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隣の転校生は重度の中二病患者でした。  作者: 夏風陽向
「嫉妬と強奪の女王」
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嫉妬と強奪の女王 part13

進路指導室の前で針岡先生と別れた私と黒山は、1度教室に戻ることにした。


教室に戻るとまだ若干人がいたものの、下校時間までもう20分しかないからか帰り支度をしていた。



「私たちはどうする?」


「そうだな……。臨時報告会まで時間がないから、今日のところは帰宅してあいつらに連絡するのがいいと思う」


「え? 今すればいいんじゃない?」


「いや……」



そこから先を言わず、黒山は鞄を持って教室を出ようとしたので、その後に続いて私も教室を出た。


廊下に出たところで、黒山は何も言わなかった。


結局、無言で歩き続け、校門を出てから少ししたところでようやく口を開いてくれた。



「今回に限って言えば仕方の無いことだが、報告会の存在は部外者に知られてはならないんだ」


「え、そうなんだ!? でも、それが教室で電話してはいけないのと何の関係があるの? こう言ってはなんだけど『報告会』だけでは、それこそ部外者にはわからないと思うんだけど」



黒山はあからさまに溜息を吐くと「馬鹿なのか?」と目で言いながら、口では説明してくれた。



「確かに、報告会の存在が知られる可能性は薄い。だがそれは、普通の人が聞き流す程度に聞いた場合の話だ。今回の場合、栗川の様子からして、相手は操る対象の行動を制限することができるようだ。それはつまり、操られていることを周りに悟らせないよう、普段通りに生活させることも出来るということだ。……もしも、教室の中にあの女の手先がいたら? 教室内だけではなく、たまたま教室の近くを通った生徒が手先だったりしたら? そういった可能性を考えれば、家の自室であいつらに連絡をするのが最善だろう?」


「……な、なるほどー」



正直なところ「黒山にしてはよく喋るなぁ……」というのが1番最初に出た感想だ。


そればかりが頭の中で浮かんでいたので、実は話の内容ほとんどが頭に入ってこなかったが、とりあえず言いたいことはわかった。



「梶谷は沙希に連絡してくれ。俺は奏太に連絡しておく。……今日はこの辺で話を止めにしよう」


「あ、うん、わかった」


「…………」


「…………」



そして再び無言で歩く時間がやってきた。


ここ最近は黒山と帰ってはいたが、そこには必ず真悠がいた。


普段騒がしい幼馴染ではあるが、そんな幼馴染が隣にいないのがすごく心細かった。



(真悠……)



気付けば、私はずっと真悠のことを考えながら歩いていた。


最近から、少し前へ。少し前から、もっと幼い時へ。


あんなことやこんな事。楽しかったこと、悲しかったこと、辛かったこと、嬉しかったこと。


色んな思い出の中に、いつだって真悠がいる。操られて別の場所にいるだけ……だというにも関わらず、私は寂しさに押し潰され、目の前が雫の集まりでよく見えなくなっていた。


きっと黒山は気付いていただろう。でも、彼は何も言わずにただ家の近くまで黙って横を歩いてくれた。


家に着く頃には、目の前がしっかり見えており「どう説明したものか」と目の腫れについて考えれるまで回復した。



「黒山君。今日もありがとう」


「いや……。こちらこそ、すまない。俺がもっと気を付けていれば栗川は」


「あんたのせいじゃないわ。真悠の気持ちにもっと寄り添ってあげられなかった私の方がよっぽど悪い。……それじゃ、また明日ね」


「ああ」



私は黒山が去る前に家の中へ入った。


結局、目が腫れている理由について家族から聞かれることは無かった。


ただ気になったのは、お母さんが私に憐れみに似た目線を私に送ってきたことだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その日の夜、詩織は沙希に。黒山は奏太に連絡をした。


電話を受けた2人の反応は相反するもので、沙希は詩織から「臨時報告会」の名前が出たことに驚きつつ、事情を聞いて協力する姿勢を強く出したので、詩織は心強かった。


一方、奏太はというと、あまり乗り気では無かった。「臨時報告会」の出席についてはともかく、鈴木による真悠の一件については「あくまで瑠璃ヶ丘の問題であって、そこを任されている透夜が解決すべき」という意見だった。ただし、調査に関しては針岡による指示なので、一応従うという姿勢だ。


