乙女化は……(2)
「ジークベルト様。リーゼロッテ様とは婚約をしていますし、それはないと思うのですが……」
「あら、そんなことないわよ。婚約していたって、兄妹のように仲良くなる例はいくらでもあるじゃない」
小さな頃に婚約をし、一緒にいる時間が長かったおかげで、家族のように仲良くなるというのはよくある。
その方が知らない相手や嫌いな相手と結婚するより、よっぽど幸せな結婚生活を送ることが出来る。
前世での漫画や小説でも、主人公が婚約者と家族のように仲良くなるというのはあるあるで、仲良くなりすぎて恋心が芽生えず、突然現れた人物に主人公の心をかっさらわれて、婚約者がぐぬぬとなる展開がよくあった。
で、婚約者はそれに怒り心頭で、主人公を奪い返すべくあの手この手でやってくるけど、全て返り討ちになって……。
って、ちょっと待って。
それってこのままだと、別のフラグが立つかもってことかしら?
アタシはアゴに手をやって考える。
死亡フラグとまではいかないけれど、破滅フラグが待っているんじゃ……。
それは困るわ。
死亡フラグは嫌だけど、破滅フラグも嫌よ。
いえ、でも、それだと『最弱種族の竜槍者』の展開と変わってしまうし、破滅フラグは立たないかしら。
ってまだ『最弱種族の竜槍者』の世界だと決まったわけでもないのよね。
ただ、あまりに『最弱種族の竜槍者』と似すぎていて、無視出来ないってだけで……。
そもそも、アタシはリーゼロッテを取り合おうなんて思わないし、破滅フラグには向かわないかしら?
それに、リーゼロッテの前に現れるのは『最弱種族の竜槍者』の主人公になるはずだし、リーゼロッテを取り合うどころか、逆に……。
とまで考えたところで、部屋の扉がノックされた。
「はい?」
マリアンネがいるのに、ノックされるとは珍しい。
女言葉を使うせいで、アタシの部屋に来る使用人は極端に減った。
アタシが両親の不興を買っているせいで、使用人たちは下手に関わってとばっちりは受けたくないと、あからさまに近付かなくなった。
それゆえ、アタシと接さなくてはいけない仕事は、マリアンネが一手に引き受けてくれていた。
注意すれば改善するかもしれないけれど、アタシも無理をしてまで接してほしくはない。
常にマリアンネがそばにいる状況はアタシにも都合が良かったので、アタシは使用人たちの態度をそのままにすることにした。
「お手紙を持って参りました」
廊下にいるメイドはそう答えた。
「手紙?」
軟禁生活になってから、手紙のやりとりは全くやっていない。
送って来そうなのはリーゼロッテぐらいだけど、リーゼロッテとはさっきまで会っていたから、用があればその時に話していただろうし、リーゼロッテの可能性はないはず。
なら、誰かしら?
マリアンネが部屋の扉を開けて、廊下にいるメイドから手紙を受け取るのを見ながら、アタシは考える。
うーん。
思いつかないわ。
マリアンネが扉を閉めて、アタシの元へ戻って来た。
マリアンネから差し出された手紙を受け取り、アタシは封筒の裏にある送り主の名を確認する。
「あら、父様からだわ」
アタシは父からの手紙だと知って驚いた。
現在、父と母は王都にある屋敷にいる。
会わなくなって、二年くらいかしら?
仕事をするには王都近くにある屋敷は都合がよく、今までにも仕事が忙しい時にこちらへ戻って来ないことはあったけど、こんなに長い間、こちらの屋敷を空けることはなかった。
父と母はアタシを避けるように、王都の屋敷から戻らなくなった。
そんな父からの手紙だ。
「何かしら?」
アタシは封筒を開けて、手紙を読む。
「……婚約披露を兼ねた誕生日パーティー?」
今度の誕生日にパーティーを開催し、そこでリーゼロッテとの婚約を発表すると手紙に書かれていた。
「ああ、そっか。もう十三歳だものね」
貴族は十三歳になると婚約を発表する。
と言っても、十三歳になるまで婚約を秘密にしているわけではなく、正式に発表する場を、節目である十三歳に設けるというだけだ。
「でも、まさかやるとは思っていなかったわ」
軟禁生活になってから、誕生日パーティーはやっていない。
女言葉がバレないようにするには、他人と挨拶をしなくてはならないパーティーなんて、もってのほかだった。
それに、アタシには病弱設定もある。
誰かに会える健康状態じゃないという理由で、全ての接触を避けてきたのに、適度に鍛えられた身体でアタシが他人の前に出たら、今までの嘘がバレてしまう。
「どうするのかしら?」
アタシはめんどくさくなりそうな気配を感じ取って、手紙を見ながら眉間にシワを作った。




