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第一章 動きだす世界(11)


「我らの美しき魔王様にたてつく蛮族どもを蹴散らせっ!」「殺せぇー!」「魔王様ばんざぁぁぁい」


 いろんなところから奮闘を促す声が上がる。


(妙だな)


 俺は心の中でつぶやいた。

 確かに今の戦況は敵の攻撃もなかなかのものだが、俺たちのほうが僅かに推しており優勢だ。そこは、良いだろう。

 でも、冷静に考えてみてほしい。偵察によると相手の戦力はこちらより多かったはずだ。それなのにこ

ちらがまだ一回も押されることなく進軍している。


(なんか、嫌な予感がする…)


 俺はそんな不安を抱えながら進んでいく。

 そして、どんなに理にかなった指摘を上にしたとしても一魔獣部隊の者の進言などまったく取り合ってもらえないだろう。

 なので、どんなことが起きてもすぐ対応できるように心構えだけはしておく。

 しばらくすると、突然頭に言葉が響く。ルーシーだ。


『海斗よ。面白いことになってきたぞ。別動隊が直接こちらを攻めにきおったわい』


『ほんとか? それはまずいんじゃ』


 そんな俺の心配をよそに、ルーシーはいつものように笑いながら言う。


『何を言っておるのじゃ。ここには儂がおるのじゃぞ? 心配いらん。赤子の手をひねるよりも簡単

じゃ』


『そ、そうか。でも、なんか嫌な感じがするんだ。気を付けてくれ』


『ほう。魔王の心配をするか。カカカッ。そんなことされたの初めてじゃ。まぁ、ありがたくその言葉を

受け取っておくとするかの』


 そういうと、さっきまでのつながりが切れる。ルーシーが思念伝達を解除したのだ。

 俺は、それがわかると戦いに集中しなおす。


「別動隊か…」


 そう口にしながら今一度戦場を見回す。

 別動隊が動いたためか、先ほどまで勢いが弱かった敵の攻撃が強さを増す。そして、いつの間にか半包囲状態となっていた。

 今の位置はほとんど国境と変わらない。つまり、相手の砦に近いということもあり増員も伏兵もありうる。


(ここまでは偵察も来ていなかったんだろうな)


(初め、勢いが弱かったのは敵をできるだけ俺たちの砦から遠のかせ別動隊による攻撃に対する救援をさせないためだろう。加えて、国境近くに戦場を引き寄せ数と地の利を生かす)


「完全にしてやられたな」


 俺は目の前のオークのような敵を切り伏せながらそうこぼす。

 それでも、戦うしかない。周りでは敵を切った者が、ほかの敵に切られ、その者もまたしかり。鮮血が飛び散り。誰かのうめき声がどこからとも退く響く。血の匂いが範囲こびりつく。


 今更ながら俺はすごいところにいると実感する。

 意識を目の前に戻し、いつの間にか荒くなっていた息をも整える。

 ちなみに今はザクから降りて戦っている。走っていない騎馬はいい的になってしまう。


(馬じゃないけど)


「ふっ」


 俺は剣を持ち直すと俺に背中を向けている敵に向かって駆け出しこれまで何回もやってきたように剣を振るう。



 ――― スカッ ―――



「えっ?」


 剣はただ空を切った。

 俺に気が付いた敵は刃が一メートルはあろう斧を振り下ろす。


「カキンッ」


 金属音が響く。


「くっ」


 とっさに剣を前に出し刃を受け止めた俺。

 だが、力をこめるとさっき受け止めた時と違い簡単にそれを押し返す。

 それに驚いて体勢を崩した敵の腹を裂く。


「ぐぅおおおぉぉぉぉぉ」


 俺は剣を見つめる。


「何が起きたんだ?」


 しかし、戦場でそれ考えさせてくれる余裕は与えてもらえない。

 俺は振り下ろされてきた剣を受け止めると、そのことはいったん頭の隅に追いやった。

 その直後、頭に声が流れてきた。


『ぐぅぉ』


 それは、ルーシーの痛みにこらえるうめき声だった。





最後まで読んでいただけるだけで感謝です。


前作「居候彼女は泥棒猫」もよろしくお願いします。

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