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隣の転校生は重度の中二病患者でした。  作者: 夏風陽向
「行き過ぎた反抗期」後半
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行き過ぎた反抗期 part9

旧・虹園塾に着くと、黒山以外のメンバーは既に揃っていた。


しかしそこには、針岡の代わりに黒山と同じ制服を着た男が1人。


この場にいる4人全員はもちろん、瑠璃ヶ丘高等学校の生徒であれば誰でも知っているその男の名は……



雪消(ゆきげ) (りょう)……」



黒山は前任者である雪消を見て、ぼそっと彼の名を呟いた。



「ああ、ようやく揃ったね。それでは始めるよ? 黒山、早く席についてくれたまえ」


「……」



雪消は黒山が黙って席に着くのを確認すると、いつも針岡が立っているその場で話を始めた。



「さて、緊急事態だということで集まってもらったわけなのだが、針岡さんここに居ないことから君達も大体の察しがついているだろう。……そう、生徒が病院送りになってしまう事件が起きた」



黒山、奈月、沙希、奏太にとって生徒が病院送りになってしまうような大きい事件は初めてだ。


一方、現時点で3年生であり、つい1ヶ月前まで生徒会長と代表を兼任していた雪消にとっては珍しいことではあるが、初めての経験では無かったので比較的落ち着いていた。


しかし、彼らにとって今回の件は痛恨だと言える。


本来、常識では解決できない事件を防ぐのが彼らの仕事であって、何かが起きてからでは遅いのだ。

ましてや、今回の件に至っては生徒が病院送りになるほどなのだから、病院送りとなった生徒の親も必ず出てくることになる規模となると、針岡を含め彼らだけでの解決は難しくなる。



「さて……早急に対応しなくてはならなくなってしまったが、まずは何が起きたのかを君達に報告しなくてはならないな」



雪消は4人の顔をそれぞれ見た後に、今はもう使われることがない古い黒板を見ながら、緊急事態の内容を語った。


昼休み……2年生の5人が1年生1人を校外へ連れ出す場面から話が始まる。


現場となった堤防沿いにある橋の下で2年生5人が1年生1人に何かしら脅迫をしているところ、本来謹慎で自宅待機しているはずの鎌田が現れ、2年生5人を病院送りにしたという話だ。

ちなみに、鎌田は1年生の清村を庇ってということではなく、謹慎処分となってしまった腹いせにたまたま見かけた生徒に暴力を振ったとされ、清村はどうにか学校まで逃げることが出来た。


これは全て清村の供述をもとにしており、5人に暴力を振ったのが鎌田であるという話も5人のうち1人から聞いているらしい。



「以上が、我々で把握できていることだ。瑠璃ヶ丘高等学校で行われている職員会議もこの件についてのものとなっている。そちらは針岡さんが当たってくれてはいるが、鎌田の処分は免れないだろうな」


「待ってください!」



雪消による報告に意見を出したのは、沙希だった。


前回の定例報告会で『繋がられる為の類似点』を使って鎌田の思考を読み取った沙希にとってはあり得ない話だと思ったようだ。



「前回、鎌田の思考に謹慎処分による怒りはありませんでした。……何かの間違いなのでは?」


「俺も同意見だ」



沙希の意見に賛同したのは黒山。


ただし、黒山がそう思う根拠というのは感情云々ではなく、清村の能力だった。



「清村というやつには恐らく、人をコピー……あるいは成り切る能力があるんじゃないのか? その能力を使って2年生に鎌田の偽物を仕向けた」



すると奏太は、その意見に納得したようで「そうか! だから写真も撮れたわけか!」と言った。


彼らの推理はなかなか的を射たものではあるが、現在優先されるべきことは清村の確保ではないということを雪消は指摘する。



「それはひとまず置いておくんだ。今、優先するべきことは明日告げられる鎌田の処分をどうするかだ。罪もない彼の人生が棒に振られることを我々は許してはならない。……ついては黒山。明日、学校で先生方から鎌田に処分が告げられる。そこに同室するんだ、何があるかはわからないからな」


「……了解」


「3人はそれぞれ普段通りに生活してくれたまえ。鎌田の処分を乗り切った後、清村の確保へと移る予定だ。……それでは解散」



こうして臨時報告会は終了し、奏太、奈月、沙希の順に旧・虹園塾を去る。


後に続いて黒山も退出しようとすると、雪消に呼び止められた。



「待ちたまえ、黒山」


「……なにか?」


「転校して以来、君は詩織と真悠の2人と関わっているらしいね。……そして、針岡さんの提案で協力者として協力させたいという話も聞いている」


「それが何か?」


「彼女らは私にとって妹も同然の存在だ。出来れば危険なことに巻き込みたくはない。……それとなく首を突っ込まないように諭してくれないだろうか?」


「……既にやったが効果は無かった。むしろ、俺が悪いような空気になったのだが」


「そうか……では致し方がない。できるだけ彼女らに危害が及ばないように配慮してやってくれたまえ。もし、彼女らに何かあれば加害者はもちろん君にも容赦はしない。……いいね?」


