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隣の転校生は重度の中二病患者でした。  作者: 夏風陽向
「悪を裁く審判の歌」
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悪を裁く審判の歌 part9

黒山が携帯電話を見ると、時刻は午後4時に差し掛かろうとしていた。


黒山的には日常茶飯事というほどではないが、決して慣れない出来事ではないので平気だが、詩織と真悠はとても「映画を観に行こう」という気分にはなれなかった。


街中を歩き回った時間を差し引いても、「帰って休みたい」と思わせるほどの疲れを感じさせられた出来事だったが、まずは当事者として黒山の話を聞くまでは帰られない。


結局、3人は近くの喫茶店で話をすることに決め、黒山はホットコーヒーを。詩織はココアを。真悠はキャラメルマキアートを注文し、店員が注文したものを持ってきて伝票を置いていってから話を始めた。


正直、誰かに聞かれたところで妄想や想像の話だと思われるほど現実離れした話だ。何処で話をしようと「他人に聞かれる可能性」という点で言えばリスクは変わらない。しかし、人口密度の高い駅を選ぶよりかは、入れる人数に限りがあり、かつそこまで人が密集していない場所の方が良いと黒山は判断した。


……と言っても、2人に話せる内容に限りはあるが。


詩織は黒山になにを言われるまでもなく、自分のタイミングで質問を始めた。



「お昼ご飯の時に言ってたけど、あの女の人は私と同類なんだよね?」


「そうだ。富永裕里香といって、ああ見えて俺達と同い年だ」


「え、そうなの!? ……それなのにあんなに大きいんだ! おかしい、一体どんなズルを……」


「…………」


「…………」



裕里香の歳を聞いて、そんな反応をしたのは真悠だ。この場において言えば、真悠がどの部分に対して「大きい」と言ったのかを詩織は正確に胸部だと理解していたが、黒山は身長のことだと思っている。


確かに、真悠の発言は話の内容を脱線させそうなものであったが、年齢を聞いて驚いたのは詩織も同じだったので責めることはしない。だが、敢えて反応せずに話を戻した。



「黒山君は何故、富永さんに攻撃されたの?」


「それについては後回しにさせて欲しい。……他に質問が無ければ別だが」


「まだあるわ。……と言っても、あとは物騒で変な男と最後の白い霧について聞きたいくらいかな」



黒山は内心、裕里香と白河について出来るだけ詳しく説明せずに納得させるにどうしたものか考えている。裕里香と白河について詳しく説明するということは、自身の過去について語ることにもなり得る。


単に過去を語るだけであればどうということは無いのだが、黒山が裕里香と白河の2人と一緒にいた時期は、奈月と沙希の2人と別れた直後、針岡と出会う直前……つまり、自身の力を暴走させてしまった時を指しており、今のところ黒山は、その事を誰にも話したくない。触れて欲しくないと思っているのだ。


大の得意である無表情を生かし、気持ちを悟らせずに頷いてから詩織の質問に答えた。



「まず変な男についてだ。あいつは俺のことを知っているようだが、俺は知らない。あの能力も今日初めて見た。ちなみにあの男が現れる前に聞こえてきた悲鳴も原因は分からなかった」


「…………」


「次に白い霧についてだが、裕里香の近くに白い男がいたのが見えたか?」


「うん」


「あいつの名前は白河現輝。あいつも俺達と同い年だ。そして最後に出た白い霧はあいつの能力によるもので、実体のないモノを全て無かったことにする効果がある。今回の場合、目の前で起こった非現実的な出来事を『起こらなかった』ことにしたんだ」


「黒山君と白河君か。偶然かもしれないけど、黒と白って対照的なイメージがあるじゃない? 何か運命的なものがあるように思えちゃうよね。実際知り合いなんでしょ?」


「……まあ、そうだな。それから、裕里香に攻撃された理由だが」


「うん」


「昔、仲違(なかたが)いをした」


「え? それだけであんなに殺意を向けてくるの?」


「そうだ」


「えっと……。なんか真っ直ぐなイメージがあったけど、意外にやばい人? それとも黒山君がそれだけ最低なことをしたってこと?」


「……そう、なのかもしれないな」


「それって、どっちがそうなの?」


「どっちもだ」


「……そう」


「とりあえずそんなところだ。最初の悲鳴と変な男については今後、解決に向けて調査をするので安心して欲しい」


「正直、現に襲われてるから安心してと言われても安心出来ないんだけどね。

……もし、何か手伝えることあったら言ってよ?」


「ああ」



実は、黒山の説明に1つ嘘がある。


最初の悲鳴についての原因について「わからなかった」と言ったが、本当は犯人の目星が付いていた。


しかし、あくまでも目星が付いているだけであって確定はしていない。それに何より、これ以上2人を巻き込むわけにはいかなかったので、そう答えたのだ。


幸いなことに、詩織と真悠はそれ以上のことを聞こうとしなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


喫茶店での会計は、詩織と真悠が黒山の分を割り勘して済ませた。


黒山としては、巻き込んでしまった迷惑料としてこの場の会計も持つつもりだったのだが、2人が「もう今日は映画に行けないし、どうしても」と引き下がらないので言葉に甘えることにした。


