嫉妬と強奪の女王 part1
10月中旬。カレンダーで見れば、もうほぼ月末に差し掛かっており、外の気温も月初と比べて少しずつ下がっていた。
特に「誰か」と決まっているわけではないが、こんな肌寒い日は「誰かと寄り添っていたい」とそう思わせられる。
そんな中、現在は昼休みでいつも通り真悠とお弁当を食べていると、真悠は急にこんなことを言い出した。
「あ、そういえばしーちゃん、知ってる?」
「え、何を?」
「4組の入江さん、彼氏に振られちゃったんだって」
名前を言われても、いまいち誰だかわからないというのが本音だが、あえて突っ込まないでいた。
というのも、真悠が言いたいのは「入江さんが彼氏に振られたこと」よりも、「また失恋した人が出た」ということだろうと思ったからだ。
ここ最近は、私と真悠だけでなく女子の間ではそういった話しがよく出る。
「しっかし、これから冬になっていくってのに失恋するカップルが続出するわね。……なんでだろ?」
「なんかね、話によると他に好きな人が出来たんだとか……」
「んん? それって、別れたカップル皆共通で……ってこと?」
「うん、そうみたい」
「奇妙な話ね。どうにも最近、目を疑うような事ばかりだったから、何かあるんじゃないかって思ってきちゃうわ」
「同感」
そんな異変ばかりになったのも、どっかの誰かさんが来てからなのだが、よくよく考えてみれば、何故黒山が来たタイミング……2学期になってから勃発したのだろうか。
そんなことを考えていると、私と真悠よりも早く昼食を取り終わった(と思われる)黒山がやってきた。
「2人とも、今日の放課後は空いているか?」
私と真悠は驚いた。
そもそも黒山から話しかけてくるということ自体が既に稀なことである上に、予定を聞いてきたのだ。
「私はないけど?」
「私もないよー! だけど、どうかしたの?」
「実は会って欲しい人たちがいるんだ」
--------------------
前日の夕方。
黒山は下校時間になってから「誰よりも早く」と言っても過言ではない程の猛スピードで帰宅の準備をし、学校を出た。
この日は、鎌田が仲間になってから2回目の定例報告会があった。
普段から集まる場所として使っている「虹園塾」から1番遠い学校は瑠璃ヶ丘であり、黒山が下校時間すぐに学校を出て行っても到着するのは1番最後となってしまう。
もちろん、能力を使えばその限りではないが、無闇に使って良いものではないので、黒山自身の持久力のみで向かっている。
鎌田の一件以降に目立った事件は特になく、定例報告会もただの「集会」になりかけていた。
そんな中、沙希が突然こんなことを言い出したのだ。
「ところで透夜。何かと巻き込んでしまっている詩織ちゃんと真悠ちゃんと会ってみたいのだけれど?」
「おっ! 沙希ちゃん、それいいねー!」
この沙希が言い出した提案に、隣で携帯を弄っていた奈月が乗っかってきた。
「……突然紹介されても彼女らだって困るだろ」
「あら? 私たちに会わせられないような相手なの?」
「そういうわけじゃないが……」
「なら決定! でも沙希ちゃん、いつにするの?」
「出来れば明日。明日を逃すと、今週はもう予定があって機会を作れないから……。でももし、2人に用事があるようなら、いつがいいか聞いておいて」
「わ、わかった。……だが、場所はどうするんだ? ここでというわけにもいかないだろ?」
黒山はそう言って針岡の方を見るが……。
「ん? 鍵をちゃんと掛けて返してくれるなら、別にいいぞー?」
「……と、針岡さんが了承してくれたのだけれど、こんなボロい場所はごめんだわ。喫茶店にしましょう」
「ひでえな!!!!」
確かに「虹園塾」は建てられてから、建て替えた形跡もなく、むしろ未だに建っていることがすごいくらい古い建物である。
鎌田を含む、沙希以外の若者4人は沙希の言葉に思うことはないが、ここで学んでいた過去がある針岡にとっては、割と頭にくる発言だったようだ。
針岡は沙希の方を鋭い目で睨んでいるが、沙希は全く気にせずに話を進めた。
「場所の詳細は後で送るわ。きっと透夜ならわかる場所だと思うから」
「わかった」
「それじゃあ、よろしくね。透夜」
そんなところで話はまとまり、定例報告会は終了した。
--------------------
私も真悠も今日の放課後は予定が無かったので、黒山が言った「会わせたい人」と会うことにした。
黒山についていき、学校を出てからおおよそ20分といったところか。
そこまで遠くない距離を(高校生という若者にとっては)歩いたところに喫茶店があった。
その中に入っていくと、なかなか洒落たお店でだったので、今更財布の中身に不安を感じた。
入店の鈴に気付いた店員が寄ってくると共に、窓際の席に座っていた女子高生2人のうち、ストレートの髪に艶がある「上品」という言葉をそのまま人間化させたような綺麗な方がこちらを見て「こっち」と手を挙げる。
