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3-4 ポスト・アンネ時代のカリスラント海軍管理体制 2

「それと、一つ気になることが……カリスラント海軍を再編成して、4つの艦隊にする意図は?」


「はい。3つの責任海域にそれぞれ艦隊を配置して、残り1つを後詰めに回す。これが一番理にかなう構成だと考えました」


「表向きの話はいい。本当のことは?」


 責任海域をどう仕切るかはかなり融通がきく。現行の5つの艦隊の編成を維持して、担当区域を4つに分けるのが最も簡単なはず。もしくは後詰めを2つにしてもいい。なにか特別な事情がない限り、現存の艦隊を解散させることはないと思う。


「……さすがはアンネ様です。全てお見通しなんですね」


 そう言いながら、クロールレムは隣のセリアーシェの様子を窺い、彼女が話を切り出すのを待つ。


「あのぉ……リミアさんは今、いないですよね?」


「リミアは寝てる。昨日夜番だったから、できれば起こしたくないけど……」


「あっ、いいえ、そのぉ……いないならちょうどいいですぅ。この話は、リミアさんに聞かれたくない、というかぁ……」


「……?どういうこと?」


 萎縮して言い出せないセリアーシェを見かねて、クロールレムが話に割り込む。


「セリアーシェさんが言いにくいなら僕が代わりに話します。第五艦隊司令に就任してから、セリアーシェさんは麾下の艦長に指導者としての資質を備えているかを度々問われます。特に男性の艦長たちは指揮に不服を唱えることが多いです」


「あぁ……そういうことか」


 やはり女性が組織のトップとして采配を振るのは難しいか。カリスラント海軍の成立から日が浅いのも原因だ。指導層がみんなまだ若いから威厳と経験が足りない。私の場合は海軍全員が教え子同然だから問題が起きるはずもない。リミアの第五艦隊司令の任期中も問題なかったが、それはリミアが年上だし実績が十分だから。セリアーシェも私の自慢の生徒の一人、能力はあると思うが、現段階ではまだリミアほどの指導力がないのも事実だ。


「私の力不足が原因なのに、このことをリミアさんが知ったらきっと自分の責任だと思いますぅ……なのでどうかリミアさんには、本当のことを内緒にしていただきたいですぅ」


 私的には、リミアが軍法会議にかけられ急遽退任したのが、セリアーシェの統率がうまく行かない主な原因だと思う。セリアーシェにもう少しだけ準備期間を与えることができたら別の結果になったかもしれない。でもリミアに話してもどうにもならないことだし、秘密にしておくのがいいね。


「それでセリアーシェの経歴に傷がつかないように、第五艦隊を解体して再配置するのか……」


 あの大神殿砲撃事件ですでに第五艦隊の名声が傷ついた。これからも第五艦隊に配属される人たちに苦労をかけるより、こんな風に一度なかったことにしたほうがいいかもしれない。


「はい……やっぱり私にとって、艦隊司令は身の丈に合わないのですぅ……」


「ちょうど僕のところの副司令が家庭の事情で退役することになりましたので、リアシーア=サディアン(第五艦隊旗艦)をそのまま第三艦隊に編入させ、セリアーシェさんが副司令に就任する予定です」


「わかった。あなたたちがそれでいいなら私からは別に言うことがない」


 今回の失敗がトラウマになると、セリアーシェはもう二度と艦隊司令になれないかもしれない。素質はあると思ったのに……やはり人材の育成は難しい……


「あ、そうだ。最後に一つ。あなたたちの計画書に重要なことを忘れたのよ。誰も気づいてないのか?」


「え?どういうことなんでしょうか?」


 海軍のことはもうみんなに任せると言ったのに、結局私を解放してくれない。そう思うとちょっと腹が立ってきたので、ここは意趣返しのつもりで、一つ難題をプレゼントしてあげようかな。


「サリサラス海、西南海、フォミン海、本当にこの3つの区域だけで大丈夫?」


「あっ、はい。これでカリスラント周辺の海域を完全にカバーできますので」


「カリスラント周辺はね。他のところはいいの?」


「あっ……」


 ファルナはもう気づいたみたい。でも艦隊司令の二人はまだ私の言いたいことがわからない。まぁ仕方ないか。これはちょっと海軍の専門領域を超えた範疇で、本来は上から指示が出てから考えることだ。


