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4.転生の姫と降臨の???

エピローグ的なお話で終了です

 僕、木下真緒の家には変な居候が住んでいます。

「ふんふんふーん」

 なにやら妙な節回しで鼻歌を歌いながら、ノートパソコンのキーボードをカチャカチャやってる女の子。

 さっきまでは調子っぱずれながら最近流行ってるアイドルグループの歌を歌っていたはずなんですが……どうやら歌詞がうろ覚えだったようで、途中から原形すらとどめない鼻歌になりました。

 華奢な体にふわふわの髪、今日はどこにも出かけないとか言ってたのに、スモールフラワーのカントリー風なドレスを着こなしてる姿は、どこの開拓時代の絵本から出てきた美少女かって雰囲気で和みます……僕の膝の上に座ってるんでなければ。

「そろそろ重いんで退いてくれませんか、瑞姫さん」

「やぁーだー」

 もたせかけてきた全身をむずかるようにこすりつけるものだから、ふわふわの髪の毛が顎や首筋にこすれてくすぐったいですね。

「だいたいそれ、テストの原稿ですよね?他の人に見られたらだめじゃないんですか、瑞姫さん」

「むー。昔みたいにお姉ちゃんって呼んでよー」

「いい加減聞き分けてください、瑞姫おばさん」

「ぐはぁっ!?」

 とどめの一言で胸を押さえて硬直してしまった瑞姫さんを膝の上からそっと降ろします……ここで父さんや母さんみたいに乱暴に転がり落とさないだけ温情だと思うんですけど。


 瑞姫さん――渡辺瑞姫さんは、僕が物心ついた頃から……いえ、聞くところによればもっと前から我が家に居候している女の人です。

 こっちを向いて頬を膨らませてる姿は中学生くらいの女の子にしか見えないけれど、母と同い年なので当年とって40歳、職業高校教師の立派な……すみません、脳が認識を拒否しました。一応曲がりなりにも世間の片隅でこっそりがんばればまあなんとか社会人としての範疇のぎりぎり境界線上に入れても問題ないかもしれない程度の、女の人です。

 幼い頃は、本当に血の繋がったお姉ちゃんだと思ってました。

 それが、僕がにょきにょきと伸びちゃったのもあって、今では二人並べば瑞姫さんの方が妹に間違われる始末。

 ものがわかってくるに従って、瑞姫「お姉ちゃん」の我が家における妙な立ち位置というか、世間的にどう見られているかは理解できるようになりました。

 夫婦の寝室になぜか瑞姫さんだけお呼ばれしてた理由も、「僕もお姉ちゃんと一緒に寝る」って泣いたときに両親が微妙な表情になった理由も……ええ、もう、今となってはお恥ずかしい限りです。


「はー、真緒ちゃんてばほんと、美少年に育ったわねー」

 むにむにさわさわとほっぺたを触りながら、瑞姫さんが感に堪えないと言った表情でため息をつきます。

 美少年、ですか。

 お父さんもお母さんも、瑞姫さんほどではありませんが年に似合わず若々しく、子供の贔屓目ではなくかっこいい人たちです。うちの道場――あ、うちは古い剣道道場を営んでいます――に来る保護者のみなさんや、お母さんが時々顔を出してる女子大の剣道部、お父さんが面倒を見ている警察署の婦警さんたちまで、二人そろっているところをきゃあきゃあ言いながら写真に収めたりしてますし。

 その両親のりりしい顔を受け継ぎ、小さい頃から道場で剣を振り続けたのもあって、引き締まった体を手に入れた僕は……そうですね、瑞姫さんの言うとおり美少年かもしれません。

