早く解決しなければならない問題となってしまった。
とはいえ、詩織にとってはやはり、そこまで悩む問題ではない。
「ん? でもそれなら尚更、私が唯香ちゃんに聞けばいいんじゃない?」
「出来るのか? 言っておくが、重度の中二病患者というのは、その関係者がそう呼んでいるというだけであって、単に目覚めただけの相手には全くわからない単語だぞ?」
「それはちゃんとわかってるから大丈夫!」
「…………?」
案外、その道を歩いてきたベテランにも思いつかない方法というのは、知識を得たばかりの相手から提示されることもある。
詩織は自信満々に右手の人差し指を立て「いーい?」と話し始めた。
「重度の中二病患者が能力に目覚める時、必ず共通していることがあるよね? そう、夢の中でもう1人の自分に会う、ということ。その夢の内容を聞けば、何かしらヒントを得られるんじゃない?」
「あっ! そっかー!」
「なるほどな」
重度の中二病患者として能力に目覚めて久しい黒山は、夢の中の自分とどんな会話をしたのか全く憶えていない。
一方、重度の中二病患者という存在を去年知ったばかりである詩織には、夢の内容こそはわからないが、目覚める瞬間のことは知識として蓄えていた。
そこに、去年目覚めたばかりである真悠がプラスして意見を出す。
「夢の内容について聞けば、どんな能力でどんな風に使っているのかがわかるはず! 私も、もう1人の自分に教わったもん!」
「わかった。ではすまないが、その辺りのことを聞いておいてくれるか梶谷?」
「もちろんよ!」
「ただし、無理はするなよ? 危険が近付いたらまずは自分の身を守ることを優先してくれ」
「わかってるわよ! それに、こっちには真悠っていう最高の幼馴染がいるしねっ!」
「も、もぉ! しーちゃんったら……!」
「最高の」と言われて、真悠はかなり嬉しそうに顔を赤くして俯いた。逆に、男子からの褒め言葉やアプローチが効かない真悠が赤くなって俯く姿は、校内に潜む真悠ファンにとっては写真に収めたいほどのものだったことだろう。
どうにか思い通りにことが進んだ詩織は、真悠の頭を撫でながらも心の中でガッツポーズをした。
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クラスメイトに友達が出来たからといって、一緒に帰れるかどうかというと、それはまた別の問題である。
中には同じ方向だが部活で一緒に帰れない友達もいるし、部活はないが帰る方向が違うという友達もいる。
颯太も1人で先に帰ってしまったので、唯香は結局、すっかり暗くなった道を1人で帰ることになってしまった。
思えば今までずっと側に颯太がいて唯香を守っていたので、1人で下校するというのは「数年ぶり」となる。
そして颯太と違ってイヤホンを持たない唯香は、車や信号。道に溢れた雑音を聞き流しながら、思考はどうしても颯太のことになってしまっていた。
(颯太、私のこと嫌いになっちゃったのかな……)
それまでどれだけ仲の良かった相手だろうと、ちょっとした何気ないことで絶縁となってしまうことだってある。
「言葉は凶器にもなり得る」とは言うが、相手へ抱いた感情や表情が毒となることもある。
颯太と仲直りすることを願う一方で、自分が颯太に嫌われても仕方ないことをしてしまった、という自覚が唯香にもあった。
颯太に対する「何故」「どうすれば」が蓄積され思い悩むが、唯香にそんな暇を与えさせない存在はやはり現れた。
その存在に唯香は気付き、鞄を抱きかかえて恐怖を露わにした。
「ふ、颯太ぁ……」
今までなら助けてくれた彼の名を呼んでも当然、彼に聞こえるわけはなく、誰も助けにこない。
助けを乞うことが出来る人も、周囲にいない。
絶望と恐怖が混じった唯香の顔を見て、唯香が発する甘い香りに誘われた襲撃者は「ニヤリ」と不気味な笑みを浮かべて、唯香に襲い掛かった。
読んで下さりありがとうございます! 夏風陽向です。
メリークリスマスでした。よくよく考えてみると、これが26日の投稿ですから、いつも以上にやる気が出ない限り、本編は今年最後の投稿になってしまいますね……。
今年の年末年始休暇中は、何か短編を書こうかという発想は今のところあまり無い感じですかね。沙希と奈月が黒山と出会う話はもう既にやりましたので、書けることがないような気が。
書く予定は無いですが、気まぐれで「紅ヶ原女子高サイド」か「琥珀ヶ関工業高校サイド」の話を……ってかそれもうスピンオフか。を書くかもしれません。
話は変わりますが、ツイッターのアカウントで「黒山のクリスマス話。未来ifで話を書くなら、ヒロイン誰がいい?」というアンケートをやってますので、御協力頂けると嬉しいです。
誰もいなければやめますが。
それではまた次回。来週もぜひ読んでください!
一応……良いお年を!




