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アイテムボックスが最強すぎて廃村を立て直すなんて余裕でした?ウソです超大変です!  作者: 河津乃毒袋
VSプリース王国編

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第154話〜人間の悪意は終わらない〜

 コクシ大陸・南西。

 ハイ・ジーニアス魔道国。地下。

 マリュー・サイケゴゥル研究室。


 老兵・ナクォ・ロータンはきびきびと歩き、不気味な実験をしているマリューの背中に、礼儀正しく凛と立った。


「マリュー様! ご報告いたします! ラ・プリース王国が、ブバスティス帝国を名乗る者たちに敗れたそうです! 首都パイナスは陥落(かんらく)し、ハロルド・ラ・プリース。オリオン・バークライトの二名が戦死。ロウル・ラ・プリース第一王女殿下は行方不明とのことです!」


 実験をしていたマリューはピクリとその手を止めて、ゆっくりとナクォのほうを向いた。


「いま、なんて?」


 つけまつ毛のなびくその目が、丸々とナクォを見つめている。


「ラ・プリース王国が滅び、ブバスティス帝国が建国されました! 終戦の申し込みが来ております! いかがいたしましょう!?」


 その言葉に、十二歳ほどの少女の姿をしたマリューは、狂ったように笑いはじめた。


「うわ〜! マジで!? ちょーウケるんですけど〜!」


 その様子を、冷や汗をかきながら見ているナクォ。


「ぷぷぷ⋯⋯。エルフィラム剤まで流してあげてたのに負けちゃったんだァ〜! ざっこ〜!」


(エルフィラム剤⋯⋯あの反吐(へど)が出る実験成果か⋯⋯)


 ナクォは培養液にひたるエルフたちを、同情の目で見つめる。


「人間の実験体が手に入らなくなるのはマイナスだけど〜、腹の探り合いが無くなったのを考えたらお釣りが来るかもね〜。ナクォ。その停戦協定、喜んで受けるわ〜」


 何はともあれ戦争が無くなる。

 そのことを心から喜ぶナクォ。

 しかし、表情には出さない。


「さようでございますか。では、いつも通り、使者はわたくしめが⋯⋯」


 彼がそういうとマリューは顔を横に振り「あーしが出る〜」と、フラスコを置いて歩き始めた。


「そのブバスティス帝国っての〜、ちょ〜っとイケてるくない?」


 ナクォに詰め寄り、ニヤニヤと笑うマリュー。


「い、イケてるとは⋯⋯?」


「だって〜。軍事力ならトップクラスだったラ・プリースを倒したんでしょ〜? あーしが密かに援助してた、あの国を⋯⋯」


 マリューは上着のポケットからじゃらじゃらと錠剤を取りだし、ボリボリと食べ始めた。


「め〜っちゃ面白そうじゃ〜ん! ねぇ、スメリバとマクシトも呼んでさ〜。首脳会議しようよ〜。ブバスティス帝国のトップがどんなヤツなのか〜。きっとみんなも気になると思うし〜」


 首脳会議!? 正気か!?

 あわてるナクォ。


「で、ですが。マリュー様は極力、表には出ないようにと⋯⋯」


 そんな彼の背後に、ズシンズシンと巨大な影が⋯⋯!


「ナクォ⋯⋯あーしの決定に文句あるわけ?」


 マリューの身体から発せられたマナが、ナクォの背後にいる『なにか』に注ぎ込まれている。

 闇よりも黒い、堅い甲殻に包まれた『なにか』。

 すべてを飲み込んでしまうような『なにか』。


 その気配に気付き、ナクォは「いえ、滅相もございません」と、滝のような汗をかいた。


 マリューはニコリと笑い、マナの供給を停止する。


「わかればよろしい! そんじゃ〜スメリバとマクシトにも書状だしといて〜! み〜んなでお話しましょ〜って!」


 と、手をひらひらさせながら実験に戻った。


 ナクォは「はっ!」と敬礼をし、巨大な『なにか』を避けて地上へと戻った。


(レッドドラゴンの子供⋯⋯なんという姿に⋯⋯)


