求愛と破壊のすれ違い part2
翌日の朝。
1時間目が始まる直前なので、既に2年3組の生徒は全員教室に集まっていた。
つい昨日、席が前後になった詩織と真悠は、お互いに自分の席に座りながら会話している。もちろん、前である真悠が座って後ろを見る格好だが。
教室内が喧騒に包まれる中、黒山が自分の席でいつも通りに窓の外を眺めていると、職員が呼び出し等で使用する緊急放送のチャイムが鳴った。
『2年3組 黒山透夜君。至急、職員室へ来なさい。繰り返します。2年3組 黒山透夜君。至急、職員室へ来なさい』
声の主は針岡。しかし、いつものやる気のない口調ではなく、真剣そのものだった。
緊急放送が流れる直前までとは全く違うテンションで教室内がざわつく。
針岡の真剣な口調に、2年3組の生徒達は「何か重大なことがあったのだろう」と誰もが察していた。
そして、呼ばれた人間である黒山の方を見る。
詩織と真悠は、ある程度の付き合いがあるので針岡の用件を大体予想出来るが、そうでないクラスメイトにとっては「これは、何かやらかしたな」というふうにしか思えない。
黒山が優等生的な性格なのであればきっと違った予想が立てられるのだが、転入して以来、未だにほとんど理解出来ない黒山なのだから「あり得る」と見られても仕方のないことだ。
「……すまないが、行ってくる」
やれやれ、と言わんばかりに立ち上がり、今年も級長に任命された詩織にそう言うと、年頃の高校生男子にしては珍しいくらい、すらっとした歩き方で教室を後にした。
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「失礼します」
敬うに値しない人間には敬語を使わない、というポリシーがある黒山でも一応、形式的には職員室に入る際、お決まりの礼節は弁える。
用がある相手の席をしっかりと把握している黒山は、迷わずに針岡の席へと向かった。
「おっ、来たかー。急に呼び出してわりーな」
先程の放送と打って変わって、いつも通りにやる気のない口調で話し始めた。
しかしその実、雰囲気と目が真剣さを物語っている。
女子からの好意に鈍感な黒山でも、こういった空気は読める男だ。
「……何かあったのか?」
黒山も呼び出しの理由には大体の検討が付いている。
よって、すぐに本題に入れるよう促した。
「あー。何かあったのかと言えばあったんだが……」
「…………?」
曖昧な返答に、黒山は首を傾げた。
針岡の表情を見ると、少し悩んでいるのがわかる。言葉を選んでいるのだろう。
やがて意を決したかのように重い口を開いた。
「昨晩のことだが、一般のサラリーマンが右腕の骨を折るという事件がー起こった。とりあえず、事故扱いになっているがなー」
「警察が事故扱いしたのなら、それは事故なんだろう? それで何故俺が呼ばれる?」
「……骨の折れ方が普通じゃないらしくてなー。最初は傷害事件として扱うつもりだったようだが、折れた本人があくまでコケた、と言い張るらしいんだわ。
けどな、転んでどこかにぶつけた折れ方じゃないんだと。とはいえ、仮に誰かにやられたとしても、かなり強い力でやられたものっぽいぞー?」
「……ということはつまり」
「その通りだー。上はこの件に、重度の中二病患者が関わっていると見ているみてーでなー。もちろん、確証はないんだが……」
「成る程、わかった。俺はそれを調査すればいいのか?」
「いや、まだその指示は出ちゃいねー。調査の指示が出るのかすらわかんねーが、周囲の現状を把握するのと並行して、目を光らせておいてくれー」
「了解した。……話は終わりか?」
「ああ。呼び出して悪かったなー」
黒山はそのままそそくさと職員室の扉へ向かい「失礼しました」と言って廊下へ出て、教室へと歩き始めた。
針岡との会話中、既にチャイムは鳴っていたのでもう授業が始まっており、廊下は至って静かだ。
だから考え事に没頭できる。
(今回の事件が障害だったとして……。何故、被害者はその状況を説明しない?)
(犯人に脅されている? あるいは、言えない状況がそこにあった……?)
