悪を裁く審判の歌 part17
黒山は追撃をしなかった。
喧嘩慣れをしていない航平に対しての手応えは十分だと思ったからだ。
しかし、黒山の予想に反して航平はフラフラになりながらもどうにか立ち続け、戦闘を続行しようと踏ん張り続けている。
そんな様子を見て、黒山は敵ながらも「見事だ」と思った。
「それだけの根性がありながら何故、能力に頼る? 能力に頼らずとも……重度の中二病患者にならずとも心で戦い続けることが出来たろうに」
航平は「確かになぁ……」と思った。しかし。
「お前のような……拒み続ける人間にはわからないだろう。確かに、俺は能力に頼らずとも戦い続けられたかもしれない。だが他者はどうだ? 集団相手だろうが個人相手だろうが、相手が自分より強い力でこられてしまっては負けてしまう」
「…………」
「法律とは、人を守る為のものではない。人の集まり……社会を上手く回す為に、人が守るべき秩序だ」
「…………」
「だがしかし、実際に秩序が守られているとしても、他者の心を傷付ける人間は必ずいる。法律的に罪であっても、問われることさえ無ければ罪の意識は表れない。もし、傷付けられた被害者が、加害者に罪を問うことが出来るのであれば、被害者は弱者ではない。いや、そもそも強者と弱者の概念などないだろう」
「…………」
「俺は……俺たち『スリー・オブ・ジャッジメント』はそんな弱者の為に、社会という集団から見れば些細に見える罪を裁く為に活動しているのだ。……それを偽善だと言われ、邪魔されるわけにはいかない!」
航平の言葉を黙って聞いていた黒山だが、黒山にとっても、航平の言いたいことがわからなくもなかった。
だからこそ、ここで口を開いて言い返した。
「だからといって、お前達が罪を裁く立場であっていいと思っているのか? 俺もお前も、結局は1人の人間だと言うのに」
「この世に神がいるとして、その神が1つ1つの罪に対して、しっかりと罰せられる存在なのであれば、俺達が能力を使って罰することなどないだろうな」
「……お前達はもちろん、神が罪を裁いたところで、被害者にとって何かあるわけではないと思うが?」
「そうかもしれないな。だが、それは大衆から見た意見であって、弱者からすれば救済となり得る」
「自己満足だな」
「所詮、大衆の味方であるお前にはわからないだろうな……だが」
「…………?」
真剣な表情で会話をしていた航平と黒山。そして突如として、航平はニヤリとした。
「今回は俺達の勝利になるだろう。その勝利を喜ばずにはいられないかもな」
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奈月とヤイバ男の激闘はなおも続いていた。
しかし、どちらと無傷とはいかない。
「はあああああっ!!」
奈月の輝く剣は、リーチを伸ばすことは出来ないが、剣士としての技量を伸ばすことは出来る。
『輝かせる為の美しき剣』は、何も「竹刀を肉体以外の物を斬れるようにし、肉体に対しては斬られたのと同じ痛みを与える」というだけが効果ではない。
黒山や鎌田とは逆で、最初に『武装型』が使えるようになっただけであって、本領発揮は、むしろ代償にあった。
この能力の代償は「心が乙女ではなく、剣士となっていく」というものだが、心と同時に技量も剣士として高くなっていく。
だから、ヤイバ男の攻撃を防御し、すぐにカウンターへ移ると、目にも留まらぬ速さで連続攻撃を返した。
ヤイバ男の『ヤイバ』は一撃で壊され、後退するも素早く踏み込まれ、ヤイバ男は奈月の剣撃を受けた。
斬られた激しい痛みが、ヤイバ男を襲う。
……しかし。
「うひ……ウヒヒヒヒヒヒヒヒ!! お前の……心と剣技が……輝いていく……!!」
普通の人なら痛みで転がるはずが、ヤイバ男はむしろヒートアップしていた。
「まだ斬られ足りないのかな? ボクとしては、ここまで来たら勝てる気しかしてこないんだけど?」
「ウヒヒヒヒヒヒヒヒ!! 見くびる……なよ、剣士!」
ヤイバ男はついに本気でイカれた。
狂った笑い声を上げると、奈月は悪寒をかんじた。
剣士としての勘が告げている。
「危険だ」と……。
「ウヒヒヒ! イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!!!」
ヤイバ男は、またもヤイバを形成した。
しかし、今までは両手に1つずつだったり、空中に十字で作り上げていただけなのに、今度は両手と両足の踵。そして、ハリネズミが丸まったかのように、全身に作り上げた。
「イヒヒヒ! アハァッ!!」
見た目に反して、今までと変わらないスピードで走り、奈月を無数の『ヤイバ』で襲う。
