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3-2 アルトー=アファンドリ島再び

――再誕の暦867年5月8日、アルトー=アファンドリ島――


 探検艦隊出発して4日目、私たちはまた艦隊行動訓練で見つけたあの孤島にやって来た。お父様はこの島を「アルトー=アファンドリ島」(外なるアファンストリュを意味するらしい)と名付けた。この島の住民がアファンストリュ系だと知られると厄介だと私が思ったが、お父様はあえてその事実を公表するつもり。どうせ帝国になんもできないから挑発してやると、お父様は先の戦争の和平交渉で相当鬱憤が溜まったみたい。それに、この事実を下手に隠蔽したほうが後で面倒事になりかねないから、我々にやましいことは何もないと示すためにも最初から隠さないほうがいいとお父様が仰った。


「アンネ様、こちらへどうぞ」


 臨時桟橋に降りて、出迎えに来てくれた海軍のスタッフの案内で私、ファルナと参謀全員が(あの宮殿の中に設置した)臨時本部へ向かう。右の方に先日探検艦隊が上陸して設営した仮設ベースが見える。今は物資集積地として運用され、そこを中心に急ピッチで整備を進めている。


「先週から建設を始めた仮設宿舎は昨日完成されました。これで全員の住居を用意できました。これからは港と防衛施設を整備します。来週は海域監視用の高出力レーダーが届く予定なので、その設置に間に合わせるように作業を進めます」


 臨時本部でスタッフが作業状況について説明してくれる。距離はそう遠くないから、アルトー=アファンドリ島の帰属は海外領地ではなく本国の方に決まった。私の管轄下ではないが、この島と同じような拠点化作業は今後海外領地にも行われる。だから予行練習の意味を込めて私が指揮を取ることになった。


「無理する必要はない。現在この海域に敵が現れる可能性は限りなく低い」


 パトロールの負担を減らせるにもレーダーの設置は優先事項。でもこの島は既知の航路から遠く離れている。それに途中には多数の海の魔物らしき反応があった。水面下監視用レーダーがなければここにたどり着く可能性は極めて低い。


「水深調査はある程度の進展がありました。島の北と東側は水が浅い、数多くの暗礁を確認できました。南のほうが通航に適しています」


 やっぱりここまでが大陸棚のようね。探検艦隊と後続の海軍の艦隊が綿密な調査を行って、北に複数の島を見つけたが、いずれも小さすぎて人が住めないし拠点として運用するのは不可能。だからこのアルトー=アファンドリ島の戦略的価値は非常に高い。


「住民たちの様子はどうだった?」


「彼らはほとんど家の中に隠れています。農作業のために外に出ても我々が作業している場所には近づきません。アンネ様の指示通りに、住民たちに衣料品と嗜好品を贈呈しました。それ以降彼らの態度が若干軟化しました」


「それは良かった」


 前回来たときこの島の暮らしを観察した私が選んだ、彼らが一番喜んでくれそうな贈り物は衣料品だ。島には畑とニワトリの畜産があるし、塩も海水から取得できる。食にはそこまで困っていない。見た感じ、住民たちが着ている服は漂着したときの所持品。元は上質な服だろうが数十年も使い続けたからボロボロになった。服だけなのは芸が無いように思うので後は茶葉、砂糖など島では手に入らない嗜好品もセットに入れた。


「しかし、彼らにとって一番の気がかりはやはり将来への懸念です。それについてはアンネ様にしか解決できません」


「わかった。これから私が説明するから、島民たちを集めて」


 島の中央に近い広場で、身長が低い私のために演壇を用意してもらった。その周りに海兵たちが固まる。ちょっと過剰戦力だと思うが、先日敵対行動取られたし、住民たちに変な気を起こさないようにするにはこれが一番かもしれない。海軍のスタッフたちが呼びかけると40人ほど集まった。世帯ごとに代表者が来たみたい。


