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隣の転校生は重度の中二病患者でした。  作者: 夏風陽向
「行き過ぎた反抗期」後半
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行き過ぎた反抗期 part11

「黒山君!!」


鎌田の炎を一瞬で消した直後、禍々しい黒い魔人と化したまま倒れた黒山に、私と真悠はとっさに叫んでいた。


我ながらなかなか大きな声を出したつもりだが、彼はピクリとも動かない。


「せんせー! 黒山君、大事なんですか!?」


「命に別状はないから放っておいても大丈夫だー。……今のとこはな」


「え?」



「今のところは」というのは、一体どういう意味なのだろうか。


気になりはしたが、私も真悠も黒山に危険がないことがわかり少しほっとした。



「ちっ! 余計な邪魔をしやがって!」


「浩二。彼はお前の友達か?」


「ああん!? ただのクラスメイトだ!」


「私の見た限りだと、彼はお前を止めたように見えるんだが?」


「はん! ただのお節介だっつーの! 頼んでもないのに止めに来やがって。……自業自得だ」


「はー……」



鎌田(父)は、息子の発言に気に入らない点があったようで、深いため息を吐いた。


私自身も、いくら今まで鎌田の味方だったとはいえ、今の発言はどうかと思った。


息子の「なんだよ?」と言いたげな顔を見て父は言った。



「今まで人様に迷惑をかけていない範囲なら大目に見ようと思っていたが、どうやら『俺』が甘かったようだな」


「どうだろうなぁ? 俺的にゃ、あんたの口うるせーところに毎日頭にきてたぜ?」


「……はっきり言ってやる。今のお前は間違っている」


「はっ! またいつもの小言かよ? いい加減聞き飽きてんだよ!!」


「おい、ガキが粋がるんじゃねぇ。……息子の間違いを正すのは親の役目だ。身体を張ってもな」


「あ? やんのか??」


「たまにゃぁ、本気でぶつかってやんねーとな。男だもんなぁ」



息子と全力でぶつかると宣言した父は、かけていた眼鏡を近くの安全な場所に置き、七三分けにした前髪を全て後ろへ持っていってから、ネクタイを緩めた。


そのキャラの変わりように、私と真悠は驚いていた。


そして同時に、「この親子は本当に親子なんだな」と納得した。



「さーて、いっちょやりますか! ……来いよ、浩二!」


「……なめやがって! 40超えたおっさんが現役高校生の俺に勝てるわけねぇだろ!!」



鎌田(息子)が手加減して父を殴ろうした。


手加減……と言っても、そもそもがかなり強いのであくまで黒山と人間離れした殴り合いと比べてまだ「人間味のある」という意味であるが。


しかし、父はそれを片手で受け止めた。



「あぁ!? どうした浩二? てめぇこそ、俺をなめてんじゃねぇよ!!」



反撃のパンチ。流石は父といったところか。



威力は本気の息子には劣るが、十分に強い一撃で、辛うじて受け止めた鎌田(息子)は父をなめていたことを反省した。



「やるじゃねぇかよ。……やっぱり本気でいかせてもらうぜ!」



今度も同じようなストレート。……と思いきや、それはフェイントで本命は右足による蹴りだった。



「うっらぁぁっ!!!」



気合いと力のこもった蹴りが父を襲う。



「くっ……。やれやれ、歳は取りたくねぇもんだ。こいつを受け止めるに精一杯とはなぁ」



咄嗟の反応で蹴りを左手で止めたが、威力は絶大。怪我こそはしていないものの威力の高さから左手が痺れたようだ。



「40のおっさんにしちゃあ、持ったほうだろ? だけど、ここで終わりにさせてもらうぜ!」



今度は腹を狙ったパンチ。当たれば、ごく短時間だが、呼吸困難に陥るだろう。


父は流石に反応しきれなかったようで、攻撃を受けてしまう。



