白髪の男
王の後ろからゆっくりとした歩幅で歩み出てきたのは長髪の若い男だった。
身なりから察するに位は国王ほどでなくともそれなりに上の階級であることが分かる。
「なんだ。王に事の沙汰を伝えなければならない。手短にしろ」
「もちろんですとも。あなたは先程自らを神だとおっしゃった。ではあなたは三柱の内のお一人なのでしょうか」
この国の神話体系はいたってシンプルだ。
この世界を構成する物は全て三つに分類することできる。
それらは『地』『天』『星』だ。
『地』は基本的に俺たちが生活するうえで必要になるものは基本的に全部含まれる。普段食べている食料。小麦や豆などの作物。海でとれる魚などの海産物。それ以外にも電灯の灯りになっている魔石や武器や鎧の原材料になる金属類なども含まれる。
次に『天』。これは魔術を使用する際に重要になる≪火≫≪水≫≪風≫≪地≫≪光≫≪闇≫などが含まれる。この場合の≪地≫は先程の分類の『地』とは違い、あくまでもっと小さな枠組みの中の一属性という位置づけだ。
最後に『星』。これは人類が常識の範囲内で理解できないものや、想定できないことすべてを指す。ある日突然起きる火山の噴火や巨大な地震。ゲリラ豪雨やはたまた遥か彼方の流れ星まで含まれる。
要するに困ったら大体『星』のせいだ。
そしてこの三つはそれぞれに担当の神がいて、その神たちは三柱と呼ばれている。
これだけ見ると地震なんかは『地』に属していそうなものだが、物質と減少は別問題なんだとか。図書室でそれなりに関連書籍を読み漁っては見たものの、それなりにふわふわした概念で元の世界の大きな宗教と比べるとまだしっかりとかたまってはいないようだ。
ようするに『星』の神様かわいそう。
「それは違う。そもそもでお前たちの信仰ではあの三人しか出てこないかもしれないが、ほんとのところはもっと沢山いる。俺はその中のうちの一人だ」
「なるほどなるほど。神は三柱だけではないと。それは非常に興味深いお話ですな」
本当のところであれば三柱の内の一柱になり切ればよかったのかもしれないが、俺は異世界人だ。ここの世界では常識的なことでもうっかり知りませんでしたとなる可能性も低くない。自分のこともよくわかってない神様なんて流石にちょっとかっこ悪すぎる。そのせいで信仰が減りでもしたら神様に合わせる顔がない。まぁ、神様が本当にこの世界において実在するのかどうかはまた別問題なのだが。
「御身がおっしゃった通り我々が信仰しているのはかの三柱のみ。あなたに従う云われはございません。そうですね、王よ」
「そ、その通りじゃ!余がお主のいう事を聞く必要などない!」
これは予想外だ。この男は恐らく俺が神ではないことを俺が神を自称したときから察している。そのうえで俺のことを偽物だと指摘してこない。
どうしてだ?利用する価値があると踏んだのか。
どうもこの男の考えていることがわからない。
長い白髪の男...宰相か何かだろうか。前情報にはあんな頭のキレる厚賀王の近くにいるんなんて話は聞いていないかった。今まで表立っては行動していなかったが俺という危険分子が現れたことでやむを得ず動いたのか?現段階では仮説を立てようにも情報が足りなすぎる。
「それで、お前たちは俺がせっかく作ったチャンスをみすみす逃すという事か?」
「いえいえ、まずは御身のおっしゃられた悪事という物が何を指して悪事なのかお教えいただきたく存じます」
かしこまった礼で白い長髪がサラサラと落ちる。その表情は常に張り付いたようなうすら笑いで何を考えているのか全く読めない。
何をしてくるかはわからないが、いつでも緊急脱出できるようにしてこちらの要求を伝えよう。
「まず民草からの異常なまでの税収。国家の運営に必要な量を明らかに超えている。このままではこの国が内側から崩壊するぞ」
「なるほど。まず、という事は他にもあるのですか?」
俺と奴だけが口を開く静かな状況が続く。周りの兵士やあのうるさかった王までもが静かだ。
いや、これが普通の反応のはずだ。この男が異常なのだ。
羽を生やして光る玉を飛ばしながら神を名乗る俺が常識を語るのも少しおかしな話だが、常識的に考えてある日突然目の前に羽と光をまとった自称神の男が出てきたら突然のおかしな状況にちょっとしたパニック状態になるはずなのだ。なのに目の前の男は「あ、そうなんですね。じゃあ今からウチによってお茶でもいかがですか」なんて言いそうな表情をしている。
などと必死に脳内で考えを巡らせながらも問答を続ける。
「次に魔族との国境の砦の件だ。俺がいなかったら今頃は甚大な被害があっただろう。休戦しているわけでも停戦しているわけでもない。そのことをよ覚えておけ」
「その件につきましては誠にありがとうございました。出来るだけ早い段階で警備体制を強化いたします」
「俺からは以上だ」
「おや、てっきり獣人の奴隷の扱いについておっしゃられるかと思っていたのですが」
男がわざとらしく目を開いて驚いて見せる。
なんだかいちいち癇に障る行動をするな。これにも何か意図があるのか?それとも俺がヨモギをかくまったことを知っているからか?
「そのことについてはあくまでお前たちが他国との戦争に勝ち、得た権利だ。確かに街中でむごたらしい扱いを受ける奴隷を見ると気分のいいものではないが、俺がとやかく言うようなことではない。」
「なるほどなるほど...本日は大変参考になるご意見ありがとうございました」
そう言って男は再度わざとらしく大きく礼をした。