待ち合わせだということを察した店員は、女子高生2人が座る席へと私たちを案内した。
が、しかし。その席は4人席だった。
黒山は、席に座っていた女子高生2人を「どういうつもりだ」と言いたげに睨むと、後ろから男子2人がやってきて、1人は首根っこを掴み、もう1人は肩に手を乗せた。
「あれ、鎌田じゃん!?」
「おう2人とも、久し振りだな!」
黒山に肩を乗せた方の男は、つい1ヶ月までクラスメイトだった鎌田 浩二だ。
「元気そうじゃん! ……って、あんたがこんなとこで何やってんの?」
「あ? まあ、その、なんだ……」
「こいつ、2人の顔を見たがっていたんですよ」
「おい馬鹿!てめぇ!」
「本当のことだし」
ここにいる目的については、鎌田の横にいた琥珀ヶ関の制服を着た男子が言ってくれた。
私と真悠がその男子を見ると、彼は視線を逸らした。おそらく、女子に見られることに慣れていないのだろう。
琥珀ヶ関は、工業高校なので一応は共学だが、実際のところ男子ばかりで、学年に2〜3人くらい女子がいるが、ほぼ男子校である。
彼は、逸らした視線を黒山の向けて、私と真悠に向けた言葉とは全く違う口調で言った。
「お前はこっち」
「……別れるくらいなら、俺が来た意味ないじゃないか」
そうぼやく黒山に、紅ヶ原の女子高生2人がそれぞれなかなか鋭い言葉を発した。
「いいの! 今回の透夜の仕事は案内係なんだから! ……って、沙希ちゃん言った?」
「言っていないわ。どうせ透夜のことだし、自然体の方が女の子を連れて来られるでしょう?」
「そっかー! 透夜、タラシだねー!」
「…………。」
黒山は「これ以上、付き合っていられない」と言うかのように、男3人で別の席へと座った。
窓側に座る私たちに対し、黒山達は4人席を2つ挟んだ壁側の席なので私たちの話し声は全く聞こえないだろう。
私と真悠は空いていた2人の正面に座った。
ところで、お店に入った時にストレートの上品な女子高生の方に目がいってしまい気付かなかったが、もう1人の方。
ショートヘアの方に見覚えがあった。
失礼だと意識出来ずに、じっと見ていると、その視線にすぐ気付いた彼女は私の方を見てこう言った。
「なぁに? ボクの顔に何かついてる?」
「いや、その……」
「きっと、奈月の顔を見て思ったのよ。『あ、顔に馬鹿だと書いてある』って」
「嘘!? 本当に!? 誰だ! ボクの顔に馬鹿だと落書きしたのは!?」
「……嘘よ」
「沙希ちゃーん??」
当然、奈月の顔に「馬鹿だ」と書いてあるわけではない。この場合、意味的には「顔を見ただけで馬鹿だとわかる」なのだが、奈月がこの意味を知らないあたり少し頭が残念なことを告白しているようなものだった。
私は愛想笑い程度で反応したが、真悠にとっては本気で面白かったようだ。
私からすれば、真悠も人のことを笑えないと思うが……。
「まあ、冗談はともかくとして、あなたは奈月をデパートで見掛けたことがあるはずよ」
「あ! そうだ、竹刀の……」
「おお! よくわかったねぇ!」
沙希に「デパートで」と言われて気付いた。彼女は先月、デパートで黒山と一緒にいたボーイッシュな女の子だと。
ただ何故、あの時の彼女の特徴を竹刀に絞ったのかというと、直感的に「ボーイッシュ」だと言ってはいけないような気がしたからだ。
奈月はあの時のことを思い出していたようで、ほんの少し優越感(?)に浸っているような顔をしていた。
沙希はそんな奈月の顔に少し苛立ちを覚えたのか、話を切り替える。
「まずは自己紹介からしましょう。私は地嶋 沙希。紅ヶ原女子高等学校の1年生。……透夜との関係は……そうね。恋人が妥当かしら?」
「ボクの名前は甘利 奈月! 沙希ちゃんと同じクラスなんだ! 透夜との関係は……夫婦かな!」
「奈月は結婚出来る歳ではあるけれど、透夜はまだ16歳だから不可能よ」
「あ、そっか。ぐぬぬぬ……」
黒山から奈月との関係は「仲間……に近い」と聞いているので気にしなかったが、一方で沙希は本当かどうかわからなかった。
とはいえ、同じ女子から見ても沙希は「綺麗」なので、あり得ない話ではない。
少しモヤモヤする気持ちはあるが、私も自己紹介をする。
「私は梶谷 詩織。瑠璃ヶ丘高等学校の1年生で、黒山君とは同じクラス」
「私は栗川 真悠! 黒山君やしーちゃんと同じクラスだよ! 新しい友達が増えて嬉しいなー! よろしくね!!」
この中で唯一、真悠はライバル心のようなものを持っていなかった。
私も別にライバル心を持っているわけでは無いと自分に言い聞かせていた。
「えっと……沙希さんや奈月さんは、黒山君とは付き合いが長いの?」
「私のことは呼び捨てで構わないわ。そうね、一緒に遊んでいたのは小学4年生くらいの頃かしらね? でも奈月の方が長いわ」