そして3人は喫茶店を出てから駅へ向かい、解散となるのだが……。



「あれー? 黒山くんも同じ方向の電車だよねー?」


「ああ、そうだ。だが他にも用事があってな」


「そーなんだー? そろそろ時間だし、私達は行こっか?」


「うん、そうね。じゃあ、黒山君。また明日ね! 今日はありがとう」


「いや、こちらこそ。気を付けて帰るんだぞ」


「じゃあーねー!」



詩織は普通に笑みを浮かべて挨拶をしたが、真悠は若干怖い顔をしての挨拶だった。


それは予定外の異能力バトルが原因ではない。


黒山はその意味がしっかりとわかっていたので……。



「梶谷!」



詩織を呼び止めた。


こういった経験が乏しい……というより、全くない黒山はどんな顔をしたらいいのかわからなかったので、反応して振り向いた詩織を真っ直ぐ見れなかったが……。



「あ、っと……」


「うん、何よ?」


「ううーん……」


「よくわかないんだけど、用がないならもう行くわ」


「いや、待ってくれ。その、今日の服装……」


「……!!」


「いつもの制服姿と印象が違って……なんというか、そうだ。大人っぽい……? とにかく、よく似合っているぞ」


「……ふふっ」


「な、何がおかしいんだ!?」


「べっつにー? 褒めているつもりだろうけど、何が言いたいのかよくわからないからおかしいなと思っただけ!」


「くっ……!」


「……でも、ありがと。それじゃあね!」



僅か4ヶ月ほどの付き合いだが、詩織には黒山が無理していることが丸わかりだった。


でも、だからこそだろう。普段、何も気の利かない黒山がそうやって気を利かせて「精一杯、自分の感想を素直に言おうとしてくれたこと」が嬉しかったのだ。


気恥ずかしさ故に、笑ってごまかしつつ去っていった詩織を追いかけるように真悠も去っていった。


……黒山に『グッドサイン』をしてから。



「はぁ……。やれやれ」



慣れないことをした故に、寒い冬だというにも関わらず、黒山は汗をかいていた。


黒のチノパンで手汗を拭いてから意識を切り替え、携帯電話を取り出して針岡へ電話を掛けた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


平日ほどでは無いが、帰りの電車内は混んでいた。


椅子に座れず、優先席の前にある窓の下に付いている手すりに並んで寄りかかると、真悠は周りに迷惑のかからない程度のボリュームでにやけながら話しかけてきた。



「しーちゃん、嬉しそうだね〜!!」


「そ、そう? まあ、嬉しく無いわけじゃないけど? ……でも、どうせ真悠が黒山に言わせたんでしょ?」


「そ、そそ、そんなことないよ!?」


「わかりやすっ!」


わかりやすい反応に突っ込みを入れると、真悠は小さく笑いだしたので、つられて私も笑った。


今日の出来事を思えば、あんな非現実的なことが目の前で起こったのだから普通はお通夜状態になっていると思う。

だけど、黒山が転校してきて以来、立て続けに起こった事件で慣れてしまっているのか、私と真悠はそこまで引きずることが無かった。


そんなことを考えていると、真悠は笑顔のままで私にとってとんでもないことを言ってきた。



「今日、気合い入れてきて良かったね!」


「ちょっ! そんなんじゃないし!!」


「どーかなぁー??」



流石は幼馴染と言ったところか、遠慮がない。


しかし、心の中では否定できない部分もあると自覚はしているのだが、それを認めるわけにはいかなかった。


これ以上、この話題を引っ張られるとなんだか恥ずかしさが込み上げてきそうで嫌だし、話題を変えることしよう。



「ところで真悠。黒山が富永さんの話をしている時。あんた、いきなり胸の方に反応してたけど」


「うん! だってずるくない? 私たちと同い年だっていうのに、あの大きさ……!」


「富永さんに及ばずとも、真悠だってちゃんとあると思うけど?」



16歳の平均的で言えば、真悠は割と大きい。一方、私はというと……。


「今後に期待」と言ったところだろう。決してないわけではない。決して!


他人に言われると頭にきてしまうが、実際のところ私自身、内心ではまだまだ発展途上だという自覚はある。


だから真悠が富永さんを羨ましがる姿は、私にとってある意味「嫌味」に見えた。



「そうかなぁー? でも、私はもーっとナイスバデーになりたいのですよぉ」


「ふーん? まあ、気持ちはわからんでもないけどね」


「そうだよね! しーちゃんはきっと、私よりも望んでいることだもんね!」



確かに望んでいる。望んでいるとも!


