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第八話 『気配』

数えきれない程の思い出を作ろう


あなたと二人で


そして 数えきれない程の涙を流そう


 ずっと一人で


 これからずっと……


 吹く風が少しだけ冷たく感じたから 


そっと運命を受け入れたんだ





――――――――――――――――――――――――






手に持った花火を嬉しそうに回す彼女が言う。

「夢だったんだ♪いつも村の子供たちがやってるのを眺めてるだけだったから」

「安上がりな夢だな。でも喜んでもらえて良かったよ」

「安上がりじゃないよ!『ぴょん助がくれた手持ち花火で遊ぶひと時、プライスレス――』だよ!」

「京一な」

彼女を驚かせる為に、俺はバスに乗って隣町のスーパーまで手持ち花火を買いに行ったのだが、その甲斐があった。こんなに無邪気な笑顔を見られたのだから。


「小坊主、キミには夢はあるのかい?」

花火に火を着けながら問いかける彼女に、俺は答えた。

「実は中学の頃から、ロックスターに憧れているんだ」

「そっか、来世で頑張れ☆」

「全否定かい!結構本気だったのにな…」

「まぁ夢なんてのは思春期にだけ見える蜃気楼のようなものだからね☆」

「何てこと言うんだ!?夢を形にする存在のヤツが!」

「ウソウソ。え~何だ、『最後まで希望を捨てちゃいかん。諦めたらそこでウンタラカンタラ』的なアレよ」

「肝心な部分があやふやじゃん!そして投げやりに言うな!」

打ち明けた夢を軽くスルーしながら花火で遊ぶ少女を眺め、溜め息をついて俺は笑った。

「見て見て!二刀流!」

花火を左右に1本ずつ持って構え、剣豪さながらのどや顔で言う。

「そして聖火ランナー☆」

今度は片手に持ち変え、天高くかざして走り回る。

「ハハハハっ、何処で覚えたんだよ。俺もよくやったわ、ソレ」

「楽しいね♪ありがとう、にゃんまげ♪」

「京一な」

川原に浮かび上がる小さな光と、天真爛漫な少女の笑顔。

この情景も、心のアルバムにしまっておこう。

…クサイよ!クサすぎるよ、俺!











今日は隣町まで二人で出掛けることに。

「京一だけズルイ!あたしも隣町でハッスルしたい!」

と、彼女が駄々をこねるものだから、連れて行ってあげることにした。

『ママチャリ二人乗り1時間全力疾走』は正直さすがにキツすぎるので、今度はバスに揺られて隣町を目指す。…運賃はもちろん俺負担。何故なら、精霊さんはお金を持っていないからだ。

「お金なら賽銭箱にいくらでもあるわよ。取ってこよっか?」

なんて罰当たりなコトをコイツなら言いかねない、マジで。いやマジで。

これ以上罪を重ねさせる訳にもいかないので、ここは黙って負担しよう。

実はこのデートの為に、俺はじいさんに土下座をして軍資金を得た。

何かプレゼントでもして喜ばせてあげたい―――、そんなことを思っていたんだ。

初めて乗るバスのスピードに驚きながら、窓に張り付いて景色を眺める彼女。

「花火大会以来だね。繁華街の方は初めてだよ。楽しみ♪」

「えっ、初めてなのか?」

「うん。てゆーか隣町すら2度目だし。基本、『あたしたち』は村から出ないから」

「…そっか、エスコートするよ」

「ありがと、使用人♪」

「そこは『王子様』と言え」

  「えぇ~、そら無理があるで~きょん太くぅ~ん」

  「いや、あんた誰!?」

     「ぼくアヤえもんで~す。説明しよう!アヤえもんとは、自分はあくまで未来の世界のネコ型ロボットだと言い張る、ただの居候のおっさんである!」

  「何の役にも立たねぇじゃん!?」

「ペット的な立ち位置である!」

「おっさんなのにな!」


30分の乗車を終え、駅前でバスを降りた。

駅周辺にはスーパーマーケット、本屋やCDショップなどが並んでいて、大抵の物はここで揃うぜ!パチンコ店やゲームセンターなどの娯楽施設も一応あるんだぜ!

「あっ、あそこ行ってみたい!」

そう言った彼女は、俺の返事を待たずして一目散にスーパーに駆け込んだ。

初めてのお使いに来た子どものような表情を浮かべながら、衣料品・雑貨売り場を発見した少女は、瞳をキラキラさせながらディスプレイされた商品を眺めていた。

「何か買ってやるよ、せっかくだしな」

俺がそう言うと、彼女はとっさに食い付いてきた。

「ホントに!?いいの!?」

「あぁ。予算内であれば……」

嬉しそうに辺りを見渡しながら、店内を歩くこと30分。彼女はようやく目当ての物を見つけた。

「これがいい♪」

そう言って指差した物は、ショーケースにあった小さな腕時計。値段は…まぁ大丈夫だ。

俺は店員を呼び、会計を済ませて、それを彼女に贈る。

早速箱を開け、手首に時計を着けた彼女は、眩しい笑顔でこう言った。

「ホントにありがとう♪ずっと大切にするね」

(……『ずっと』…か……)

俺は不意に湧き上がった感情を押し殺して、少女に微笑みかけた。

 

