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異世界にて魔術家庭教師に再就職しました。  作者: 時雨
異世界転移編
12/33

事件はいつも唐突に

「カグヤさんすごいですね!ワンちゃんにそんなになつかれるなんてうらやましいです!」

「おー、かわいいよー。かわいいねー。」



今俺の顔面は犬のよだれでベットベトになっていた。

顔が何だか獣臭くなっている気がしてきた。

どうして俺がこんなところで犬っころと戯れているのかを説明するには数時間前に遡る必要がある。







朝、扉を開けるとさも当然のようにそこに彼女は立っていた。

もはや驚かなくなった自分が怖い。

今日は屋敷にある剣や鎧をインプットしてみるつもりだったのだが、よくよく考えてみればそんなことをフィーナが許してくれるわけもない。

今日の予定が丸々パーになってしまったことに困ってしまい、今日もスライムをいじめ倒すしかないのかと思いかけていたところに現れたのがアイセアだった。

なにやら彼女は日常的に彼女は街に出向いてそこの住民の話を聞いているんだとか。

そのついでに街を案内してくれるというので、俺としてはそのうち街を見て回るつもりだったし好都合だとついてきたのだ。





結果はご覧のあり様。

俺の顔面は犬の唾液でべろんべろんである。



「では次は市場に行きましょうか。」

「わかった。でもとりあえず今日は犬にちょっかいかけるのはもうやめような」



手で顔を拭くふりをしてこっそり魔術で水を作り出す。

これできれいになればいいけど。

なんだか全体的に獣臭い気がするが…気のせいと思いたい。





市場は大量の露店が立ち並び、人々の活気にあふれたところだった。

そこら中から店の売り物の売り文句を叫ぶ声や、値段を交渉する声が聞こえてくる。



「ここはたまに掘り出し物なんかもあったりするので頻繁に来ても損はないですよ」

「掘り出し物?例えばどんなものがあるんだ?」

「そうですね、あのお店なんかはどうでしょうか!」



そういって一つの露店に走っていく。

どうやらそこは宝石やアクセサリーを売っているところのようだった。

様々な意図や形の宝石が並んでおり、どれも美しいものばかりだ。

だがしかし、ここで注意しなくてはいけないことがある。

皆さんお忘れではないだろうか。



そう、俺は一文無しである。



「おやアイセア様、今日も私たちのような下々の者の声をお聞きになりに来てくださったのですか」



この店の店主である老婆が嬉しそうに目を細める。

老婆の口ぶりからすると、アイセアはどうやらこの店には比較的いつも来ており顔見知りのようだ。



「何をおっしゃるのですか。私たち治める側が何をしても民が一丸となっていなくては何もできません。今この街の民がこうやって笑顔でいられるのはひとえに皆さんの努力のおかげなんです。自分たちを卑下するような言い方はやめてくださいといつも言っているではありませんか」

「フェッフェッフェ。アイセア様にはかなわないねぇ」



こうして見ると二人で微笑み合っている様子は本物の祖母と孫のようにも見える。

何ともほほえましい光景だ。

どうやらこの街の領主は領民に愛されているらしい。



「そういえば最近物騒な噂をよく聞いてねぇ。年寄連中は怖くて街の外には出られないよ」

「例の盗賊の噂ですか…」

「盗賊?何の話だ?」

「どうやらこの街の周辺で商人や旅人を襲う盗賊が現れたらしいんです」

「それなら討伐隊とかが結成されるんじゃないのか?」

「普通の盗賊ならそれで済むのですが、どうやらその中に冒険者から盗賊になった方がいるらしくて」

「そいつがなかなか強くて手を出せないってことか?」

「はい。今回お父様が出掛けてらっしゃる理由も近隣の村長や隣の領主との会合が理由らしいんです」

「なるほどな…」



そこまでしなくてはいけないほどの危険人物がいるとはまったくもって初耳だった。

それなら昨日スライムを借りに行ったのも危険だったのでは?

と思ったが、さすがに盗賊も白昼堂々襲ってくるものではないらしい。

それに強いのはその冒険者崩れの一人だけで他は大したことないんだとか。



「それで?掘り出し物はありそうか?」

「そうでした!おばあ様、今日は何か面白いものありませんか?」



面白いものって…、とも思ったが、宝石たちを見つめるアイセアは純粋な少女そのものであの毅然とした立ち振る舞いや言葉遣いは貴族として作り上げた"外側"なのかもしれない。

きっと素の彼女はまだまだ遊びたい盛りの女の子なのだろう。



「えぇと、そうだねぇ……ああ!ちょっとお待ちなさい、お二人さん」



老婆が何かはっとしたように露店の奥の木箱からとても大切そうに何かを取り出す。

戻ってきた老婆の手には青く輝く半透明な宝石がはめられた指輪が二つ握られていた。



「これは二つの指輪がお互いの場所を示し合う魔道具でねぇ。いつもお世話になっているお礼に彼方たちに上げるわ」

「そ、そんなことは―――」

「いいのよ!いつもこんなおいぼれのところに来て下さるのはアイセア様だけだものねぇ。私たち年寄連中はアイセア様の笑顔にアイセア様が思っている以上に元気づけられてるんだよ。だからこれはほんの気持ち。どうか受け取っていただけませんかねぇ」



ひとしきりあたふたした後に「ど、どうしましょう」という助けを求める視線をこちらに送ってくる。



「こう言ってることだしありがたくもらったらいいんじゃないか?」

「わ、分かりました。ありがとうございます。必ず大切にしますね」



まるで大切な宝物のように指輪を旨の前で両手で握り、目を閉じてほほ笑んでいる。

その姿を見るだけで癒されるようなそんな感覚を覚えた。

こういった魅力も民を引き付ける理由の一つなのだろう。











気づくといつの間にか夕方になっていた。

そこら中で聞こえていた人々の声もいつしか少なくなり、店じまいをしているところもある。

今日中に街を一周してしまおうと考えていたので、かなり駆け足だった部分もあるがそこはまた今度にでも見に来ればいいだろう。



「きれいな指輪もらえてよかったな」

「はい!それでこの片方なんですけど…。もしよければカグヤさんが持っていてくださいませんか」

「え?お、俺?」

「はい、ですから…」



その先の言葉を言わないまま彼女は数歩歩き出す。



「もし私に何かあったら―――――――――――――――――――――――必ず助けに来てくださいね」



少し日が傾き、赤く染まった太陽の光に照らされた彼女の笑顔はどこか儚げでとても美しいものだった。

なぜかはわからないが、普段の彼女の微笑みとは違う、どうしようもなく弱々しい笑顔のように感じる。



その変化に驚き、一瞬返事をためらってしまった。

はっきり言ってその笑顔に少しドキッとしてしまっというのが大きい。

そして少し遅れた照れ隠しに「ど、どうしたんだよ急に」と口にしようとしたとき。




それは起こった。




ガラガラガラガラガラガラガラガラ!!!!!!!!!



「うわっ!!!?」



目の前をちょうど俺とアイセアを隔てるように馬車がすさまじい勢いで駆け抜けていく。

あまりに急な出来事のせいで思わずしりもちをついて転んでしまった。



「なんだよ危ないな!街中であんなスピード出すなんて怪我人でも出たらどうするんだよ…。大丈夫かアイセ―――――アイセア?」





そこには――――――――




――――夕日に照らされて青い光を放つ一つの指輪だけが落ちていた。




ここからようやく主人公がまともに戦闘を…!?


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