「ヒントを出そう。第四艦隊は今どこにいる?」


「トンミルグで、内海までの航路の警護を……あっ」


 トンミルグは内海の入り口にある岬の街。航路の要所を抑える中立都市国家。地球で言えばジブラルタルみたいな急所中の急所だ。本来このあたりはザンミアルの勢力圏。ザンミアルが自分でパトロールするので、同盟国との揉め事を避けるためにも、カリスラント海軍が出張る必要はない。でも戦争によってザンミアルの海軍が壊滅したから、今の内海は真空地帯になって、代わりにカリスラント海軍が警護をしなければならない。でない内海貿易と西南海岸貿易の富に群がる海賊が大量に現れるだろう。


「この先のフォミンとザンミアルの海上防衛について、上からまだ何も言われていないの?」


「はい。その……今しばらく我々の方で治安を維持するように、とだけ」


「はぁ……色々影響が出る、デリケートな問題なのはわかってるけど、いつまでも先延ばしなんてできないよ。はっきりさせておかないと、海軍は責任外のことで負担を強いられると不満に思うでしょう?」


 カリスラントの属国になったフォミンとザンミアル、今はどっちも自分の海岸を守る力がない。だから宗主国としてカリスラント海軍がその任務を引き受けた。だがそれがいつまで続くかは誰にもわからない。属国の海軍が再建するまでの一時的な施策か。それとも今後も属国に自前の海軍を持つことを許さず、カリスラント海軍が面倒を見るか。早く決めてほしいところだ。特に後者の場合、防衛区域の拡張に伴いカリスラント海軍を至急に拡大する必要がある。しかしこれは外交問題でもある。内海諸国はカリスラントが次の侵略者になるのを危惧している。それで脅威度を測るためにカリスラントが属国への扱いに注目している。だから慎重に動かなければならない。


「つまり、アンネ様は従属国の海域にも担当区域を設けるべき、と仰りたいのですね?トゥーリーストを母港とするフォミン海域と、タリサミングを母港とするザンミアル海域、ってところでしょうか」


「それも一つの解決案だと思う。私としては、両国には自分を守れるだけの艦隊を持たせたほうがいいと考える。我々の海軍を参考にすれば、かなり小規模の艦隊でコンパクトにその目標を達成できるはず」


「新時代海軍を従属国の方にも導入するのですか?」


「機能を制限した、国外輸出用のバージョンなら別に問題ないと思う。訓練はうちでやる。艦船はうちが提供。鍵となる技術が盗まれる心配はない」


 今はカリスラント海軍の強さに興味を持つ国が多い。それで武装などを取り外した新型船を友好国への贈り物にしたこともある。近い将来でカリスラント製の民間船を輸出する話もある。もちろん輸出する船は真似されることがないように色々工夫をした。特に魔導スクリュー推進と魔力レーダーには仕掛けがある。他国に流出しても分析されないように、専門のメンテナンス施設以外で分解すると自壊する。


「それでも、いい顔しない人が多いでしょうね」


「だよね……」


 戦争に巻き込まれたフォミンはともかく、ザンミアルはカリスラントの同盟国なのに裏切ったのだ。今でもお父様がザンミアルへの対応がぬるいと思う人が大勢いる。その上海軍の再建まで許すと、不満が噴出しそう。でも国際関係を考えると、これが最善手なはず。カリスラント海軍がいつまでも内海でうろつくのは避けるべき。いたずらに内海諸国の警戒を強めるだけだ。だからザンミアルがずっと自分の海岸を守れないままでは困る。


「まぁ、そこはあなたたちが上とよく話してから決めましょうね。カリスラント海軍評議会の最初の大仕事だ。頑張ってね」


「あっ、はい……」


 ザンミアルを属国にしたから、カリスラントの外交環境は戦争前よりはるかに複雑だ。地球でもこの世界でも、国が強大な海軍を持つと自然と活動範囲を広げて自国の利益を守る。こうなるのは海軍強国の宿命とも言える。だから海軍士官学校でも戦略の授業を始めた。難しい問題が多いが、みんなにはそこから逃げずに、ちゃんと対応して欲しい。私が海軍を託しても安心だと思えるようにね。


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