「私はカリスラント王国の第二王女、アンネリーベル・プリア・カリスラント。あなたたちが住むこの島を発見したカリスラント探検艦隊の司令でもあります。この中に先日上陸した私の姿を見た人もいると思います。まずは安心してください。先日は不幸な誤解がありましたが、こちらはあなたたちに危害を加えるつもりがありません」


 私の話になんの反応も示さない。怯えているみたい。彼らはあの帝位僭称者のロイグレズトを始めとする支配階層の高圧的統治を受けたからか。話を聞く限りあいつらの統治は特におかしなところがないし、まともと言えなくもないが……帝国の伝統からなのか、この小さな島で生き延びるためなのか、領民たちへの態度はかなりきつい。今はその支配階層全員がカリスラント王都に移送されたが、彼らの心に植え付けた恐怖はそう簡単に消えない。


「あなたたちが一番気になる、この島の今後の扱いについて説明します。この島の支配者であるロイグレズト・ファンスタユは一領主としてカリスラント王に忠誠を誓いました。よってこれからこの島はカリスラントのファンスタユ公爵領となります」


 予想外の結末に群衆がざわつく。ロイグレズトの統治がこれからも続くのかと落胆する人もいれば、あいつでさえ罪を問われなかったから、自分たちも許されるだろうと安堵する人もいる。まぁ私もこんな展開になるのを知ったとき驚いたね。


 ロイグレズトをそのまま領主に据えることに色々狙いがある。一番大きいのはこの地を支配する正当性。何と言っても彼は十年以上この島で君臨したから。カリスラント王宮の玉座の間に連行された彼に二つの選択肢が与えられた。カリスラント王女に害をなそうとした罪で裁かれるか、それともカリスラント王に忠誠を誓うか。実質選ぶ余地はないけどね。もし彼が潔く死を選んでもそこまで困らない。当地の統治者を殺して土地を奪うみたいで、正当防衛の範疇を超えて多少悪いイメージがつくが、この島を直轄地にできる。


 ロイグレズトが臣従したためこの島は彼の領地のままだが、当然そんなの関係なく海軍の拠点として使わせてもらう。カリスラント王都屋敷と近くにある荘園を彼に与えると、彼は喜んでアルトー=アファンドリ島を海軍に無期限貸与することを承諾した。本当は有無を言わせず取り上げてもいいが、あえて十分すぎるくらいの代価を払うことに意味がある。カリスラントはその土地の本来の住民を尊重する証となる。実際こんな何もない土地より荘園のほうが経済的価値が高いし、孤島に生まれて豊かとは言えない日々を過ごしてきたロイグレズトにとって、王都のちょっと贅沢な新生活は非常に魅力的だろう。彼がこの島に帰ることはもうないかもしれない。


「……それでファンスタユ公は王都に居を移したので、これからこの島を実際管轄するのはカリスラント海軍となります」


 こんな風に、時の流れによって重要性が高まった土地を貴族領主から召し上げることは近年では珍しくない。例えば現在のカリスラント海軍の本拠地であるサーリッシュナルの周辺も、元はファルナの実家セラーエリクル公爵家の領地だった。西南海岸貿易ルートの開拓によって凄まじい関税収入を得られる要地になったので、公爵と交渉して南の方にある直轄地をサーリッシュナルと交換した。サーリッシュナルのとき国替えを選んだのは税収が関わるからあの土地を明確に王領にしたほうがいいと判断した。今回は逆に、住民がアファンストリュ系だから名目上だけでも領主はアファンストリュ人のままのほうが都合がいい。ちなみにお父様はアファンストリュの帝位僭称者であるファンスタユ家を再興させ、帝国の力が及ばない島に置くことでささやかな嫌がらせとする意図もあるが、そこはあまり重要じゃないと思う。


「海上交通が開通したことで島の生活に大きな影響を及ぶでしょう。あなたたちに提供した衣類などの物資は、今後も取引で入手することが可能……と言いたいところですが、この島は今まで自給自足をしてきたので貿易のための対価――つまり商人たちが欲しがる交易品――を用意できません。それについて私から一つ解決案を提示します。これから海軍は島の拠点化のために様々な建設を進めます。あなたたちが農作業の空き時間を利用して建設の手伝いをしてくれれば相応の賃金を与えると約束します。つまり労働力を提供して、稼いだお金で島の外の商品を買えます。詳細については海軍のスタッフたちに話を聞いてみるといいです」


