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隣の転校生は重度の中二病患者でした。  作者: 夏風陽向
「求愛と破壊のすれ違い」
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求愛と破壊のすれ違い part1

4月になった。


人々が行き交う中、気を使っているかのように合間を縫ってひらひらと蝶々が舞う。

何気ない、特に珍しくもないその姿を見た人にとって、その光景を見ただけで春の訪れを感じさせる。


朝はともかく、ここ最近の春は暖かい……というよりかは、(ひたい)に汗が滲むほど、やや気温は高めだ。


社会人にとっては、せいぜい「新人が入社してくる」か、人によっては「異動」というくらいの変化点しかないわけだが、皆等しく期間が決められた学生にとっては「新入生」と「進学」そして「進級」という、小さいようで大きな変化点がある。


瑠璃ヶ丘高等学校も例外なく、つい先月まで在籍していた3年生は卒業し、在校生は学年が1つ上がり、そして新入生は入学式を迎えた。


1月の一件以来、目立った事件もなく、黒山は『ほとんど』普通の高校生活を送っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


2年3組教室。



「ふぁぁぁぁ……」


「ちょっとしーちゃん! 女の子がそんな大口開けて欠伸(あくび)をしたらはしたないよ!」


「だって、ちょっと前までの寒さが嘘みたいな陽気じゃん? 普通にしてるだけで眠たくなるわよ」


「だ、だからって……。一緒にいる私が恥ずかしくなっちゃうよぉ……」


「へいへい。気をつけますわよ……。っていうか、それにしても」


「うん?」


「進級したのはいいけど、まさかフロアまで1つ上がるとはねぇ……。階段面倒くさい」


「確かにそうだけど、階段は割といい運動になるみたいだよー?」


「体育で間に合ってるってーの!」



詩織(しおり)真悠(まゆ)の間ではこんな他愛のない会話が繰り広げられているわけだが、すぐ隣の黒山は、ずっと変わらずに窓の外を眺めている。


先日、生徒会主体で開催された「新入生を迎える会」で新入生を怖い顔で見ていたのだが、どうも気になったことがあったようだ。


大分慣れたものだが、相変わらず黒山の「近付くなオーラ」は変わらない。

割と神経が太めの同級生は、用がある時に限って話しかけられるようになったが、大人しめの同級生はまだ彼のことが怖いようだ。


その度、詩織が対応させられているわけなのだが……。


チラッと黒山の方を見ると、真悠もここ最近の黒山について思うことがあるのだろう。


小声で彼の話題を出した。



「そういえば、1月以来、またあんまり話をしてくれなくなっちゃったね……。やっぱり何かあったのかな?」


「あんたそれいつも言ってるじゃない。どうせまた、私達を巻き込まないようにしてくれてるんだろうから、邪魔しないようにしましょう」



1月に、駅前へ路上コンサートを見に行って以来、再び黒山は人とあまり触れ合おうとしなくなった。


詩織はそれを「巻き込まないようにしている」と解釈……というか、自分と真悠に言い聞かせているが、実のところ彼女にもわかっていない。


だがこの状況は黒山にとって好都合だった。


『全身武装型』を使った後、目覚める直前に『黒い女』から言われた言葉が呪いのように離れない。


「『黒』を使いこなしているわけではないこと」と「『拒絶』の力が弱まりつつあること」。


『拒絶』の力を強めるには、かつての通りに「孤高」であることを常としなければならない。


それらの能力は、今の黒山にとって存在意義であり、自分を構成している大事な部分だと認識している。


窓の外を眺めながら考え事をしていると、先生らしい気配を感じさせずに、針岡が教室へ入ってきた。



「おーう、お前らー、席につけー」



声そのものには大きさもなく、覇気もない。


しかし、近くでその声と存在を認識した生徒が席に座り始め、それにならって他の生徒も席に着いた。



「んー、迅速で助かるー。まったく、進級したのは喜ばしいことだが、登る階段が増えちまってほんと嫌になるわー」


「「「…………」」」



