行き過ぎた反抗期 part6
「能力を使って写真を撮ってまで退学にさせたい……ね」
黒山の報告を聞いてそう呟いたのは、紅ヶ原女子高等学校代表の1人・地嶋 沙希だった。
その呟きに黒山が頷く。
「1組の担任の発言からすると、鎌田を退学させたいと考えている人間は、1組にいるものだと思っている」
「目星はついているの?」
「残念ながらさっぱりだ。……だが」
黒山は、沙希の質問に対する答えの続きを奈月の方を見て言った。
「先日、デパート内で俺のクラスメイトへ能力を使った2人……あいつらが犯人への糸口に繋がると思っている」
その発言に今度は紅ヶ原女子高等学校もう1人の代表・天利 奈月が頷いて発言する。
「透夜の言う通り。……でも、詳しいことはボクもわからないから、その辺の情報は専門家にお願いしたよ! ……ね、奏太?」
奈月が黒山から奏太へと視線を移す。
すると、琥珀ヶ関工業高等学校代表である金子 奏太は3人をぐるっと見回してから右手を軽く挙げると「後で報告する」と言って、話し合いの進行を促した。
「……俺からは以上だ」
黒山も今回の報告内容は鎌田の件だけだったので、報告を終え着席する。
普段は司会進行兼アドバイザーである針岡だが、今回の件についてはまだわからない点が多いためか、次の報告へ移ろうとする。
「それじゃあ、次は奈月と沙希だけど……今回はどっちだー?」
「今回はボクが報告するね!」
紅ヶ原女子高等学校は代表が2人だが、別々に行動はせず、基本的には一緒に活動をしている。
今回の報告は奈月が担当するが、報告を担当する基準は、案件の内容的にどちらの能力が効率よく解決できるかによる。
奈月の報告内容は「デパートの件とその後の話」だった。
「この前の日曜、透夜と2人組のうち1人を確保したんだけど……驚くことに、2人はボク達とあまり歳が変わらなかったんだよね」
日曜に大人しめだった男の方を確保した奈月と黒山だが、その後黒山はこの件に関わっていない。
というのも、管轄的には紅ヶ原女子高等学校の管轄であり、日曜日はたまたま黒山が応援に駆り出されただけだった。
詩織をナンパした2人組は、元から問題視されており、今までの被害者が持つ記憶は針岡によって消されているとはいえ、放っておける問題ではなかった。
しかし、奈月の能力は至って戦闘向きだが、沙希の能力は全くもって戦闘向きではない。しかも、4人の中で奈月以外に戦闘向きなのは黒山だけだったので、黒山は応援に呼ばれたのだった。
確保したその後、相方を空間内から出させたところまでが奈月の報告だ。
「ボクからは以上だけど、沙希ちゃん。何か付け足しある?」
報告の内容的に、まるで沙希が何もしていない内容だったので、自分が何をしたのかということをまず付け足した。
「……まるで私が何もしていないかのようだったから、一応補足させてもらうけど。今回は私は、2人組がデパートに出現して梶谷 詩織ちゃんっていう女の子を襲うだろうという予測を立てたわ。まあ、外すことはあり得ないのだから、予測と言っていいのか微妙だけれど……それに」
「それに」の後に続いた内容は、黒山のことだった。
「それに、どこぞの鈍感野郎がまた女の子を落とした瞬間も確認したわ」
「どこぞの鈍感野郎」と言われて、一斉に同じ方向を見る。……もっとも、当の本人には自覚すらもないので、理解できない様子で皆んなを見ていたが。
「……というわけで、ボクと沙希ちゃんからは以上です!」
奈月の報告が終わり、着席を確認した針岡は、奈月と沙希の2人に質問をした。
「そういえば……迎えに行った後、ナンパ2人組がどうなったのかを具体的に聞いていなかったが、誰かに事前報告はしたのか?」
「ええ。その後の対処については、咲苗姉さんに確認はとってあるから、問題はないわ……もしかして、聞いてないの?」
「うんにゃ、全然?」
「……あてにされてないわね」
「なんだとぉ!?」
話の内容が逸れて、不穏な空気を漂わせる沙希と針岡だが、いい加減報告を終わらせてしまいたいのか、奏太が再び手を挙げて発言する。
「……そろそろ次行ってもいいか?」
奏太の発言に我に帰った針岡は両手を合わせて「すまん、すまん」と言ってから軽く咳払いをすると、奏太に手で「どうぞ」と伝えた。
その様子に呆れつつも、奏太は立ち上がって報告を開始する。
奏太の報告内容は「2人組の過去」についてだ。
琥珀ヶ関工業高等学校代表である奏太には『集められる為の硝子棚』という能力がある。この能力は相手を見ただけでその相手の個人情報を得ることで、自分の中のデータベースに保管することができる。
この能力の欠点は、「相手を直接見ないといけないこと」と「相手が知っていること・憶えていることしか情報を得られない」ことである。
