求愛と破壊のすれ違い part16
すみません……予約投稿前に寝落ちしました……。
颯太の返答に、黒山は意外感を覚えた。
黒山の考えでは、幼馴染である唯香が異性に狙われる原因を取り除こうということに快く協力してもらえると思い込んでいたからだ。
「……それは、何故だ?」
「それは……」
この質問は颯太にとってかなり残酷な質問だった。
唯香との間に起こった出来事をを考えると辛いということもあるが、仲違いしたことを説明するには自分の思っていることを言わなくてはならない。
唯香相手ですら、思っていることをそのまま素直に伝えることが難しい颯太は黙り込んでしまった。
とはいえ、時間は有限だ。休み時間の中では1番長い昼休みといえども、次の授業の準備や移動を考えれば、長くここにいることは出来ない。
「颯太。次の授業はなんだ?」
「えっ、ああ、体育っすね」
「そうか、それは気の毒にな」
お昼休み明けの体育というのは、何となく動きにくさを感じたり、動いているうちに脇腹が痛くなったりするので、それに関して黒山は素直に同情した。
携帯端末で時間を見ると、颯太は着替えて移動しなければならない時間になってしまっていたので、黒山はここで切り上げることにした。
「時間だな。……仕方がない、彼女の方は俺がどうにか考えておく」
「……1つ、質問いいっすか?」
「なんだ?」
「どうして、唯香の為にそこまでするんすか?」
この相談を持ちかけられた時から、颯太は疑問に思っていた。
唯香と黒山は3回しか会ったことがない。時間で言えば、1時間もないだろう。
だというのに何故、黒山は唯香が抱える問題を改善しようとするのか、襲うのではなく守ろうとするのか、不思議で仕方がなかった。
だが、今度は黒山が返答に困った。
詩織や真悠は、針岡が「関係者」として認めてしまったので黒山の活動を知っているが、それはそもそも秘密にしなければならないこと。
いくら重度の中二病患者である颯太といえども、それは隠さなければならないことだ。
「……そうだな。敢えて言うなら、平和のためか」
少しの間考え込み、黒山なりに出した答えがそれだった。
「平和のため?」
当然ながら、それだけでは理解できない。颯太は怪訝な顔をして、黒山にその意味を問う。
「当事者である俺たちは既に感覚が鈍っているが、能力を持つ俺たちは異端だ。普通の人は能力なんて持たない。ちゃんと現実の自分を認識して日々を生きている」
「…………」
「捉え方によっては現実逃避とも言える。本来なら能力が云々なんてあるべきではないんだ。そんな能力者が普通の人を巻き込んでしまったりするのは、誰にとっても良くないことだ」
その言葉は颯太にとってかなり理解できる言葉だった。
確証があるわけではないが、唯香の『謎の体質』が能力によるものだったとして、襲ってしまう異性や襲われる唯香。唯香を守る自分自身や自分に骨を砕かれる唯香を襲う者。
黒山の言う通り、誰にとっても良いことはない。
世界的に言えば、それらを無くしたところで「平和になった」とは言えないだろう。しかし、平和とは人それぞれにある。少なくとも、唯香に起こっていることを無くせば、唯香本人にとっても颯太にとっても、唯香を襲ってしまう人にとっても平和が訪れる。
だというのに協力できない自分に、颯太は嫌悪感を覚えた。
「次は体育なんだろ? 早く行かないと遅れるぞ」
「あ、はい」
黒山が立ち上がったのを見て颯太も立ち上がり、2人は応接室から出た。
応接室を使わせて貰ったことに感謝し、黒山は進路指導の先生に礼をした。
すると、進路指導の先生も時間を気にしてきたのだろう。体育がある颯太にとってはギリギリになり兼ねない時間ではあったが、それ以外の授業で考えれば移動にそこまで焦る時間ではないので「良かった」と言わんばかりに進路指導の先生は黒山と颯太に笑顔で手を振った。
扉の前でもう一度礼をしてから、進路指導室から退出。黒山は颯太の方を真っ直ぐに見た。
「すまないな、昼休みに」
「いえ。俺の方こそ、協力出来ず……」
