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海軍王女アンネの異世界探検航海  作者: 海の向こうからのエレジー
チャプター5~ギーアル半島での外交
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5-11 クルジリオン公式訪問 3 ~贈り物

――3時間後、港――


 昼の会食のあと、どうしても外せない用事がある議員4人が先に帰った。午後の行事はまず残りの議員19名がテュークリム側の贈り物を紹介する。本来なら客人が先に出すべきが、こちらが用意したものの都合を考えると後にしたほうがいい。それを昨日伝えたら向こうが了承した。


「なかなかのラインナップですね。さすがはギーアル半島一の貿易港、ここでなら大抵のものは手に入るでしょう」


「恐縮です」


 美術品の絵画や彫刻、シルク製の生地と高級服、植物油で作った香油とシーズニングオイル……などの製造品だけでなく、各種原材料のサンプルも用意してくれた。おそらくアインシリーと商業ギルドの職員たちからカリスラントに魔物素材と金属資源が不足している話を聞いたから、鉱山とダンジョン関係の産物が多い。特に貴重なのは魔法金属で鍛えた名剣かな。ジャイラは剣を選ばない主義でいつも海兵隊支給のサーベルで戦うから特に反応はない。ならこういうのが好きそうな下の兄に送ろうかな。驚くことに天然ゴムを使う防水布と手袋もある。より詳しい話を聞いてみたら、ジャングルに住むルファークレク人から素材と作り方を学んだとを教えてくれた。


 贈り物のチェックが終わり、目録はファルナが保管して、貨物をまた箱にしまう。たくさんの箱をそのままカリスラント側の贈り物のところに運ぶように依頼する。


「これがカリスラントの誠意を込めた一つ目の贈り物――民間用の新型船3隻です」


「本当に、これほどの船を譲ってくれるのですか……?」


「ええ。こちらの都合でカーチマス王国との関係を先に進めたから、そのお詫びも兼ねていると思ってください」


 議長がまだ信じられないみたい。その気持はわからなくもない。テュークリムが用意した贈り物も豪勢だが、新型船とは全く釣り合いが取れない。現時点で新型船を建造できるのはカリスラントだけだから。なぜ私がこんな過剰とも言える物を用意したかというと、今の言葉通り、カーチマスとの外交関係を優先してテュークリムの心証を悪くしたから。その上アルスタール湾開発の件もある。あれもテュークリムにとって相当不愉快な話だろう。東に新しい貿易センターができてしまうから。まぁとにかく埋め合わせが必要と考えた。それにこれは一種のプロモーションでもある。一度新型船の利便性を身を持って体験したら、きっとまた買ってくれる。問題があるとすれば、うちの造船所の建造能力が需要に追いつけそうにないが……まぁそこは追々考える。


 港のスタッフが積載作業をしている中、私は議員と従者たちを船の中に案内する。


「殿下、聞いてもよろしいのですか?この船をこちらに贈るなら、なぜ今テュークリムの贈り物を積み込んでいますか?」


「あっ、そうですね。そこをまだ説明していません。この3隻はもうテュークリム共和国の物だと思って構いません。でもこれから一度タシフォーネに戻る予定です。そちらが選んだ乗組員を乗せて、タシフォーネに戻る道中でこちらの操船を見ながら新型船の操作を学ばせます」


「このクルジリオンで教えられないというのですか?」


「それはやめておいたほうがいいかと。テュークリムの船乗りの能力を疑うわけではありません。ただこの新型船はご覧の通り、あなた方が今まで知っている船と全然違うので、まずは一度乗客として同行して、こちらの人員が操縦するところを見せたほうがいいと判断しました。せっかくの贈り物を不適切な操船で傷つけるのはそちらも避けたいでしょう?」


「わかりました。殿下の判断を信じましょう」


 議員たちは多分この船が動く原理が一番気になるので、最初に機関部を見せる。まぁ見るだけでは製法がわからないけどね。ユールキ=ガーズルアの教導官フラスダーンにも見せたし、これくらいは別に機密じゃない。


「左と右二つの機関部に四つの魔導エンジンが配備されています。この魔導エンジンの稼働によって船を動かす力を得ます。一つ大事なことを先に言う必要があります。魔導エンジンはカリスラントの重要技術なので、機密漏洩防止の仕掛けが施されています。専門のメンテナンス施設以外で分解すると自壊させてしまいます」


「それでは、故障したらこちらが直すこともできないではありませんか」


「エンジンに不具合があったら連絡してください。私たちが責任を持って修理します。修理できないなら新品と交換します。この3隻を航行できる状態に維持するのも贈り物の一部だとお考えください。でも機密漏洩防止の仕掛けによって自壊した場合は別です。贈り物なので、リスクを承知の上で分解して研究するのはそちらの自由ですが、失敗してもこちらは関知しません」


 テュークリム共和国が魔導エンジンの分解に失敗すると船を失うだけじゃない。カリスラントからの信用もなくしてしまう。それでもリスクを無視して強行するかもしれない。魔導エンジンの技術は非常に魅力的だから。正直私にも彼らがどんな選択をするかかが読めない。まぁこれもテュークリムが本当に信頼できる盟友なのかを確かめるチャンスだと思えばいい。


