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隣の転校生は重度の中二病患者でした。  作者: 夏風陽向
「悪を裁く審判の歌」
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悪を裁く審判の歌 part11

「よーし、気を取り直して。そんじゃ、定例報告会を始めっぞー。事前に把握してる中だと透夜のやつだけだが、他にはあるかー?」



いつもながら針岡が気怠げに問いかけると、返事はない。


学校のクラスとは違って、人数が5人と少ないので、一人ひとりの表情から「報告することがない」ということが何となく読み取れる。



「んー。そんじゃ、透夜ー。言ったれ」


「何が『言ったれ』だ。……やれやれ」



報告を促された黒山は文句を言いつつ立ち上がり、報告を始めた。


とはいえ、黒山にとっての「ことの始まり」とは、針岡に職員室へ呼ばれたことなので、それ以前の説明は出来ない。



「そういうわけで、見回りのついでに奏太(そうた)と街中を散策してみたが……」


「残念ながら収穫はなかった」



土曜日に行われた奏太との見回りについてを細かく報告。そして、その結果を奏太が言った。


話を振ったわけでもないのに答えた奏太を、黒山が意外そうな顔で見ていると、



「なんだよ? 俺は別に結果を行っただけだろ。早く話を進めろよ」


「あ、ああ……そうだな」



若干喧嘩腰ではあるが、見られていた奏太は話を進めるよう促した。


意外性を感じてしまった黒山は、少しばかりやり辛さを感じたものの、続いて見回りをした翌日、日曜日の話をした。


何処(どこ)()くだが、沙希(さき)奈月(なつき)の鋭い視線が飛んできているように黒山は感じた。


そんな2人を気遣ったわけではないが、事件とは関係がない内容なので、遊びに出掛けて「何をした」という話は割愛。裕里香の攻撃を受けた話も、すればややこしくなってしまうと判断し省略。男の悲鳴についてと、詩織(しおり)真悠(まゆ)を襲った男の話のみをした。


報告を終えると、一番最初に反応したのは鎌田だった。



「悲鳴をあげた奴は、もう1人の自分にやられたって話だよな? そいつはつまり……」



黒山は首を縦に振って、鎌田の思い浮かべた内容を肯定した。



「最初は色んな可能性を考えてみたが、これに関しての犯人はおそらく、清村(きよむら)だな」


「あの野郎……」



何か思うところがあるのか、鎌田は静かにそう呟いた。


少しの間沈黙が流れると、奈月が恐る恐る手を挙げた。



「ねーねー、2人で盛り上がってるところ悪いんだけどさ、清村って誰?」



奈月の質問はもっともなものだ。


鎌田と初めてあった時点で、過去を覗き見て記憶していた奏太は別だが、清村と何の縁もない沙希と奈月には、黒山と鎌田の話がよくわからなかった。


とはいえ、鎌田が代表者の一員となるまでの経緯は既に報告してある事項。実際のところ2人が忘れているだけなので……。



「鎌田の一件の犯人で、所々欠陥はあるようだが、コピー人間を作ることができる能力を持っている」



黒山によるその説明だけで、2人は「あー!」と納得した。


鎌田は静かに考え事をしているので、次に奏太が手を挙げて発言した。



「それで……梶谷さんと栗川さんを襲ったという男については何かわかっているのか?」


「いや、何も……」


「ちょっと待って!」



黒山の答えを遮り、そう言って手を挙げたのは奈月だった。



「どうかしたのか、奈月?」


「うん。多分、前にしおりんを襲ってきたやつだと思う! ……一応、報告したけど」


「ああ、そうか、なるほどな……」


「なんかちょっとおかしな男の人で、自分の能力で作り上げたナイフみたいなのを『ヤイバ』とかナントカって呼んでなかったかなー?」


「……俺はそのナイフみたいなものを無効化して、奴とは少し話しただけだから、そこまではわからないんだが」


「ん? 『ヤイバ』……?」



そこで再び反応したのは奏太だ。



「もしかしてだけど、猫背だったりしなかったか?」


「確かに猫背だったような気がするが……それがどうかしたのか?」


「浩二が代表者の一員になった後……いや、もう少し後か? 鈴木(すずき)花梨(かりん)の件が終わった後の定例報告会で、沙希と奈月が報告してくれた内容に少し心当たりがあってな」