「ぐおっ! げほっ!!」


「俺の勝ちだ、クソ親父!」


「へへっ、そう勝敗に焦るんじゃねぇよ。……俺の強さってのは『耐久力』にあるんだぜ?」



一度腹に受けた直撃で膝をついてしまったが、すぐに立ち直した。



「しぶてぇ親父だ。そんなに殴られたいのかよ?」


「ようやく体があったまってきたところだ。てめぇはこいつを躱すことが出来るか?」


「あぁ!? ……うおっ!!」



私たちにも辛うじて見えるスピードで息子の腹を殴って飛ばした。



「浩二。どうやらてめぇはつえぇ(強い)方みてぇだが、俺たちの世代にとっちゃ可愛いもんだぜ?」


「げっほ! 昔話をするあたり、ますます……老け……たんじゃねぇのか?」


「いいや? 事実を言ってるだけだな」


「はっ! 言ってろ! うぉおおおお!」



本来ならそのまま嘔吐していてもおかしくない威力を受けても気合いで持ち堪え、再び全力で親子がぶつかり合う。


殴り殴られ、躱し躱され。


本来なら止めなくてはならない状況であるのは間違い無いのだが出来なかった。


父と子の10年近くもすれ違っていた心が、自分達なりの不器用なやり方で語り合っているように見えたからだ。


お互いの攻撃を受け、感じる痛みは尋常じゃないはずなのに、2人の顔にあったのは苦痛ではなく『誇らしさ』だった。


父は、自分の子供が強くなったことに。


子は、自分の父親が強いことに。


そして、父と子の激闘も終わりを迎える。



「うぐおっ!!」


父のパンチを躱しきれず、モロに受けてしまった息子はその勢いに負けて後ろへこけてしまう。


すると、いつもポケットの中に入っていたペロペロキャンディが床に落ち、散らばった。



「なっ! 浩二、お前それは……」


「はぁ……はぁ……ああ、そうだよ」



痛みに負けず立ち上がり、呼吸を整えてからその続きを父に語る。



「俺にある、唯一の母さんとの思い出だ」


「……。」


「だからさぁ……母さんに辛い思いをさせたあんたを、親父を許すわけにはいかねぇんだよ!!!」



立つのにもやっとのはずが、想いを乗せた一撃は勢いよく、そして洗練されたものだった。



「ぉおおおおおおおおっ!!!」


そんな一撃に反応出来なかった父は、頬にくらった衝撃で口を切り、勢いよく床へ倒れ込んだ。



「いってぇ……なぁ……」



立ち上がらない父を見て、息子も床に寝転ぶ。



「馬鹿言ってんじゃねぇよ。こっちの方がよっぽど痛てぇっての……」


「ははは……やっぱ男は拳で戦ってこそだよなぁ」


「ちっ! 悔しいが、それには同感だぜ。……でも」



息子は大きく息を吸って、静かに優しく吐くようにして言った。



「悪くねぇ同感だな」


「ふっ……」



こうして10年近くすれ違って、的外れな衝突ばかりを続けていた親子の不器用な語り合いは終わった。


……のだが。




「男として結構いい場面で大変申し上げにくいんだけど、お二人ともちょーっとそこから離れていただけますかねー?」



針岡先生はまさに「言いにくい」ような口調で言ったにも関わらず、顔だけは真剣だった。



「先生。どうかされたんですか?」


「んー? 透夜が短時間だけど、かなり全力を使っちまったみたいだからさ、ちょっとここから良くないことが起きる……かも」


「え、それってどういう……?」


「ほーらきた」



黒い魔人と化したままだった黒山はゆるりと立ち上がり、辺りを見回して獣のような咆哮をあげた。



「ゔぉぉおおおおお!!!」



そんな黒山の姿を見て、状況の悪さを身に感じた私は先生に質問することしか出来なかった。



「先生! あれは一体!?」


「透夜には俺たちの世界でも珍しい人間で、能力を2つ持ってやがるんだ。……そんで、その2つの力を使って生まれるのがアレだ。アレはもう黒山 透夜っていう人間じゃねー」