その後、喫茶店に寄って小洒落た午後を満喫する。

彼女はこれまた生まれて初めてのチョコレートパフェを口にした瞬間、驚きの声を上げた。

「甘い♪美味しい♪…これはデザートのIT革命や~!」

「…ITは何の略か知ってるか?」

「えっと…、い…い…、イタダーキマース?。」

「違ぇよ。ってかカタコトで言っても正解にはならねーぞ」

「IとT…い…い、インキンタムシ!!やった~♪」

「女の子がそんなコト言っちゃいけません!あと正解じゃねーからガッツポーズすんな!」

再びパフェを口にする。

「甘い♪美味しい♪…これは人種のサラダボールや~!」

「何故にテイク2!?そして意味不明!」

そんなことはお構いなしに夢中で頬張る少女。

「んん~♪10杯はいけるね☆」

「いやいや、食い過ぎだろ。絶対吐くぞ」

「大丈夫♪乙女の秘技『別腹☆』発動!」

「便利だなぁ乙女は。つーかそんなに金残ってねぇからな!」

「分かってるって♪ンフフ♪」

彼女は嬉しそうにパフェを堪能しながら、無邪気な笑みを浮かべていた

生クリームより甘いキミの笑顔に、このハートはとろけそうだよ。

…って意味分かんねーよ、俺!













雨が降る日は傘を一つたたんで、いつもの道を並んで歩いた。

「意外と濡れるね」

と彼女は苦笑い。

「そういうもんだよ。しかし相合傘は10代の男子が望むシチュエーショントップ―――」

「はいはい、今度ランキング一覧にして提出してちょーだい」

―――腕を上げたな!?タイミングといい、あしらい方といい、申し分ない!

馬鹿話を繰り返しながら、俺たちは笑った。


「なんか…ラブコメっぽいね、この感じ。えへへへ♪」

「キミでも照れ笑いするんだな」

「失礼ね!だって…恋する乙女だからさぁ~、なんて。」

少し恥ずかしそうに言った愛しいその横顔を、俺はずっと見詰めていたかった。

「何処かで雨宿りでもするか?」

「そうね、神社にでも行ってみる?」

今度は得意げな顔をしてキミが言った。

「神社は初めてだな。でも大丈夫か?神主一家に見つかったら…」

「大丈夫、顔は割れてない♪きっとただの見知らぬ女の子って思うだけ」

  「いやいや、衣服の窃盗罪で現行犯逮捕確定!」

「ちょっと借りてるだけよ!それに、こんな物は隣町で買ってきた有象無象の商品よ。バレやしないって」

「有象無象て。ケチをつけるな。隣町の衣料品売り場ではしゃいでたクセに」

「まぁ最悪の場合、服ごと姿を消すからダイジョウブイ♪」

「えっ!?何ソレど~ゆ~原理!?詳しく教えて下さい!」

「なんか、そーゆー設定なんスよ☆」

「kdrjんtkwんせぅいqbpん!」

上手くツッコめなかった俺は、思わず言葉にならない奇声を発した。

この俺にも捌き切れない事象があるなんて…。父さん…、世界は広すぎるわけで…。


数分歩いて神社に到着した俺たちは、雨を凌ぎながら境内の風景を眺めていた。

夏の雨もこれはこれで風流なものだ。

隣に寄り添う彼女は、今日もせっせと日記を書く。

時折、他愛もない会話をしては笑い合い、俺たちは緩やかな時間を過ごした。


雨上がりの空に架かる、七色の橋を期待しながら―――







近くの小高い丘まで星を眺めに行く。

今日も自転車を走らせる俺。後ろには彼女の温もり。

鈴虫たちがオーケストラを奏でる一本道を、月の明かりに導かれて進む。

辿り着いたその場所から見えるのは、今にも降り注ぎそうな満天の星々。

原っぱに寝転びながら、二人して夏の大三角を指でなぞる。大自然のプラネタリウムに魅せられて、胸を躍らせる子供の様に。

流れ星を見付けてキミが言う。

「星に願うなら、何をお願いする?」

「世界平和」

「おつかれ」

溜め息混じりに彼女が言ったから、俺は真面目に考えた。

「そうだなぁ……」

「あたしはね、ずっと笑っていられる様に、そうお願いする」

そんな小さな願いを抱くいたいけな少女が、やがて使命を終えても…どうか幸せである様に―――、俺は夜空の星に願った。決してキミには言えない、秘密の願い事。

「俺の願いはな――」

「それから、この村の人たちが幸せに暮らせます様に」

「そうだな。俺の願いは――」

「あっ、あと、にゃん助の本当のご両親が見つかります様に!」

「京一な。あとそんな設定無いから!ってか俺の願い聞く気なくねぇ!?」

俺の鋭いツッコミとキミの笑い声が、静かな夏の夜空に響き渡った。


「…で、願いは何?しゃーなしで聞いてあげる」

「…強くなりたい。何があっても負けないくらい、強く」

「よし!じゃあ、そんなキミにはコレをあげよう♪」

彼女はそう言って、ポケットから取り出した小さな箱を俺に手渡した。

「……何これ?」

俺は携帯を取り出し、僅かな明かりでそれを確認してみる。と同時に、どや顔をしながら彼女が言った。

「ビスコだ」

「……ビスコですか」

「パッケージをよく見てみなさい。書いてるだろ?『おいしくて つよくなる』と」

「ドンピシャですね!」

「ドンピシャだ!」

「ワハハハハハハハハハ」

「ワハハハハハハハハハ」





―――色んなキミを見ていた。

笑った顔も、素の顔も、ふてくされた顔も。

横顔も、泣き顔も、困った顔も。

振り向いた顔も、少し照れた顔も、俺を見ていた顔も。

そして、儚げな後ろ姿も……。



駆け足で過ぎゆく日々の中で、俺たちは掛け替えのない『今』を生きる。


吹く風は切なく、次に訪れる秋の気配を連れて来るような気がした―――






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