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隣の転校生は重度の中二病患者でした。  作者: 夏風陽向
「嫉妬と強奪の女王」
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嫉妬と強奪の女王 part11

帰りのショートホームルームが始まる前のこと。


いつもなら他愛ない話をしている私と真悠だが、今回は少し違った。


珍しく……というか、ほとんど初めてなのではないだろうか。真悠が「今日は先に帰ってて」と言い出したのだ。


私も真悠もこれまで部活をしてこなかったし、日直や委員会活動があるなら手伝う、もしくは教室で待っているなりしてきたので、この発言に私は違和感を覚えた。



「珍しいじゃん? いつも通り私、待ってるけど?」


「えっ……いや、あの……」


「何よ?」


「…………」



真悠の反応は完全におかしかった。少なくとも、私の知っている真悠ではない気がした。


しかし、私はあえて「まあ、いいや」と特に気にする様子を見せない返事を返す。


すると、真悠は両手を合わせて「ごめんね」と可愛らしい仕草と合わせて言った。こうしてこの会話は終了した。


その後、全く関係の無い話をし始めたが私は内心、真悠の反応がいつもと違うことが気になっていた。


やがて帰りのショートホームルームが始まり、針岡先生が特に気にしておく必要もない連絡事項を大雑把に連絡してから、帰りの挨拶をする。


基本的には、クラス長が号令をして挨拶するのだろうが、どうやら針岡先生はそこまできっちりやるのをあまり好まないようで、号令と挨拶は全てやる気の無い声で先生がやって下さっている。



「きりーつ(起立)」



先生のやる気ない号令がかかると、3組の生徒はキビキビした動きで立ち上がる。



「はい、さよならー」


「さようなら!」



挨拶が終わるのと同時に、いち早く帰宅したい勢と早く部活に励みたい勢によって出入り口が混み合い始める。


これ自体は、実にいつも通りの光景であることには間違いないが、今日に限って言えばいつもと違っていた。


大体予想できると思うが、真悠が混み合っている中に入っていってるのだ。


月曜以降なんだかやつれてきている真悠相手でも、男子達は意外と紳士(?)な振る舞いをしており、真悠がいることに気付くと道を開けていた。


そこで更に面白いのは、我がクラスの男子がかなり単純だということだ。


真悠が道を開けてもらった男子達に「ありがとう!」と笑顔で言うと、男子達は照れているのか「う、うっす」とまるで先輩を相手しているような反応を返していた。


彼らの反応に注目しているのはどうやら私だけみたいなので、咄嗟に机に突っ伏した。


実際、爆笑する程でもない光景であるのは間違いないが、それでも口元が緩んでしまうのでそれを隠す為だ。


にやけてるのを見られて、周りから「変な女」だと思われたくないしね!


……それはともかく、こうして机に突っ伏してにやけてばかりではいられない。


我ながら、幼馴染を尾行するというのもどうかと思うが、それでも何かに巻き込まれている可能性がある真悠を放っておくことができなかった。


私は真悠が教室を出て行った直後を見計らって鞄を持って教室から出ようとするが、ショートホームルーム直後に比べればまだ少ないものの、出入り口にはまだ人がいた。


別に真悠のように道を開けてもらえると思ってはいなかったが、真悠の時は道を開けたくせに私になると道を開けない辺り、控えめに言って不愉快ではあったが、今はそんなことを気にしている場合ではないとどうにか自分に言い聞かせ、上手く流れに乗って教室を出る。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「…………」



真悠が教室を出て行く姿とその後に続いて出て行った詩織の姿を見ていた黒山は、自分の行動に迷った。


実のところ、放課後に詩織と真悠が一緒にいないことが気になったのだ。


それに、教室を出て行くだけなら2人同時でも問題はないはず。だというにも関わらず、親友同士の2人は別々に出て行った。


転入して以来、初めてみたその「異常」とも言える状態は黒山にとって無視できるものではない。彼の仕事はあくまで「重度の中二病患者」が暴走した場合に無力化することだが、事前に止められるならそれに越したことはないだろう。


この学校へ来た直後は、事前に聞かされた「詩織の特異体質」について半信半疑……というか、ほとんど信じていなかったが、ここ最近の起きている事件を思い返してみれば「特異体質」の存在を信じざるを得ない。


黒山は混み合っている人がいなくなった出入りから鞄を持たずに教室を出て行った。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


この状況は「運が良い」と言われても否定できない。


真悠をどうにか見失わずに追跡できている私だが、尾行することなど初めてなので何度か真悠に気付かれてもおかしくない動きをしていたと自分で思う。


それでも何故気付かれなかったのか。私的には本当に「運が良かった」としか思えない。


教室を出て以来、行動中の真悠はどこか人間味に欠けていたように見えたのは、きっと気のせいではないだろう。


まるで何かに操られている……もしくは、誘導されているような動きだというのに、誰の目にも留まらないことに対しても私は「運が良すぎない!?」と思った。


私も真悠も今日は運が良いとわかったところで尾行を続けていると、真悠は周りを見渡すこともな謎の部屋へ入って行った。


「学校にそんな場所があるか!」と突っ込みたくなるかもしれないが、本当に謎の部屋だった。


それは部活棟にある一室なのだが、どの部活が使っているのかわからなければ、放課後だというにも関わらず、他に誰か来る気配も無い。


というか、むしろ「近付いてはいけない」とさえ思わさせる部屋だ。


脳が、反応が「見なかったことにしてこの場を去れ」と言っている。それでも私は、真悠が部屋の扉を閉めたことを確認してから、しゃがんで扉に近付き、耳を当てて中で繰り広げられている会話を盗み聞きする。