「えっ? ちょっ、どうすれば……」



黒山でなくなった『黒い魔人』は鎌田の能力に驚いて隅で縮こまっていた清村に狙いをつける。



「ゔぉぉおおおおお!!!」


「な、なに? こんなの聞いてないって!! ……ちょっと誰か助け……」



『黒い魔人』は一瞬で清村に近付き、片手で首を持ち上げた。



「く、くるひ(苦し)……」



このままでは清村が死んでしまう。


助けなきゃいけないのに、私の足は『黒い魔人』の禍々しさに怯えて動けなかった。


しかし、真悠は違った。



「黒山君! このままだとたくちゃんが死んじゃうからやめて!!」


「真悠!!」



そう言って真悠は『黒い魔人』に向かって叫びながら近付いて行った。



『黒い魔人』は、狙いを清村から真悠へと変えて、飛びかかる。



「真悠ー!!!!」



絶対絶命の状況。私は大親友のピンチになにも出来ず、目を逸らしてしまっていた。


すると、10秒近く経っても嫌な音が聞こえてこなかったので恐る恐る真悠の方を向くと……。



「やれやれ。備えはしておくものだね」



『黒い魔人』は空中のまま固まり、『黒い魔人』と真悠の間に、鎌田でも清村でもない男が突然現れた。


私も真悠も、その人のことはよく知っていた。



(りょう)兄ちゃん!? どうしてここに?」


「危ないところだったね。間に合って良かった」



雪消(ゆきげ) (りょう)。瑠璃ヶ丘高等学校の生徒会長で、私と真悠にとっては2つ歳上のお兄ちゃんのような存在。……と言っても、中学生になってからあまり遊ばなくなってしまったが。



「さて、黒山の事は私に任せたまえ。針岡先生、鎌田親子と彼女らを安全な場所へお願いします。……清村君は」



清村がいたはずの場所には誰もいなかった。おそらく、涼兄ちゃんが来たタイミングですぐに逃げてしまったのだろう。



「涼兄ちゃん! 清村を追いかけなきゃ……」


「その必要はないよ。後のことは私に任せて、詩織は真悠と一緒に保健室へ向かいたまえ」


「わ、わかった! 真悠、大丈夫?」


「う、うん! ちょっと恐かったけど、大丈夫!」



私は真悠に肩を貸して立ち上がり、鎌田親子の様子を見るが、どうやら鎌田親子も辛うじて自力で歩けるようだったので、ギリギリまだ授業中で静まっているうちに保健室へと向かった。


--------------------


消毒や絆創膏などの治療を受けた鎌田親子は、3時間目が始まってから5分後、人目がつかないうちに帰宅したようだ。


私と真悠の2人も授業へと戻るべきなのだが、クラスメイトから『忘れられている』状況からすると授業に出るのはまずいらしく、針岡先生は3時間目を担当する先生にも能力を使ってもらい、黒山が戻ってくるまでの間、保健室で過ごすことになった。