「事情はわからないが、どうにかしておく。だが目の前で彼女に何かあったら助けてやれよ?」
「……はい」
それが出来るかどうかは別として、颯太はとりあえず返事をした。
その返事にどんな意味があろうとも、黒山にとっては「守れ」ということが伝わればそれでいい。なので言葉続けることなく、彼は自分の教室がある方へ歩いて行った。
……といっても、1年生と2年生の教室は階が違うだけなので途中までは行き先が一緒なのだが、不思議と颯太には気まずく感じてしまい、少し距離を開けて颯太も教室へと向かった。
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移動中に予鈴は鳴り、4時限目が始まる本鈴まであと5分。
颯太が教室へ辿り着く頃には、流石にクラスメイトの皆は移動しているようで、教室には人がいなかった。
颯太ともう1人を除いては―――
「あ? 何やってんだ、充」
颯太のクラスメイト・萩野充も颯太と同様に、これから着替えるようだった。
「何やってんだって……颯太の方こそ、もうじき体育が始まるというのに今戻ってきたのかい?」
「ああ、ちと先輩に捕まってな。お前は?」
そう質問しながら、悠長していられない状況なので颯太も机の横に掛けてある着替え袋からジャージを取り出して着替え始める。
充も着替えながら困り顔で質問に答える。
「それこそ俺も、だよ。仲良くして下さるのは嬉しいんだけど、体育があるというのに離してくれなくってね」
充がどうにか解放されたのは、彼女達にも次の授業があるからだ。
「なんと自己中心的なのか……」と思われる話であるが、彼女達も充の次の授業が体育であることを知っている。それでも早めに解放しなかったのは、彼女達が女子であるからだ。
男子は教室で着替えてからグラウンド、もしくは体育館へ向かわなくてはならないが、女子は更衣室で着替えてから向かう。実を言えば、男子はかなり移動してくてはならないが、女子はそんなに移動せずに到着できる。
その分、女子は体育前も後も男子より色々と(身だしなみ的な意味で)準備しなくてはならないが、男子は着替えるだけで他に準備がない。よって、充を捕まえていた女先輩は「男子ならこれくらいで間に合うでしょう」という感覚だった。
「自己中心的」というには少し意味が異なってきてしまうが、少なくとも充のことをちゃんと考えての解放ではない。
ただ、事情はどうあれ、颯太が吠えるには十分だった。
「お前の場合は女だろ! そりゃまあ、羨ましいことで」
「おっとすまない、愛しの幼馴染と仲違い中の颯太には自慢話のように聞こえてしまうよね」
着替え終わったのか、充は颯太に哀れみの顔を向けた。
その視線に気付き、充の顔を見た颯太の眉間には更にシワが寄った。
「うるせえな! ぶっ殺すぞ!」
「おー、怖い怖い」
両手を上げてから充は教室を出ると、着替え終わった颯太も後を追うように教室から出る。
校内を走っているところを教師に見つからないよう、グラウンドへ向かった結果、途中で本鈴がなってしまったものの、授業内容のみではそこそこやる気の出す針岡が教科担任だったということがあって、先生によっては遅刻として扱われる2人もこの授業では全然セーフだった。
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体育の授業というのは案外、私語をする暇がないものだ。
運動が得意な生徒はもちろん、運動が不得意な生徒でも体育の時間はスポーツに夢中になる。
横に座って、他の生徒がプレイしているところを見学……という流れは存在していない。
勝ち負けにこだわり過ぎては授業の雰囲気があまり良いものではなくなってしまうが、それでもスポーツで対戦する以上「勝ちたい」とか「活躍したい」と思ってしまい、気付けば楽しんでいるのが男子の授業風景だった。
一方、女子は実に人それぞれである。