 ただ一つ問題があるとすれば――

「何度も言いますけど、瑞姫さん。僕は女の子ですからね?」

「知ってるわよー。わたしは真緒ちゃんのおしめ換えたこともあるんだし」

 お風呂に入れて貰ってたらしいですしね。

 両親ともに剣道以外のことはからっきしだったので、見かねた瑞姫さんが僕の面倒を見てくださってたんだとか。

 その結果追い出す時機を逸した――とはお父さんの言葉ですが、三人の仲睦まじさからすれば、照れ隠しでしょう。

「もうほんとわたし好みに育ってくれちゃってー。筋肉しっかりしてるのに、肌とかすべすべもちもちで……はぁはぁ、じゅるり……」

「ちょ、ちょっと瑞姫さん?」

 え、獲物をねらう目になってますよ?なんで息が荒いんですか?今拭った涎は何ですか!?

「やあん、瑞姫ちゃんって呼んでえ」

 身をよじって抜け出そうとしていますが、がっちり固定されて動けません……そういえば、瑞姫さんってば儚げ美少女の外見に反してめちゃくちゃ強いんです。うちの師範代の中でもトップクラス、僕は未だに一度も勝てたことはなく……って、顔が近い顔が近い!なんでうっとりと目を閉じてるんですか!

「うちの娘に手を出すんじゃない、この脱法ロリ」

「あだっ」

 いつの間にやらやってきていたお母さんが、手にしたおたまで瑞姫さんの脳天を一撃、強制停止してくれました。

 組まれた腕を下から押し上げるのは、エプロンの上からでも存在感をこれでもかと主張する二つの膨らみ。

 うう……なんであれが遺伝しなかったんでしょうか。

「大丈夫、大丈夫。士緒ちゃんだって膨らみ始めたの高校入ってからだし」

 僕の視線の意味に気づいたらしい瑞姫さんが、僕に寄り添うようになだめてくれ……いえそのわきわきと伸ばされてる両手は何をするつもりですか。

「揉めば大きくなるって言うし」

「迷信です」

「士緒ちゃんの胸はわたしがそだ……ったあ!?士緒ちゃんさっきから容赦ない!」

「いたいけな娘に妙なことを吹き込むんじゃない!」

「もうすぐ高校生になるのに、さすがに『いたいけ』は真緒ちゃんに失礼じゃない?もう立派な大人よねえ?」

「そうですね……いろいろ残念なものも見てしまいましたから」

 去りゆく時を惜しむように寂しげに目を伏せつつ、「残念なもの」をちろーり。

 当の本人は「わたし何言われてるかわかんなーい」とばかりにかわいらしく小首を傾げていますが、お母さんの放つ殺気に、額から冷や汗が一筋流れました。

「うむ、やはりこのまま捨ててしまうか」

 お母さんが片手で瑞姫さんの首根っこをつかんで持ち上げてます。

「そうですね。アンミツのほうがよっぽど役に立ちそうですし」

 首を掴みあげられた瑞姫さん、力を抜いてだらんと垂れ下がってます。あれは鼠を捕らない猫です。

 アンミツは、うち一番のハンター。

 白地の背中に大きな黒斑と体のあちこちに散ってる小さな斑点模様が、あんことみつまめっぽいからアンミツ。

 いかにも瑞姫さんがつけそうな名前ですが、命名はお父さん。僕まで妙な名前にされなくてよかったと感謝しておくべきでしょうか?