普段は、サボりにうるさく保健室で過ごす機会など滅多に与えない保健室の先生だが、どうやら事情を知っている立場の先生だったようで「仕方なく」使用を許可してくれた。



「しっかし、よくわからない状況になってしまったものね」


「うん……。黒山君、大丈夫かな?」


「あいつ、とんでもないわね。下崎の時にも驚かされたけど、今回も驚かされたわ」


「……涼兄ちゃんも、黒山君と同じなのかな」


「あ〜。確かに、あの状態の黒山を止められるってことは只者じゃなかったのね。涼兄ちゃんが中学生になってからあまり関わりが無かったからわからなかったけど」



下手に首を突っ込んだのは私と真悠なのだが、まるで私と真悠だけ知らないことが多くて置いていかれているように感じた。


……それが少し、悔しかった。


--------------------


鎌田親子と、針岡、詩織と真悠の5人を保健室へ逃がした後のこと。


まだまだ暑さが残るはずの時期にも関わらず、会議室の気温は冬並みとなっていた。



「やれやれ。ここまで私に力を出させるのは後にも先にも君くらいだろうね、黒山」



会議室には、暴走中の黒山と雪消。鎌田にやられて気絶している先生2人しかいないはずなのだが、詩織達が去った後、私服姿の女子が1人、会議室へ入ってきた。



「遠路遥々申し訳ないね、小泉 梨々香さん。早速だが、彼の動きが止まっているうちにお願いしたい」


「わかりました」



雪消のお願いに頷いた梨々香は、鞄の中からある物を取り出す。


それは……「魔法ステッキ」


おもちゃ売り場で見かける、魔法少女に憧れた女の子向けに作られたおもちゃ。


……のように見えるが、梨々香の自作である。


梨々香は、そのステッキをいかにも「らしく」振ると「リリカ☆チェンジ」と言って変身した。


常識的に考えれば、ただの痛い……痛すぎる女子の振る舞いだが、実際に変身しているのでどちらかと言えば、驚きの方が多いだろう。


ピンクの淡い光に包まれ、胴体、腰、足、手、頭の魔女帽子、胸のリボンの順番で私服から変わっていった。



「奇跡を起こす魔法をあなたに……! 魔法少女ミラクル☆リリカ! ここに参上!!」



魔法少女として決め台詞と決めポーズをばっちり決めたミラクル☆リリカは、『黒い魔人』に魔法を掛ける。



「ミラクリウムチャージ! ……行くわよ! スーパーミラクル☆リリカマジック!!」



ステッキの先から、ピンクの強い光が放たれ『黒い魔人』を包み込む。



「ラァァァァブ・フィニィィィィッシュ!」



気合いと愛がこもった掛け声と共に、『黒い魔人』を包んでいたピンクの光は爆散し、中から姿を戻した黒山が床へ落下した。



「いてっ!」


「……すまないが、私は後始末があるので2人の先生を連れて失礼させてもらう。梨々香さん、ありがとう」



雪消はミラクル☆リリカにお礼を言うと、丁度会議室に入ってきた針岡と手分けして、2人の先生を連れ出した。



「リリカ☆リリース」



魔法少女から普通の女子へと戻った梨々香は、黒山の元へ歩み寄る。



「ん……? この感じは梨々香か?」


「そうだよ、透夜。久しぶりだね!」


「あの状態を解除できるのはお前だけだもんな……俺は梨々香の代償を『拒絶』する」



黒山は歩み寄ってきた梨々香の右手をどうにか掴み、梨々香に課された代償を『拒絶』した。(実際は「させた」が正しいが)


「ありがとう、透夜!」


「礼を言うのは俺の方だ。ありがとう、梨々香」


「よいしょ……っと」


「ぬおっ!?」



梨々香は能力の反動で動けない透夜をうつ伏せから仰向けにし、頭を持ち上げて床と頭の間に膝を入れた。……つまり、膝枕だ。



「ちょっ、梨々香。いきなり何を……」


「透夜、よく聞いて」


「……?」


「今回は雪消さんが『もしかしたら』って呼んでくれたから良かったけど、前みたいにいつでも隣にいて、いつでも駆けつけられるわけじゃないの。……だから、どんな状況にあっても、梨々香が隣にいる時以外は絶対に『孤高となる為の拒絶』と『全てを覆う為の黒』の併用はやめて」


「だがそうでもしないと……」


「透夜。確かに、それを使えば誰かを助けられるかもしれない。だけど、助けた人の倍以上は誰かを傷付けてしまうことになるの」


「……。」


「梨々香の連絡先、教えておくね。……だから、どうしても併用しないといけない時は梨々香を呼んで? 梨々香はいつでも透夜の味方だから。約束して」


「……わかった」


「もし、約束を破ったら梨々香の魔法で透夜の能力を全て消すからね?」


「うっぐ……。ところで梨々香」


「うん?」


「高校生にもなって魔法少女は厳し……」



梨々香は黒山の言おうとしたことを察したのか、全てを言われる前に右手に持っていたステッキの尖ったところで黒山の額を攻撃した。



「んんんんぐ……」


「今度言おうとしたら、これだけじゃ済まないんだから!」



不意打ちによる痛みで黒山は額を抑えて悶えていた。



「それじゃあ、梨々香は帰るね」


「いってて……ああ、ありがとな」


「うん」



きっちり来校者の札をぶら下げた梨々香は、来客者用の玄関がある方向へと向かって行った。


--------------------


黒山が保健室へやって来たのは、3時間目が終わる15分ほど前。


色々と説明して欲しいところではあったが、黒山曰く「時間が無い」のだそうだ。


3時間目終了のチャイムと同時にクラスメイトにかけていた『忘却』を拒絶(正確には忘れられていたことを拒絶)し、2時間目を担当した先生にはすれ違いざまにさり気なく『拒絶』をした。