 次に見せるのは上層甲板。ここにあるのはブリッジだけだが、「何も無い」ということが重要だ。


「こうして見ればわかると思います。新型船にマストがないので、甲板のスペース運用はかなり自由になります。この3隻は商船として運用されることを想定した作りだから、武装は一切搭載していませんが、そちらが簡単な改造を施せば魔導バリスタを配備できます。私の見立てでは5基は確実、少し無理すれば7基を配備するのも可能かもしれません。従来の魔導バリスタ戦闘艦を遥かに凌駕します。魔導バリスタ本場のハインフェーカ王国でも火力面では到底敵わないでしょう」


 顔に出さないようにしているが、議員たちが激しく動揺しているのはわかる。ギーアル半島で一番ポピュラーな船は中型の「ダニシーサ」。汎用性が高い船で様々の形で運用されているけど、軍艦として使うなら魔導バリスタ1基を搭載できる。より高い火力を追求しようと、クルジリオンとフーレレヤの造船所が共同開発した大型艦「ティカミア」でも搭載できるのは2基まで。それに比べると新型船の火力に圧倒的なポテンシャルがある。マストの存在がどれだけ邪魔なのかがよく分かるね。


「贈り物を軍艦に転用しても、殿下は気にしないというのですか?」


「ええ。この船をどう使いたいかはそちらの自由です。でも私の見解を言わせてもらえるなら、いくら火力が高くてもこの3隻だけで戦場に決定的な影響をもたらすことができません。それに多数のバリスタを搭載するならたくさんの矢弾が必要だし積載量を圧迫します。やっぱり最初の設計のように、商船として運用するのが一番でしょう」


「なるほど。殿下のご教示に感謝申し上げます」


 議長はそう言っているが、完全に納得したわけではないように見える。理由はわかる。シーリングス海峡自由航行保証作戦のとき、カリスラント探検艦隊がわずか7隻で海峡を10日も抑えた。それでこの新型船3隻にも同じような働きができると思い込んでいる。しかしそれは大きな誤解だ。まず魔導砲がない。魔導バリスタでは長距離打撃力が大きく落ちる。それ以上に重要なのは、コンパクトな作戦遂行に必要な機動力がないから。


 「機動力」というものはよく誤解されると思う。ただ早いだけでは不十分。「明確な意味を持つ行動」であることが重要だ。だから本物の機動力には情報収集と伝達能力は必要不可欠。テュークリムに贈呈するこの船に魔力レーダーがないので、脅威になるような機動力を持たない。単に足が速いだけ。まぁ商船として運用するなら足が速いだけで十分だろう。


「でもマストがないのも利点だけではありません。見張り台がないので、遠くまで見渡すことができません」


 気球も魔力レーダーもない前時代的海軍なら、情報収集は見張り台に頼るしかない。でも正直に言うと、見張り台なんてなくしちゃえばいいと思う。波に揺られる中あんな高いところに登ると、気球よりも事故しやすい。まぁそれを言うなら操帆でもかなり高いところに登る必要があるし、危険性は大して変わらない。やっぱり帆船から脱却するのは正解だったね。


「カリスラント艦隊は気球でその欠点をカバーしているのは知っています。我々にも気球の使い方を教えてくれますか?」


「申し訳ありません。気球は重要技術なので、いくら同盟国でも渡すことができません。代わりに私から二つ助言をしましょう。この後見せる予定の、海上の情報伝達改善につながる技術を使えば、他の船から観測情報を仕入れて視界が狭い問題をある程度解決できます。もう一つは気球の開発について。こちらの船に乗っていたクルジリオンの方々は間近で気球を見たので、その情報があれば自力で開発できるとそちらは考えるでしょう。それは間違っていませんが、気球の開発には注意してほしいです。空に上るだけなら多分あなた方が思うよりも簡単です。しかし気球を安全、かつ効率的に運用するのはあなた方の想像より遥かに難しいです。もし短期間で成果を出そうと無理をしたらきっと多大な犠牲を払います。どうか焦らずに、一歩ずつに進んでください」


 本気で秘匿したいなら本当はこんなヒントも与えるべきじゃないけど、気球の開発に死人が出るのはもう見たくない。それにもしテュークリムが気球の開発に大きな犠牲を払うと、私を逆恨みする人も出るかもしれない。なので予防線を張るつもりで警告した。


 最後に案内するのはブリッジ。さすがに全員は入れないので、議員の従者たちは外から窓越しで中を見る。


「これがさっき話した情報伝達改善の技術、魔石ライトパネルです」


 海軍関連の技術の中で魔石ライトパネルは一番手軽。対となる魔石を正しく設置すればもう完成だ。実際に運用するところをアインシリーたちに見られた以上、テュークリムがすでに実用化してても私は驚かない。なのでこの贈り物に付随する形で運用のノウハウも含めて提供すると決めた。もうすぐ賞味期間切れの技術を最後に外交のカードとして使うってことね。


「このまま全員が船で移動するのですか?」


「ええ。こちらが用意したもう一つの贈り物に広いスペースが必要です。それで商業ギルド支部に相談して、街の東の空き地に置いてきました」


 クルジリオンは敷地が異常に広い街なので船で移動したほうが早い。ついでにこの船のデモンストレーションもできるね。


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