そんな針岡の愚痴に、クラスメイトは何の反応もしなかった。

一部、心の中で共感している者もいるが。



「っと、んなことより……入学式を終えて早々、せっかくロングホームルームがあるからなー。今日は席替えタイムといこっかなー」


「「「え!?」」」



クラスメイト、全員(黒山を除く)が一斉に驚く。


入学して以来、席替えをしたのは1学期の終業式があった日だけだったからだ。


他のクラスでは割と頻繁に席替えが行われていたらしいが、針岡はそういったバタバタするのが嫌いみたいで「席替えをしたい」という生徒の訴えを「めんどくせー」の一言で蹴散らし続けてきた。


それでよく、今まで親からクレームを受けなかったな、と思われるが、その代わりとして規則等で特にうるさく言わない上に、本気で危ないことじゃない限りは見逃してくれる理解のある部分もあるので生徒の評判は悪く『は』ない。


ともあれ、そんな状況下のクラスだったので、今回の席替えは生徒の意表をつく提案だった。


その提案の意味をようやく理解した2年3組の生徒諸君は遅れてテンションか上がり……。



「「「うおー!!!!」」」


「「「席替え! 席替え! 席替え!!!」」」



と、いきなり賑やかになった。



「うるせー、静かにしろー。じゃねーと、席替えをやめるぞー?」


「「「…………!?」」」



席替えを中止にされては困るので、騒いでいた生徒たちは一斉にピタッと静まり返った。


すると、いつの間に用意していたのか、針岡はちょうど成人男性の拳一個分程の穴が空いた箱を取り出して、上下左右に2回振った。



「よーしお前らー。俺が特別にくじを用意してやったから、俺から見て左前のお前から順番に引きてけー。んでだ……」



針岡は更に、1枚の紙を取り出し、黒板にマグネットで貼り付けると。



「全員が引き終わったら、くじに書いてある番号を見て、この紙に書いてある同じ番号の席へ移動しろー。机ごと移動すんのはめんどーだから、中身と鞄だけ持ってだぞー? 質問はあるかー?」


「「「…………」」」


「ん。ねーなら始めてくれー」



こうして、2年3組の席替えが始まった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


……のだが。



「なんで? ねえ、なんで?」


「し、しーちゃん……」



全員、引き終わって移動したわけなのだが、なんと詩織は席が変わらなかった。


そしてもう1人……。



「私と、なんであんたも変わってないわけ?」


「……む?」



黒山も移動せず同じ席だった。



「……運の問題だ。それ以上でもそれ以下でもないだろう」


「うっさい! これじゃあ、また私があんたのお世話係じゃない!!」


「お世話係?」


「そうよ! あんたがいつもそんなオーラを出すから、近付けない人は近付けないの!!」



その発言に、いわゆる「近付けない人」はビクッとした。



「フッ……」


「何がおかしいのよ?」


「いや。俺に近付けない、というのは生存本能が働いているからだろう。むしろ誇りに思うべきだ」


「……ごめん、ちょっと何言ってるのかわからないわ」


「…………」


「あ、あの〜、しーちゃん?」


「ん? どうしたの、真悠」


「私と交換しようか……?」



詩織の気持ちを、誰よりも正確に把握している真悠は、言いにくそうにそう言った。


しかし、黒山と詩織の席は変わらなかったが真悠の席は変わっている。

それが詩織の目の前なので、交換したところであまり変わらないし、真悠と席が近くなったことは満足していた。



「ん。まあ、いいわ。真悠と席が近くになったんだし!」


「そ、そう……?」


「うん」



そして真悠はそっと詩織の耳元へ寄って小声で……。



(しーちゃん、素直じゃないね。本当は変わらなくて嬉しいくせに……)



と、呟いてきたので詩織は「うっさい!」と言って、真悠を席へ戻らせた。


その顔は赤くなっていたので、照れ隠しだということが一目でわかる。


……しかし黒山は。



「…………」



窓の外を眺めているばかりで、詩織の赤くなった顔に見向きもしていなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


