不在に対する気持ち
婚約披露を兼ねた誕生日パーティー一週間前。
アタシは自室の姿見の前に立っていた。
後ろにはマリアンネがいて、誕生日パーティーに着る正装の丈合わせをしてくれている。今はしゃがんで、黒のズボンの丈を合わせてくれているところだった。
ちなみに、正装は膝下まである薄い緑の上着と、深い緑のベストで、緑を基調とする配色が、柔らかな雰囲気をかもし出している。
アタシのするどい目つきが冷たい印象を持たせるので、ささやかな抵抗である。
姿見の中のアタシは、貴族の若者らしく毅然としていて、背筋もすっと伸びていた。
本来なら美しい正装選びで、心をウキウキさせているところだけど、アタシの心は沈んでいた。
「本当に何を考えているのかしら」
そう呟いて、アタシはため息を吐いた。
「いかがされました?」
「父様よ。あれからパーティーの指示は手紙で送って来るけれど、父様たちは一度も帰って来てないじゃない」
屋敷の中はパーティーの準備で慌ただしくなっている。
パーティーの指示のために、父がそろそろ屋敷に帰って来てもいい頃だった。
けれども、帰って来るどころか、帰る知らせもまだない。
そこまでアタシに会いたくないのかと思うと同時に、王族との婚約披露をないがしろにし過ぎではないかとも思った。
リーゼロッテに失礼よ。
「お忙しいのだと思います」
ズボンのすそ合わせが終わったのか、そう言いながらマリアンネが立ち上がった。
「マリアンネ。それがアタシに会いたくない言い訳だというのは分かっているのよ」
手紙には忙しくて帰れないと書いてあったけど、嘘なのは丸分かりだった。
「やると決めたのならきちんとやるべきよ。それをギリギリまで引き延ばしにかかるなんて、男らしくないわ。そんなに嫌ならやらなければいいのよ」
「そういうわけにもいかないのかと……」
病弱設定で散々交流を避けてきたのだから、貴族の慣習など今さらなんだと反論するためにマリアンネを見たら、マリアンネの眉が困ったように若干、下がっていた。
アタシはそれを見てハッとした。
マリアンネに当たってもしかたがないのに、つい言葉が強くなってしまった。
「ごめんなさい、マリアンネ。これは父様に言うべき言葉だったわ」
「いえ……。丈を合わせ終わりましたので、確認をお願い致します」
アタシは姿見の正面に立ち、姿勢を正す。その状態で上から下まで確認し、今度はクルリと回って動いた時の長さを確認した。
「良いんじゃないかしら」
「それでは、この長さで手直し致しますので、お脱ぎください」
アタシは仮糸が取れないよう慎重に正装を脱ぎ、普段着の紺のベストと黒のズボン姿に戻った。
「出来上がるのが楽しみだわ」
父への不満はあるものの、服を新調する嬉しさとは別もの。
正装が出来上がる楽しみは、素直に感じることにした。
これがドレスならもっと嬉しいのだけど……。
婚約披露の場なのに、主役がドレスとドレスでは格好が付かないので、早々に諦めた。
マリアンネが脱いだ正装をさっとまとめて廊下に出て行く。けれども、正装を持ったまま戻って来た。
「あら、どうしたの?」
「リーゼロッテ様がいらっしゃっています」
「リーゼロッテが?」
アタシの誕生日パーティーとはいえ、婚約披露を兼ねているのだから、リーゼロッテも準備に追われているはず。
正装選びは男用を選ぶアタシ以上に大変なはずなのに、どうしたのかしら?
アタシはソファにかけていた紺色の上着をはおり、リーゼロッテを迎えるべく部屋を出た。