「そうだねぇ。それでも、透夜が転校してきてすぐだったから、あんまり沙希ちゃんとは変わらないと思うな。一緒にいれたのは1年くらいだし……。あ、ボクのことも呼び捨てでいいよ!」
黒山は一体、何回転校を繰り返しているのか。
そんな疑問が頭に浮かんだが、すぐに消える。なぜならきっと、黒山以外この場にいる人間にはわからないだろうと思ったからだ。
「詩織ちゃんはともかく、真悠ちゃんは透夜のこと気になったりしないのかしら?」
「私のことも呼び捨てでいいよー! 黒山君はただのクラスメイト。私、好きな人とか出来たことないから……」
「ちょっ、私も別に黒山君のことなんてどうでもいいし! 気になってなんかいないし! あと、私のことも呼び捨てでいいし!」
そんな私の言葉に沙希は「ふふふ」と口元を押さえて笑う。
なんて上品なんだ。女子力高けぇ……というのが、私の本音だ。
話を戻すと、確かに今まで「真悠の好きな人」というのは聞いたことがなかった。
私も恋が多い人間ではないが、真悠は特にそうだった。
「真悠は……そうね。ある意味一途なのね。詩織はもう少し素直になってもいいんじゃない?」
「なっ! だから私は!」
「ここまで透夜への好意を否定する人は新しいね? ボクは透夜のこと好きだよ?」
「もちろん私も。透夜のことは愛してるわ」
そんな2人の大胆な発言に、聞いているこちらの方が恥ずかしくなった。
鏡で自分の顔を見なくとも、赤くなっていることはわかった。変な汗が出てくるし……。
その後、沙希と奈月の2人は黒山との馴れ初めを話してくれた。
私も2人に黒山との馴れ初めを話し、ほぼ黒山の話で時間は過ぎていった。
時刻は既に6時。どうやら沙希には門限があるらしく、連絡先を交換して今日は解散となった。
--------------------
帰りの方向的には、私・真悠・黒山が同じ方向で、鎌田は1人。沙希と奈月の2人は、金子君(帰りの直前に自己紹介した)と方向は若干違うが「護衛役」として半ば無理やり連れて帰るようだ。
「詩織、真悠」
帰ろうとしたところ、沙希に呼び止められた。
振り返ると、彼女は優しい笑顔で「透夜のこと、助けてあげてね」と言って、去っていった。
黒山は複雑そうな顔をしていたが、私たちも帰る方向を向き、歩き始めた。
その帰り道でのこと。
「ところで黒山君。奈月も可愛いと思うけど、沙希ってそうそういないほどの美人よね。黒山君は沙希と付き合っているの?」
そんな私の質問に、黒山は溜息を吐いて答えた。
「俺と沙希はそういった関係じゃない。奈月もそうだが、2人は俺にとって仲間に近い存在だ」
「ふーん? 黒山君は、美女2人に挟まれていてもどっちかのこと好きになったりしないんだ?」
「……俺には、誰かに好意を抱くことは許されない。それが俺と能力を繋ぐための糸なんだ。もし俺が誰かに好意を抱けば、俺はもう能力を使えなくなる」
「それで中二病を卒業できるなら、万歳なんじゃないの?」
「そうだな。だが、俺に能力が無くなれば同時に存在価値も無くなる。少なくとも、高校在学中はそれを避けたい」
黒山の言う「存在価値」。
彼がごく普通の、私たちのように親がいて友がいる高校生だったら私も否定できただろう。
しかし彼は普通では無いので、私と真悠はわかったような事を言えなかった。
「それに……」
「それに?」
「いや、なんでもない。ここでお別れだな。2人とも気をつけて帰れよ?」
「あ、うん。じゃあね」
「バイバーイ! また明日ねー!」
黒山が去っていくのを見届けながら、私は考えていた。
「どうして、黒山と話しをすると毎回重くなるのだろう」と。
--------------------
「女王」はその場面を見ていた。
詩織が黒山のことで頭がいっぱいになっているところ、真悠は複雑そうな顔をしていた。
しかし、詩織はそんな真悠の感情に気付かない。
「女王」は真悠の顔に浮かんでいた感情が「嫉妬」だとすぐに気付き、真悠の顔をよく覚えておくのと同時に、2人と一緒に歩いていた黒山のこともしっかり見ていた。
その日その時。真悠と黒山は「女王」にとって欲しいもののリストに加えられた。
今回も読んでくださりありがとうございます! 夏風陽向です。
さて、章としては長いのが長くないのかわからない「行き過ぎた反抗期」も終わって、日常を挟み、そしてまた新章が始まりました!
今回の章もぜひ最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
それから、三連休で何かを書こうと思ったのですが、土曜日に休日出勤が入ってしまい、普段の週末と変わらなくなってしまったことから、短編もしくは他2作品の更新が出来ませんでした。ごめんなさい……!
また何処かで普段の更新以外のものが書けたらなと思っています。
今後ともよろしくお願いいたします!




