王への謁見
無駄にバカでかい王城と、これまた無駄にコストのかかった門をくぐり、城内へと進んでいく。
城の外観からすでに金がかかっていることは一目瞭然だったが、内装はさらにすさまじかった。そこらじゅうがキンキラキンか真っ白なのだ。正直に言って目が痛くなる。うっかり入った瞬間「うわ、まぶしっ」と口にしてしまったくらいだ。
アイセアも同意見なのか、なるべく表情には出さないようにしてはいるものの、いつもの微笑みが少しまぶしそうに歪んでいるような気がする。
ある程度進んでいくと、王の準備が整うまでしばらくここで待てと、待機させられた。
入ったばかりのホールと比べると随分と目に優しくなった印象を受ける。それでもかなり金はかかっているようだ。細やかな黄金の装飾。柔らかな感触が足から伝わってくるカーペット。よくわからないが、きっと価値のあるであろう壺。駄目だ、全然リラックスできない。落ち着かない空間から逃れるように俺は意識を自分の妄想の世界へと逃げ込ませることにした。
「アニアス侯よ、よく参った」
「ありがたきお言葉、痛み入りまする」
「して、此度の事態の報告に参ったと聞き及んでおるがの」
俺たちを俺たちより階段数段分くらい上から見下ろしている太り気味の男。彼がこの国の王様らしい。純白に黄金の刺繍の入った服を身に着け、偉そうに椅子にふんぞり返っている。いや、実際偉いんだけどさ。年齢は恐らく30代後半だろうか。それと見た感じからすぐにわかったが、明らかに太りすぎだ。こちらの世界に健康診断なんてものがあるのかはわからないが、もしあったら速攻でメタボリックシンドロームと診断されるであろうレベルでの太り方だ。きっと毎日ピザばかり食べていたんだろう。かわいそうに。
「此度の魔族の進行におきましては私に仕える魔術師、カグヤに殲滅を命じた結果であります。テリア侯からの救援依頼の書状を受け、これに答えた形になります。」
「ほほう、そちの隣におるそのローブの男が件のカグヤとか言うものかえ?」
「はい。その通りにございます」
「よし、貴様。我が城で私に仕えよ」
来た。必ず来ると踏んでいた投げかけが予想通りに飛んでくる。イグニスも予想はしていたようで"言われたくないところを言われてしまった"という顔をしている。
だが、俺にとっては待っていた一言だ。
「ならばあなたに問いたい。あなたにとって王とはなんだ」
自分の下につくと即答しなかった俺に対して少し眉がピクリと反応する。不機嫌ゲージが少し溜まったようだ。
「王とは何だと?それは余だ。この国の王は余だ。それ以外でもそれ以上でもない」
「それは重く苦しい税をしいて亜人を奴隷として使いつぶすことが正しい王政だと思っているという事か?」
「ふん!あんな獣畜生どもがどうなろうと別に良いではないか。人間の出来損ないどもが。それに余が自分の国の国民をどう使おうと余の自由であろう?」
この問答をしている間にこの空間にいるもののほとんどが顔を青くしていた。イグニスとアイセアは俺が明らかに王に対して反抗的な態度をとっているからだ。その他の護衛の兵士やメイドたちまで表情がすぐれないのは恐らくとばっちりの流れ弾を恐れてだろうな。こいつが俺に怒り狂った場合近くにいた連中が何かの拍子にターゲティングされかねない。
しかし、そんなものはどこ吹く風と無視して話を続ける。
「そうか。お前はそれでいいんだな」
「貴様!先程から無礼な奴め!礼儀もわきまえぬ愚か者めが、この者を牢につないでおけ!!」
その声に反応して周囲にいた兵士たちが一斉に動き出そうとする。
それに対応しようと息を吸い込んだ俺よりも先に大声を上げた人物がいた。
「お待ちください陛下!!」
「余の行いを妨害するか?アニアス家の娘」
「カグヤ様は記憶をなくしておられるのです。多少のご無礼はあったかもしれませんがどうかご容赦――」
「ふん、そんなことは関係ないわ。余にたてついてこの城から無事に出られると思うな。それにしても、お主名は確か――アイセアとか申したな」
「は、はい。」
急に自分を見る王の目つきが変わったことでアイセアが不安に声を震わせる。
「なかなかに憂い顔立ちをしておる。そこの無礼者を牢に入れるのは変わらんが、お主が余の奴隷になるというのであれば多少罰は軽くなるかもしれんぞ?少なくとも命は保証してやろう」
下卑た笑い声をあげながらいやらしい目つきでアイセアを見ている。不快感と恐怖で体を震わせたアイセアだったが、覚悟を決めたように口を開こうとする。イグニスは今にもとびかかりそうな顔をしている。そういえば最近忘れていたが、イグニスはすさまじく娘であるアイセアを大事にしていることを思い出した。イグニスが飛び出す前にも行動を起こすべきだろう。
「人間の分際でずいぶんと思いあがったものだ」
「...なに?」
俺の発言に疑問を感じたのか、王がアイセアの体を舐めまわすように見ていた視線を訝し気なものに変えてこちらに戻す。
「なんだ?では貴様は神だとでもいうのか?」
「そうだ。俺はお前に神罰を下しに来たんだ」
そういうと同時に無詠唱で『変成』を使用する。光り輝く純白の羽を大きくはばたかせ、周囲には『光玉』という光の球を浮かばせる魔術を使用して神々しさを演出する。
俺を取り押さえようとしていた兵士たちはあまりに衝撃的な光景に圧倒されてただ口を開けてみているだけだ。事の中心人物である王様も驚きのあまり椅子に座ったまま口を開けている。淡々とした口調でその間抜けな王に告げる。
「貴様の罪は重い。しかし、常に更生のチャンスはあるべきだ。一度だけチャンスをやろう。今行っている悪事をやめ、まともな王政を行うならば今回は見逃してやろう」
いまだにその場で固まっている王をしり目に王の後ろから静かに動きだす影があった。
「神を名乗るお方よ。少しよろしいかな?」