 これまでより良い暮らしをさせる、これぞ新しい支配体制を受け入れさせる王道。外からの魅力的商品は彼らを懐柔するのに最適な手段。でもすでに一度無償で渡したから、今後も続くとつけあがられる恐れがある。こうしてゆっくりと島の外の経済体系に引き込むのが一番だろう。


 恐る恐る挙手する島民がいるので発言を許可する。


「殿下のお耳に入れておきたいことがあります。陛下……ではなく、ロイグレズト様の命で栽培するルメニズという植物がありますが、あれは交易品になりえるのでしょうか?」


「……あぁ、あれですか。あなたたちはそのルメニズ草の用途を知っていますか?」


「いいえ。ルメニズの穫り入れは監視の下で行われ、収穫は全部取り上げられます。葉っぱも実も決して口に入れるな、とだけ言われております」


 あれは上陸の日で私たちに出された料理に混ぜた、例の猛毒の原料だ。暗殺などに使われる、アファンストリュ原産の毒草だが、難破船とともにこの島に持ち込んで栽培を始めた。ロイグレズトの家令によると、昔この島には猛獣がいて、ルメニズの毒を使った罠で絶滅させたらしい。


「ルメニズ草は危険なので今後許可なく栽培することを禁じます。今畑に植えている分は国が買い上げます」


 他にも交易品の候補を提案したい島民がいるが、いちいち対応するときりがないので他は後で海軍のスタッフが話を聞くことに。


「当面ではあなたたちの生活に干渉しませんが、近い将来でどうしてもこの島の環境が大きく変わります。島の土地は有限なので、海軍の施設が増えると農用地を減らさなければなりません。今までのように全員が農業で生計を立てることができなくなります。それについてこちらから二つ提案があります。島民の中にアファンストリュ帝国出身者が多いと存じます。もし望むならば、大陸への帰還と移居を手助けすることができます」


 一部の島民、特に高齢者たちがこの話に食いつく。船が難破して漂着したため、彼らはこの土地に愛着がなく、チャンスさえあれば大陸に戻りたいと思ってるだろう。そういう人を大陸へ送還して空いた土地を海軍が運用できる。まさにウインウインの関係だ。


「大陸へ移居したい人にはカリスラントで農地を用意できます。詳細はこの後スタッフと相談するように。希望するならアファンストリュの国境まで送ることも可能ですが、あまりおすすめしません。帝国があなたたちをどう扱うかはこちらにもわかりませんから」


 島民はみんなファンスタユ家ゆかりのもの。帝国では反逆者だ。それを正直に言うと捕まるだろう。でも言わないと密入国の流民になるしかない。そこまでして故郷へ帰りたいと言うなら止めはしないが、やはり考え直してほしい。


「この島を離れたくない人向けのもう一つの提案は、環境の変化によって発生する新しい職につくこと。カリスラントの言葉を話せるようになったら、海軍相手の酒場の経営など簡単な仕事ができます。勉強する意欲がある人なら港のスタッフになる可能性もあります。これも詳細は後でスタッフと相談するように。先に声を上げる人には優先に転業のサポートをします」


 若い世代の多くはこっちの話に興味を示した。良かった。もしみんな農地を手放したくないならどうしようと考えてた。これから西への航路の中継地点として、ドック、倉庫、休憩所などを次々と建てるから、理想としては一年以内畑を現在の半分以下にしたい。


ヨーロッパのユニバーサリスなゲームをやったことがあるならわかりやすいと思います。征服(ロイグレズトを殺して土地を奪う)より、強制属国化(ロイグレズトに忠誠を誓わせる)のほうが攻撃的拡張によるオピニオンペナルティが少ないです。補足すると、先の戦争で勝ちすぎたせいで現在のカリスラントはこういう外国を刺激しそうなことに特に気を配っています。


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