最終話
朝の仕込みが終わったばかりの厨房に、父レオポルドが顔を出した。
「セリーナ。客が来ているぞ、二人も」
「え、開店前だけど……」
「特別らしい。見れば納得する」
言われるがままに客間へ向かうと、そこにはリヒャルト第二王子と、レオンハルト・ヴェルシェルンが、まるで最初から“この日”を予定していたかのように並んで座っていた。
「おはよう、セリーナ。今日は少し時間をいただけるかな?」
「……君の予定が空いてる時間に合わせて、僕たち二人、競り合うように予定を入れてしまってね」
私は絶句した。
「つまり……三人で、デート……ってこと?」
二人は、ほぼ同時に頷いた。
ーーー
三人でまず市場巡りデートをした。
リヒャルトは王宮御用達の品を紹介しながら、私の好みに合いそうな香水を手渡してきた。
「この香り、君の気品によく似合う」
「……ありがとう。でも、この香水、仕入価格高すぎて卸では扱えないわ」
一方レオンは、露店の並ぶ市場で香辛料や木箱の品質を分析。
「これ、耐湿加工されてない。長期輸送には向かない。仕入れるならこっちだ」
「あなたの目利きには感心するけど、あんまり現実的すぎると“ロマンス”のかけらもないわよ」
会話のテンポはよくても、どうしても“ビジネス目線”が抜けない自分が、なんだか可笑しかった。
ーーー
カフェに戻り、厨房で用意した新作のチャーラ・スイーツと軽食プレートを三人で囲む。
店内は貸し切り状態、客席に並んだ三脚の椅子が妙に落ち着かない。
「この軽食プレート、王宮の晩餐会にも出せると思うよ。僕が保証する」
リヒャルトは自信たっぷりに言った。
「いや、原価が高すぎる。食材の仕入れ先を変えれば、もっと価格を抑えて継続できる。」
レオンは真逆の視点から冷静に指摘。
「ふたりとも、ありがとう。でもこれは……“試作品”なの。まだデータが足りないわ。」
そう言って微笑む私に、ふと、二人の視線が重なる。まるで静かな火花のように。
ーーー
夕陽が差し込むテラス席。チャーラリキュールを飲みながら、ふたりは静かに語り始める。
「セリーナ。僕は……やっぱり君が好きだ。婚約を破棄したのは過ちだった。今なら、君の価値も、魅力も、本当にわかる。もう一度、考えてほしい」
リヒャルトの瞳は真剣だった。
その隣で、レオンも低く、落ち着いた声で言う。
「俺は君の力を尊敬している。……それに、一緒にいると、経営の未来がはっきりと見える。事業のパートナーとしてだけでなく、人生のパートナーとしても、歩めるかもしれないと思ってる」
二人の言葉に、私は一瞬、黙った。
夕焼けに染まるチャーラのリキュールが、妙に心に沁みる。
「……ありがとう。二人とも。」
私は立ち上がって、ゆっくりと笑った。
「でも、ごめんなさい。今は――誰とも結婚する気になれないの」
二人が驚いた顔で私を見る。
「私の今の恋人は、“このカフェ”なの。目の前の経営、スタッフの生活、領地の再建……今、私が愛しているのは、黒字という名の安心よ!」
ーーー
チャーラカフェ《一杯亭》はそれからも、ますます繁盛した。
「王子と公爵家の三男に取り合われた店主」なんて噂が流れたけれど、私はいつも通り、帳簿と厨房を往復している。
「恋も大事。でも、黒字はもっと大事なのよ!」
今日もチャーラを片手に、私は誇らしく言う。
おわり
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
悪役令嬢だけど、恋より黒字を選ぶ――
そんなセリーナの物語を、楽しんでいただけていたら嬉しいです。
恋愛に振り回されないヒロインも、いいものだと思ってもらえたら何より!
感想・レビュー・ブクマ、大歓迎です。
また別の作品でお会いできたら幸いです!




