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冷遇された闇王女は、隣国の王に溺愛される  作者: 永月るか
本編

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19/26

再会

 ルミナリアがノクティス王国へ到着したのは、それから数日後のことだった。


 ソレイユ光国の紋章を掲げた馬車が、ノクティス王城へと入っていく。窓から見える景色を眺めながら、ルミナリアは静かに笑っていた。


(ようやくね)


 ライラがここにいる。

 そして、彼女を大切にしているというノクティス国王も。


(どんな男かしら)


 ルミナリアは、まだ見ぬノクティス国王に思いを馳せた。

 役立たずのライラを大切にするというのだから、さぞ優しい男なのだろう。

 

(ライラからノクティス国王を奪うのもいいかもしれないわね?)


 ルミナリアは美貌の王女として他国にも噂されるほどだ。ソレイユ光国の直系という身分も他から見れば、喉から手が出るほど欲しくなる血統であり、しかも光属性を持つ聖女だ。彼女が微笑めば大抵の男は、彼女を欲した。


(きっとノクティス国王もライラなんかより、私を選ぶはずよ)


 そうすればライラは、笑顔を消すだろうか?


 それは、とても良い案のように思えた。


 やがて馬車はノクティス王城の正面扉の前で止まる。扉が開かれ、ルミナリアはゆっくりと外へ降りた。


「ソレイユ光国の聖女、ルミナリア様。遠路はるばる、ようこそお越しくださいました」


 出迎えの侍従が頭を下げる。


「こちらこそ、急な訪問を受け入れてくださってありがとうございます」


 ルミナリアは聖女らしい柔らかな笑顔を浮かべ彼らの案内に着いていく。案内された先には、ノクティス王国の国王——ルシアンが待っていた。銀の髪にルミナリアはドキリとした。


「お初にお目にかかります、ルミナリア王女殿下」

「こちらこそ。お目にかかれて光栄です、ルシアン国王陛下」


 動揺を隠してルミナリアは優雅に礼をする。

 そして、ゆっくりと顔を上げた。


 ――その瞬間。


 胸の奥が、大きく跳ねた。


 ルシアンの紫色の瞳と目が合った瞬間、ルミナリアは確信した。


(ルシス……)

 

 生まれ変われば、容姿などいくらでも変わる。けれど確かにルシアンは彼の生まれ変わりなのだと、ルミナリアには分かった。


 けれど。


「ライラの容態について、聞いていると思う」


 その言葉を聞いた瞬間。

 ルミナリアの笑顔が、ほんの僅かに固まった。


(やっぱり、彼女の心配をするのね……)


「ライラの心配をしてくださるのですね」

「当然だよ」


 ルシアンは迷うことなく答えた。


「彼女は俺にとって、大切な人だから」


 その言葉。

 その表情。

 その言い方。


 前世の記憶にある彼と、何もかもが重なった。


 ルミナリアは微笑みながら、胸の奥で確信する。


(間違いない)


 この人だ。


 前世で自分が何度手を伸ばしても、最後まで手に入らなかった男。

 姉を愛し、愛された男。

 

 ――ルシス


(あなたも、転生していたのね)


 ならば、今度こそ。

 そうルミナリアが思ったところで、ルシアンが口を開いた。


「ライラのところへ案内しよう」

「……はい」


 ルミナリアは微笑んだ。傾国のという美貌にも揺るがず、ルシアンは歩き出す。


 その背中を見つめながら、ルミナリアは目を細めた。


(やっぱり、彼女を大切にしているのね)


 胸の奥に、じわりと黒い感情が広がっていく。


 前世と同じだ。


 また。

 また、彼女なのだ。


 自分ではない。


 けれど、今度は違う。


 自分には、ライラを救える力がある。


 それに――


 今世の彼(ルシアン)に、前世の記憶はないようだった。


(ならば、今度こそ私が先に彼を手に入れればいい)


 そう考えながら、ルミナリアはライラのいる部屋へと着いていく。


 大きな扉が開かれた。


「……ライラ」


 豪奢なベッドの上で、ライラは眠っていた。


 顔色は悪い。


 けれど、その表情は穏やかだった。


 ルミナリアは、その姿を見つめる。


 黒い髪。

 華奢な身体。


 そして――両手に広がった黒い爪と肌


(……やっぱり)


 前世で見た記憶と同じ。

 闇の聖女が魔物へ近づいていった時に現れた症状だった。


 ルミナリアなら分かる。


 このままでは、ライラは少しずつ人の姿を失っていく。


 けれど。


「……私なら、助けられます」


 ルミナリアは静かに告げた。

 ルシアンの瞳が揺れる。


「本当か?」

「はい」


 ルミナリアは頷いた。


「闇魔力に侵されているのでしょう? 私の光魔力なら、それを浄化できます」

「……ライラが助かるのか?」

「少なくとも、今の状態を改善することはできます」


 ルシアンは一瞬だけ目を閉じた。そして。


「頼む」


 迷いなく頭を下げた。


「ライラを助けてほしい」


 その姿を見て、ルミナリアの胸が痛んだ。


 嬉しい。


 自分の力を求めてくれている。


 けれど。


 同時に、どうしようもなく苛立たしい。



 前世でも、そうだった。

 彼女がどれだけ頑張っても。

 光の聖女として持て囃されるようになっても。


 彼が欲しがるのは、いつだって――。


「では、始めます」


 ルミナリアはライラの手を取った。

 黒く硬質化した爪が目に入る。

 冷たいライラの指先へ、そっと光魔力を流し込んだ。


「……っ」


 ライラの身体が小さく震えた。


 黒い魔力が、まるで煙のように身体から消えていく。ふわりとした光がライラを包み込んだ。


 しばらくすると。


「……ん……」


 ライラの睫毛が震えた。


「ライラ!」


 ルシアンがすぐにベッドへ駆け寄る。


「……ルシアン、様……?」


「ああ。ここにいるよ」


 ライラがゆっくりと目を開く。


 その瞬間、ルシアンの表情が、これまで見たことがないほど柔らかくなった。


「良かった……」


 安堵したようにライラの手を握る。


「本当に、良かった……」


 その手を、ライラも弱々しく握り返す。


「……ご心配を、おかけしました」

「君が謝ることじゃないよ」


 ルシアンは優しく微笑む。


「戻ってきてくれただけで、十分だ」


 その光景を、ルミナリアは黙って見つめていた。


 そして。


(……また)


 胸の奥に、前世と同じ感情が蘇る。


 自分がどれだけ頑張っても。

 聖女になっても。

 どれだけ彼に認めてもらおうとしても。


 ——ノクティラを魔物にしても


 彼がこんな顔を向けることはなかった。

 彼の微笑みの先はノクティラのものだった。


「……ありがとうございます、ルミナリア様」


 ライラがこちらを見て、小さく微笑んだ。


「私を助けてくださって……」


 その笑顔を見た瞬間。

 ルミナリアは、再び確信した。


(やっぱり、あなたなのね)


 前世のノクティラ。


 何度生まれ変わっても、何も知らない顔をして自分から大切なものを奪っていく。


「いいえ。……大切な妹ですもの」


 ルミナリアは聖女らしい笑顔を浮かべた。


「助けるのは当然でしょう?」


 けれど、その笑顔の奥では。

 別のことを考えていた。


(ルシスも、ライラも)


 どちらも。


(今度こそ、私の作る運命に従ってもらうわ)


 そして、それが無理なら。


——今回も


 二人が幸せになる未来そのものを、壊してしまえばいい。

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