第153話〜戦いの終わり〜
上空で起こる爆発を確認したエータとビート。
「早く⋯⋯シロウの元に⋯⋯」
「身体が⋯⋯」
二人とも完全にマナが尽き、動くことが出来ない。
(イヤだ⋯⋯せっかくここまで来たのに、シロウが⋯⋯)
誰か、シロウを助けてくれ。
そう願った時、一羽の三足鴉が、もの凄い勢いでシロウへと飛び去っていく。
鴉はシロウの目の前で白い煙と共に、アイチェへと変身した。
彼女は着地に失敗し、よろけながらも必死にシロウの元へと駆け寄る。
「シロウさん!!!!」
倒れるシロウの身体をゆさぶり、彼の意識が途切れてしまわないように必死に呼びかけた。
スライムのコアを破壊したにも関わらず、彼の身体はどんどん溶かされている。
「アイチェ⋯⋯」
もう痛みすらも感じなくなってきたシロウは死期を悟り、アイチェに優しく微笑んだ。
「アイチェ⋯⋯すまない。君の気持ちは知っていた」
アイチェはディアンヌへと変化し、必死に治癒をかける。
しかし、腐食のスピードが早く、進行をおさえる事しか出来ない。
そして、圧倒的なマナ不足。
変化をしながらの無理なアーツドライブ。
彼女は苦痛に顔をゆがめた。
そんな彼女の手を取り、シロウは続ける。
「君を女性として見ていなかった訳じゃない。拙者は遠方へとおもむき、人間の国にも潜入する。いつ死んでも、いつこの身を利用されてもおかしくない。だから、アイチェ。君を巻き込みたく無かったのでござるよ」
アイチェは、ディアンヌの姿のまま「喋らないでくださいッス!」と、限界を超えて治癒をかけ続けている。
しかし、とうとうマナが尽き、白い煙と共に元の姿へ⋯⋯。
わなわなと自分の両手を見る。
もうダメだ、なにも出来ない。
運命がそこまで迫っていた。
「うそ⋯⋯やだ! やだぁぁ!!」
小さな子供のように泣きじゃくる彼女の頭を、そっと撫でるシロウ。
「アイチェ⋯⋯。君は魅力的な女性でござる。拙者は、君に好いてもらえて嬉しい。君のような可愛らしい女性が、武器を持たなくて良い世界を⋯⋯ずっと、作りたかった。そして、きっと、それは成し遂げたでござるよ。拙者に悔いはない」
シロウはそう告げると、彼女の頭を撫でていた手をパタリと降ろした。
(アイチェ⋯⋯この平和な世界で、生き⋯⋯)
「シロウさん⋯⋯? シロウさん!!」
彼の魂は、いままさに天へ召されようとしていた。
「イヤ⋯⋯シロウさん⋯⋯まだ、まだ私、自分から伝えられてないッス。私、わたし、あなたのことが⋯⋯」
そう言って、アイチェはシロウのマフラーの上から、そっと彼にキスをした。
そして、彼の遺体の上で、静かに泣いた。
「え〜っと〜。ムード壊したらごめんね〜」
――ジュゥゥゥ!!
気の抜けた声と共に、シロウの身体に赤い液体がかけられる。
「えっ?」
アイチェが視線を向けると、そこにはなんとも気まずそうなケイミィの姿。
彼女はポリポリと頭をかきながら、シロウにポーションを満遍なくかけている。
「け、けけ、ケイミィさん!?」
驚くアイチェをよそに、ケイミィは「おーい!」と遠くへ手を振った。
「シロウが死んじゃ〜う! 治癒おねが〜い!」
その声に反応し、ディアンヌが遠くから遠隔治癒を飛ばした。
大神官となり、効果のあがったそれは、溶けたシロウの身体をみるみるうちに回復させていく。
そして⋯⋯。
「むっ⋯⋯?」
シロウが目を覚ました。
「これは⋯⋯」
上体を起こして確認するシロウに、ケイミィはズビシッと親指を立て、
「みんなの頼れるアルケミスト〜! ケイミィさん降臨〜!」
と、おどけている。
ふざけていないと、この空気に耐えられなかったのだ。
シロウは溶けていた四肢が治っているのを見て、パタリと仰向けに倒れた。
「拙者は、助かったのでござるか⋯⋯」
彼が「ふぅ⋯⋯」と、一息ついたのもつかの間。
ふと横を見ると、彼の隣で正座をし、ぷるぷると真っ赤になっているアイチェの姿が⋯⋯。
「あっ⋯⋯」
シロウはスライムと対峙した時よりも、大きく心を乱した。
「あ、アイチェ⋯⋯」
「すみませんッス! わ、私、顔洗ってきますッスぅぅぅぅ!!!!」
そう言って、彼女はよろけながらもダッシュでその場を離れてしまった。
「これは⋯⋯後が大変でござるな⋯⋯」
シロウは困ったように笑った。
エータ、ビート、ドロシー、ディアンヌ、イーリン、フィエル、クロウガ、ブライ、ピグリアム、ヒョウドル。
街の人たちを助けていた者たちを含め、全員がシロウとケイミィの元へと集まる。
「今度こそ、終わったんだな」
ブライに肩を貸して貰いながらエータは言う。
その言葉に、ブライはうなずき、
「あぁ、私たちの勝利だ」
と、告げた。
はらはらと、涙がこぼれはじめるブライ。
「な〜に泣いてんだよ! ブライ!」
右手で眉間をおさえるブライを、ビートが背中から叩く。
「すまない。しかし⋯⋯」
ブライは流れ落ちる涙を止めることが出来ない。
彼は、いままでの人生を思い返していた。
自分の稚拙で愚かな判断に、たくさんの犠牲者を出し、その権利すら無いというのに命を取捨選択し、ここまで生きながらえてしまった。
償いたいのに、チカラが無い。
出来ることならば、過去に戻ってやり直したい。
自分の命を代償に、すべてを元に戻したい。
そう思っていた。
だが、エータという存在が現れ、すべてが変わった。
いままでの罪が消えるわけではない。
しかし、贖罪する機会を貰えた。
自分のおこないに光が見えた。
それがただ、魂が熱く震えるほどに嬉しいのだ。
「エータくん!」
エータを抱きしめるブライ。
「ありがとう!! ありがとう!!!!」
珍しく感情をあらわにする彼の背中をそっとさすり。
エータは「へへっ」と、笑い、
「どういたしまして」
と、告げた。




