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隣の転校生は重度の中二病患者でした。  作者: 夏風陽向
「行き過ぎた反抗期」後半
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行き過ぎた反抗期 part8

5人の2年生男子に連れていかれた清村を私と真悠は追わなかった。


清村に対して「自業自得」だと思ったというわけではないのだが、あまりにも衝撃的でまともに動けなかったのだ。


犯人は清村。しかも、写真は自然に撮れたものではなく、能力によって撮られたものだ。


つまり清村は「重度の中二病患者」だということになる。


驚きのあまりに謎は深まり、思考もまとまらないまま昼休みは終わってしまい、4時間目が始まった。



--------------------


一方その頃。


謹慎処分を受けてしばらく自宅でおとなしくしていた鎌田(かまた) 浩二(こうじ)は、自室でイラつきながら外出の準備をしていた。


何故彼がイラついているのかというと、話は今朝の出来事へと巻き戻る。


浩二は謹慎処分中でも、夜遅くまで起きて、昼まで寝ているということはなく、生活習慣はきっちりしている。

それ故、ちょうど出勤する父と家の中で顔を合わせてしまったからだ。


基本的にそれだけでも浩二の機嫌は斜めになるが、今日はさらに小言を言われたので頭にきていた。


浩二は「大人」という存在を毛嫌いしており、一層父のことを嫌っている。


それでも幼き頃……まだ母親がいた頃は両親とも大好きだったのだが、両親の離婚をきっかけに父との仲が悪くなった。


2人が離婚するまで浩二は「夫婦仲がよろしくなかった」ことに気付かなかったのだが、その原因が父にあったことを知ると、今までのように父を見ることが出来なくなっていた。


今朝を含め、父に小言を言われる度に浩二は「自分のことを棚に上げて何を言ってんだ」と心の中で思い、父が……もっと言ってしまえば、大人が嫌いになっていく。


まだ16歳の浩二にとって、頼れる信頼のできる大人など、この世で1人もいないのだ。


何とも言えない。どこにぶつけたらいいのかわからない怒りを持ったまま、準備を終えた浩二は家を出ようとした、その時。


携帯が鳴った。相手はいつも学校でつるんでいる2年生の1人だった。


話によると、「鎌田を停学までに追い込んだ犯人を捕まえたので、河川敷の橋の下まで来てくれ」とのことだった。


家の近くに「河川敷の橋の下」など沢山ある。しかし、彼らにとってのその場所は一箇所のみが該当しており、気に入らない奴をシめる場所として利用していた場所だ。


浩二は勢いよく玄関の扉を開けて急いで家を出た。


--------------------


4時間目が終わり、お昼休みのことについて真悠と話していたが2人の中ではうまくまとまらなかった。


ちょうど隣には窓の外を見ている黒山の姿があったので、真悠と一緒にお昼休みの一件のことを話すことにした。



「ねえ黒山君。ちょっといい?」



黒山は無言だったが、顔で「どうした?」と返してこちらを向いた。



「えっと……ちょっとね」


「……。」



お昼休みのことを話している間、彼は終わりまで無言で聞いてくれた。


自分自身、何が何だか状況が整理できてないため、説明も拙いものとなってしまったが、それでも彼は理解してくれたようだ。



「……というわけで、犯人は2年生に連れていかれちゃったのよね」


「そうか……」



私にとっては清村がどうなろうと知ったことではないので気付かなかったが、基本的に誰にでも優しくできる真悠は心配そうに言った。



「たくちゃん……恐い5人に連れて行かれちゃったけど、暴力を振られていないかな、大丈夫かな……」


「んー、そうね」



すると黒山は意外にも真悠の心配事を否定した。

それには根拠……というより、清村の能力を把握した上での予想があった。



「清村……が誰だかはわからないが、そいつの心配はいらないだろうな。それよりも、5人の心配をしたほうがいい、場合によっては危険があるかもしれない」


「黒山君、それは一体……?」


「これ以上は危険だ。関わらないほうがいい……」



私は、この話に夢中になっていたばかりにここで話を切られてしまったのが衝撃だった。


この男は、ここまで私と真悠に知られておいて何を今更「関わらないほうがいい」と言うのか。


……と思ったのが、どうやら今回の「関わらないほうがいい」というのは、進路指導室でのそれとは違うようだ。


黒山はそこで話すことをやめず、私と真悠に言った。



「2人は鎌田の方を頼む。……きっと今のあいつを支えられるのは2人だけだ。もしかすると、力を発現せずに済むかもしれない。清村の方は俺に任せて欲しい」


「適材適所……と言いたいわけ?」


「そうだ……力を発現せずに済むのならそれに越したことはない。それは俺にできないことだからな」



最後にそう言った彼の顔は、少し悲しそうな顔をしていた。


そして一度目を瞑り、開けるとまた窓の外を眺め始めた。


つまり「話は終わりだ」と言いたいのだろう。なんとなくだがそう感じたので、私も真悠も席に戻って5時間目の準備を始めた。


--------------------


「来たな、鎌田! 犯人はこいつだってよ?」


「あぁ?」



河川敷の橋の下に着くと、通行人に見られないよう、上手く5人が1人を囲んでいた。


その中央で囲まれていたのが清村だった事に鎌田は表情に出さない程度で驚く。



「……どういうつもりだ、清村?」


「どういうつもりも無いよ、僕は僕なりのやり方で君に力を見せようとしただけ」


「そうか……」



あっさり納得する鎌田に清村は眉を「ピクリ」と動かしたが、2年生である5人のうち1人が清村の態度が気に入らないのか清村に暴力を振ろうとする……が。



「てめぇ、なんだその態度はぁ!?」


「おいやめろ!」



拳を握り、すでに振りかぶっていた2年生の1人を鎌田が止めた。


その行動に清村を含め、鎌田以外全員が驚いた。



「なんでだよ、鎌田!?」


「いくら頭にこようが、自分より弱い奴に暴力を振るおうとするんじゃねぇよ。……男としての格が下がるぜ?」



鎌田は決して「自分より弱い奴」に暴力を振らない。それは鎌田がずっと心に決めていたルールの1つだった。


鎌田ら1年生が入学する前、現在2年生である彼らはこの場所で、気に入らない奴を片っ端からシめていたのだが、鎌田が彼ら5人に勝ってからは、鎌田のルールに従って行動している。


