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書けなくなった作家擬きが出会ったのは甘党少女でした。  作者: 神無桂花
甘党少女と追い縋る影。

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34/72

偽物の関係は一日の夢。

短め。

 午後。

 映画を見ることにした。


「何が良いです?」

「凪が選びなよ。本日の主役さんや。タスキいる?」

「い、良いです。いらないです」


 そんなわけで、今週公開されていた、多分話題になるであろうアニメ映画を見ることに。

 映像が凄く綺麗で、ヒロインが最高に可愛かった。

 後半、隣からすすり泣く声が聞こえたのは、気にしないでおこう、気づかなかったことにしよう。




 「よかった、良かった……」

「はいはい」


 気づかなかったことにしたのに。

 凪はボロ泣きだった。

 まあ、確かに面白かったな。特に最後の方。音楽のタイミング完璧だった。主人公の選択を俺は尊重したい。

 控えめに言って最高の映画だったかもしれない。今度は一人で見に来よう。


「……凪、顔赤くない?」

「えっ。あはは、外は暑いですから」

「いや、にしたって、赤いぞ」

「大丈夫ですから。ねっ?」

「大丈夫じゃねぇよ」


 おでこに手を伸ばすと、ひょいと避けられる。


「え、えへへ。次は、ですね」

「家。帰るぞ」

「嫌です!」

「駄目だ」


 強情さを際立たせる強い視線。でも、ここで引くわけにはいかない。

 俺は初めて、凪の強い光を真っ直ぐに見つめた。


「うっ」


 そんな声と共に、ふらっと凪の身体が揺れた。慌てて受け止めて、額に触れた。


「ごめん、なさい」

「無理すんなよ。ったく」


 凪を背負って、家路を急いだ。




 家に帰り、凪を寝かしつけた。

 冷えピタ、氷枕、あと、なんだ、濡れタオルか?

 薬とか、どうしよう。まぁ、薬に頼るのはあれか。寝て食べて治るなら、それが良い。

 お粥作るか。凪が前作っていた味を思い出した。程よい塩気、梅干しも良い感じだった。


「うん、用意しよう」 


 頑張ろう。

 あっ、水分。水分大事だ。悪いものは排出しなければならない。

 ろくに風邪とかひいたことないから、必要な物がいまいちだな。


「馬鹿は風邪ひかないって言うけど」


 いや、俺の大学の偏差値的に、馬鹿とは言えない。頭良い奴は、勉強できるしな、わりと。頭が良いけど勉強できないやつはいない。それは、やっていないだけだ。

 経験上俺はそう結論付けた。

 お粥って、本気で作ると炊く所から始まるのか。土鍋で。へぇ。


「やるか」

 



 「さとし、さん?」

「ん? 起きたか」


 部屋で本を読んでいたら、モゾっと布団の中で凪が身じろぎ、半身だけ起き上がった。


「具合は?」

「ごめんなさい。まだ、少し」

「そうか。お粥があるから、それ食べて寝とけ」

「い、嫌です!」

「そ、そうか。お粥はいらないか」

「そっちじゃないです。諭さんが作ったお粥はいただきます」

「いや、寝とけよ」

「嫌です!」

「お、おう」


 弱っているのを感じさせない、強い声。

 弱々しいながらも、光を宿す目。


「荒谷さんと、恋人同士でいられる時間を、無駄にしたくない、です! だから……いや、です」

「……一個だけ言う事聞いてやるから、それで我慢しろ」


 ポロっと零れた滴を見てしまった。だから、妥協点を提示した。


「あの、じゃあ、こっちに来てください」

「あぁ」


 ここで、それで良いのか、って言うのは、意地悪だろ。


「じゃあ、動かないでくださいね」


 凪の両手が伸びて来る。それは頬を挟んだ。

 ゆっくりと、凪の顔が近づいてくる、目を閉じて、鼻と鼻が触れそうな距離になる。まつ毛、意外と長いな。もう目の前、どんな馬鹿でも、ここまでくれば、何されるかなんて、わかる。

 触れた。

 柔らかいとか、そんなありきたりな感想しか浮かばなくて。

 たっぷり三秒。何かが全身を突き抜けるような、そんな衝撃。


「防がれると、思ってました」


 顔を離した凪は、そう言った。


「言う事聞くと、約束はしたからな。動くなって」


 立ち上がる。お粥を取りに行かなきゃ。


「これっきりにしとけよ。ったく、お前どうせ初めてだろ、こんな消費の仕方で良いのか?」

「渡す相手くらい、ちゃんと選びます」


 ベッドのサイドテーブル機能何て、久しぶりに使ったな。

 凪が食べている間、俺はリビングでぼんやりとしていた。

 凪の言う通りだ。俺も、自分で防ぐと思っていた。けれど、身体が動かなかった。

 凪の動きを、ただ眺めている事しかできなかった。


「馬鹿かよ。俺」


 自分で自分に呆れた。

 言う事を聞くという約束の時点でこれだ。

 愚かしい。


 惹かれているというのは確かとはいえ、無いだろ、こんなの。


 あーあ。

 近づいてくる凪の顔は、目を閉じれば、すぐに頭に浮かべることができる。


「駄目だろ。流石にさ」


 目を閉じて丸くなってしばらく、足音が聞こえた。

 台所の方で音がして、凪が食器を片付けた音だとわかった。

 そして、足音は、俺の前で止まった。


「諭さん。私の気持ちは、はしかみたいなものだと、思っているのですか」

「当たり前だろ」

「諭さん」

「なんだよ」

「……私は、……私に残された少ない時間で、過ごす相手くらい、ちゃんと選びます」


 目を開けた。凪の投げかけた言葉の意味を考えたかった。


  






この回を投稿するのには、結構勇気が必要でした。かなり悩みました。

この先どうするか。まだ悩んでいます。揺らいでいます。ゆらゆらと。投稿時間、一日の投稿回数、ズレるかもしれません。

あまり見てもらえてませんけど、それくらいには真剣に悩みながら書いてます。


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