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隣の転校生は重度の中二病患者でした。  作者: 夏風陽向
「悪を裁く審判の歌」
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悪を裁く審判の歌 part18

清村(きよむら)卓也(たくや)


瑠璃ヶ丘高校1年生。成績優秀者で、学年1位とはいかずとも、中学生の時から今まで成績上位をキープしている。


そして、同じ1年生の中に何人もいるとされている「真悠に惚れている男」の1人だ。


そんな彼の高校生活は、いじめと無縁な生活だったが、中学生の時は「ある人との出会い」があるまでいじめを受けていた……。


不運なことに、清村が進学した中学校は、ガラの悪い生徒が多いことで評判の悪い学校だった。


義務教育であるが故に、成績や内申点が悪くなっても退学を命じられることはないので、それをいいことに生徒達はやりたい放題。


中学校に上がる前からその評判を聞いていた清村は、両親に「私立を受けたい」と相談した。


しかし、清村家に私立を通わせるだけの余裕はない。そもそも、近くに私立が無いため、引越しも考えないといけないとすれば、当然「反対」だった。


清村自身は成績優秀者だが、両親は元・成績優秀者でもなければ、教育方針は特別厳しくするものではなく、自由奔放なものだった。


そんな両親の反面教師として、自ら勉学に励んだ結果、成績優秀者として上り詰めたのだ。


結局、1番近い公立の中学校へ通うことになってしまったわけだが、前述した通りに、この学校の生徒はガラが悪い。


入学当初は小学生の純粋さが残っていた同学年の生徒も、先輩を見て徐々にガラが悪くなっていき、攻撃的な言動をする生徒へ変わってしまった。


そんな中でも自分の意思を曲げず、学業に励んでいた清村だが、皮肉にもその真面目さでクラスから浮いてしまい、軽いちょっかいから始まって、やがていじめへと発展してしまった。


とはいえ、賢い清村は自分の中で溜め込まず、即座に先生や親に相談することにした。


だが、いざ相談してみると、親の反応は「それじゃあ、舐められたままだからやり返せ」で、先生は「どうにかする」と言いながら、何も対応してくれないという結果だった。


そんな環境を1年程耐え続け、2年生になって清村にとって希望となっていたクラス替えがあったが、クラスメイトが変わっても、特定人数からのいじめは無くならなかった。



クラス替えしてから間もないある日のこと。


例外なく、その日も清村はいじめられていた。


流石に暴力で怪我を負わせれば大問題となるので、殴られたり蹴られたりはなかったが、何人がかりでズボンを脱がされ、隠されたりしていた。


その日偶然。普段いじめに加担しないクラスメイトがその現場を目撃し、助けてくれたのだ。


それが鎌田(かまた)浩二(こうじ)だった。


救いの手を差し伸べた……というよりは、子猫に這い寄るカラスを狼が撃退した、という表現の方がしっくりくる助け方だったが。



「おい、てめぇら。自分よりよえーやつをいじめて、何が楽しいんだ?」



清村をいじめていた主犯格、リーダー的な存在だったクラスメイトは、他のメンバーと笑いながら顔を合わせ、ニヤニヤしながら答えた。



「何言ってんだ? こいつの今にも泣きそうな顔がほんとおもしれーからだよ。なんならお前も混ざるか?」



そんな彼らの態度が気に入らなかったのだろう。


鎌田は舌打ちをして、躊躇なくキレた。



「あぁ!? 俺はなぁ、てめぇらみてぇに、よえーやつをいじめて楽しむ奴らが心の底から大っきれぇなんだよ! てめぇら、今すぐそんなくだらねぇことをやめねぇと……」


「やめねぇと……なんだよ?」


「まとめてぶっ潰す!!」


「な、なんだよ……上等じゃねーか! やられて恥かいても知らねぇからな!」



こうして、鎌田1人対清村をいじめていたグループで喧嘩したわけだが、鎌田の圧勝だった。


清村からはわからなかったが、この時の鎌田は既に喧嘩慣れをしていたのだ。



「あ、ありがとう、鎌田君」


「……俺はただ、玉がついてる割に小せぇことする奴らが気に入らなくてやっただけだ。てめぇを助けたわけじゃねぇよ。じゃあな」



この時、お互い本音から思ったことを話した2人だったが、そんな2人が友達になることは無かった。


だが、当時の鎌田は、特定のグループに入りはしなかったものの、気に入らない相手ではない限り仲良くする男だった。


清村をいじめていたクラスメイトとはその後も睨み合う関係となったが、鎌田が敗れることは1回も無かった。


そんな鎌田に、最初は憧れを抱いていた清村だったが、次第に「鎌田君に頼らずとも、相手を倒せるようになりたい」と思うようになった。


それなりに努力を始めてみたものの、元々運動が苦手だったので長続きしなかった。


そこで再び、鎌田の強さに憧れを抱くが、そんな憧れは徐々にこじれていき「こうなりたい」が「こうであってはならない」な変わってしまった結果、清村は『重度の中二病患者』となった。