「心当たりがあるのか……!?」


「まあな。……けど、俺が『見た』感じ、無関係っぽかったんだよなぁ。でも何故か特徴が一致している」


「……いずれにせよ、現行犯で取り押さえるしかなさそうだな。清村とヤイバ男の両方を相手しないといけないわけなんだが」



これがもし、瑠璃ヶ丘高校での事件なら黒山は、単独での行動を宣言するだろうが、今回は街中で起こったことなので、代表者全員で当たるべきだと考えた。


そこで分担を始めたわけなのだが。



「ボクはヤイバ男を相手するよ! 今回こそ決着をつけたいからね!」



……と、奈月は真っ先に立候補した。


奈月の性格上、自身の勝負に決着がつかないと気が済まないことは黒山もわかっていたので、大体予想通りだと言える。


そうなると、奈月と一緒に行く人は必然的に沙希に決まる。


しかし、奏太が手を挙げて「俺も行く」と言い出した。



「奏太もヤイバ男の方へ行くとなると、清村の方は俺と鎌田だけになるが……」


「俺は構わねぇぜ?」


「わかった、それで行こう。あとは、いつ行動に移るのかだが……」



そこで手を挙げたのは沙希だった。


沙希は静かに立ち上がり、黒山の方を見て発言を始めた。



「最初の被害者が出た時と、日曜日の共通点って駅前の路上コンサートよね? だったら、そのタイミングを狙うのが一番だと思うのだけれど?」


「確かにそうなんだが……。次にいつ、路上コンサートが行われるのかがわからない」


「路上コンサートの噂は私も聞いているわ。でも確か、そこで歌っているのはうちの学校の2年でしかも……」



沙希は話をそこで切り、奏太の方を向いた。


一方、奏太は見られている意味が全くわからない。



「な、なんだよ?」


「あっ! そっかー!!!」



困惑している奏太を置いて、奈月が机を叩いて勢いよく立ち上がった。


そして沙希と同様に奏太の方を向いて、続きを奈月が話した。



「歌っているのって、奏太のお姉さんだよね!」


「……マジ?」



奏太には、1つ上の姉がいる。名前は金子(かねこ)花奏(かなで)


奏太の父は奏太に厳しく、高校進学の際には、社会の流れを見て琥珀ヶ関に進学するよう指示したわけだが、奏太の姉である花奏には滅法甘く、娘を溺愛するが故に、男を近付かせないよう、女子校である紅ヶ原に進学させた。