 そんな安直な名前と不似合いな、お嬢様みたいにおっとりした仕草のアンミツですが、木造家屋の天敵・鼠を捕まえるときだけは誰よりも俊敏かつ獰猛な姿を見せます。

 庭に虫や木の実をついばみにくる野鳥は襲わないようにという言いつけも聞き分けよく守る、賢いお姫様です。

 瑞姫さんなんかと比べたらかわいそうだと思いますよ。

「士緒ちゃん!真緒ちゃんがいじめるんだけど!」

「自業自得だ……まったく、高校でもそうやって真緒にべったりするつもりか?」

「はいはい、公私のけじめはきっちり付けますよっと」

「お母さん、瑞姫さんは僕の前で試験の原稿を作っていました」

「……けじめが、なんだって?」

「はい!ごめんなさい!」

 まなじりをつり上げたお母さんに、瑞姫さんがぴしっと背筋を伸ばして謝ります。

 どこからどうみても親子ですよね。ほんと、この二人が同い年だなんて信じられません。

「あーもー、真緒ちゃんに笑われちゃったじゃない」

「誰のせいだ、誰の」

 嬉しくなって思わずくすくすと笑いを漏らしたら、二人の視線がこちらに注がれました。

 責めるでなく、包み込むような、暖かい眼差し。

 そうですね、少々普通のそれとは違ってはいますが、お父さんお母さんと僕に、瑞姫さんまで含めて、これが僕の大事な家族のかたち、なんだと思います。




 ――魔王様召喚まで、あと一年。


Q.このあと真緒ちゃんが魔王として異世界に召喚され、連れ戻しに来た親世代三人とともに異世界を蹂躙する話は?

A.ありませんd(´▽`)b



本編には関係ないかもしれないキャラ紹介:


木下士緒(旧姓:斉藤)/騎士様

 道場を切り盛りしたり、近隣の女子大へコーチしに行ったりと忙しい日々を送っている兼業主婦。

 凛々しい顔とナイスバディは年をとっても健在で、いまだそっち方面のお嬢様方から黄色い歓声を送られる毎日。

 ちなみに、木下家の料理当番は「手が空いたものが作る」方式。


木下修吾/勇者君

 髪に白いものが混じるようになってきた道場主。

 大学卒業後しばらくしてから結婚。それまでやってなかったらしい。

 温厚な性格と渋みを増した精悍な顔で近隣奥様方に絶大な人気を誇る。

 嫁の出稼ぎ先である女子大に顔など出そうものなら、その熟年バカップルぶりまで含めて写真に残そうとフラッシュがたかれる。

 召喚チートは持ち越してるのでもはや国一つ消滅できるくらいのふざけた戦闘力があるが、絶対に秘密。

 


渡辺瑞姫/姫様

 実年齢40歳外見年齢14歳の、ラノベのお約束ロリば……ロリ先生(世界史担当)。

 姫様が「いつまでも若く美しいままで」と願ったせいで、彼女の享年である数え16歳(実年齢14歳)で成長が止まったままである。

 大学くらいまでは「微妙に育たん」で済んでいたが、生理不順などもあって医者にかかったところで発覚。

 「特殊な遺伝子疾患」とされ、性的な成熟が中途半端な段階で止まってしまっているため、妊娠・出産は不可能と診断された。

 不老であっても不死ではなく、人並みに寿命はある(体に無理がある状態で止まっているので平均以下と推測されている)から、ある日美しいままぽっくり逝く。

 特大級の転生特典(じらい)である。

 前話の「自重しない」発言とか親が受け入れてるのはその辺の事情。

 夫婦の愛人とか、お子様の教育に実によろしくない人物が教育者やってるのは学校の七不思議のひとつである。 



木下真緒/魔王様

 士緒と修吾の娘。母からハンサムな外見と身体能力、父から胸のサイズを受け継いだチートサラブレッド。

 僕っ娘なのは瑞姫ちゃんの調……教育による。

 ばれたときには犯人は大目玉をくらったが、すでに定着してしまった後だったために16tクラスの鉄拳で済んだ。

 言葉遣いは丁寧だが、ナチュラルにひどいこと言ってることがままあるドS。

 家庭環境が若干特殊なうえメイン教育担当が瑞姫ちゃんだったので、善良ではあるのだが道徳観念が根本的にどこかおかしい。

 両親から異世界の剣技や魔法などまで教わったが、「人に向けて使うな」と言われて「じゃあ何に向けて使うんだ」とやさぐれたのも今は昔。

 この後、「人間以外のナニモノカ」に使いまくる羽目になろうとは、知らぬが仏というやつである。

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