彼らに提示した鎌田のルールはこういうものだ。


1.自分より弱い奴を相手に暴力で解決しようとしない。


2.もし、暴力が伴うことであるならば必ず「1対1」で勝負をすること。


3.自分と相手以外の人を巻き込むな。ただし、1と2に反しない程度であれば仲間は別。


……という鎌田にとって最低限のものだった。


今回も鎌田の中では適用されており、清村に「仕返し」をするつもりは無い。


だが、鎌田はそれで良くとも2年生の5人はそうではなかったようだ。



「だけど、鎌田よう! 幾ら何でも今回は見過ごせねぇよ!!」


「俺の為に怒ってくれてるのは嬉しいぜ? ……でもよ、だからと言ってお前らの男としての格を下げていいわけじゃねぇ。おい、清村! てめぇが俺になんの恨みがあるのかは知らねぇが、今回は見逃してやるからさっさと学校戻れよ? 俺も今日は帰る」



清村の立場になった時、普通の人なら好都合な展開だろう。


鎌田は「男であろう」とすることに拘りすぎており、自分を停学処分に追い込んだ同い年の人間さえも許してしまうのだから。


しかし、あくまで「普通の人なら」という話であって、最早「普通で無い」清村にとっては不都合な展開となっていた。


清村の考えたシナリオでは、自分がここで暴力を振られるはずだった。


いくら弱いものいじめが嫌いな鎌田でも、怒りに狂って自分を殴るだろうと踏んでおり、その場面を他の生徒から清村が連れ出された報告を受けて駆けつけた先生に目撃させ、彼らを退学にさせようと思ったのだ。


しかし、実際はシナリオ通りにいかなかった。


その場を去ろうとする鎌田に、清村は一言だけで警告をする。


というのも、鎌田が「直接」暴力を振らなかったことは「手間が増える」という意味で痛手だっただけであって、用意周到な清村はプランをもう1つ用意していたため、状況的には既にプラン2へと移行出来る状態だったからだ。



「鎌田君、本当にいいのかな? きっと君は後悔するよ?」


「……別にお前に何されようと、俺はどうってことねぇよ。じゃあな」



こうして鎌田は去っていった。そして、ここから清村のプラン2が始まる。


鎌田が去っていくのを見送った5人が学校へ戻ろうとするのを清村が止める。



「待ってください」


「あぁ!? もうてめぇに用はねぇよ。2度と俺たちに変なちょっかい出すんじゃねぇぞ?」


「いやいや、ここであなた方に行かれてしまっては困るのですよ」


「はぁ? てめぇ何を言って……」



5人が見た先……清村の隣には先ほど去ったはずの鎌田が立ってた。


正確には「清村の能力によって出てきた偽物の鎌田」なのだが「重度の中二病患者」のことを含め何も知らない5人にとっては、鎌田にしか見えなかった。



「あれ、鎌田? お前さっき帰らなかったか?」


「……。」



鎌田(偽)から返事はない。


清村が出せるコピー人間は完全ではなく、指定したその人間のほんの一部しかコピーすることが出来ないのだ。


この鎌田(偽)にコピーされたのは単純な「力」。つまり、本人と同等の強さを持っている。



「さあ、鎌田君。僕を殴らなかったことを後悔するといい」


その言葉をトリガーに鎌田(偽)は動き出す。


--------------------


時は進んで放課後。


詩織と真悠に「明日、鎌田の様子を見に行ってくれ」と頼んで、黒山は気掛かりなことを確かめに行った。


実は、黒山が「清村」の名前を聞いたのは今回で2回目だ。


定例報告会で奏太に聞いた情報によれば、デパートで詩織を襲った2人組……彼らは過去に清村から「被害」を受けた者達だった。


黒山の予想では今回も「被害者」が出るかもしれないと思っていたのだが……。


動くのが遅すぎたようだ。


2年生の5人が清村を連れて行った場所を特定しようと、1組の生徒に聞き回っていたところに沙希から着信がかかってきた。



「……どうした?」


「透夜、緊急事態よ。針岡さんは職員会議に駆り出されているから参加はできないけれど、臨時の報告会を開くことになったわ。……すぐに来て」


「わかった」



黒山は通話を終了させ、他人からの視線と人間の限界を全て『拒絶』し、オリンピック選手もびっくりのスピードで、誰にも視認されずに「旧・虹園塾」まで走って行った。

読んで下さり、ありがとうございます! 夏風陽向です。


「行き過ぎた反抗期」も物語がかなり進展しました!


もう2回くらいでまとめて、3章に入る前に「行き過ぎた反抗期」に関する何かを出来たらな……と思っています。



物語にはあまり関係のない話ですが、色んなキャラが出て来たこの作品。まだまだ出てくる予定ではありますが、皆様は誰が好きですか?


「意外と針岡先生の適当さが好き」って答えてくれた方もいましたが、どうでしょう?



それでは、次回もお楽しみに!

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