奏太自身は「自分の好きな物をなんでも収集し飾るコレクター」に憧れてこの能力を発現させたが、実際は人の情報のみしか集められず、更に「人の情報以外どんなものに対しても収集癖が必ず湧かなくなる」という代償を支払ってしまっている。
それでも個人情報の収集が「情報屋」としての肩書きに繋がってしまっているため、本人にとって不都合なことはなかった。
奏太はこの能力を使って、詩織をナンパした男2人組のデータを入手した。
そして彼は、2人のデータからもしかすると、何かしら他の事件に関連してくる可能性があると思ったのだ。
「あの2人組……元々はそれなりに好成績なやつらだったが、あいつらは同じ塾に通っていた年下の男子を虐めてることが発覚して、志望校に受験すらさせてもらえなかったようだな」
奏太の情報に黒山が手を挙げて質問する。
「年下の男子を虐めたというだけで、志望校を受けさせて貰えないものなのか?」
黒山の質問にあからさまに嫌な顔をして奏太が答える。
「虐めたこと自体は事実だが、発覚した内容が『暴行』だったからだ。……と言っても、本人は暴行などしておらず、何を言っても大人たちは聞いてくれなかったようなんだが」
「……待てよ?」
「そういうことだ」
奏太の回答から「2人組の過去」と「鎌田の事件」の共通点を見出した黒山を見て、奏太は首を縦に振った。
奈月と沙希の2人にはわからなかったようだが、そのままにしておく程、奏太は鬼ではなかった。
「2つの共通点は『本人が容疑を否定しているにも関わらず、大人たちは信じてくれない』ということだ」
「それってもしかして……?」
「ああ、可能性はあるな」
奏太が言った共通点から、4人は1つの可能性に辿り着き、奈月が奏太に確認をした。
針岡を含めた5人が辿り着いた可能性とは、2つの事件は主犯が共通であり、重度の中二病患者であるということだ。
「俺からも以上だ」
報告を終えた奏太は着席する。
3校の報告を終えた後は、今後の指示を針岡が出している。
例により、今回も指示を出す。
「とりあえず、犯人の姿は未だわからないようだけどー……沙希。鎌田を見ることはできそうかー?」
「わかったわ、今やってみる。……透夜、お願いね?」
「ああ、まかせろ」
沙希は後始末を黒山に任せて、目を瞑り能力を発動させる。
沙希の能力『繋がられる為の類似点』とは、相手の5感(視覚・聴覚・味覚・触覚・嗅覚)と思考を把握することが人や動物相手に可能となるものだ。
この能力の欠点は、まず「顔を見たことがある相手にしか能力が使えない」こと。
実物はもちろん、写真や映像でも1度顔を見れば発動できる。
次に「相手の思考がわかってしまう」ことだ。
話したことがない相手なら利点ではあるが、知っている相手に使うと、沙希自身のことをどう思っているかまでわかってしまうこともある。
沙希は普段こそ冷静かつ強気で人と接しているが、中身は傷付きやすい。
使う相手を間違えてしまうと、その分のショックが大きく心に反映されてしまうのだ。
この能力は応用として「相手を操る」こともできる。5感と思考を完全に自分と繋がることで、相手を動かすことができるのだ。
しかし、この使い方にはリスクが大きい。
相手と完全にリンクするということは容易くても、繋がりを切ることが難しいようで、戻れなくなる可能性がある。
そして「沙希自身の人間性が消失していく」という代償も付いている。
それでも能力を使えるのは、黒山の「拒絶」で代償を支払わずに済むからで、実は針岡も記憶を消す際には後始末を黒山にお願いしている。
黒山は、沙希が能力発動を終えたタイミングを見計らって、代償を拒絶した。
すると沙希は深刻な顔で黒山の方を見て言った。
「透夜、これはまずいわね」
「どうかしたのか?」
「梶谷 詩織ちゃんは、友達の真悠ちゃんと一緒に犯人探しをするつもりよ」
2人が犯人探しをすること自体は気にすることではなかったが、相手が中二病患者だった場合の対処ができないことに沙希は心配していた。
その様子から、針岡より「2人を陰から護衛」の指示が出された。
他の3人には待機。犯人がわかり次第確保という指示内容で、今回の定例報告会は終了した。
皆さまこんばんは、夏風陽向です。
今回は、黒山と他の仲間たち(?)のお話を書かせていただきました。
ちょっとスケジュール的に忙しくなってしまったため内容は短めとなってしまいましたが、能力が2つ出るほどの濃い回だったのめはないかなと思います。
3人の目立った活躍は、また別のお話で!
特に、奈月の能力を細かく紹介できていないので、時が来れば必ず紹介させていただきます。お楽しみに!
……次回はもうちょい長く書けるよう、頑張ります!




