3-12 再び島発見
――再誕の暦867年6月6日、探検艦隊旗艦ラズエム=セグネール、ブリッジ――
日差しが強い初夏の昼前。そろそろ昼食にしようと思うところで、空中偵察をしているミレスファル班から遠話の通話が入った。
『陸が見えました!座標V-3です』
「っ!本当か!」
久しぶりの発見にブリッジがざわめく。魔力レーダーに何の反応もないから無人島かな。もっと詳しい情報は接近しないとわからないから、すぐにこの情報を信号で艦隊全体に伝達し、針路を変える。
発見してから6時間。途中で当番が交代して、観測員はゼオリムに変わった。3番艦の先導で艦隊の半分は東から島の北岸をぐるっと周り、西岸を沿って南へ進む。2番艦の分隊は東側を進む。両方の空中観測の成果を統合して、ようやくこの島の全貌が見えてきた。土地面積は少なくとも63000平方KM以上、とても大きい島だ。カリスラント周辺で最も大きいのは、面積29851平方KM、海軍造船所があるサラス島。この島はその倍以上ある。地球で言えばセイロン島くらいの大きさかな。
この島は北緯35度前後、自然豊かでおそらく住みやすい温帯気候。中央から北部に大規模の山脈があり、ミレスファルが最初に発見したのがまさにその山だ。山頂の形を見ると多分休火山。ということはこの島は火山活動によって生まれた。山脈からいくつの河川が南と西の方に流れる。島の南側の河口の一つが入江のような地形になっている、更に南の海の向こうに複数の小さい島を確認できた。あのあたりはかなり好条件の天然港湾に見える。上陸に適してると思うし、将来は港に発展する見込みだ。
「やはり空中観測は素晴らしいですね。こんな大きい島の発見初日でここまでの情報を集められるとは」
「まぁ実際上陸しないとわからないことも多いけどね。森深いところは空からでもほぼ何も見えないし」
2番艦に信号を送ってあの入江を合流地点に指定した。でももう遅い時間だし、夜でよく知らない海岸を航行すると暗礁とぶつかるリスクが高くなる。島にどんな危険があるかもわからないから、島からある程度離れた場所に留め、上陸は翌日からにしよう。
次の日の朝8時半、艦隊が例の入江に集結して上陸を始める。今回はちゃんと行動準則通り、旗艦と3番艦はしばらく後方の海上で待機、他の6隻が先に接岸する。私たち艦隊階層の人間は作戦室で情報の整理と計画作成。他のみんなは海兵を中心に上陸の準備を進める。上陸地点の安全を確保したら私たちも島に降りるつもりから。アルトー=アファンドリ島を離れてから1ヶ月間ずっと海上にいるので、できればこの島で長めの休養を取りたい。後は食料の補充もしたい。まだ余裕はあるが残ってるのはもう保存食だけ。島の調査が進むと採取や狩猟で新鮮な食材を獲得できるだろう。
「まだか?もう行っていいだろう?」
海岸の大岩の側に仮設ベースの設営がもうすぐ終わる頃、ジャイラはもう待てないって騒いでる。実は私も早く行きたくてうずうずしてる。でもこんなとき自分の感情を制御するのも指揮官の責務だ。
「このままでは、接岸を待たずにお師匠様が身体強化のジャンプで飛び降りそうですね」
「いくらジャイラでも、さすがにそんな勝手は……しないよね?」
そんなとき、現場指揮してるケロスのじいちゃんから通話が入った。
『入江東側の確保完了しました。現在脅威になる存在が見当たりません』
「よし、旗艦と3番艦も行くよ!」
ラズエム=セグネールが投錨しても、私とファルナと参謀たちはしばらく作戦室で報告をまとめる作業を続ける。今みんな降りようとしてるから混雑してるし、降りてもまだやることがない。
サーリッシュナルからこの島までの直線距離は3300KM。セイレーンの縄張りとなってる岩礁や、リーメプレの海中森林など、探検の途中で発見した脅威を回避しながら進むなら距離がもう少し伸びる。今回の探検では1ヶ月ほどの航海で着いたが、最初からこの島の存在を知ってる、荷物満載の貨物船を想定するなら20日か、順調なら15日くらいで着くかな。西の大陸への航路の中継地点としてはもちろん、この島自体が数えきれない価値を持つ。複数の都市を支えられるほど広大な土地。空からざっと見た感じ自然資源も豊富そう。特に注目すべきのは北にある山脈だ。カリスラントに足りない金属資源を供出してくれるだろう。
もう一つ大事なのはこの島は手つかず。とりあえずここまでレーダーで探査した海岸部に人がいない。森深い島の中央部に人間がいる可能性はまだ排除できないが非常に薄いと思う。住民がいるとしても、クルゼサー島の天文台で観測したことがないので人口数は1000人未満のは確定だ。貿易のためにカリスラントの船を受け入れてくれる拠点はほしいが、私は現地住民から土地を強引に奪うつもりはない。できれば平和的な交渉で購入するか、もしくは租界地を作りたい。そんな手間を省ける無人島は一番やりやすい。それに中央神殿の依頼もある。人間の活動がないこの島にまだ魔物とダンジョンが残ってる可能性は高い。もし魔物素材を産出できるなら、この島だけでも今回の探検はお釣りがくるほどの成果を上げたと言える。
「全員警戒!」
外から叫び声が聞こえた。私たちも急いで甲板に出て様子を見る。左の丘の上から、とてもでかい狼のような獣が現れて、武器を構えて立ち向かう3人の海兵に襲いかかる。