だけどそれを面と向かって言われれば、真悠相手でも容赦は出来ない。


どうやら「制裁」がいるようだ。



「……真悠。電車降りた直後、どうなるかわかってるよね?」


「ひぃっ! で、でも、黒山くんは大きさなんて気にしないと思うよ!?」


「なんでそこで黒山が出るのよ!」


「えっ? だってそりゃー……」


「制裁決定ね」


「…………」



その後、ちゃんと自宅から最寄りの駅で下車出来たので、降りてからすぐ、私は真悠に「デコピン」という制裁を下した。


頭にきたとはいえ、幼馴染という長い付き合いだ。これくらいの軽い制裁で済ませてやろう。


……というにも関わらず、真悠は本当に痛そうにずっと(ひたい)を押さえている。


「大袈裟な……」というのが私の本音だが、実は知っている。私の「デコピン」を知る人間は、この指を前にすると震え上がるということを。


どうやら、自分が思っているよりも威力があるようだ。


我が幼馴染よ。2度とそのようなことを口にするんじゃない。そして私は、胸に手を当て心の中で、我が胸に宿る成長中の山へ心の中で呟いた。



(止まるんじゃねぇぞ……!)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


針岡に電話した黒山は、今日被害者となった男の現在地を聞いた。


意識は戻ったようだが、怪我をしていたということもあり、「重度の中二病患者」関係のことなので『一応』一晩入院となって、現在は病院にいる。


車を待っている時間さえ惜しいと感じた黒山は、またも自身の限界を『拒絶』してその病院へと向かった。


部屋をノックすると、すぐに返事が返ってきたので入室する。


病室内にいたのは被害者1人だけだった。


外は既に暗くなっており、彼の両親は夕飯を食べる為に家へ戻っているのかいないようだ。



「……えっと、どちら様でしょう?」


「俺は黒山透夜。具合は如何でしょうか?」



彼は最初こそ訝しげな顔をしていたが、黒山の自己紹介を受けて表情が変わった。



「ああ! あなたが俺を助けて下さったそうですね。ありがとうございました! お陰様で、明日にはすぐ退院出来るそうです」


「それは良かったです。……ところで、お聞きしたいことがあるのですが」


「え、ええ……」


「あなたは、もう1人の自分に襲われたのではないですか?」


「っ! 何故それを……」



本来なら詳しく話してはいけないのだが、彼の襲われた記憶は針岡によって消されることが決まっているので、黒山は事情聴取の為にこれまで起きた事と目的を話した。


もちろん、非常識的なことすぎて全ては理解できなかったようだが。



「……ちょっと理解出来ないことが多いですが、本当に黒山さんなら犯人を特定できると?」


「ええ、もちろん。その為に俺はここにいるのですから」


「……わかりました。俺にわかることなら何でも話しましょう」


「ご協力感謝します。……もう1人の自分と遭遇する前、誰かが目の前に現れませんでしたか?」


「いえ……。駅前の路上コンサートを聴いた後、家に帰ろうとしたら、いきなりもう1人の自分が現れたので」


「なるほど。……これは少々失礼な質問かもしれませんが、誰か特定の人間に恨まれるようなことをしたりは?」


「……ありませんよ、そんなこと」


「本当に?」


「…………」



黒山の前置き通り、この質問は失礼に当たった。


その証拠に被害者である男は『かなり』気分を害したようだ。


では何故、失礼に当たると分かっておりながら黒山はそんな質問をしたのか。


そんなのは実に単純だ。


いくら加害者が「重度の中二病患者」で能力を持っているとはいえ、人間であることに変わりはない。


黄泉路(よみじ)の様に「誰かを守る」という目的の為に能力を使う者がいれば、逆に「誰かを傷付ける」という使い方をする者もいる。


稀に通り魔的な目的で使う者もいるが、大半は復讐や報復の為に使われる。


もし、本当に彼に「誰かから恨まれるような覚えがない」のなら、もっと考え込んだ結果、全力で否定するだろう。


しかし、実際は否定の答えが出るまでの間が短く、全力で否定する素振りが見えない。つまり、覚えがあるということだ。


それが最近の出来事とは限らない。もしかしたら、彼がもっと前から心に抱えている過ちなのかもしれない。


だが、黒山にとって時期などは関係ない。「誰かに恨まれているような出来事に覚えがある」ということがわかっただけで十分だ。



「わかりました。怪我をしている中、ご協力ありがとうございました」


「……いえ」


「では、俺はこれで……。お大事に」


「…………」



黒山は目礼でその場を退出したかったのだが、質問の内容が内容だっただけに、相手は窓の方を見たままこちらを見なかったので『礼をせず』その場を後にし、そのまま帰宅することにした。

読んで下さりありがとうございます! 夏風陽向です。


登場人物が多い小説というのは、結構マイナスな評価がされているのでしょうか?


私には尊敬していて、もし機会が与えられるなら1度話してみたいと思える作家さんが1人います。


その方が書いた作品の「なろう時代の評価」を調べてみると、批判が目立っていたので衝撃でした。好きな作品ですので余計にね。


「隣の転校生は重度の中二病患者でした。」も、何気に登場人物が多いような気がします。私自身、キャラ名と特徴と能力をメモしておかないと忘れてしまうほどですから。


とはいえ「隣の転校生は重度の中二病患者でした。」はどうなのか、書いている私にはわからないんですけどね!


話は変わりますが、たまには最初の頃のように「詩織目線」で書くのも面白いなと思いました。



それではまた来週! 次回もお楽しみにして下さると嬉しいです。


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