「……。」



黒山は無言で頷く。


黒山の了承に安堵した雪消は、その場を去ろうとするが何かを思い出したかのように「ああ、そうだ」と言って扉の前で止まり、黒山にもう1つ忠告をした。



「黒山、君は上級生に対して敬語を使うことを覚えたまえ……ではまた」



黒山は、雪消と帰りが被らないように彼が去った後時間を置いて旧・虹園塾を後にした。


黒山は決して敬語が使えないわけではない。


しかし、針岡や雪消といったあまり尊敬出来ない人たちに対して敬語を使いたくないという彼なりのポリシーがあるのだ。


黒山と雪消は片手で数えられる回数しか会っていないが、黒山にとって雪消は苦手な部類の人間だった。


そんな彼からの忠告を真摯に受け止めることは、きっと一生無いだろう。


--------------------


一方、その頃……。


黒山に言われて今日は素直に帰宅している私と真悠だが、どうやら真悠は清村のことが気になるらしい。


このまま帰宅しても、きっと真悠はもやもやしたままなのだろうと私は思い、真悠に1つ提案をする。



「真悠、清村の事が気になるのはわからなくもないけれど、黒山の言う通りあまり関わらない方がいいわ」


「で、でもしーちゃん……」


「ま、私たちの役割はあくまで鎌田を支える事だから、鎌田と何を話しても誰にも文句は言われないわよねー?」


「えっ? えっと……なんでそこで鎌田君が出てくるの?」


「簡単な事よ! 2年生達は鎌田のことで清村にご立腹だったのだから、必ずそこに鎌田本人が関わってくるに違いないわ! ほら、鎌田のいないところで清村をシめたら、筋が通らないでしょ? 被害者はあくまで鎌田なのだから」


