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書けなくなった作家擬きが出会ったのは甘党少女でした。  作者: 神無桂花
甘党少女と煌めく雪

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地獄の沙汰も心次第。

 凪が入院していた頃書いていた新人賞用の小説を読んでいた。

 凪が入院していた頃は、凪が頑張っていると思ったら、頑張れた。


「下手だなぁ」


 俺は大分出遅れている。

 大学生のうちにデビューするのは恐らく無理だろう。四月に募集が終わる新人賞二つ。恐らく、新人賞の中でも五本指に入るであろう二つだ。それに応募して、大賞取れたとして、そこからすぐに売れるとは限らない。いや、新人賞大賞としてなら話題性として十分。だから、売れなくて続きが一冊も出ないという点は考えづらい。

 ネット小説からのデビューとは違う利点がある。

 固定ファンをそのまま引っ張って来れ、絵がつくから期待値も高い。という点で、初動売り上げは期待でき、続編も買ってもらえるのが、ネット小説からのデビューだ。

 迷っているな。

 凪が俺の小説にあると言う、苦味が薄い気がする。

 これでは、出せない。


「書かなきゃ。書かなきゃ」


 自分に言い聞かせる。

 書かなきゃ、駄目だ。

 前のように、当たり前のように、作家の残酷さに身を委ね、忘れてしまえば良い。


「諭さん」

「ん……うわっ!」

「おっと」

 驚いて倒れそうになった椅子は凪が支えてくれた。

「危ないじゃないですか? どうかしたのですか?」

「あぁ、いや」


 きょとんと首を傾げる仕草に、少しだけ心が震えた。


「可愛いな」

「……むっ。ちゃんと予告してくださいと言ったじゃないですか」

「あぁ、それで、どうした?」

「いえ、その、一応、お父さんたちに諭さんの実家に行くこと伝えて、許可をもらって来ました」

「あぁ。了解」


 さて、と。


「俺も準備しなきゃな」

「えっ、明日ですよね、出発」

「あぁ。だから凪も冷蔵庫空になるように飯作ってくれたんだろ」

「えぇ。そうですけど。えぇ! って、あれ。私の泊まり用の荷物は?」

「俺のと一緒に送っておいたぞ。着払いで」

「あ、あはは。なんだ、そういうことですか。ちゃんと泊まりの準備はしていたのですね」

「あぁ、嫌だ」

「そんなにですか?」

「あぁ」


 ヤバい憂鬱になって来た。


「あの、その」

「凪がいるだけマシか。うん」

「諭さんの家って、何なのですか?」

「武家」

「はい?」

「しかも、親戚が軒並み優秀な。正月だからこぞって帰ってくるよ。エリート共が」

「は、はぁ」


 そして、我が家の朝は早い。俺にはキツイ。

 怠い。


「ね、寝ましょう。明日も早いですし」

「ん」


 あぁ、このまま起きたくない。




 新幹線で二時間。

 さらにそこから、バスに乗って三十分。の所だが、父さんが迎えに来た。


「やぁ、諭。それに凪さんも」

「よ、よろしくお願いします」


 凪が驚いているのも無理はない。

 凪の事でうちに来た時と雰囲気違うからな。まぁ、あの時はキレてたからな。あまり知られてない病気の治療法があれじゃあね。誤解も生む。


「んで、他の連中は?」

「諭たちが最後だ。と言っても、みんなお盆に挨拶に来て、正月は忙しいみたいだから、今年は集まらなかったねぇ」

「そうかい」


 なら楽だ。騒がしくならないし、酒盛りに巻き込まれないし。自衛官だの警察だのでガチで鍛え上げられた人たちの稽古に付き合わなくて済むわけだ。

 この人の好さも、一皮剥けばリアリストだ。ただの。


「はぁ」


 窓の外に広がる田園風景も、雪に埋まってはただの退屈な光景だ。

 相変わらずだな。


「凪さんは、朝稽古するのかな?」

「朝稽古?」

「諭から聞いてないのか?」

「言って無いな。俺も出る気無いし」

「長男は出なさい」

「好き好んで長男になったわけじゃない」

「え、えっと……」

「あぁ、悪い。朝稽古ってのは。まぁ、簡単に言えば、うちの武道場で練習するんだ。何でも良いけど」


 剣道でも柔道でも空手でも、合気道でも居合道でも薙刀でも。杖道でも。


「な、なるほど」

「まぁ、経験ない事をいきなりやらせるのも悪いし」


 影山ならまぁ、やってくれそうだけど。


「少し、興味はあります」

「だとよ、父さん」

「んー。要相談、だな」


 そして見えてくる。やたらデカい平屋建ての和風屋敷が。


「実を言うとな、凪」

「はい」

「俺は年寄り嫌いでもある」

「はぁ」

「俺の嫌いなものの原因は大体この家に詰まっている」


 俺のこの歪んだ人格を形成したのは、この家である。


「帰りたい……」

「実家帰りですよね、これ」

「凪、今からでも逃げられるぞ」

「そんなに怖い場所なのですか?」

「諭、あんまり先入観を埋め込むな」

「事実だ」


 斜め下から見たものだがな。

 舌打ちを一つ。門をくぐった。




 凪を客用の泊まり部屋に案内し、俺は俺で、かつての自分の部屋の扉を開いた。


「……物置じゃねぇか」

「あぁ、ごめん、忘れてた」

「母さん……こんだけ部屋があって、なんで俺の部屋物置にするのさ」

「茶の間に近いじゃん」

「はぁ」


 まぁ、置いてあるのはあれか、子ども用のおもちゃか。遊ばなくなった。


「売って来いよ、これとか」

「もう壊れてるから」

「あぁ、そう」


 とりあえず蹴りだしとく。


「ったく」


 外の気配から察するに、物置に持って行ったのだろう。最初からそうすりゃいいのに。帰って来いと言うわりに、歓迎する気も無いじゃないか。


「はぁ」


 あーあ。帰って来ちゃった。


「えっ、諭君来てるの!?」


 ……げっ。

 近くで聞いたらキンキン頭が痛くなるような声と共に、ドタドタと足音が俺の部屋の前で止まる。扉が勢いよく開き、銀河を圧縮して押し込んだような瞳で、部屋を見回し、俺の姿を認めた。


「久し振りー、諭くーん!」

「ひっ、来るな……!」

「えへへー」


 そいつは俺の従姉妹。現在は、えっと。


「お前、何歳だよ。そろそろ彼氏の一人でも作る歳だろ」

「んー。十五だから、そうだね」

「十五って、受験生じゃねぇか」

「そうだよー。えへへー」

「諭さん、あの、お母様どちらにいらっしゃるか……えぇ?!」

「あぁ、凪。母さんなら多分物置に。……あぁ、こいつか、こいつは従姉妹の茜だ。ほら、茜。ご挨拶」


「あぁ、諭君の彼女? うんうん。諭君、そこでなんか色々ヤバいって焦らない辺り、諭君だよねぇ、話は聞いてます。凪ちゃん? で良いかな。初めまして。荒谷茜です」


「あっ、えっ、えっと。神代凪です。諭さんとお付き合いさせてもらっています」

「あはははは、よろしくー。あはははは」


 何が面白いのかげらげら笑う茜に、俺は呆れ凪は困っていた。 















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