「切れろぉ、切れろぉ、切れてしまえぇ!!」
もちろん、黙って攻撃を受ける奈月ではない。
剣で迎撃し、上手いこと躱し、攻撃を凌ぎ続けていたのだが……。
両手の『ヤイバ』を斬って壊しても、すぐ形成し、攻撃を続ける。
やがて足のつま先からも『ヤイバ』が現れ、斬撃と蹴り。そして、身体に作り上げられた『ヤイバ』が至近距離で所々射出された。
流石の奈月でも凌ぎ切れず『ヤイバ』を腹部や腕に刺された。
「くぅっ……!」
奈月は痛みを覚悟した。
ところが、どうしたことか刺された痛みは無い。
その代わり……。
「なっ……あっ……」
剣の輝きが、鈍くなった。そして更に、奈月の瞳から雫が落ちた。
その様子を、沙希は見逃さなかった。
「どうしたの、奈月!?」
「わかんない、わかんないんだ……けど」
「えっ!?」
「なんだかね、なんだか悲しい……心が、痛いんだ」
「どういうことなの!? ……待ってて奈月! 私が今……」
「だ、駄目だよ、沙希ちゃん!!」
他者の心へ入り込むことが出来る沙希の能力をよく知っている奈月は、沙希が能力を使うのを止めようとした。
だが、間に合わなかった。
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「どうしたんだい? 君の炎はこんなものなのかな?」
「うっせぇよ……ちくしょう」
鎌田は、清村が作りだした自分のコピーに劣ることはない。
しかし、鎌田の炎には火種が必須。いくら痛みを怒りに変え、その怒りを火種にしても限度がある。
一瞬だけ揺らぎ、残像を残して相手に攻撃を当てたと錯覚させつつ、手応えに混乱させる技『陽炎』を使い、どうにか不意打ちの『炎拳剛波で倒したものの、鎌田の火種は限界だった。
一方で、コピーに戦わせていた清村はピンピンしている。この能力にも代償はあるが、それでもまだコピーを作り上げる余力はある。
臆病な性格故か、鎌田が満身創痍であっても、自身で攻撃しようとはしない。
新たな鎌田のコピーを作り上げ、襲わせようとするが。
「あ、あれ……?」
「あぁ?」
作り上げたコピーも満身創痍となっていた。
実のところ、これまで清村はコピー人間を使って、他の「重度の中二病患者」と戦ったことはない。
だから清村自身「コピー人間を作り上げた時、そのコピー人間の状態は本人の状態と同じになる」ということを知らなかった。
能力面と同様、満身創痍となった鎌田を見てしまっている以上、コピーに反映されてしまうのだ。
とはいえ……。
「まさか満身創痍の状態のコピーが作り上げられるとは思わなかったけど、今の君を倒すには充分だ」
「へっ、そいつはどうかな? 案外、俺は限界を超えるかもしんねぇぞ?」
「もちろん、コピー人間が1人だけなら……だけど」
満身創痍となった鎌田の戦闘力は知れている。よって、そんな状態の鎌田のコピー人間を複数作ることは、清村にとってあまり負担とならなかった。
満身創痍のコピー人間を、更に4人作り上げた清村は、嬲るかのように、ジリジリとコピー人間を鎌田に近付かせる。
「これで終わりだよ。君はよく頑張ったさ、本当に」
「まだだ……まだ諦めちゃ……いねぇよ」
膝をついていた鎌田は立ち上がり、ファイティングポーズを取った。
なおも戦い続ける意志を見せつけた鎌田だが、結局は多勢に無勢だった。
勝利を確信した清村は、再び携帯電話を取り出し、携帯電話を鳴らした。
……が『しまい込む為の玩具箱』は対象を景色が同化している別次元へ飛ばす能力。別次元からでは、携帯の電波が届くことはない。
清村は舌打ちをして、作り上げたコピー人間の1人に、能力を発動させている男を襲わせた。
戦闘能力が皆無だった男は呆気なく倒され、能力が強制解除されたので、今度こそ清村は電話をかけた。
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航平は戦闘開始同様、着信が来ても電話に出なかった。
しかし、ポケットの中で携帯電話がバイブレーションを鳴らしているのはわかったので、清村の方は無事に勝利を収めたのだと確信した。
一方、ヤイバ男の方は何も心配していない。為人はともかく、実力に関しては信頼できる。
「そういうわけだ黒山透夜! 鎌田浩二をはじめとしたお前の仲間は、俺の仲間に敗れたようだが?」
「……なんだと?」
「お前の仲間達に勝利を収めた俺の仲間達は、今回の標的を仕留めるだろう。……さて、お前はどうする? もちろん、俺がお前をここから動かさせないが」
仲間の敗北を告げられても、黒山は表情を変えない。それはむしろ「まだ敗北していない」と言っているかのようだ。
