嫉妬と強奪の女王 part6
「行ってきまーす!」
……と言っても誰が「行ってらっしゃい」と言ってくれるわけでもなかったが、私は壊さない程度に玄関の扉を勢い良く開けた。
駅に電車が5分毎にくるほど、この街は都会ではない。しかし、時刻表を見ると、偶然にも丁度乗れる時間の電車があったので急いで準備をして向かうことにした。
瑠璃ヶ丘から紅ヶ原までそんなに距離はないが、歩いて余裕で行けるというわけでもない。
ましてや、いくら11月といえど、動けばそれなりに汗が出る。1人の女子としてそれは避けたい……ということもあって電車にしたのだ。
普段、駅の方に向かう用事が無いので、休日にもかかわらず、学校の制服を着て駅へ向かう生徒だったり、逆に駅から学校へ向かう生徒の姿がなかなか新鮮に感じられた。
駅のホームには、生徒の他にも電車を待つ人達がいた。
だがこうして見てみると、高校生の電車を待つ態度はかなりひどいものだ。
話し声は大きいし、ホームにあるベンチに踏ん反り返って座り、お年寄りに椅子を譲ろうとしない。
今の私は私服姿なので仲間だと思われる心配はないものの、こんな人たちが「同じ学校の生徒」だというだけで恥を感じる。
そんな態度で利用しているのは、権利や権限を素晴らしく勘違いした上級生であることは間違いないので、私たちが3年生になった時には、こんな光景が無くなるといいな……と思った私だった。
--------------------
電車に乗り、目的地であった駅で降りる。
目的地までは二駅分。よって、乗ってから降りるまではそこまで時間がかかっていない。
降りたこの駅から10分もかからない場所に奈月の家はあるらしく、電車が駅に到着する時間から逆算して家を出れば、ほぼ電車と同じくらいの時間に着くことが出来る。
しかし、奈月と沙希の2人は既に駅で私の到着を待っていた。
「えっと、お待たせ……!」
「いや、全然! ボク達が敢えてしおりんより早く来ただけだからねー!
「そうね。だから詩織は何も気にすることはないわ」
「そっか、ありがとう!」
「それじゃあ、しゅっぱーつ!」
奈月の元気が良い掛け声と同時に、私たち3人は奈月の家へ向かって歩き始めた。
ちなみに、奈月が私のことを「しおりん」と実際に呼ぶのは初めてのことだったので驚いたが、あだ名をつけて呼んでもらえるのはかなり久しかったので、嫌な気はしなかった。……というより、本音を言えば嬉しかった。
2人が迎えに来て待っていてくれたことと、あだ名で呼んでもらったことに浮かれていた私はどこか浮かれていた。
--------------------
同時刻。幼き頃から詩織と大親友である栗川真悠は、車両は違えど詩織と同じ時刻の電車に乗っていた。
乗った車両は詩織が2両目。真悠は3両目だったので、お互いに同じ時刻の電車に乗っていたことに気付かなかった。
詩織が降りるまでは。
詩織や他の人が電車を降り、車掌の合図で電車が発信して動き出すと、真悠は座った席から窓の外を眺めていた。
すると、電車から降りたであろう詩織が、駅で待っていた奈月と沙希の元へ駆け寄る姿が見えた。
真悠の中で最初に現れた感情は「歓喜」。偶然にも詩織を見つけたことから出てきたものだ。
だがそれはすぐに「嫉妬」へ変わる。今まで一緒に過ごしてきた詩織が、自分以外の友達と遊ぶことに対してのものだ。
或いは、昨日一緒に遊んだ時には翌日、つまり今日の予定は「何も無い」と言っていたにも関わらず、結局新しく出来た友達と遊んでいることに対してかもしれない。
これはあくまで真悠の考え過ぎだが、詩織が「嘘をついていたのでは?」と疑った。
そしてすぐに自分を支配する負の感情を否定する。自分が考えれば考えるほど、何かに支配されそうになるし「これくらいで嫉妬を感じてしまうなんて、自分は心の小さな人間だな」と考えてしまう。
真悠が今日、何故電車に乗っているのかというと、祖父の家に行くためだ。
誰にでも優しくする真悠だが、大親友の詩織や自分の家族には一層優しくしている。
一昨年に妻(真悠から見て祖母)が他界してしまったので、その夫である祖父は寂しい思いをしているようだ。だから毎週……というわけにはいかないが、時間を作ってはこうして祖父の家へ遊びに行っている。
