第10話 結婚よりも今は再建
「セリーナ、少し話がある」
父――レオポルド侯爵の呼び出しに応じて書斎に入ると、彼は真剣な表情で私を見つめていた。
「なにか、あった?」
「いや……良い話だと思いたい。だが、お前の意思を確認しておきたい」
父は机の上に置いてあった二通の封筒を示した。
「結婚の申し込みが来ている。二件、だ」
「……え?」
「一件は――第二王子、リヒャルト殿下から」
心臓が一瞬、跳ねた。
「……婚約破棄、したはずじゃ……」
「そうだ。しかし最近のお前の噂が王宮に届いたらしい。“商才と実行力を兼ね備えた、頼もしき令嬢”だと」
私は思わず苦笑した。
「ずいぶんと現金な評価ね」
「もう一件は――」
父が、もう一通の封を静かに持ち上げた。
「ヴェルシェルン公爵家三男。レオンハルトからだ」
私は、少しだけ言葉を失った。
「……本人の口からは、何も聞いてないけど」
「正式な申し込みではない。あくまで“関係性の進展を許可する意思”といった形だ。丁重だが、意志ははっきりしている」
私はしばらく沈黙し、ゆっくりと息を吐いた。
「どちらも、今はお断りして。――私は、まだ家の建て直しに集中したいの」
父は驚いたように目を丸くしたが、すぐに柔らかく頷いた。
「……お前は本当に、強くなったな。嬉しいような、寂しいような気もするが」
「恋や結婚に逃げるより、今は現実を整えたいだけよ」
私は笑いながら答えた。
「“好き”って言葉より、“黒字”の文字を見る方が、今はずっと心が動くの」