そして、憧れだった鎌田を気付かぬうちに「乱暴な不良の1人」と見てしまうようになり、中学時代よりも遥かに平和でまともな瑠璃ヶ丘高校から、一緒に進学した鎌田をはじめとした、平和を壊しかねない不良達を社会から抹消しようと考え、清村は今に至る。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ちっ……くしょう!」



自分と同じく満身創痍となっているコピー人間5人を相手に、鎌田は手も足も出なかった。


1人相手なら運が良ければ倒せていたかもしれないが、2人となれば勝ち目はかなり薄くなる。


だというのに、相手は5人。火種が尽きて能力を使用できない状況で勝てるわけがない。


しかし、鎌田はまだ負けていなかった。


どんなに殴られ、傷を負わされても、諦めずに立ち続ける。


そんな攻撃をする鎌田のコピーと、攻撃を受けている鎌田本人を清村は、虫けらを見るかのような目で見て……。



「いい加減、諦めたらどうだい? 今の君では到底敵わないのはわかるだろう? 命を失う前に降参した方がいいと思うんだけど」



見下すように、嘲笑うかのように降伏勧告をした清村に対し、鎌田は鼻で笑った。



「はっ! 誰が降参なんざするかよ……。俺はまだ、負けて、ねぇ……!」


「……君はいつもそうやって強がる。僕は、そんな君が本当に気に入らないよ!」



清村は、未だ諦めようとしない鎌田の姿に腹を立て、右手の人差し指で鎌田を指さし、コピー達にとどめを刺すよう命じた。


コピー人間5人が迫るなか、鎌田は死を覚悟した。



(刺し違えてでも、あの野郎をぶっ倒す!)


(……けどそれは、俺が代表者の一員だからじゃねぇ)


(鎌田(かまた)浩二(こうじ)っつー、1人の男として負けられねぇ戦いだからだ!!)



「うおおおおおおおおおっ!!!」



雄叫びをあげ、捨て身の勢いでコピー人間に向かって走り出す。


鎌田とコピー人間5人が、再び接触しようとした、その時だった。



「な、なんだ!?」


「んあぁ?」



いち早くその存在に気付いた清村は、後ずさった。


鎌田の目の前からコピー人間が勝手に消え去り、清村が見ている方向を追って見てみると……。



そこには「邪悪」という言葉がぴったりな黒いアメーバのようなものが、空に浮いていた。


その黒いアメーバのようなものは、すぐに黒い霧となって鎌田を包み込んだ。



「あ? んだよ、これ……」



不思議と、嫌な感じがしなかった。


それどころか、切れてしまった火種がみるみる回復していき、心に怒りの炎が再び燃え上がっていく。



(そうか、こいつぁ……。透夜(とうや)の……!)