 ナコォは悲しい実験体に思いを馳せ、目を潤ませた。



 ――――――



 コクシ大陸・北東。

 スメリバ帝国。北東。

 帝都・ダッカーマ。

 王城・謁見の間。


 二十歳という若さにして帝王となった男。

 ナイゲン・ガラヒム・ダッカーマは、玉座にすわり、紫色の長髪をなびかせながら、家臣の報告を聞いていた。


「っつ〜わけでナイゲン陛下。ラ・プリースのクソが堕ちたんで〜戦争は終わりだわよ〜。良かったね〜」


 ボサボサの黒髪をかき、無精髭(ぶしょうひげ)にフケを落としながら報告をする騎士。

 片膝をついては居るがヘラヘラとテキトーなその態度は、不敬罪でしょっぴかれてもおかしくないほどの様相である。


 その姿を見て、隣でかしずく女性騎士が「ソラジ騎士団長! ちゃんと報告してください!」と、青いサラサラとした短髪から鋭い眼光を飛ばしている。

 陛下に頭を下げたまま怒っているので、なんとも滑稽だ。


「だ〜いじょ〜ぶだって〜カイリちゃん。これ以上ない吉報なんだからさ〜。あの愚王が死んだんだよ〜。国民の休日にしても良いくらいだと、俺ちゃんは思うね〜」


 顔をゆるませたまま、カイリという騎士にヒソヒソとこたえるソラジ。


 その様子を、ナイゲンは嬉しそうに見守っていた。


「カイリ副団長。ソラジのことは気にしなくて良い。いつもの事だからね」


 クスクスと口に手を当てて言うナイゲン。

 人の上に立つ者として相応しい美しい所作に、カイリはほおを赤らめながら見蕩(みと)れている。


「ほら〜。陛下もそうおっしゃってるじゃな〜い? うちのボスはあの愚王と違って人が出来てるんだからさ〜」


 ぽーっとしていたカイリは「騎士団長は陛下の爪の垢を煎じて飲んでください」と、ソラジに冷たく吐き捨てた。


「なんにせよ。プリース王国が滅んだのは喜ばしいことだ。歴史が『戦争は愚かだ』と語っているにも関わらず、武力で無理やり領地を拡げていた国だからね。昨今(さっこん)のジョブ持ちの出生率が落ちたのも、あの国が原因だろう」


 背筋を伸ばし、凛とこたえるナイゲン。


「プリースを二日で落としたというブバスティス帝国の皇帝、エータ・ミヤシタ・ブバスティスという男は、すぐに停戦協定の書状を送ってきたし、これは希望が見えてきたかも知れない」


 謁見の間に、優しい空気が流れる。


「ほんじゃま、停戦協定は受けるとして〜。この50年は姿を見せていなかったジーニアス魔道国・王女マリュー・サイケゴゥルの『首脳会議(サミット)』のお誘いのほうはど〜します?」


 ソラジの言葉に、カイリが口をはさむ。


「ソラジ騎士団長。わたくしは反対です⋯⋯。150年以上、王が変わっていないだけでも不気味ですのに⋯⋯。最後に姿をあらわした50年前でも幼女の姿だったと言うではありませんか。なにか、得体の知れない実験をおこなっているとも聞きます。そんな危険な人物の元に、陛下をお連れするわけには⋯⋯」


「あらら〜そういうのから守るのが、俺ちゃんたち騎士団の仕事でしょ〜?」


「そ、それは⋯⋯」


 ソラジは「へへっ」と、笑い、


「でも、まぁ、俺ちゃんも行かない方が良いとは思いますけどね〜。書状で十分やりとりは出来ますし〜。それに陛下はまだ即位されて日も浅ぇです。腹の読み合いになったら不利でしょうしね〜」