1年2組に所属となった少年、嶺井(みねい)颯太(ふうた)は、オリエンテーションで説明している担任の言葉を殆ど聞いていなかった。


彼の頭の中にある案件は1つ。目の前の席に座る女子、槙田(まきた)唯香(ゆいか)のことだ。


彼女とは幼馴染で、保育園からずっと一緒だ。


中学までならともかく、高校まで一緒だったのは少し意外だった。唯香の学力なら、もっと偏差値の高い学校を選べたはず。


だというのに、何故わざわざランクを下げて瑠璃ヶ丘へ来たのか理解できない。


とはいえ、実際のところそこはどうでも良かった。

むしろ、違う学校となっていたのなら、それはそれで困っていたことになっていたのだから。


彼の悩みは1つ。彼女にある『謎の体質』だった。


中学2年生のある日、彼女は何故かモテ始めたと思うと、突如理性の効かなくなった男子生徒に襲われそうになったことがある。


その時はたまたま颯太が見かけたので、どうにか助けることが出来たが、その男子生徒がなかなかに諦める姿勢を見せなかったので、止むを得ず颯太は『番犬』となった。


その男子生徒が近付く度に威嚇し、場合によっては取っ組み合いになることもあった。


結局、長期休みに入って明けた後、その男子生徒が別人のように唯香への関心を無くしたので、大きな事件は無かったが、その後もしばらくして別の男子生徒に言い寄られたりと、なかなかに大変だった。