(……いずれにせよ、情報が少ないな。それにまだ重度の中二病患者によるものだと決まったわけじゃないしな)
実を言うと、重度の中二病患者の能力は十人十色だとは限らない。
中には似たような、もしくはほとんど同じような思考や理想を持った人もいるので、その人達が発現する能力も自ずと同じもの・同じ傾向のものとなっている。
この学校で言えば、転入してきてすぐに戦った下崎の能力『結ばれる為の赤い糸』がそれに該当する。
もっとも、本能として人間が恋愛する以上、この能力がこの世から消えることなどないのかもしれないが……。
それはともかくとして、黒山は今回の被害者の特徴と過去に戦闘経験がある能力を照らし合わせ、相手の能力を予想してみることにした。
ーーーーしかし。
(……結構多いな)
よくよく考えてみれば「骨を折る」という外傷だけでは、能力を物理的な攻撃に使えるものならどれも不可能ではない。
「もう少し特徴を聞いておけば良かった」と、歩く速度を上げながら後悔した黒山だった。
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1年生の科目予定表を見ると、上級生に比べてロングホームルームの時間が多い。
というのも、1年生には早く学校に慣れてもらわなければならないし、これから自分が進む進路をある程度決めなくてはならないからだ。
そもそも瑠璃ヶ丘高校は進学校ではない。就職と進学の希望者が大体6:4の比率で割れている。
それ故、1年生の段階で就職か進学かを決め、2・3年生で決めた進路に沿って授業を受けていく必要がある。
とはいえ、まだ入学式から3日。まずはクラスのあれこれを決めるところからだ。
「そんなわけで、級長を決めたいんだけど! 誰か立候補はある!?」
1年2組の教室では、担任(女性)が発したハリのある声が響いた。
しかし、担任のテンションとは真逆に1年2組の生徒達は皆、黙り込んだままだ。
中学生の時ならともかく、せっかく自由度の高い高校生となったのだから、やりたいと思う生徒などいるはずなかった。
「立候補が無いのなら推薦でもいいぞ! それもなければ、先生の独断と偏見で勝手に指名することになるのだが!!」
その発言にクラスメイトが騒つくなか、唯香は後ろを向き、幼馴染である颯太に相談を持ちかけた。
「私……やってみてもいいかな、って思うんだけど、どう?」
「やめたほうがいい」
颯太の返答は早かった。少しでも悩むそぶりを見せれば違っていたのだろうが、唯香はその即答に不満を感じたようで、ムスッと頬を膨らませた。
どうやら彼女は、出来る・出来ないで判断されたと思っているようだ。
「出来るもん。やろうと思えば出来るもん!」
もちろん颯太は出来る・出来ないで判断したわけではない。
むしろ性格的に言えば可能だろう。しかし、唯香の『謎の体質』を考えれば、自ら危険に身を投じるようなものだと捉えられる。
だから反対したのだった。
「俺はそういう意味で答えたわけじゃねーよ! お前、自分の体質をわかってて言ってるのか? 学力は良くてもそういう面はお馬鹿さんなのか!?」
「大丈夫だよ! ほんとふーたは心配し過ぎ!」
「馬鹿言ってんじゃねー! それで何かあったらどうするんだ!? その時、俺はお前を助けられないかもしれないんだぞ!?」
「きっと他の人だって助けてくれるよ。それに、いつまでもふーたに助けられる私じゃないもん」
「おまっ、いい加減に……!」
「もういい。うるさいから静かにしてFu〜太!」
「こ、こいつ……!」
この2人が言い争った時、大体いつも唯香が颯太を煽って怒らせ、一方的に会話を終了させて不発に終わらせている。
それが2人にとって1番平和に言い争いを終わらせる方法だった。
颯太も、それを頭でわかっているのだが、やはり心がついていかないようだ。
「はい先生! 私、やります!」
颯太の警告を無視し、唯香は素早く立候補した。
担任はその立候補者の存在に、目を輝かせて喜んだ。
「おおっ、槙田さん、やってくれる!?」
「はい、やります!」
「ありがとう! 反対の人、誰かいる!?」
「「「…………」」」
誰も反対する素振りはない。唯一、警告を無視された颯太が、顔を机に突っ伏していたが、何の問題もなく1年2組の級長は決定した。
「それじゃあ、決まり!! 槙田さん、急で悪いんだけど、明日の放課後に『級長会』っていうのがあるから、会議室に向かってね!」
「はーい、わかりました!」
その後、それぞれ所属する委員会と係を決めた。
生徒会に所属するのが嫌だった颯太は、数多くのライバルからじゃんけんで、体育係の役職を勝ち取ることが出来たのだった。
