光
ルシアンがライラの部屋へ戻ると、セレーヌがベッドの側に立っていた。
「陛下……?」
「セレーヌ。少しだけ、二人にしてくれるかい?」
「はい、もちろんですわ」
セレーヌが静かに一礼し、部屋を出ていく。
扉が閉まるのを確認してから、ルシアンはライラの側へ歩み寄った。
「……ライラ」
眠る彼女の手を取る。
黒く染まった爪。
闇魔力に覆われた身体。
前世の記憶を取り戻した今なら、その原因が分かる。
ノクティラも、同じだった。
魔物から吸収した闇魔力が、身体の中に溜まり続けた。
けれど。
ノクティラの時と、今とでは違う。
ルシアンは光属性を持っている。
「……今度は、間に合わせる」
ルシアンはライラの手を包み込む。
そして、ゆっくりと光魔力を流し込んだ。
「……っ」
ライラの身体が僅かに震えた。
光魔力はライラの身体を無理に浄化しようとはしなかった。
ただ、闇魔力へ触れていく。
光と闇。
二つの属性がライラの中で触れ合った瞬間――音もなく黒い闇魔力と淡く光る光魔力が消えた。
「……そうか」
ルシアンは小さく呟いた。
前世の自分が、何度も試したことだった。
光は闇を消す。
だから、同じだけの力を注ぎ込めば、きっと、相殺できる。
「これなら……」
ルシアンはさらに光魔力を流した。
ライラの身体に溜まっていた闇魔力が、少しずつ消えていく。
ルミナリアの治療後、再び黒く硬質化していたライラの爪。
その先端から、僅かに黒が薄れていく。
「……」
ルシアンは息を詰めた。
確かに変化している。
ゆっくりと、けれど確実に。
ライラの身体から、闇魔力が減っている。
「ライラ……」
思わず、声が震えた。
「大丈夫だ」
眠っている彼女へ語りかける。
「今度は、俺がいる」
光魔力を送り続ける。
無理に力を注ぎ込むことはしない。
ライラの身体に負担をかけないよう、少しずつ、少しずつ。
闇魔力と光魔力を相殺していく。
やがて、黒く染まっていた薬指の爪から、黒色が消えた。
「……戻った」
ルシアンは呆然と呟いた。
前世は、前世のライラを助けられなかった。
ノクティラの身体が完全に魔物へ変わってしまい、全てが終わってから光属性を得た。
けれど今は違う。
まだ、間に合う。
ライラは人の姿を保っている。理性もある。
そして何より――
「俺は、もう、君を失わない」
ルシアンはライラの手を握り直した。
————
その時、ノクティス王城の客間で、ルミナリアは突然顔を上げた。
「……え?」
ルミナリアは目の前にいなくとも光魔力の動きを感じることが出来た。
それは彼女が強い光属性を持つが故の能力だ。
今感じた光魔力は、ルシアンのものだ。
ルミナリアは不機嫌そうに目を細めた。
ルミナリアからすれば微かな光魔力の動きを、けれど確かに感じた。その光魔力が消えていっていることも。
(ライラを、救おうとしているの?)
光魔力が闇魔力を相殺できる。ルミナリアの治療を見て、ルシアンはそれに気づいたのだろうか?
(いいえ。それなら、私の治療の直後に行うはずだわ)
ルミナリアの顔から血の気が引いた。
「……そんな」
ルミナリアの唇が震える。
前世の記憶が蘇る。
ルシス。
ノクティラ。
そして――光属性を授けた、あの日。
その力を使って、魔物を減らし、辺境を救った彼。
「まさか……」
ルミナリアは立ち上がった。
「彼が……?」
今世のルシアンに前世の記憶はない。
そう思っていた。
実際、前世と見目がほとんど変わらないルミナリアを見ても、不審な態度ではなかった。
けれど、もし。
もし彼が、前世の記憶を思い出したのだとしたら。
「……駄目」
ルミナリアの顔が強張る。
「駄目よ……」
ライラの身体に溜まった闇魔力が消えてしまえば。
ライラは魔物にならない。
それどころか。
今回はルシスがノクティラを救ってしまう。
2人で幸せになってしまう。
「……また、あの女に奪われる」
前世と同じように、何より欲した彼を。彼の傍での幸せを。
「……そんなの、絶対に嫌」
ルミナリアは震える手を握り締めた。
そして、ゆっくりと顔を上げる。
「だったら……」
ルシアンがライラを救う前に。
幸せになってしまう前に。
——壊してしまおう




