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書けなくなった作家擬きが出会ったのは甘党少女でした。  作者: 神無桂花
甘党少女と囲む影

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模擬試験は心を燃やして。

 結果が来るのなんて待っていられない。

 テストが終わったら自己採点、その結果で決めることにした。

 鉛筆を並べて、じっと目を閉じる。周りの生徒はなんか参考書を開いたりしてとても真剣な面持ちだ。今更慌てるようでは、結果なんてたかが知れている。


 信じろ、何かを目指していたわけではない。でも、やっていたことは事実だ。ならば、それを発揮するだけ、神代凪は、無駄な時間なんて、一秒も過ごしていない。常に自分を磨いて、高めてきた。


 死ぬとわかっていて、何で頑張れたのだろう。

 何か爪痕を残そうとしたわけでも無いのに。

 勉強して、料理をして、スタイルを維持して、肌や爪、髪を手入れして。


 何でだろう。 

 いや、理由なんてどうでも良い。今あるのは、やって来た事、蓄えてきたことだけだ。

 私の知識や経験、思いは、誰にも奪えない。確かなものなんだから。


 解答用紙に名前を記入、そしてビリビリと冊子から切り取る。

 ため息を吐きそうになって堪えた。先生の説明は右から左に流す。集中、集中。私は、女子高生になる。


「それでは、始めてください」


 その言葉と共に、問題冊子を開いた。最初は、選択科目地歴公民だ。

 どれにしようか悩んだけど、まぁ良いや。どれでも多分、解ける。

 ちらりと先生を見た。私が受けていることが未だに信じられない様子で、チラチラ見ている。私の後ろに座った人も、戸惑っていた。

 でも、どうでも良いや。

 さっさと、終わらせよう。

 地理Aと政治経済を選択した。



 昼休憩。

 今日模試がある事を知った母さんがパパっと作ってくれたサンドイッチと、水筒で保温された野菜スープ。自分で作るより美味しい。

 もうちょっと勉強して練習したいな。


「あのぉ……」

「はい」


 話しかけてきたのは、えっと、確か、私が復帰した初日に声をかけてきた、雪城さんだった。


「一緒に、良いですか?」

「……? ………………! …………ふむ…………うん…………良いですよ」

「間が、間が怖いです」

「どうぞ。丁度誰もいないので、目の前の椅子にでも座ってください」


 断る論理的で具体的な理由も無い。

 私は気にせず弁当を広げて、サンドイッチを頬張る。うん。やっぱハンバーガーやサンドイッチは、口一杯に頬張るのが一番美味しい。

 誰かと一緒に食べるわけじゃない時はこうして、気ままに食べる。上品に食べるのもそこそこ気を使うしつかれるのだ。

 あっ、今は雪城さんと食べているんだった。

 桐原さんと涼香さんは、私に勝負を挑まれてしまったからか、今も参考書片手におにぎりを頬張っている。熱心だ。


「雪城さんは良いのですか?」

「今更頑張った所で伸びるわけじゃないじゃん?」

「まぁ」

「神代さん、よく成績上位者に載ってるじゃん、凄いよねー。自分で勉強してるの? 塾とか?」

「行ってませんよ。高いじゃないですか」


「そだね。確かに、高いね。私も、そこそこ良いところ行ってたけど、高いしめっちゃ課題でるし、入塾事件とかあったけど、合格できたの奇跡だよ」


「へ、へぇ」


 ぐいっと顔を近づけて来る。じょ、女子高生ってなんで良い匂いをまき散らしてるのだろう。

 香水、かな。種類はわからないけど、爽やかな甘さだ。 


「はむっ」

「あっ」


 手に持っていたサンドイッチが一口分齧られた。


「ん、美味しい! 厚いハムと、このピリッとした辛味の効いたソースが、あと香り、これ、うーん、なんだろう。一口じゃわからないなぁ」


 とても興味深げにしげしげと私の手にあるサンドイッチを眺めてる。


「……いいですよ。あげます」

「い、良いの?」

「そんなに眺められたら。それに、もう一個ありますし」

「あ、ありがとう!」


 自分の弁当を放り出して夢中になって食べ始める。


「美味しいのはわかりますが、喉詰まらせますよ」


 そう言ったと同時に、雪城さんは胸元を叩きながら、手が水筒を求めて彷徨う。仕方ないので渡す。


「ぷはっ。ありがとう」

「勢いよく食べるからです。気持ちはわかりますけど」

「えへへ」


 人懐っこい笑みだ。癖っ気が酷い茶髪。なんか、犬っぽい。


「お手」

「えっ?」

「あっ、すいません」


 反射的にやってしまった。


「やはは。なんか面白い。神代さん」

「あなたこそ。よくあんな邪険に扱われて、話しかけにこれましたね」

「だって、絶対悪い人じゃない。って確信してたもん」

「そんな要素、どこにも」

「勘だよ。勘」


 ちゃんと自分の分の弁当も食べ始め。そして、食べ終わる頃に、先生が入って来た。

 少しだけ、食べ物の匂いが残る教室。人懐っこい笑みと、美味しそうに食べる様子。頭からしばらく離れなかった。

 しかしながらこの学校。

 リスニングもある英語を最後にするって悪意が無いか?

 眠くて眠くて、ちゃんと目的が無かったら、寝ていたと思う。




 三人、駅ビルの中の喫茶店で、それぞれ自己採点の結果を見せあった。


「私の勝ち。です」


 そう私は宣言した。

 危なかった。

 英語と数学に救われた。


「本当に、負けるとは……」

「数学、ほとんど、解き終わって、ますね」

「飛ばすのが定石という部分があるのに」 


 私の問題文にはきっちり途中計算まで書かれてる。穴埋めというのがいまいち違和感だらけで苦手だから。


「あっ、美味しい。ここのコーヒー、濃厚だ」

「えっ? 本当だ。すごい」


 カウンターの方を見てみると、ダンディなおじさんな店員さんが、ニヤッと笑ったのが見えた。

 こうなってくると、メニューの端に見える、お菓子。特にチョコレート系統が気になってしまう。

 きっと合うんだろうなぁ、合うだろう。

 大丈夫。日頃運動は、している。



 三人で歩いて、電車に乗って、そして見上げたマンション。

 ふと、不安になる。

 私は、私にとっての日常を取り戻すことになる。それを取り戻したとき、学校を続けることができるか。

 また、弱い自分が帰ってこないか。

 今の自分は、確実に前の自分より、強い。

 でも、甘えてしまわないか。

 諭さん、強いなって言ってくれましたね。でも、私はこんなにも怖がりで、弱い人です。

 諭さんがいたから、強くいられた。

 でも。私は。乗り越えられたら。

 心が熱い。目を閉じたら、涙が溢れそうなくらい。

 今行かなきゃ、このままずるずる、会いに行けない日々か続いてしまう。

 行こう。心が言った。





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