性格的に真面目だったり、成績を気にしている人は積極的に参加するだろうが、高校生にしては背伸びをして自分を綺麗に見せたいと思う人は「出来るだけ汗をかかないようにする」ことで精一杯だろう。
唯香は真面目に参加していくタイプだが、女子の方は取り敢えず置いておくとして……。
体育の授業中は集中していたので授業と関係ないことを話さなかった颯太と充だが、授業が終わって教室に戻る頃には、戻りながら会話をしていた。
「……んで? 朝のやつはどういう意味なんだ?」
「ん? 朝の……?」
「朝の」というのは、颯太と唯香が仲違いしたことにいち早く気付いた充が、颯太に「早めに仲直りしないと、手遅れになってしまう」と言ったことについてだ。
充は「何のことやら」とでも言うかのように、思い出そうとする素振りを見せるが、颯太にはそれが惚けているが丸わかりだったので、かなりきつめに睨みつけた。
すると、逃げ切れないと観念したのか「おお! あの事か!」と思い出したように見せ、颯太を試すかのような不敵な笑みで話を続けた。
「いやぁ、考えてもみなよ? 颯太と槙田さんは幼馴染でいつも一緒にいるイメージがあるから、ワンセットのような感じだけれど、こうして別々にいれば、誰もが『2人はそういった関係ではない』と思うよね」
『そういった関係』とは、両思いのカップルのことだ。わざわざそれをぼかして言う意図が颯太にはわからなかったが、取り敢えず話の続きに耳を傾けることにした。
「周囲の人がそれを認識した時、当然ながら槙田さんを狙おうとする男子だって現れてもおかしくないだろう? 彼女は可愛いからね。ただ、それは君にも言えることだ。君に好意を寄せる女子が現れてもおかしくはないんだよ」
「……確かに、そうかもしれねーな」
颯太的には「自分はともかく、唯香にはあり得そうな話だ」と感じた。
しかし、それが『謎の体質』に引き寄せられたものではなく、本人の意思であるのであれば、それは尊重しなければならないものだとも、頭では理解している。
「君たちはお互いに運命の相手なのではないかと俺は思っているよ。だから、その運命を大切にして、いち早く彼女と仲直りして欲しいな」
「颯太の恋を応援している」と言った充だが、それはただ他人の恋を応援しているものではなかった。
「颯太と唯香」という1つの運命を大切にして欲しいという願いがあってのものだ。
「お前の言うこと、わからなくはねぇ……気がする。けど俺は、多分あいつに……」
今そこに、自分が掴むべき運命の道があるというのに、弱気になってしまう颯太を見て、充は憤った。
もちろん、大人気なく声を荒げたりはしないが。
「颯太。君がそう言うのなら、俺が彼女を狙おうかな?」
「…………は?」
予想もしなかった衝撃に足を止め、目を見開いて充の方を見る。
颯太は、充がいきなり言い出したことが理解出来なかった。
普段から女先輩に囲まれているにも関わらず、ここであまり関わりのない唯香を狙おうなど、軽いにも程がある。
「お前、本気で言ってんのか……?」
「もちろんだとも」
「仮に、唯香がお前を好きになったとしても、普段、女先輩に囲まれているお前を見て悲しむだけだぞ……? わかってんのか?」
「もちろん、それもわかっている。しかし、俺が槙田さんを選んだ以上、他の女性とは関わりを持たない。俺は彼女との運命を大切にするよ。何があってもね」
「充、お前……」
充の表情と言葉から、颯太は本気を感じた。
充の言葉は憤りに任せた言葉ではない。もしそれが、充と唯香にとっての運命として結ばれるのであれば、それを大切にする覚悟があってのものだ。
「俺は彼女から、他の女性からは感じない『何か』を感じる。すごく引き込まれる感じだ。もし君が、彼女と運命を大切にしないのであれば、俺は君から彼女を奪うよ」
高校に入学して、初めて出来た友人に宣戦布告をされて、颯太の内心は当然ながら穏やかではなかった。
瞬間的に怒りが込み上がってきて、視界が一瞬歪む。頭に血が上った証拠だ。
「充……お前、俺に喧嘩売ってんのか?」