「諦めろ、黒山透夜。今回は俺達の勝ちだ」
「いや、まだだ」
そんな黒山が発した否定の言葉に、航平は意外感を感じた。
「……意外だな。ありとあらゆる存在を拒み続けるお前が、仲間を信じているとはな」
「信頼や信用しているわけではない。だが、あいつらは負けない。負けさせない」
「負けさせない? お前……何を言って……?」
航平には、黒山の言っていることがわからなかった。
これ以上、黒山やその仲間が頑張ったところで、どうにもならない。
しかし、黒山は……。
「はあぁぁぁっ!!」
「なにっ!? これが、報告にあった……」
航平の目の前には、全身を黒い禍々しさを覆った、黒き魔人が立っていた。
かつて、清村から報告があった黒き魔人。
黒山は『完全武装型』を発動したのだった。
黒山の『完全武装型』には、予め目的を定めておく必要がある。
今回定めた目標は「仲間の援護」だ。
黒き魔人は航平を無視して、空へ上昇しようとした。
「させるか!!」
上昇を止める為、航平は裁きの鉄槌を黒き魔人に向かって振り下ろすが。
「……邪魔だ」
鉄槌を左手で受け止められ、同時に後方へ吹き飛ばされた。
先程とは比べものにならない威力の『拒絶』が、航平を一切近付けようとしなかった。
「…………」
吹き飛ばした航平を見ようともせず、黒き魔人は猛烈な速さで空へ上昇。
そして、背中から『黒い光の翼』が生え、左足の上に軽く右足を乗せて、両腕の膝を体の外側に曲げ、手のひらをへそくらいの高さで上へ向けると、手のひらに小さな黒い球が出来上がった。
「うおおおおおあああああ!!!」
黒き魔人は咆哮すると、街全体が黒い雲で覆われ、やがて翼と黒い小さな球から、黒い光が広がるように放たれた。
すると、航平の能力によって頭痛に苦しんだ被害者達は黒い光に包まれ、顔が安らかなものとなると、光は消えてそのまま気を失った。
これは黒山の意志に関係ない効果を表したものだが、罪による頭痛を拒んだ被害者達に反応した結果だ。
「なんだ……!? これは一体どういうことなんだ!?」
清村の報告以上の力を見せる黒き魔人。
吹き飛ばされ、ようやく立ち上がった航平はその力を前に、動揺を抑えきれなかった。
近くで見ていた航平には、それが黒山の『完全武装型』……黒き魔人によるものだとわかるが、この現場を見ていない人からすれば「天気予報が大幅に外れ、急に雨雲となった」ようにしか見えない。
それにしたって空が暗すぎるのだが、そこを気にすることが出来るだけの余裕は無いだろう。
そんな黒き魔人を止めようと、航平は『武装型』ではない本来の使い方で、鉄槌を下して落とすよう能力を発動させようとした。
しかし、発動しなかった。
『拒絶』によって発動しなかったのではない、黒き魔人を見て歌い出した花奏の歌に消されたのだ。
そもそも「重度の中二病」とは、心の病。歌のような、形にはなくとも「心に影響を与えるもの」の干渉を受けることもある。
そしてその現象を、航平は正しく理解していた。
「どういうつもりだ、花奏さん!?」
「どういうつもりも何も、私はこの歌で人々に気持ちを訴えかける。今までもそうしてしたし、これからもそうする。私はしたいことをしただけよ? ぺーやん」
「……くっ」
「ぺーやんはどうするの? なんだか得体の知れない力で、人を罰し続けるの?」
「俺は……」
花奏の言葉に、航平は言葉と戦意を失った。
ただただ、黒き魔人が発する黒い光を呆然と眺めることしか出来なくなっていた。
読んで下さりありがとうございます! 夏風陽向です。
先週も話題に出しましたが、現在私は「このすば」を読ませていただいてます。
そもそも、私はアニメ化した作品を原作でも読もうと考える人間では無かったのですが、こうして小説を書いてみると「アニメではこう表現されているけど、原作(文字)だとどんな表現なのだろう?」と気になってしまいます。
ですが「このすば」は、単純にアニメを見てから続きが気になった結果、本屋で最新刊まで根こそぎ購入した次第です。
先週も書きましたが、本当に読みやすいです。進むページの速さが本当に違うと感じるほど、本当に読みやすい!
見習いたいなと思う気持ち山の如しなのですが、私には性格上、真似するのは難しいかもしれないな、とも思っています。
さて、話は変わりますが、この章の戦闘もクライマックスを迎えそうです。仲間の援護を目標とし『完全武装型』を発動した結果、どんな効果が得られるのか!? お楽しみにしてくださると幸いです!
それではまた来週! 次回もぜひ読んでください!
追伸・棚卸が終わってひと段落です。相変わらず、倉庫の人には頭にくるものです。