奏太は姉に対して「地味で人の前に立ちたがらない」というイメージを持っているので、沙希と奈月の発言が信じられなかった。


ましてや、歌を歌っているなど、驚愕(きょうがく)を超えて震撼(しんかん)させた。


普段は黒山と並ぶくらいに冷静な奏太だが、そんな姉を想像しているのか、カタカタ震えている。



「すまないが、奏太。そんなわけでお姉さんに協力を仰いで貰えると助かるのだが」


「え? あ、ああ。わ、わーかった。い、いい、言ってみるーヨ」


「……結果は連絡してくれ」



奏太の動揺はかなりのものだった。


黒山は内心「大丈夫なのだろうか?」と思ったが、「これまでの奏太を考えれば大丈夫だろう」と自分に言い聞かせることにした。


そんなところで、今回の臨時報告会は終了した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


臨時報告会終了後のこと。


かなりの動揺によりバグり始めた奏太を連れ、鎌田は先に退出した。


旧・虹園塾に残ったのは、針岡・黒山・沙希・奈月の4人だ。


普段なら、終了と同時に沙希と奈月も帰るのだが、今回は席に座ったままで動こうとしない。


そんな様子を見て声を掛けたのは、施錠するまで帰れない針岡だった。



「透夜はともかく、お前さんらが残ってるのは珍しいなー」


「ええ。今回に関しては特に思ったことがあるから言わせてもらいたいのだけれど。針岡さん、よろしくて?」


「お、おおー。なんだよー?」



沙希は座ったまま、針岡の方を澄ました顔で見て率直に思ったことを述べた。



「こうして定例報告会が行われる度に思うの。針岡さん、いる意味ありまして?」


「うっ……!」


「最初の開会と、最後の閉会の言葉くらいしか出番がないではありませんか。もう少し、監督者としてしっかりなさっては?」


「さ、沙希ちゃん、ちょっと言いすぎなんじゃ……?」


「もちろん、半分冗談ですけれど」



実際のところ、最初に比べて定例報告会で針岡の出番は減ってきている。


それはある意味、今の代表者達が話し合いに慣れて、自主的に物事を進められるよう成長ひたとも捉えられるのだが……。


残念ながら、針岡はそこまで考えられていなかった。



「さ、流石は紅ヶ原の生徒だなー。前任同様、容赦ないぜー……」


「あら? それは心外。あの人ほど、他人に対して色々とはっきり言える方はいないかと」


「ま、だからこそ、人望が厚かったんだけどね!」


「……ケッ! 俺からすれば、あそこまでおっかねー女はそうそういないぜー?」



針岡は、2人の前任者を思い出してゲンナリしている。


そんな中、黒山は黙って沙希を見ているので、その視線に気付いた沙希は、勘違いせずに黒山へ問いかけた。



「ところで透夜。先程から、私を見ているようだけど、何か言いたいことが?」


「ああ。紅ヶ原の前任者の話とは全く関係ない話になってしまうが」


「構わないわ。……それで?」


「今回、俺は鎌田と一緒に行動するわけだが、お前は何故、奏太がいながらそっちに行こうとした?」


「……妬いているの?」


「違う。分析タイプの能力者がこちらにはいない。だからお前にはこっちに来てもらえると助かったんだがな」


「確かにアンバランスよね。正直、透夜と一緒に行動するのも良かったのだけれど……」


「どうかしたのか?」


「はっきり言って、私は鎌田浩二君が苦手なのよね」


「…………」



沙希は鎌田が初めて旧・虹園塾に来た時から「この人……苦手」と感じていた。


とはいえ、実際のところ、2人が話しことがあっての結果ではないので、食わず嫌いのようなものなのだが。


黒山は、沙希の言っていることが我儘(わがまま)だと知っていながら否定はしなかった。



「成る程、それは気付かなかった。無理に行動させても、いざとなった時に連係が取れないようでは困るからな」


「ええ。そういうこと」



ほんの少し、気まずい沈黙が流れたが、そんな沈黙を破ったのは針岡だった。



「あー、悪いんだけどさー。そろそろ帰ってくんねーかなー? 戸締まり出来ねーんだけど」


「わかったわ。それじゃあ、またね、透夜。ほら奈月! 行くわよ」


「おっけ! じゃあ、まったねー!」



沙希は黒山だけに。奈月は2人に別れを告げて、旧・虹園塾を後にした。



「珍しいじゃないか、透夜ー。俺はてっきり、非難するかと思ったがー?」



そんな針岡による質問に、黒山は鞄を持って鼻で笑い、出入り口の前で止まって答えた。



「鎌田と沙希は住む世界が全く違うからな。案外、鎌田も沙希と同じことを思っているかもしれないぞ?」


「……かもなー」



そこで2人の会話は終了し、黒山は帰宅を始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


話し合いをしていたのは、代表者達だけではなかった。


定例報告会が行われていたほぼ同時刻。とあるカラオケボックスの一室にて。


かつて、高校1年生という高校生活始まりの1年から、遅刻、無断欠席、授業妨害などを行なっていた鎌田浩二を退学に追いやろうと計画していた3人……『スリー・オブ・ジャッジメント』も次の計画について話し合っていた。