「あっ!」
「大丈夫です。突き飛ばされただけ、受け身も取ってます」
ファルナの言う通り、転倒した海兵たちはすぐに立ち上がり、増援に来た仲間たちとフォーメーションを組んで次の攻撃に備える。狼みたいな獣は追撃しようとしたが、隙がないのを見て少し後ろに下がり、唸り声を上げながら様子を見てる。
「あの狼、体長4M以上あるように見えます。おそらくは、魔獣……」
「この辺りのヌシでしょうか。我々が縄張りに入ったから防衛に出たかもしれません」
魔獣とは魔物と混血した獣。普通の獣と外見特徴が似ているが、異常なサイズにまで成長したのはよくある魔獣の性質だ。やっぱり、この島にダンジョンがある可能性は極めて高い。
「誰も手を出すな!」
叫びながら海兵たちの防衛線の前に出るのは、常に自分に相応しい相手を探しているジャイラ。
「久々の手応えがありそうな獲物だ。面白い……」
サーベルを抜いて斬りかかるジャイラに応戦する狼の魔獣。双方の動きが早すぎてよく見えない。初撃以降ジャイラが防戦一方のように見えて、ちょっと心配してきたが……横にいるファルナは全く動じない。それなら心配いらないか。
「挑発している……お師匠様はカウンターの一撃で仕留めるつもりなんですね」
「どうしてそんなことを?」
「無駄に傷をつけると素材の価値が下がります。お師匠様はもう勝利した後のことを考えていますね」
爪による攻撃を何度も弾き返されて、痺れを切らした狼がジャイラに向けて一直線に飛びかかる。ジャイラが屈んで狼の真下に潜り、その姿が見えなくなると、次の瞬間狼の動きが止まった。
「最近一番楽しめた。ありがとうな」
下から魔狼の顎に刺し貫いたサーベルを手放して、ジャイラは返り血を浴びることがないように後ろに優雅に跳び、歓声の中で戻った。
「さすがはお師匠様です。魔物とは実際に戦ったことがないはずなのに、ここまで完璧に仕留められるとは」
「どういうこと?」
「それはですね、わかりやすく言えば……単独で倒すだけならわたくしにもできると思います。でもお師匠様みたいに教本通りのやり方で倒すのは無理です」
ピンとこない私のためにファルナが補足説明をしてくれる。無傷の素材を最大限に取得できるから、頭部から貴重な素材が取れる魔物でなければ今のジャイラの倒し方が推奨される。つまりジャイラには倒し方に気を配るくらいの余裕があった。それにしても、あんな化け物を一人で倒せるのね、ファルナ……
「解体が得意な人がいるのは……第6班と第11班か。この2班は魔獣の解体に取り掛かるように。他は予定通りにベースの防衛と周辺の調査を」
「ちょっと待ってください!魔獣のことなら私のほうがよく知ってる!貴重な素材を不用意に損傷させたくないなら参加させてくださーい!」
「カーシュレさんか。わかった。解体チームはカーシュレさんの助言に従うように」
脅威が取り除かれ、副隊長キーミルの指示通りに海兵が行動に移る。これでようやく私たちも地上に降りれる。参謀たちが作業場を仮設ベースに移す間、私はキーミルに進捗状況と方針を確認する。
「このような危険な生物が他にもいるだろうし、無理をして進む必要はない。詳細の調査は後続部隊に任せればいい」
「はい。上陸地点周辺の確保を最優先、次は北東の丘に監視ポイントを設置するつもりです。これでよろしいでしょうか」
「ええ。哨戒のためにずっと気球を出すのは負担が大きいから早めにね」
そういえばさっきの狼、気球班には見えなかったのか?……いや、ゼオリムがあんなミスをするとは思えない。多分接近してくるスピードが早いからブリッジに伝達する暇がなく、直接海兵隊に警告を送ったんだろう。
「探索の方はまず食料となる資源の調査を進めます。そのために救護隊に毒検知の指輪を3つほどお借りしたいんです」
「わかった。ティエミリアに指令書を用意させる」
「アンネ様、探索にアクシデントはつきものだから救護隊の対応能力を低下させるのは避けた方がいいと思います。ここはわたくしの所持品を貸し出しましょう」
「んー、確かにそうね。じゃこうしよう。探索に行く班を1つ減らそう。指輪は救護隊から1つとファルナのを使う」
「「了解しました」」
私たちが話している間、解体チームの作業が進み、魔石など重要な素材の回収が完了した。その様子を見て一つ思いついた。
「あっ、そうだ。今日の探索は程々にして。みんなを慰労するための焼肉大会を開催したい」
「焼肉大会、ですか?あの狼の肉を使うと仰りたいのですね?」
「うん。もう長い間新鮮な肉を食べてないから、多少癖がある肉でもみんなは喜ぶんじゃないかな。どう思う?」
「……肉食獣だからおそらく匂いがきつくて、そこまで美味しくないでしょう……その辺を香辛料で工夫すればいけると思います」
「全員で焼肉するならあの狼だけじゃ足りないと思います。探索班に他の肉を用意してもらわないといけません。それと調理担当とも打ち合わせしないと」
キーミルが海兵たちのところに戻ると、私は隣で作業してるリミアに話しかける。
「リミア、焼肉大会のときは軍礼服で来るように」
「えっ?どうして?」
「ふふっ、今は内緒。とにかく着替えてきて。これ、命令だからね」