そして、鎌田は瞬時に、それが黒山による援護だと気付いた。


心の中であっても、鎌田は礼を言わない。むしろ「余計なことを……」と苦笑い気味にそう呟いた。


そんな鎌田とは真逆に、何が起こったのか全く理解出来ない清村は、恐怖感と焦燥感が心を支配していた。


鎌田の苦笑い気味の呟きがトリガーとなり、ついに清村は爆発した。



「な、なんなんだよ、それは!? 一体何が起こったというんだ!? それは、鎌田君に害をなすものではないのか!?」


「うるせぇよ、清村。さっきまでの余裕は、一体どうしたよ?」


「黙れ、この死に損ないがっ!」



再び、満身創痍な鎌田のコピー人間を5人作り上げ、今度こそ鎌田の始末を命じた。



「……は?」



しかし、コピー人間が走り出したのと同時に、一瞬にして5人全員が消え去った。


鎌田の「炎拳剛波(えんけんごうは)」によって……。


今の今まで、そこに立っていたはずの5人がいた場所を見て、それからゆっくりと鎌田の方へ視線を移す。


すると、そこには炎を纏った鎌田が立っていた。


赤い炎ではなく、黒い炎を纏った鎌田が立っていたのだ。



「……不思議なもんだぜ」


「…………?」


「どんなに燃え上がろうと、炎が消えるような気配が全くしねぇ……。ったく、チートもいいとこだぜ」



そんな鎌田の言葉を聞いて、清村は落ち着きを取り戻していた。


何故なら、鎌田本人の状態が良かろうと悪かろうと、コピー人間はその状態で作り上げられるからだ。


再びコピー人間を5人作り、今度こそ鎌田を倒そうとした。



……しかし。



「何だよ、何なんだよ!?」


「あぁ?」



そこに出来上がったコピー人間は、黒い炎を纏っていない、満身創痍のままだった。


またも、清村の心は乱れた。



「くそ!くそくそくそくそ!!」


「…………」



心を乱しながらも、清村はコピー人間に、鎌田の排除を命じる。


だが、それは最早時間稼ぎにすらならない程の速さで、鎌田によって倒されていった。



「なんだよ、なんだよ!? くそくそくそ!!」



コピー人間を倒しながらも、徐々に清村との距離を詰めていく鎌田。


負けじと、清村は次々コピー人間を作り上げていくが、コピー人間は即座に倒される。


やがてすぐ目の前まで鎌田が来ると、清村はあることを思い付いた。



(……よし、これなら!)



再び、コピー人間を作り出す。


それは、相変わらず満身創痍な状態の鎌田。


……ではなく、制服姿の女子高生だった。



「清村、てめぇっ……!?」


「流石の君でも、コピー人間とはいえ傷付けられないよねぇ? だって誰のコピーかと言えば……栗川さんのコピー人間だからねぇ」



そう。そこには、栗川(くりかわ)真悠(まゆ)のコピー人間が立っていたのだ。


コピー人間だとはいえ、鎌田には女性に手をあげることなど出来ない。


「硬派気取る鎌田だからこそ有効なのだ」と清村はわかっていたから、こうして真悠のコピー人間を作り上げた。


だが、手を出せぬ一方、鎌田の怒りは募っていた。



「てめぇ、清村!! てめぇには誇りってものがねぇのか!? コピー人間とはいえ、女を盾にして恥ずかしいとは思わねぇのかよ!?」


「思わないよ。これだって立派な作戦の1つだと、僕は思っているからね。……さて、彼女に君を一撃で倒せるだけの力はないだろうが、時間が掛かっても、体力的に限界を迎えている無抵抗な鎌田君を倒すことは出来るだろう」


「てめぇっ!!!」



清村はこの時、勝利を確信した。


余裕の笑みを浮かべ、ゆったりと鎌田へ指差すその姿は、審判を下す独裁者を思わせるものだった。



「……やれ」



清村の命令に反することなく、鎌田を攻撃しようと真悠のコピー人間が1歩を踏み出した。


今度ばかりは流石にやられることを覚悟した鎌田だった。


……が、そんな彼にとっても目を疑うようなことが目の前で起こった。


真悠のコピー人間は、1歩踏み出したその状態で、氷漬けにされていたのだ。



「は? 今度は一体なにが!?」


「あぁ? こいつは一体……?」



鎌田と清村の両者が、温度差はあれど戸惑っていると、1人の男が空から氷の翼を羽ばたかせ降りてきた。



「……不愉快だね、実に。私の可愛い妹のコピー人間を作り出すだなんて」



その男のことを、鎌田と清村は知っていた。


だからこそ、2人は驚きを隠せなかった。



「え、あ、貴方は……!?」


「生徒会長……か?」


「元……だがね。10月に選挙が終わり、新たな生徒会長が決まったので、私の役目は終わったのだよ」



舞い降りてきた男は、雪消(ゆきげ)(りょう)。詩織と真悠の近所に住む兄的存在で、そして元・生徒会長であり、黒山の前任者として戦っていた男だ。



「……なんで元・会長さんがここにいやがるんだよ」


「鎌田君。君も、黒山君同様に敬語を覚えた方がいい。……それはともかくとして、私達の跡を継ぐ者達を見ておこうと思ったのだが、清村君が真悠のコピー人間を作り出したのが気に入らなかった故に、手を出してしまった」