しかし、颯太は「唯香が好きだから」守ったわけではない。

その都度「唯香が助けを求めたから」助けただけであって、唯香が相手と付き合うというのなら、颯太はそれを止めはしない。


何かしらを思うかどうかは別として、だが。


この先もそんなことがあるのかもしれないと考えると気が重いが「唯香を守らなくてはならない」という意思は、どんな状況であろうと強く持っている。


それはそれとして、颯太にとって最も困っていることは唯香の性格だ。


はっきり言って、彼女はお人好し過ぎる。


見た目もなかなかに可愛い方だし、暴力的な発言を嫌うほどに中身が尖っていないので、自分の置かれている状況にしては危機感が無さすぎる。


もちろん、颯太は過去に警告をしているが、いつだって彼女はその警告を聞こうとしなかった。


今日という今日は、ちゃんと危機感を持ってもらうよう、颯太はしつこく言うつもりだ。


そんな決意を固めたところで、授業終了の鐘が鳴ったので休み時間となった。


唯香が席の向きを180°変えて颯太の方へ向けて来たのだが、颯太はその行動が理解できなかった。



「……何してるんだお前」


「えっ? 今のが3時間目だからお昼休みでしょ?」


「ん、ああ、そうか」



中学の時も、昼休みは3時間目の次だったが、その時と授業終了の時間が違うので、颯太は昼休みになったという実感があまり無かった。


こういった、環境の変わった中ですぐに順応する点は素直に尊敬している。


鞄から弁当を取り出して、机の上に広げながら颯太は先程、心の中で決めていた話を始めた。



「ところで唯香」


「んー?」


「今まで何度も言い続けてきたことだが、いい加減に危機感を持ってくれませんかねー」


「またその話ー? 颯太(ふーた)は考えすぎなんだよ」


「いやいやいやいや! 今までも散々、危ない目にあってきただろ!」


「でも、その度にふーたが助けに来てくれるでしょ?」


「今まではどうにかなってきたけど、今度はそうもいかんかもしれんだろ!? 頼むから危機感を持ってくれ」


「ほーんと、神経質なんだからFu〜太は」



唯香は器用にも、颯太の「颯」の部分だけ歌の途中で出てくるような高い音で発音した。

その行動は、ただでさえ沸点の低い颯太を怒らせるのに十分だった。



「ふざけんな! お前って奴はいつもいつも……!」


「はーいはい、そんなすぐに怒らないのっ! さあ、ご飯食べよう?」


「ちっ……」



唯香の体質は徐々に影響を強めている。


その状況が、余計に颯太をピリピリとさせていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


4月になって気温が上がり、日が長くなってきたとはいえ、午後6時にもなると辺りは真っ暗だ。


小学生は言わずもがな、中学生でも女子は一人歩きさせられないほどの暗さ。

とはいえ、高校生にもなると男女問わずに色々とあるので、歩いていても珍しくはない。


街灯の小さな明かりでは照らしきれない暗い路地。


そこで、1人の女子高生が男に言い寄られていた。



「なあ、いいだろ? 俺ならお前を楽しませてあげられるってー」


「や、やめてください!」



女子高生は必死に抵抗している。相手の男は、20代後半辺りだろうか。

警察に見つかれば、1発で終わりだろう。



「っと……逃さねーよ? なんでかなー。初めて会ったはずなのに、俺はお前にすげー惹かれてる」


「や……めて!」



必死に抵抗していると、右手に持った鞄がたまたま男の顔に当たった。

教科書がいくつか入っている鞄は、男にそこそこにダメージを与える。


少なくとも、反射的に怯ませるくらいには。



「……ってえ! この女、絶対に許さねー」


「ひっ……!」



女子高生はその隙を突いて、人通りの多い方へと逃げ始める。

そのスピードはお世辞にも早いとは言えないほどで、その気になればすぐに追いつくだろう。


しかし、男は追いつけなかった。否、追いかけられなかった。



「……何だよ、お前」


「…………」



追いかけようとしたところ、目の前にブレザーを着た男子高校生が現れたのだ。


ブレザーの下に着ているパーカーのフードを目深に被り、顔はよく見えない。



「そこどけよ。じゃないと、痛い目見るぜ?」


「面白れぇ。やってみろよ?」


「後悔……すんなよ!」



男は大人気なく、現れた男子高校生を右の拳で攻撃した。


ーーーーしかし。



「あ?」


「は……はは……」



男の拳が男子高校生の顔面に届く前に、腕を掴まれていた。


男子高校生は、拳を受け止めるのではなく、横から右手で男の右腕を掴んだのだ。


反撃をする気配もなく、かと言って離す気配もない。



「んだよ、離……」


「はっ……ははは!」



男子高校生の不気味な笑い声を聞いて、男の本能は正確に危険信号を出していた。


男の腕が(きし)み始め、後悔し出した時には既に遅く……。



「ああああああああああ!!! うああああああああっ!!!!」



掴まれた部分が、掴まれただけではあり得ないほどの強さで『破壊』された。

強烈な痛みに立っていられず、左へ倒れる。


そんな男を男子高校生は見下していた。



「なんだよ、こんなもんかよ……。口程にも無いじゃあないですか。ん? 口……? 口かー。そんな命知らずの口は、ぶっ壊してやったほうがあんたの為になるかなぁ……なぁ!?」


「んんっ……んんーっ!!!!」



男は強烈な痛みに耐えながらも、必死に首を横へ振った。


何度も、何度も。これ以上の苦痛を与えられることが無いように。



「ははっ、必死だなぁ。その必死さに今回は許してやるよ。けど、もう1つぶっ壊しておかないとなぁ!」



男子高校生は、激痛によって汗が滲んだ頭を掴み……。


脳が命令していた、女子高生への『性欲』を壊した。


やがて、激痛に(もだ)える男は、自分が何故、こんな目に遭っているのかがわからなくなり……。


そのまま失神した。



「まっ、せいぜい自分の欲望を制欲出来なかった自分を恨めよ? そんでもって、誰かに見つけてもらえるといいですねぇ!?」



男子高校生はそのまま、ズボンのポケットに手を入れて歩き始め、街を照らす光の中へ消えていった。

読んでくださりありがとうございます! 夏風陽向です。


新章突入しました! またいろんな方に楽しんでいただけると幸いです!


それではまた来週! 次回をお楽しみに!

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