沙希と奏太は、翌日すぐにパートナーである奈月と浩二に電話の内容を話し、さっそく調査に当たった。


そして迎えた金曜日。「臨時報告会」当日。


黒山の案内で旧・虹園塾に到着した詩織は「うわ……」と思った。



「ほ、ほんとにこんなところでやってるの?」


「ああ。そうだが?」


「だってさ、今にでも崩れそうじゃん? 大丈夫なの? この建物」


「問題はない。この建物は針岡が管理している」


「えっ!? 余計心配じゃん!?」


「普段こそやる気無い担任だが、何故かこの建物に関してだけは大真面目だ。それほどこの建物に思い入れがあるんだな」


「そ、そう?」



早足で階段を上っていく黒山に対して、詩織は慎重に上っていく。


いつもは一番乗りで到着している黒山だが、今回は1番最後となった。


他のメンバーは皆、今回は詩織が一緒だと知っているので共通して「仕方ない」と思っている。


詩織は黒山の後に続いて中へ入っていき、隣に座った。


全員が席に座ったことを確認したところで、針岡が「臨時報告会」の開催を宣言した。



「よーし、全員揃ったなー。んじゃ、始めるぞー?」



相変わらずのやる気無い話し方だったが、目だけは真剣だった。そしてその目を黒山に向けると、黒山は軽く縦に首を振ってから席を立ち、これまでの経緯を話した。



「……というわけで、解決に向けて情報を集めて貰った。今日作戦を立てて、近々実行しようと思っている。以上だ」


「んー。それじゃあ、さっそく集めてもらった情報を報告してくれー。まずは奏太」



奏太は首を縦に軽く振り、立ち上がった。それと同時に黒山は再び席に座る。



「俺達は透夜を襲ったという男子生徒を調べることにした。まずは浩二の記憶を読み取り、そこから男子生徒を特定。……とそこまでは良かったんだけど、困ったことに彼らは、操られている時の記憶を持っていなかった。その後、ターゲットを変えて逆に振られた側の過去を読み取ってみたが……あまり良い情報では無かったな。結局、操った本人の過去を読み取ることしか手が無かったわけなんだが、運が良いことにたまたま読み取ることが出来た。相手が男子生徒と栗川真悠さんを操るまでの手口。そして現在操られている人の数がある程度わかった……が」



報告が止まったところで、皆一斉に「どうした?」と奏太の顔を見ると、奏太は詩織の方を見て困った顔をしていた。


彼は迷っているのだ。他の男子生徒が操られた時の手口はともかく、真悠が操られるまでの手口は真悠の感情が大きく出ている為、その感情の矛先である詩織の前で言っていいものか……と。


それはある意味、真悠の気持ちを彼女に変わって詩織に告白するようなものとなるので本当に言葉を選ばなくてはならない。奏太という人間にとって、そこまで気を使わなければならないことを面倒なので出来れば避けたかった。


そんな奏太の願望とは裏腹に、詩織は真っ直ぐな目で奏太を見て言った。



「お願い、金子君。真悠がどうやって……どうして操られているのか教えて」


「……わかった」



奏太は深呼吸をした。深く息を吸い、ゆっくりと息を吐くその間に言葉を選んだ。


嘘では無く、そして直球過ぎない言葉を。



「栗川真悠さんの梶谷詩織さんに対する想いを利用された。今回の主犯、鈴木花梨が透夜の力を利用する為にな」


「待って! それって、鈴木花梨にとってメリットであっても、真悠にとってはメリット無いよね!?」


「……いいや、少なくとも梶谷詩織さんと栗川真悠さんの学生生活は透夜が転校して来る前と同じようになる」


「……っ!! それはつまり、真悠は夏休みまでの過ごし方を求めていたってこと?」


「それが全てというわけではなく、心の片隅で思っていた程度で言うなればそうなる……な」


「そう……なんだ」


「詩織ちゃん……」



奏太は詩織から目を逸らし、詩織は俯く。そんな詩織を奈月が心配そうな目で見ていた。


少し間を置いて、沙希が話の続きを促す。もちろん真悠が操られた時の話ではなく、敵の数の話だ。



「それで、鈴木花梨はどれくらい操ってるの?」


「あ、ああ。えっと、50人前後だな。瑠璃ヶ丘だけで言えばおおよそ15人程度か」



この場にいるほぼ全員。情報を知っていた奏太と鎌田以外は驚いた。


人数はもちろん、他校の生徒まで操っていたことにだ。



「どうやら鈴木花梨は、特に重度の中二病患者を味方に付けたかったようだな。……能力までは把握出来なかったが、中には患者もいる。報告は以上だ」



ようやく辛い役目から解放されたからか、再び椅子に座った奏太は「ふぅ……」と一息ついた。


そんな奏太を針岡は労った。



「奏太ー、ご苦労ー。……それじゃあ、次は」


「今回は私が」


「た、頼む」



沙希が立ち上がり、報告を始めた。



「私と奈月。そして詩織は最近起きている失恋に関して調べていたんだけど、今週はめっきり失恋の話を聞かなくなったことに気付いた。そしてそれが真悠の能力と関係していて、鈴木花梨も関わっていることがわかったわ。どうやら、真悠は『人と何かの縁を断ち切る』能力を手にしたようね。そして鈴木花梨は明後日の日曜に大きなことを起こそうとしているようだわ」


「覗いたのか?」



沙希に質問したのは黒山だった。黒山は、沙希が操られている男子の心を覗いたと思ったのだ。相手は一時的に記憶・本人の意思を無視されて操られている無感情人間。


沙希の能力は代償として個性を失いかける故、何もない人間の意識に入り込むことが危険だと思ったからだった。


そんな意図の質問だということをすぐに見抜いた沙希は上品に笑いながら「大丈夫」と黒山に返した。


読んでくださりありがとうございます! 夏風陽向です。


次回あたりから戦闘入りたいと思います。ゆっくりと確実に書くのが目標です。


まだまだ執筆時間を確保するのが下手くそで、なかなか沢山更新出来ない状態ですが、毎週楽しみにして下さると嬉しいです!


それではまた来週!お楽しみに!!

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