聞こえてきたのは真悠ではなく別の女生徒の声だった。しかし、会話というにはあまりに一方的であり、むしろその女生徒以外の声が全く聞こえてこないのだ。



「さあ、栗川さん。彼らの『繋がり』を切ってしまって!」


「…………」



真悠の返事は無い。その代わりに「シャキン! シャキン!」とハサミのようだが、ハサミにしては大き過ぎる音が聞こえてきた。


「不気味な音ね……」と身震いしながら聞いていると突然。



「うわああああああああたっ!!!!」



2回……3回とハサミ(?)の音がした直後だっただろうか。男子生徒の悲鳴がした。


私は咄嗟に扉を勢いよく開けて「どうしたの!? 大丈夫!?」と叫んだ。


部屋の中には、件のタラシ女・鈴木花梨と両手に大きな刃物を持った真悠。そして取り巻きらしき男が5人がいた。しかし、そのうち悲鳴を上げたであろう男子生徒は目を涙を流したまま気絶している。



「ちょっと真悠! これはどういうこと!? それと、なんでそんな物騒なものを持ってるわけ……?」


「…………」



真悠から返事をしなかった。それどころか、そもそも私がここにいて話しかけていることを認識していないようだった。


なので質問の相手を変える。私はその相手、鈴木花梨を睨みつけた。



「うん? あなたは、栗川さんの幼馴染である梶谷詩織さんだね? どうしてあなたがここにいるのかな?」


「真悠の様子がおかしいから尾行させてもらったのよ。あんた、真悠に何したの?」



鈴木は溜息を吐いてから、大袈裟に両肩を上げて「やれやれ」と呟き……。



「一応、私は2年生で年上なのだから、敬語は使ってもらいたいな。それから、まるで私が栗原さんに『何かした』みたいに言うけれど、彼女の変化は私ではなく、あなたに原因があると思うんだよね」


「デタラメを言わないで! あんたが真悠に何か吹き込んだんでしょ!?」


「……幼馴染と言う割には、栗川さんを理解していないんだね。生憎だけど、栗川さんにはまだまだ手伝って欲しいことがあるんだ」



鈴木の態度は落ち着いていた。私はそれが気に入らなかった。しかし、彼女がそんな余裕ある態度が出来る理由をすぐに悟った。


いや「悟らされた」というべきだろう。気づいた時には、男子生徒4人が私を囲んでいた。



「栗川さんに悪いけど、あなたをここで黙らせてあげる。……やってしまいなさい」



鈴木から「ゴーサイン」が出た瞬間、4人はジリジリと私に近付いてきた。


真悠は光がない瞳でこちらを眺めているだけで全く動こうとしない。



「……何をするつもり!?」


「いくら彼らが私の下僕と言えども、本能からくる欲求はコントロール出来ない。私ではとても相手できないから、あなたに相手してもらおうと思ったんだよ」


「ま、まさか……やめてよ……」


「そう。そのまさか」



本能からくる彼らの欲求。それは、人間が持つ三大欲求の1つである「性欲」だと私は予想した。


変な話、人間の三大欲求に含まれている残りの2つ「食欲」と「睡眠欲」は高校生というある程度の甘えが許される立場である以上、その気になれば簡単に満たすことが出来る。


しかし「性欲」だけは簡単に満たせない。


何故なら「性欲」は1人で満たせるものではなく、相手が必要となる。それはつまり、相手の都合も考慮しなくてはならない。もし、自分だけの都合で満たそうとすれば場合によっては犯罪になってしまうからだ。


もっとも、完全に「自慰行為」のみで満たされる人間は例外かもしれないが、少なくとも私を取り囲む4人は「溜まっている」らしい。


とはいえ、彼らの行動を冷静に分析したところで私にはどうすることもできない。


私は心の中で「黒山と一緒に来るべきだったなぁ」と後悔しながら、大声で助けを呼んだ。



「誰か……誰か助けて!!!」



先程の強気から一転、誰かに助けを求める姿を見て鈴木は「クスクス」笑った。



「いや失礼。先輩相手にタメ口で話しかけて来る強気な女かと思えば、男4人に囲まれた途端助けを乞うとは……なんというか、滑稽だよね。ちなみにだけど、誰も助けには来ないよ? いくら校舎が古めと言えども、楽器や合唱の音には敵わないから誰にも聞こえやしない。だから、安心して彼らと楽しむといい」



彼らが私の秘められた部分に触れる直前、私はせめて見たものが記憶に残らないようぎゅっと目を閉じた。


しかし、彼らの手が私に触れることは無かった。


代わりに4方向から聞こえる衝撃音が聞こえてきたので、驚いて目を開けると目の前に黒山が立っていた。



「黒山君……?」


「悪いが、俺には聞こえた」


「え? 何が……?」


「梶谷の助けを呼ぶ声が」



黒山の乱入に1番驚いたのは、どうやら鈴木だったようだ。右足が1歩下がって「何故、君が……?」と呟いた。


そんな呟きに対して返答する必要性は皆無だと思ったが、意外にも黒山は答えた。



「相手が悪かったな。梶谷に危害を加えようとした時点で、お前は俺の敵となった」



それではまるで、黒山が私の恋人であるかのような理由だった。


どうやら鈴木は「こちら」で解釈してしまったようで、妬みの目線を私に向けてきた。


まったくの誤解だと言うのに。



読んで下さりありがとうございます! 夏風陽向です。


下崎の触手以来、ちょっと際どい話でした。


くどい描写かと思いますが、主人公がピンチに陥っているヒロインを助けるシーンってやっぱり、かっこいいと思います。


話もここまできましたので、あと2,3話くらいでこの章を終わらせたいです。



仕事の負担がどんどん大きくなり、本当に書いてる時間がなかなか取れませんが、頑張って更新したい……!!


それではまた来週! お楽しみに!!

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