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第52話。逢魔が時の総力戦、そして、母からのラスト、レター。

第52話。逢魔が時の総力戦、そして母からのラスト・レター


「神の帳(とばり)を侵す者たちよ。その不遜なる輝きごと、永遠の静寂に沈むがいい」


虚無の空から響く『時間の神々』の意志が、明確な「怒り」へと変わった。


神々の背負う白銀の槍が一斉に激しく回転し、周囲の時間軸を滅茶苦茶に引き裂きながら、光の雨となって再び私たちへと降り注ぐ。


「やらせないって言ったでしょ! ――沈め、逢魔の残照(クレピュスク・ベール)!」


夕日ちゃんが凛とした声を響かせ、掲げた両手から濃密な紫と茜色の闇を解き放った。


その闇は、ただの暗闇ではない。


すべてを眠りへと誘う『夕日の国』の終焉の概念。神々が放った致命の時間光線が、夕日ちゃんの広げた闇に触れた瞬間、まるでエネルギーを失ったかのように次々と失速し、夜の底へと溶けるように消え去っていく。


「今だよ、朝日くん! 夜が来る前に、世界を引っ張って!」


「分かってる! 夕日、ナイスパス!」


ソルが少年の笑みを浮かべ、夕日ちゃんの前へと躍り出た。


地球にいた頃、トンネルですれ違いざまにハイタッチをしていた朝日くんと夕陽ちゃん。その二人の絆が、今、異世界の理(ことわり)として完璧に噛み合う。


「僕が光を開く! ――暁光の聖剣(ルミナス・ブレイザー)!」


ソルの全身から、夜を切り裂き、今日という一日を強制的に始めるための圧倒的な朝日の熱線が放たれた。


夕日ちゃんが作った「終わりの闇」の境界線から、ソルの「始まりの光」が爆発的に突き抜ける。その光と闇の反転のエネルギーが、神々の絶対的な時間の檻を、内側からガガガガガと凄まじい音を立てて破壊していく。


「おのれ、精霊の分際で世界の運行を乱すか……!」


神々の巨大な砂時計が激しく揺れ、その破片が空間そのものを消滅させる刃となってソルへと襲いかかる。


「ソル、下がれ! ここからは俺の番だ!」



アレン様が白銀の魔導衣を翻し、ソルの前に滑り込んだ。黄金色の双眸を鋭く光らせ、手にした杖を地面に叩きつける。


「神の法則が不変であるなら、俺はその基盤ごと書き換えるのみ。――禁忌魔導・時空創生陣(アルカディア・クロノス)!」 


アレン様が放ったのは、公爵家に代々伝わる失われた古代魔法。神々が操る時間軸のさらに外側に、アレン様自身の魔力で「新しい1秒」を無理やり作り出すという、人間の領域を超えた大魔術だ。


アレン様の身体から、限界以上の魔力消費によってパチパチと赤い火花が散り、その端正な顔が苦痛に歪む。


「アレン様……!」


「アサヒ、心配いらない。君を元の灰色の世界(地球)に還しはしない。君が生きる『今』は、この世界に、俺の隣にあるんだ!」


アレン様の叫び。


その大人の包容力と、私を絶対に離さないという狂おしいほどの情熱が、私の魂の奥底にある『鍵』をさらに強く共鳴させた。


アレン様が作った「新しい1秒」の中で、ソルが光を開き、夕日ちゃんが闇で神の目を晦ます。


これ以上ない、完璧な、命がけの総力戦。


みんなが私のために、私の「今」を守るために、神様と戦ってくれている。


「みんな……。ありがとう。私、もう絶対に自分を無力だなんて思わない……!」


私は手にある『白紙の預言書』を胸に抱きしめ、天に向けて叫んだ。


「ルミナス・クロニクル――私たちの未来を、ここに紡ぎなさい!!」


私の虹色の光が、アレン様の創り出した時空の陣に注ぎ込まれ、ソルの朝日と夕日ちゃんの夕陽を束ねて、一本の巨大な光の柱となって神々の砂時計へと突き刺さった。


「お母さん……。ありがとう。私、絶対に幸せになるから……!」


私は天を見上げ、涙を拭って、力強く微笑んだ。


隣を見れば、私を愛おしそうに見つめるアレン様の黄金の瞳。


私の手を再びギュッと握りしめるソルの笑顔。


そして、私の腕に抱きついてくる夕日ちゃんの温もり。


お母さんが命をかけて繋いでくれた、この時計仕掛けの神話。


私たちは今、神様の檻を壊し、誰も見たことのない、私たちの『新しい今日』へと歩み出す。(第52話 完)

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