偽物の関係は一日の夢。
短め。
午後。
映画を見ることにした。
「何が良いです?」
「凪が選びなよ。本日の主役さんや。タスキいる?」
「い、良いです。いらないです」
そんなわけで、今週公開されていた、多分話題になるであろうアニメ映画を見ることに。
映像が凄く綺麗で、ヒロインが最高に可愛かった。
後半、隣からすすり泣く声が聞こえたのは、気にしないでおこう、気づかなかったことにしよう。
「よかった、良かった……」
「はいはい」
気づかなかったことにしたのに。
凪はボロ泣きだった。
まあ、確かに面白かったな。特に最後の方。音楽のタイミング完璧だった。主人公の選択を俺は尊重したい。
控えめに言って最高の映画だったかもしれない。今度は一人で見に来よう。
「……凪、顔赤くない?」
「えっ。あはは、外は暑いですから」
「いや、にしたって、赤いぞ」
「大丈夫ですから。ねっ?」
「大丈夫じゃねぇよ」
おでこに手を伸ばすと、ひょいと避けられる。
「え、えへへ。次は、ですね」
「家。帰るぞ」
「嫌です!」
「駄目だ」
強情さを際立たせる強い視線。でも、ここで引くわけにはいかない。
俺は初めて、凪の強い光を真っ直ぐに見つめた。
「うっ」
そんな声と共に、ふらっと凪の身体が揺れた。慌てて受け止めて、額に触れた。
「ごめん、なさい」
「無理すんなよ。ったく」
凪を背負って、家路を急いだ。
家に帰り、凪を寝かしつけた。
冷えピタ、氷枕、あと、なんだ、濡れタオルか?
薬とか、どうしよう。まぁ、薬に頼るのはあれか。寝て食べて治るなら、それが良い。
お粥作るか。凪が前作っていた味を思い出した。程よい塩気、梅干しも良い感じだった。
「うん、用意しよう」
頑張ろう。
あっ、水分。水分大事だ。悪いものは排出しなければならない。
ろくに風邪とかひいたことないから、必要な物がいまいちだな。
「馬鹿は風邪ひかないって言うけど」
いや、俺の大学の偏差値的に、馬鹿とは言えない。頭良い奴は、勉強できるしな、わりと。頭が良いけど勉強できないやつはいない。それは、やっていないだけだ。
経験上俺はそう結論付けた。
お粥って、本気で作ると炊く所から始まるのか。土鍋で。へぇ。
「やるか」
「さとし、さん?」
「ん? 起きたか」
部屋で本を読んでいたら、モゾっと布団の中で凪が身じろぎ、半身だけ起き上がった。
「具合は?」
「ごめんなさい。まだ、少し」
「そうか。お粥があるから、それ食べて寝とけ」
「い、嫌です!」
「そ、そうか。お粥はいらないか」
「そっちじゃないです。諭さんが作ったお粥はいただきます」
「いや、寝とけよ」
「嫌です!」
「お、おう」
弱っているのを感じさせない、強い声。
弱々しいながらも、光を宿す目。
「荒谷さんと、恋人同士でいられる時間を、無駄にしたくない、です! だから……いや、です」
「……一個だけ言う事聞いてやるから、それで我慢しろ」
ポロっと零れた滴を見てしまった。だから、妥協点を提示した。
「あの、じゃあ、こっちに来てください」
「あぁ」
ここで、それで良いのか、って言うのは、意地悪だろ。
「じゃあ、動かないでくださいね」
凪の両手が伸びて来る。それは頬を挟んだ。
ゆっくりと、凪の顔が近づいてくる、目を閉じて、鼻と鼻が触れそうな距離になる。まつ毛、意外と長いな。もう目の前、どんな馬鹿でも、ここまでくれば、何されるかなんて、わかる。
触れた。
柔らかいとか、そんなありきたりな感想しか浮かばなくて。
たっぷり三秒。何かが全身を突き抜けるような、そんな衝撃。
「防がれると、思ってました」
顔を離した凪は、そう言った。
「言う事聞くと、約束はしたからな。動くなって」
立ち上がる。お粥を取りに行かなきゃ。
「これっきりにしとけよ。ったく、お前どうせ初めてだろ、こんな消費の仕方で良いのか?」
「渡す相手くらい、ちゃんと選びます」
ベッドのサイドテーブル機能何て、久しぶりに使ったな。
凪が食べている間、俺はリビングでぼんやりとしていた。
凪の言う通りだ。俺も、自分で防ぐと思っていた。けれど、身体が動かなかった。
凪の動きを、ただ眺めている事しかできなかった。
「馬鹿かよ。俺」
自分で自分に呆れた。
言う事を聞くという約束の時点でこれだ。
愚かしい。
惹かれているというのは確かとはいえ、無いだろ、こんなの。
あーあ。
近づいてくる凪の顔は、目を閉じれば、すぐに頭に浮かべることができる。
「駄目だろ。流石にさ」
目を閉じて丸くなってしばらく、足音が聞こえた。
台所の方で音がして、凪が食器を片付けた音だとわかった。
そして、足音は、俺の前で止まった。
「諭さん。私の気持ちは、はしかみたいなものだと、思っているのですか」
「当たり前だろ」
「諭さん」
「なんだよ」
「……私は、……私に残された少ない時間で、過ごす相手くらい、ちゃんと選びます」
目を開けた。凪の投げかけた言葉の意味を考えたかった。
この回を投稿するのには、結構勇気が必要でした。かなり悩みました。
この先どうするか。まだ悩んでいます。揺らいでいます。ゆらゆらと。投稿時間、一日の投稿回数、ズレるかもしれません。
あまり見てもらえてませんけど、それくらいには真剣に悩みながら書いてます。




