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書けなくなった作家擬きが出会ったのは甘党少女でした。  作者: 神無桂花
甘党少女と煌めく雪

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作家擬きの将来問題。

 カレンダーを見た時気づいたことが一つある。

 俺は凪の事を考えていた十一週間、全く就活の事を考えていなかったのである。


「三月から始まるって言うけど……」


 インターンは一回しか行ってない。

 小説も、凪に持って行った短編と、あとは凪がせがむから続けていた連載くらいだ。あとは新人賞用。


「くっ」


 何か新しい物を書こうとしても、まだ残っている。

 作家という生き物の残酷さ。俺は、人の不幸すら、作品の種にできる。

 思わずグッと固く手を握りしめた。その事に罪悪感を抱いていない自分が、恐ろしい。平然とできていた事なのに、何で今更怖がっているのか、わからない。

 心が削れている気がする。

 怖い。

 凪を失う事を簡単に想定できた自分が、怖い。

 我ながら、細い神経だな。

 なんて、自分に言えてしまう俺が怖い。

 神薙が、怖い。


「諭さん……少し痩せました?」

「えっ?」


 視線を下に。自分の腹回りを見る。まぁ確かに、出ているわけではないが。


「私がいない間、ちゃんと食べてました?」

「まぁ、最低限」

「むっ。おおかた、ご飯一杯とか、味噌汁とか、そんな適当な食事だったのですね」

「まぁ、うん」

「諭さん、はぁ。まあいいです。これからは、私、一緒にいられるのですから」

「嬉しい事言ってくれるね」

「……たまに素直になるの、心臓に悪いです」

「素直って……だめか?」

「良いですけど。素直になる前に今から素直に言いますよーって教えて欲しいです」

「なんじゃそりゃ」

「心臓の準備をしたいので」

「そうか」


 パソコンの画面には、俺がネットで連載している小説がある。

 見ていて、俺は、よく凪がいない時、毎日連載で来ていたなと思う。

 大して伸びもせず、碌に感想ももらえず。

 二つ連載していて、片方はブックマーク数三桁どころか、ようやく二十を超えたところだ。

 スタートダッシュで滅茶苦茶ポイント貰える人を見ていて、自分の存在意義を疑う。

 凪は俺を好きだと言うが、凪以外はどうだ?


「凪。抱きしめて。すぐに、お願い」

「はい」


 疑問符一つ浮かべず。パッと手に持っていた掃除機を壁に立てかけて、優しく包み込んでくれる。


「ありがとう」


 自分の存在意義を疑いかけた。

 あぁ、そうだ。俺は『我が家のメイド』を連載していた時、何度も何度も、疑った。

 心が負に傾けば書ける。けど、傾き過ぎると、逆に書けなくなる。経験則を思い出した。

 エネルギーが湧かなくなって、死にたくなる。心臓をナイフで一突きしてもらいたくなる。

 いらないなら、いらないって言って欲しい。欲しいなら、欲しいと言って欲しい。なんならモチベになるから広めて欲しい。俺が気づいていない俺の作品の魅力を交えて他の誰かに紹介して欲しい。


 読者へ苛立ち、自棄になって書かなくて良いやって思って、それでもどうにか立て直して書き続けた。投げ捨てたペンを拾った。

 そう考えると。

 ランキング作家も羨ましくなるけど、誰からも感想もらえないけど、百万字とか書き続けてしまう精神力を持つ作家も、羨ましくなるな。


「ごめん……凪」

「はい」

「死にたくなりかけたからさ」

「困ります。諭さんがいなくなったら、私も一緒に行きますけど」

「駄目。凪は、生きてて」


 凪の目に映る俺は、あまりにも頼りなかった。


「諭さん、その、私、甘えられるの、好きなので、どんどん、甘えてください」

「ん。ありがとう」


 少しだけ、前よりマシなのは。折れそうになっても、支えてくれる人が、いること。





 とは言えど、問題は何一つ解決していない。

 俺の将来的な問題について悩んでいる理由。それは。


「里帰り、したくない。凪と居たい」


 あいつらの追及をかわすための確実な進展がない。


「行かなきゃ駄目ですよ。約束したのでしょう」

「うぐっ……むっ、よし、それじゃあ」

「はい」

「一緒に行くか」

「えっ……えぇぇ!」

「二人なら、行ける気がする。俺が一方的に嫌っている人の所にも」

「で、でも、せっかくの家族団欒……」

「そんなの、俺求めてないし。無理矢理だし」


 凪は、何を言えば良いかわからない感じで、少しおろおろしていた。


「凪は、好きなんだね、家族の事」


 そう言うと、小さく頷いた。


「はい。家族は、大事です」

「その家族が、欲しい言葉をくれる家族ならな」


 俺に、初めて欲しい言葉をくれたのは、凪だった。


「欲しい言葉を都合よくくれる存在何て……大事なのは気持ちです」

「その気持ちを伝えるのが言葉と態度だ。示さなきゃ、誰にも伝わらない。それで、行こうぜ、一緒に」

「……そこまで言うのでしたら、お邪魔させていただきます」


 俺よりも恐らく歓迎されるであろう彼女は、あくまで遠慮する姿勢を崩そうとはしなかった。



 

心が不健康なので、すいませんが、短めで。

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