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昼休みになった。
2年3組の教室では、真悠が席を後ろに向けて詩織と向かい合うようにくっつけて、弁当を広げていた。
そんな中、黒山は自分の席で窓の外を見ながら、弁当……ではなく、携帯食料を食べている。
真悠は他のクラスの生徒とも仲が良いだけあって、常に話題が豊富だ。
そして今日も、詩織に話題を提供しようとこんなことを言い出した。
「そういえば、しーちゃん。知ってる?」
本来なら「えっ、何?」と返すべきところなのだろうが、黒山が転入して以来、この手の始まり方をする話はろくな話がない。
「……真悠、私はそれを知っちゃいけない気がする」
「あっはは! でも今回は大丈夫じゃないかなぁ。校外で起こった出来事だし、そこにうちの学校の生徒が関わっているって話は無いしね!」
「へぇ、そう? じゃあ、聞こうかな」
「えっへへ、毎度あり〜!」
別に金を取っているわけでもないのに、何が「毎度あり」なのだろうか。
そんな突っ込みを入れたくなった詩織だが、話の内容的にそれどころでは無かった。
「昨日の夜ね、街中のとある路地で転んで骨折した人がいたんだって」
「その人、とんでもなくおっちょこちょいだったのね。それが何だっての?」
「うん。お医者さんが言うには、その折れ方は転んで折れたものじゃない、らしいよ? 何かに当たって折れたというより、まるで骨そのものが自発的に折れようとしたかのような、不自然な折れ方だったんだって!」
「何それ、怖っ……」
「くっつくまでには結構な時間がかかるみたい。その人は骨粗鬆症だというわけでもなかったから、とりあえず治療するだけしかできないみたい」
「なるほどねぇ。私的には、そんな不可解な事件のスペシャリストに聞いてみたいところだけど……?」
と、詩織は黒山の方を向いた。
もちろん、話題が話題だったので、黒山も耳を傾けていた。
観念した彼は、とりあえず2人の方に顔を向ける。
「十分に可能性はある。だが、自発的に折れようとした、と捉えられる折れ方というと、1番濃厚なのは原子・分子を操る能力を持った人間だ。とはいえ、そんな能力を持った人間ならば、骨を折ることに執着せずとも、もっと上手く証拠に残らない犯行が出来るのだから、考えにくいがな」
「ほう? つまり、黒山君の推測では、犯人は能力を持った人だと?」
「いや、そうとは限らない。もしかすると本当に事故だったのかもしれないしな。
けど、2人はこの話にあまり首を突っ込むなよ? 噂話程度に留めておけ」
そんな黒山の発言に詩織は「やれやれ」と肩をすくめると、嫌味っぽく答えた。
「言われなくてもそうするわよ。あんまりヘンテコなことに巻き込まれたくないからね」
「そうか。それでいい」
その返答に、黒山は満足したようだ。
再び、窓の外へ意識を向けて、携帯食料を頬張り始めた。
「私たちも早く食べよう、真悠」
「う、うん! そうだね!」
この時、真悠は「不穏な空気にならなくて良かった」とそっと手で胸を撫でた。
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一方、1年2組の教室では。
昨日と同様、颯太と唯香は一緒に昼食の弁当を食べていた。
颯太がおかずを口の中にかきこみながら説教を始める。
「お前はいつもいつも、どうして俺の警告を聞いてくれねーんだ!」
「またその話ー? いい加減、耳タコなんだけどなぁ」
「ちゃんとお前が危機感を持ってくれたら、俺だってこんな話をしねーっての! 大体いつも軽率なんだよ!」
「そ、そんなこと言われたって……私にだって自由が欲しいもん」
「気持ちはわかるけどよ、まずはその体質をどうにかしねーとだろ!?」
「う、うん……」
「ってか、昨日はいつのまに帰ってたんだ? 無事に帰れたのかよ?」
「え? あ、ああ、うん。とりあえず……何事も無かったかな?」
唯香の歯切れが悪い答えに颯太は「は?」と言って、追求を始めた。
読んで下さりありがとうございます! 夏風陽向です。
暑くなったり寒くなったりで、気温や気象がはっちゃめちゃですね。
投稿しようとしたら、寝落ちてしまうという失態をお許しください……!
次回をお楽しみに! また来週更新しますので、よろしくお願いします!
9月6日午前0時頃追記。
ここ最近、投稿と更新の予約を水曜日に行い、後書きと読み直しをして更新するという手段を取らせていただいていますが、後書き中に寝落ちてしまったのが、昨晩の出来事でした。