「そんなつもりはないよ。俺は待つ。少しの間だけね。颯太……君がちゃんと彼女との運命を大切にしようと行動したのであれば、俺は再び君を応援するつもりだ。でもそうでないのであれば、その時は覚悟をしておくことだね」
「ちっ……」
充が本気で『奪う』つもりでいるのであれば、すぐに動き出すだろう。
それでも「待つ」と言ったのは、友である颯太の為でもあるし、やはり颯太と唯香の運命を尊く思っているからだ。
その友としての優しさを実感してしまった颯太は、恋敵になりかけている充を嫌いになれなかった。
もっとも、充としても颯太と友達をやめるつもりは毛頭無いので、すぐさまいつものスマイルを取り戻した。
「さあ、颯太。本気の話はここまで。早く戻って着替えないと、いつまでも女子が教室に入ってこれないからね」
「あ、ああ……そうだな。つーか、別に入ってくるやつは入ってくるだろ」
「……まあね」
実を言うと、女子の中でも着替えるのが速い人は普通にいる。
これは身だしなみを疎かにしている、というわけではなく、あくまでも男子の中では噂レベルの話だが「女子の体育は早めに切り上げられる」ようだ。
これは真実であり、本来ならばせめて授業終了の鐘が鳴るまでグラウンド、もしくは体育館から出てはいけないルールになっているのだが、中には普通に更衣室に戻って着替え始めている女子がいるからだった。
先程とは打って変わって、普通に友人同士が会話するテンションに切り替わった2人。颯太は白けたように突っ込み、充は苦笑いでそれを肯定した。
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一方、2年3組の教室では数学の授業が終わった後だった。
いつもなら誰よりも早く片付けて次の授業の準備をする黒山だが、今日は教科書とノートを開きっぱなしで考え込んでいた。
「ちょっと、どうしたの黒山君。次の準備しないなんて珍しいじゃない」
「あ、ほんとだー!」
その光景はかなり意外なもので、詩織と真悠は近いにも関わらず、わざわざ黒山の席を囲むように寄ってきた。
「む? ああ、そうだな。次の授業は……現代文だったか?」
「ううん、世界史よ。数学の後に現代文があるのは木曜」
「ああ、そうか……」
「ちょっと! ほんとどうしちゃったの!?」
黒山はいつも、むしろ次にある授業を聞かれたら答える人間だ。
それは記憶力がいいのか、それとも把握していないと気が済まない性格上なのかはわからないが、新学期からまだ1週間程度しか経っていないというのに時間割を覚えていた。
それを間違えてしまった黒山を見て、詩織と真悠は衝撃を受けた。
「黒山くん、何か考え事でもしてるのー?」
そう言って、真悠が黒山の顔を覗き込むように見る。
その距離はなかなかに近く、黒山が誤解してもおかしくないレベルだった。
……黒山が普通の男子だったらの話だが。
黒山の顔は赤くなったりせず、動揺したりもせず、真悠の質問にただ「ああ」と生返事を返すだけだった。
勘違い男子ホイホイ天然美少女の真悠の方が、自分の行動にほんの少し赤くなってしまっていた。
「……そんなに考え込んで珍しいじゃない。『三人寄れば文殊の知恵』とも言うんだし、ここはひとつ、私達にも相談して見なさいな」
「む? ああ、そうだな。……いや、やっぱり俺1人で大丈夫だ」
そう言いながら、数学の教科書とノートを机の中に入れ、代わりに出した教科書とノートを机の上に置いて再び考え始めた黒山を見て、詩織と真悠は顔を見合わせた直後、黒山の方を向き直して口を揃えて言った。
「「いや、大丈夫じゃないでしょ……」」
黒山が出した教科書とノートは、現代文のものだった。
読んで下さりありがとうございます! 夏風陽向です。一人ひとりがアクセスしたくださるお陰で、私のモチベーションが出てきます! 本当にありがとうございます!
さて、part16。既に16週分やってきているわけですが、まだ入学式から1週間程度しか経ってないという……(笑)
それではまた次回。来週もよろしくお願いします!