 と、言う。


「へ、陛下を軽んじるようなことを⋯⋯!」


 あわてるカイリを後目に、帝王ナイゲンは顎に手を当てて考えていた。


 そして「いや、首脳会議には出席しよう」と、驚きの決断をする。


「本気ですかい? ナイゲン様〜」


 さすがに冷や汗をかくソラジ。

 だが、ナイゲンの意思は固い。


「いま、コクシ大陸は大きく傷付いている。人類が手を取りあって再建する必要があるからね。そのために必要な会談だ。私は行くよ」


 真っ直ぐな瞳になにも言えなくなるソラジとカイリ。


「わっかりやしたよ〜。俺ちゃんたちがしっかりお守りしますんで、ナイゲン様はちゃっちゃか話し合ってくださいな〜」


「わたくしも、微力ながら陛下をお守りいたします!」


「ありがとう、頼りにしてるよ」


 そう言って席を立つナイゲン。


「ところで、我が妹はどうしているかな?」


 窓の外をながめながら、彼は問う。


「あ〜。虫姫様なら、下水道の汚物処理に〜」


「ソラジ騎士団長。虫姫は蔑称(べっしょう)です。さすがに⋯⋯」


「あ〜、そうだったね〜。ジィナ様は今日も人目につかないよう、くら〜い下水道でせっせと働いてま〜す」


 その報告を聞いたナイゲンは先ほどと打って変わって冷たい表情となり、吐き捨てるように言った。


「ならば良い。おぞましい亜人の血が流れる()み子⋯⋯。父と母の遺言が無ければすぐにでも処分していたものを⋯⋯」


 ギュッと拳を握りしめるナイゲン。

 それを見て、ソラジはひらめいたように口を開いた。


「陛下〜。そういや、ブバスティス帝国なんスけど〜。どうやら、亜人との共存共栄をかかげてるらしいんですよね〜」


 その言葉に、ナイゲンは心底驚いた。


「なに!? あんなケダモノたちとか!?」


 ソラジは「はい〜」と言いながら続ける。


「なんで〜ここはひとつ⋯⋯ジィナ様を〜⋯⋯」



 ――――――



 コクシ大陸・北東。

 スメリバ帝国。北東。

 帝都・ダッカーマ。

 地下・下水道。


 スメリバ帝国・第一王女・ジィナ・ガラヒム・ダッカーマの姿が、そこにはあった。


 彼女は兄、ナイゲンの指示により、毎日この悪臭ただよう下水道を掃除してまわっている。


「ふぅ⋯⋯きょ、今日もたくさんキレイにしたなぁ」


 いつ切ったのかさえわからない、ボサボサでモッサリとした紫色の髪。

 そして、くっきりと張り付いてしまった目のクマ。

 ガリガリにやせ細った手足を引きずりながら「フヒヒッ」と、笑う少女。


 髪に汚物をにじませた、およそプリンセスとは思えない風貌の彼女は「みんな、今日もありがとう」と言って、昆虫型のちいさなモンスターたちに挨拶をした。


 そんな彼女の元に、スメリバ帝国騎士団・副団長カイリがやってくる。


「ジィナ第一王女殿下」

「うあっ! ひゃいっ!!」


 ビクリと身体を跳ねさせた彼女を、カイリはゴミのような目で見つめる。


「ナイゲン陛下からのご指示です。至急、身なりを整え、首脳会議に出席する準備をせよと」

「しゅの、か、か、か?」


 まったく状況が読み込めないジィナ。


「首脳会議です。そこで、新しく建国したブバスティス帝国・皇帝の人となりを見よとの指示が出ております」

「ぶば? えっ?」



「ブバスティス帝国の皇帝・エータ・ミヤシタ・ブバスティスが賢王であったなら、ジィナ様を嫁がせるとのお達しです。至急、ご準備を」



 てん、てん、てん⋯⋯。





 ――どぅええぇぇぇぇぇ!?





 ジィナは産まれてはじめて大声で叫んだ。



 ――――――



 コクシ大陸・南東。

 神聖マクシト宗教国。東。

 首都・アウワ。


 おごそかな雰囲気がただよう大聖堂。

 月女神バスティの巨像が飾られた大広間にて、髪を丸め、目を黒い布で隠した女性がひとり、静かに神に祈っていた。


「チョジク様。急ぎ、耳に入れていただきたいお話が」


 目を隠した女性。

 神聖マクシト宗教国・教皇・チョジク・セトゥーチ。


 そして、彼女の元へと小走りで向かう女性、司祭トラエナ。


「ハロルド・ラ・プリースが討たれ、プリース王国が滅亡したとの報告がございます」

「誠ですか。それは結構な⋯⋯」


 「ほほほ⋯⋯」と、上品に笑うチョジクに、トラエナは続ける。


「愚かな戦争が終わるのはよい事なのですが、いくつか問題がございまして」


 トラエナは、意を決したように口を開く。


「その⋯⋯プリースを討ったエータ・ミヤシタ・ブバスティスという男が、ブバスティス帝国なる国を興したのですが⋯⋯。どうやら、亜人種との共存を目指しているようなのです」


 その言葉に、チョジクの頭にビキビキと血管が走った。


「それは、バスティ様からのお告げを無視された。と、言うことでしょうか?」


 黄金のマナが吹き出すチョジクに、たじろぐトラエナ。


「そ、そうなるかと。ですが、もうひとつ気になる報告がございまして⋯⋯。そちらが、その⋯⋯。なんと言いますか⋯⋯」


 完全に言いよどんでしまうトラエナ。


 「私としたことが」と、チョジクは必死に怒りをおさえ、トラエナを萎縮させてしまっている黄金のマナを身体の中におさめた。


「ごめんなさい、トラエナ。報告をつづけて」


 報告をつづけてと言われても⋯⋯。

 トラエナの(ひたい)から、滝のような汗が流れ落ちる。


「チョジク様⋯⋯お、落ち着いて聞いてくださいね⋯⋯」


 すべてを覚悟したトラエナ。

 彼女は深呼吸をし、おそるおそる口を開いた。


「そのエータ・ミヤシタ・ブバスティスが⋯⋯自分はバスティの使徒であると主張しているらしいのです」




 ――ブチィ!!




 チョジクから、大聖堂を包むほどの光のマナが放出される。

 荒れ狂う暴風。

 トラエナは、それを必死に防護(プロテクション)のアーツドライブでガードした。


「チョジク様⋯⋯! お、お気を確かに!」


 煌々(こうこう)と輝きつづけるチョジク。


「これは、一度そのエータという者にお会いしなければなりませんねぇ」


(バスティ様の使徒を名乗る、亜人との共存を望む者ですって⋯⋯? ありえません。バスティ様の名を軽々しく使うなど、万死に(あたい)します)


 チョジクは、エータに対する殺意を必死におさえ、トラエナから渡された首脳会議の招待状を受け取った。


「どのような人物か、確かめて参りましょう。もし、俗物(ぞくぶつ)であるならば⋯⋯フフフ⋯⋯」


 マナを抑えたとはいえ、とんでもないオーラを放つチョジクに、トラエナは心から恐怖した。

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