「……? 元・生徒会長さんは栗川のことが好きなのか?」


「近所に住む妹的な存在として……ね。もちろん、詩織も真悠と等しく妹的な存在として愛している。……だからこそ、清村君の行いが許せないのだよ」


「そ、そうかよ……」


「うむ。ところで、差し当たっては、鎌田君の手柄を横取りするような形になってしまうが、彼の相手は私がしても良いだろうか? でなければ、気が済まないのでな」


「お、おおう……」


「感謝しよう。では、お言葉に甘えて」



鎌田に向かって笑顔で返した雪消だが、清村に向き直した瞬間、表情は冷酷そのものに変わった。


焦りは既にない。純粋な恐怖のみが、清村を支配した。



「か、鎌田君! 僕の相手は君では無いのか!? 君が僕の相手をするべき展開ではないのか!?」


「……何言ってんだかよくわかんねぇが、まあ、解決すりゃなんでもいいだろ」


「……鎌田君は私に君の相手を譲ってくれたのだ。そういう君こそ、私の相手に集中すべきではないのかな?」


「ひっ……!」



清村はコピー人間を作らず、逃げ出した。


結果として、その選択は間違っていなかった。戦わず逃げれば、生き残れる。


もっとも、雪消を前にすれば、それはほんの分単位での話だが。


清村は、運動が苦手な人間なので、本気で走って逃げても、その速度は遅い。


雪消が静かに右手を前に出すと、50メートルも離れていない場所で清村の動きがピタリと止まった。


その止まり方は不自然で、右足を踏み出した瞬間のバランスが取りにくい姿勢で静止している。


鎌田は直感でそれが雪消の能力による効果だと悟ったが、それと同時に雪消は種明かしをした。



「私の氷は、君の炎と同じようなものだ。直接人体を凍結させるわけではなく、動作や思考を凍結させるにしか過ぎない。物も凍らすことは出来ない。しかし、重度の中二病患者の能力によって生み出されたモノは、文字通り凍らせることが出来るのだ」


「そ、そうか……」


「ああ、そうだ。……それでは、後の処理は頼んだぞ? 動きそのものは凍結しているが、他人の力で押したりして動かすことは出来る。鎌田君なら楽勝だろう」


「ちょっと待てよ、元・会長さん」



氷の翼は既に消え去っており、そのまま歩いて去ろうとした雪消を鎌田は呼び止めた。


どうしても気になることがあったからだ。


全く礼儀がなっていない後輩相手に、雪消は思うところはあったが、止まって振り返ってやることで大人の対応をした。



「……何かな?」


「あんた、いつからここにいたんだ?」



鎌田のことの質問は、雪消にとって予想された質問だった。


そして、その答えを嘘偽りなく、正直に答えた。



「最初からだよ」


「何!?」


「最初からだ。君たちが、彼らを探し始めたところからずっと見ていた。これを予め、そこでまだ気絶している男に伝えてあったので、黒山君が去った後、鎌田君・清村君、この能力を操ることのできる彼と、そして私を含めた4人で能力発動してもらっていたのだよ」


「マジで全部見てたってわけかよ….…」


「私はもう高校を卒業する……。それと同時に、この能力とも別れを告げなくてはならないから、今回は君達を見にきたというわけだ」


「そいつぁ、ご苦労なこって」


「うむ。……さて、今度こそ私は行くよ」


「…………」



鎌田は黙って雪消を見送った後、今後の処理について考えた。


結局「担いで運ぶのは目立つから危険だ」と判断し、嫌々ではあるが、致し方なく針岡へ電話して清村の回収を依頼することにした。


その後、気絶したまま動かない今回の協力者を叩き起こし、指定された場所まで清村を肩で担いで移動したのだった。



読んでくださりありがとうございます! 夏風陽向です。


後書きから読む方、ネタバレ注意!


開戦時に『しまい込む為の玩具箱』を発動した時、実は「黒山を除いた4人を別次元へと飛ばした」と書きましたが(part13の最後)これは間違いでなく、伏線でしたが、気付いた方はいましたでしょうか?


清村はどこまでも「せこいキャラ」にしたかったので、実は「行き過ぎた反抗期」の時から、決着のつけ方はこうしようと思っていました。


本当は、もっとド派手に凍らせたり……とか考えていましたが、異世界ファンタジーならともかく、現実世界での異能力は、鎌田の炎や雪消の氷を日々の生活でも使えてしまうので、物に燃え移ったり、凍らせたりという効果は無いことにしました。


これは「重度の中二病患者」という存在を、超能力者より不便な存在にしたかった、という背景があります。



さて、話は少し変わりますが、そろそろこの戦いにも終焉が訪れそうです。

次回は誰を描くか、なんて予想出来ると思いますが、お付き合い願います!


ちなみにですが、黒山の援護は、この章を書き始めた時から考えていました。

特に鎌田の「黒い炎」はどうしても出したかったので、出せて良かったです。また出せるといいなぁ。



それではまた来週をお楽しみにして下さると嬉しいです!



追伸・社会において「ほう・れん・そう」はとても大事ですが、上司が聞く耳持たずだと何の意味もないじゃん。……と思いました。

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