「あっ、そっかー! じゃあ、鎌田君の家に行きますか!?」


「そうと決まれば、行きましょうか! ……真悠、しっかり私に付いてくるのよ!」


「うん!!」



こうして鎌田と話をする為、鎌田家に向かった私と真悠だが、あと少しというところで異変に気付いた。



「あれ? なんか、見たことあるような人が立ってない?」


「うん? あれって、うちの学校の先生だね! ……もしかして、疑いが晴れたり?」


「いや、まさかそんなことは……。とりあえず、行ってみましょう!!」


「うん!」



鎌田家に近付くにつれて、声が聞こえてくる。


すると、急に鎌田の怒鳴り声が聞こえてきたので私と真悠は驚き、その場に立ち止まった。


幸い、先生の声も聞こえてくる距離まで来たので、様子を見ることにする。



「だから、俺じゃねぇっつってんだろ!?」


「なら、お前は清村と2年生が堤防沿いにある橋の下で揉めていた時、家にいたのか?」


「あ? そん時は確かにその場にいたけど、あいつら別に揉めてなかっただろ!?」


「つまり、自宅待機にもかかわらずお前は家を出たということだな?」


「ああ、そうだよ! つーか、なんであいつらが病院送りになってんだよ!?」


「だから、それはお前がやったんだろ? 清村と現在入院している2年生の1人からお前がやったという供述は得ているんだぞ?」


「意味わかんね! 俺は何もせずに大人しく家に帰ったっての! 何回この問答繰り返すつもりだよ!?」


「喫煙の時同様、あくまで自分のしたことを認めないつもりなのだな」


「だーから、ちげぇって言ってんだろ!」


「……まあいい、続きはまた明日学校でだ。そこでお前の処分も決まるだろう」


「ちっ……! てめぇらと話してるとイライラしてくるぜ! さっさと帰りやがれ、クソ教師どもが!」


「言葉に気をつけろよ、鎌田。それじゃあな」


「2度と来るんじゃねぇ!!」



正直「近所迷惑なのでは?」と思ってしまうほど大音量でのやりとりだった。


鎌田と話し終えた(と思われる)先生がこちらに向かって歩いてきたが、近くに隠れられるものはない。


仕方なく、私は堂々と立ち(真悠は若干私に隠れ気味で)先生と一戦交える覚悟をする。


すると案の定、先生が私たちに話しかけてきた。



「うん? お前らうちの生徒だな……こんなところで何をしてる?」


「帰宅しているところです。こっちの方が近道なので……」


「……。」


「……。」



沈黙。流石に「やばいか!?」と思わされたが、先生は意外にも「気をつけて帰れよ」の一言だけ残し、この場を去って行った。


私と真悠はあえて先生へと振り返らず、真っ直ぐ鎌田家の玄関へと向かうが、そこに鎌田の姿はなく既に扉を固く閉めた後だった。


インターホンを鳴らし、反応を待つ。


すると、カメラ越しで私と真悠の姿が見えているのか、鎌田は比較的落ち着いた声で反応した。



「ああ、お前らか。……悪いな、今日は何か話ができるような気分じゃねぇ」


「そ、そう? 大丈夫? ……そういえば、犯人のことなんだけど」


「ああ、清村だろ? 2人には迷惑かけちまったな、悪い。でも、これから俺に関わらない方がいい。お前らも同罪だと思われちまう」


「わ、私たちはそんなこと気にしないよ? ね、しーちゃん?」


「もちろんよ!」


「お前ら……」



私と真悠は鎌田が無実だということを知っている。だから、私と真悠の2人だけでも鎌田の味方でありたい。


……そう思ったのだが。



「お前ら、もう2度と俺に関わるんじゃねぇ。お節介なんだよ!」


「なっ……!?」


「わかったらさっさと帰りやがれ!」



鎌田はそう言ってインターホン越しでの会話を終了した。



「しーちゃん、あのね。鎌田君はきっと……」


「わかってるわ、真悠。今日はおとなしく帰りましょ」


「うん……」



私も真悠もわかっている。今の言葉が鎌田の本心からでた言葉ではないことに。


だから私は……。



「真悠、さっき先生と鎌田が話していた内容からすると、鎌田は明日学校に来るわ。……先生になんと言われても鎌田の無実を主張しよう?」


「うん……わかった!」



私と真悠は来た道を戻り、自宅の方向へと向かった。


私の予想が正しければ、明日必ずそこには黒山がいる。


今度こそ彼と「協力」をして被害者となった鎌田を救う。……そう心に誓ったのだった。


--------------------


翌日。


結局、今日のことを考えすぎて昨晩はあまり眠れなかった。


もしかしたら目の下にクマが出来ているのかもしれないが、普段気にしているようなことにも関わらず、昨晩から気にすることができるほど心に余裕がなかった。


学校に着いたらまず、いつ鎌田が来るのかを針岡先生に聞こう。そこから私と真悠の戦いは始まる。


いつも通り真悠と登校し、私が考えた今日の段取りを話すと、ちょうどチャイムが鳴る3分前くらいに針岡先生が教室に入って来た。


いつもなら、チャイムが鳴るまで真悠と話しているのだが、今日に限ってはすぐさま針岡先生の元へ行った。



「おはようございます、先生。あのー……」


「おー、おはよー。で、なんか用か?」


「鎌田は、今日いつ頃来るんですか?」


「ん? なんであいつが今日来ることを知っている? ……まぁ、その辺はいいとして。事態は非常に深刻だ。正直俺もお手上げ」



針岡先生は両手を頭の横まであげて、大袈裟に「お手上げ」の意思を伝えて来る。



「私と真悠はこのまま鎌田が退学にされたりするのは嫌です。どうしても止めたい」


「……本当に栗川もそう思ってるのかー?」


「もちろんです! せんせー!!」



針岡先生は私と真悠が持つ意思の硬さを感じ取ったのか、溜息を吐くと共に上を見上げてこう言った。



「やつは10時頃に来る。授業時間中にだ。その時だけでも、教科担任と3組の生徒の記憶からお前達2人と透夜を消す。……だけど、俺には「その時だけ」という条件で力は使えねー。だから、透夜に必ず協力を得るんだ。そしたらいいぞ」


「わかりました!!」



私と真悠は針岡先生に力強く返事をして、席に着く。


まずはショートホームルームだ。それが終わり次第、黒山に話をしよう。


--------------------


ショートホームルームでは、私と真悠にとって足りなかった情報を得ることが出来た。


昨日の帰り、鎌田と先生(真悠曰く)が言い争っていたことから、鎌田は何かしらの疑いに掛けられていることがわかったが、実際に何の疑いに掛けられているかはわからなかったのだが、針岡先生が昨日の昼休みあたりに何があったかを話してくれた。


針岡先生の話は「とある河川敷にある橋の下で暴力事件があった」という話だけで、誰が誰に暴力を振ったかまでは言わなかったので、私と真悠……あと恐らく黒山以外には犯人は愚か被害者もわからないだろう。



「ってーなわけだから、先生達は大騒ぎ。皆んなは変なことやらかさないように気をつけてくれよなー? んじゃ、授業の準備に入ってくれ」



朝のショートホームルームは終わってから私は自分の席で真悠を待ち、2人揃ったところで黒山に話しかける。

読んで下さり、ありがとうございます! 夏風陽向です。


次回、戦闘入ります。


予定では今回から入れる予定だったのですが、思ったより長くなってしまいまして……。


今後の展開をお楽しみに!

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