眼鏡をかけた細身の男が、リーダー格の男に報告を終えて次の指示を仰ぐ。



「……そんなわけで、どうやら僕達を邪魔しようとする輩がいるみたいなんだけど。どうする?」


「どうするも何も、我々は正義の名の下に活動をしている。邪魔をするのであれば排除すればいい。……だが、次は俺も出て相手のリーダー格と話をつけてみる」


「相手のリーダー格って誰だかわかっているの?」


「お前達の報告からすると、前に鎌田を助けたという黒山とやらが中心にいるように感じる。彼の相手は俺がしよう」


「……忠告しておくけど、あいつは本当にヤバイよ?」


「確かに、話を聞く限り強いやつなんだろうな。だけどその間、お前達が相手を倒してこっちに来てくれれば3対1で、こちらが有利になるだろう」


「僕の方はともかく、そこのヤイバ男さんは大丈夫なの? 何か様子がおかしいけど」


「大丈夫だろう。腕は確かだからな」



リーダー格がそう言って、影の薄い猫背の男の方を向くと、男はまるで「これから快楽殺人を行う」かのような物騒な笑みを浮かべた。



「ヒヒッ……今度こそ、やつらの心を……ズタズタに……」



眼鏡をかけた男は、そんな猫背の男の発言に呆れていた。



「僕達、正義の為に行動しているんだよね? この人、どっちかというと悪のような気がしてならないんだけど?」


「確かに、考えていることはわからないし、言っていることも物騒だが、要は行動なんだ。見境なく相手を攻撃するのではなく、しっかり相手を選んでいれば問題は……ないんだがな」


「ヒヒッ! 俺は……やりたいやつしか……やらない」



これにはリーダー格も呆れていた。


そもそも、このリーダー格がこんな物騒な男を仲間にしたのは、ちゃんと標的を設定して攻撃させれば、自分の思い通りに悪人の心を切り裂くことが出来ると思ったからだ。


実際、少し前までは計画通りに行動してくれたのだが、ある時を境に言うことを聞かなくなってしまった。


そこで、先に標的を伝えて猫背の反応を見ることにした。


その標的を仕留める意思を見せるのならやらせておくし、やらないようなら眼鏡をかけた男に任せることで悪人を裁いている。



「頼むから、勝手な行動は避けてくれよ? じゃないと、正義がある成り立たなくなる。そしてそうなれば、俺はお前を裁かなければならなくなるからな」


「ヒヒッ! やれるものなら……やってみろ」


「……今はやめておく。スリー・オブ・ジャッジメントがダブルになってしまうのは避けたいからな」


「……くだらない……な」


「リーダー。やっぱりこの人、悪人じゃないか」



リーダー格は溜息を吐き、「やれやれ」と肘から上の両手を上げて首を横に振った。



「……とりあえずだ。次の路上コンサートは明後日の金曜日に設定する。2人とも頼んだぞ」


「……了解」


「ヒヒッ!」



眼鏡かけた男と、一応、猫背の男にもそれぞれ標的を指定し、何も歌わずにカラオケボックスを出ようとするリーダー格の男に、眼鏡をかけた男は、ふとこんなことを言った。



「そういえば、リーダーも以前は歌っていたんでしょう? ぜひ聴いてみたいんだけどな」


「残念ながら、俺はもう歌えない。あの時のような声が出なくなってしまったからな……」


「……これは無神経なことを言ったようで、申し訳ない」



眼鏡をかけた男の上辺だけでない謝罪に、リーダー格の男は、今まで彼らの前では見せたことのない哀れんだような顔で答えた。



「気にしないでくれ。今の俺は曲を作り、それを彼女が歌ってくれている……それだけで十分さ」



その哀れみは、間違いなく「歌というポテンシャル」を失った自分に対してのものだった。


2人の反応を待たず、今後こそリーダー格はカラオケボックスを後にし、それに続いて2人の男も退出をした。

読んでくださりありがとうございます! 夏風陽向です。


季節の変わり目で、徐々に気温が高くなってきているこの頃。


体調を崩してしまう方も、ちらほら見ますので、ぜひ体調には気を付けて過ごしてください。


それでは、また来週。次回もまた読んでくださると幸いです!

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