真悠は先ほどまで抱いていた嫉妬の感情を、無理やり心の奥へ封じ込み、代わりに祖父の笑顔を思い浮かべ、優しい気持ちへと切り替えた。
--------------------
奈月と沙希が迎えに来てくれたことは、もしかしたら何か運命的なものがあったのかもしれない。
というのも、駅で合流した私たち3人は奈月の住む部屋へと向かっていたのだが、短い道の途中で予想外の襲撃を受けてしまったのだ。
3人で他愛も無い話をしていると、どこか様子のおかしい男が近付いてきて「ヒヒッ!」と短く不気味な笑い声を出し、同時に刃物の「ようなもの」で私を切りつけようとしたのだ。
しかし、男の刃物は私に届かなかった。文字通り、目にも留まらぬ速さで竹刀を抜刀した奈月に止められたからだ。
男はすぐに後ろへ下がって、私たち3人と距離を取る。そして奈月の方から声を掛けた。
「……女の子相手に随分と物騒なことをしてくれるじゃないか」
「俺のヤイバ……届かなかった。こんな経験……初めてだ」
「しおりん、この人に何か恨まれるようなことでもした?」
「してないしてない!!!」
私は本当に目の前の男を知らないし、恨まれるようなことをした記憶もないので全力で否定する。
だが私は一方で、この男の素性よりも別のことが気になった。
それは、男の攻撃に対してもそうだが、奈月の素早い防御と急に口調が変わったことに驚かされ、気にせずにはいられなかった。
いや、口調だけではない。全体的に「奈月らしさ」が欠けていたのだ。
「んー。すると君は、彼女に何の用かな?」
奈月は剣を構えたまま、男は問いかける。
「その女の心。どこか浮かれていたように見えた……。俺は……そういうやつの心を……切り裂きたい」
「残念ながらその願いは叶わないよ。ボクが彼女を守るから」
「お前の……心も剣も輝いている。ヒヒッ! これは……とても楽しめそうだ」
どうやら相手の男は本気で奈月とやり合うようだ。その証拠に、仕掛けるタイミングを計っているのか足を左右前後と気持ち悪い動きをしていた。
「どうした? 来ないの?」
「お前……隙がない。戦い……慣れているな」
「それはどうも!!」
結局、奈月から攻撃を仕掛ける展開となった。
奈月の光る竹刀に対して、男が持つヤイバはリーチが短い。単純に考えれば奈月の方に分があるし、実際私もそう考えていた。
しかし、相手も戦い慣れていた。
奈月の大振りな袈裟斬りを必要最低限な動きで回避し、瞬時にはガードできない角度からヤイバを走らせる。
「ほう……」
「うーん、なかなかやるね」
相手の攻撃も凄いものだが、まるで初めから切り返しをする予定だったかのような動きで、またも瞬時にガードした奈月に私は驚き、相手は感心していた。
沙希は「当然!」と言いたげな顔をしていたが。
「さて……そろそろ本気で決着を付けないとね」
「その必要は……ない。また……日を改めて」
気付けば、突然繰り広げられた激闘に人だかりが出来始めていた。おそらく、警察が来るのも時間の問題だろう。
相手の男は、持っていたヤイバを霧散させると、素早い動きでこの場から離れた。
それはまるで、電気の灯りから隙間の影へ逃げようとするGのように……。
「私たちもこの場から離れましょう」
「わかった!」
沙希の提案に頷いた奈月は、輝きをなくしていた普通の竹刀を納刀し、急いで奈月の住む部屋へと逃げるように向かった。
読んでくださりありがとうございます! 夏風陽向です。
予定日だった水曜日に更新できず、申し訳ありませんでした……!
残業から帰り、夕飯を食べてから入浴を済まし、ほぼ22時。
一晩で書き上げようとしたのですが、途中で目覚ましもかけずに寝落ちしてしまい、翌日寝坊してしまうという、なんともだらしない結果となってしまいました。
いつもは大体土日にほぼ書き上げて、火曜日の夜に最終チェックで読み返すのがいつもの流れですが、土日に書けなかったのがかなり痛かったです。
そんなこんなで、文字数的には今回より少し多めの状態。といっても500文字程度ですが、ほんの少しでも楽しめていただけたなら幸いです。
この章もそろそろ大きな展開を迎えてきます。次回をお楽しみに!
次回の更新予定日は11月22日(水)です。