3時間目を担当していた先生に関しては、針岡先生がどうにかしてくれているはずなので、ノータッチだ。


午後の授業から通常通り受け、気付けば放課後となっていた。



「黒山君、その後鎌田はどうなるの?」



私と真悠は、放課後になっても窓の外を眺めていた黒山に話しかけた。



「俺にはまだわからない。鎌田の能力についての記憶を消すことが出来ても、退学は免れないかもしれないな……」


「そんな……」


「いずれにせよ、明日辺りには決まるはずだ。2人とも今日はもう帰って休んだ方がいい」


「うん、わかった。……でもその前に」


「なんだ?」


「ちょっと、顔貸しなさいよ」


「……?」



私は真悠と黒山を連れて、人気のない図書館裏へと向かった。


--------------------


「待ってくれ、梶谷。一体何を……」


「あれを見て」


「……?」


本当は黒山だけその方向を見てくれてれば良かったのだが、真悠も何があるのか気になったようで同じ方向を見ていた。


……まぁ、何もないのだが。



「せぇぇいっ!!!」


「ぐぉっ!?」



私は右側にいた黒山の左ほほを全力で殴った。


大した威力ではないかもしれないけれど、一発殴っておきたかった。



「い、いきなりなんだ梶谷!?」


「暴走してた時の記憶があるのかどうかは知らないけれど、あんたは真悠を襲おうとしていたのよ! 本来、守らなければならない立場であるあんたが危険な目に遭わさせてどうするの!?」



私は真悠を危険な目に遭わせた黒山に怒りを感じていた。


しかし、事実を言って仕舞えば、そもそも私と真悠が普通に授業を受けていれば危険な目に遭うことは無かったのだ。


だから、これはただの八つ当たりに近く、そして黒山よりも遥かに私たちの方が悪いのだが、黒山はそのことを指摘せずに「すまなかった」とだけ言った。



「ちょっと、しーちゃん! なにもぶたなくたっていいじゃん!」


「私相手だったらともかく、真悠に恐い思いをさせた時点で私の中では有罪だわ。……これが私なりのけじめ」


「し、しーちゃん……」


「だからもう、この件についてはこれでおしまい。さ、帰るわよ」


「う、うん」



私は真悠を連れて、その場を去ろうとするがもう1つだけふと気になったことがあった。



「そういえば、黒山君」


「……なんだ?」


「あんたは、お父さんと喧嘩することってある?」



残酷な質問だった。私は自分が思っているより、黒山のことを知らなかったことを痛感した。



「ない。……というより、いない。俺は親の顔を知らない」


「え、あ……ごめん……」


「気にするな。俺も後始末があるから、ここでお別れだ」


「あ、うん、じゃあね」


私と真悠は、黒山が去っていくのを見送った。


彼の背中がほんの少し寂しそうに見えたのは、きっと私の気のせいではないだろう。

読んで下さりありがとうございます! 夏風陽向です。


次回で必ずこの章を終わりにします! 本当です、信じてください……!!


実はこの章を書き始めた辺りから、鎌田親子の喧嘩シーンは書きたいと思っていました。


私が学生の頃には既に「言ってわからなきゃ体で教えろ」という考えは否定的なものとなっていましたが、家……というより、母はずっとその考えの持ち主で、悪いことをすればよく怒られ、叩かれたものです。


しかし父はあまりそういった考えの持ち主ではなかったようで、元から教育自体に興味がない人間だった上に、社会人としての「弱い部分」が目立っていたので嫌いでした。


「いつか絶対、一発はぶん殴ってやろう」と思っていましたが、それも叶わず、気付けば私は社会人になって2年(就職してから今年で3年目)経っており、ほんの少しだけ「あの時、父ちゃんはこんな風に思っていたのかなぁ」って思う時があります。


反抗期を過ごした方も、そうでない方も、ご両親が元気でちゃんと話せるうちに少しでも親孝行をして、大切にしてください。


それではまた次週もお楽しみに!

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