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第一章8 『亜属性の才』

――リューチカ村・ルース宅――



 時刻は夕暮れ。

 セティアとぎこちない会話を交わしながらルース宅に到着し、セティアが襲われたこと、それを偶然自分が助けたことをリューシャ、ルースに説明する。



「娘を助けてくれて、本当にありがとうリョウ君。君がセティアを助けていなければ今頃……」


「いいですって別に。ていうかこの村物騒すぎません? 一人で出歩くのもちょっと躊躇うんすけど」


「……いや、この村の治安は良好だよ。……おそらく、その男たちは金で雇われたんだろう。セティアを誘拐するように」



 ルースの顔は出会った時の柔和な表情と比べ、異様な程神妙な顔つきだ。

 ルースだけでない。リューシャとセティアも今話している内容に対して、焦燥、緊張、恐怖の感情が混じったような表情を示している。

 リョウもそれを感じ取り、このセティアの事件は単なる美少女を狙っただけの誘拐事件に収まらないことを悟った。



「単なる誘拐事件、って感じじゃなさそうっすね。いや、誘拐ももちろん大事件なんすけど」


「……実は、僕の娘はある組織に狙われていてね。まだセティアについての詳細は相手も知らないと思っていたんだけど、そう甘くは無かったようだ」


「……すぐにでも、出発するべきじゃな」


「ん? どっかに逃げるんすか?」


「ワシがリューチカ村に来た理由は、ルースの娘を匿う為だったんじゃよ。本来であれば出発は三日後の予定じゃったが、明日の朝にでも出発せねばな」



 てっきりリューシャは商人としてこの村に来たのだと思っていたが、それは誤りだった。

 確かに、そう言われればこの大男が商売で生計を立てているのは変だ。

 どちらかと言えば魔物を狩る狩人や、傭兵なんて職業がしっくりくる見た目。

 となればリューシャの今の服装は、道中で組織に出会った時の為の変装だろうか。



「……リョウ君、折り入って頼みがある」


「……」


「リューシャと一緒に……娘を、セティアを守ってはくれないだろうか」


「……」



 リョウは彼女を守れる人間であるかを自分に問う。

 逃げて逃げて逃げ続け、人生の底辺にまで落ちぶれた人間が、人を守ることなど出来るのだろうか。

 自分の神器とは言えない子供騙しの武器で、魔物、組織からセティアを守ることはできるのだろうか。

 彼女を守らなければならない局面に立った時、自分は逃げずに立ち向かえるのだろうか。



 全ての問いに対して、リョウは自信を持って答えることは出来ない。

 それでも――



「もちろんオッケーっす。……逃げる訳には行かないっすから」



――リョウは逃げない。少なくともこの選択肢からは。

 


「ありがとう、恩に着るよ。……僕はどうしてもこの村に残らなくちゃいけなくてね。リューシャのケガも明日の出発までに治せそうに無いし、戦える人が必要だったんだ」


「あの……期待してくれるのはありがたいんすけど、自分強くないっすよ」



 リョウの神器は炊飯器。魔力が宿っている理由で耐久力、攻撃力は高いものの、リーチの短さや武器としての利用価値の低さから、決して強い武器とは言えない。

 使い手がそれなりの戦闘能力を持っていれば別かもしれないが、生憎リョウは武術を学んだ経験もなく、はたまた運動経験も同年代より少しばかり浅い。



「リョウ君、君の魔法の才能を調べてみようか」


「なんか調べる方法あるんすか?……って言っても、自分の神器コレっすよコレ」



 リョウは炊飯器を召喚し、それをルースに見せる。

 大体この神器を見て判断出来るだろうと見せたつもりだったが、



「亜属性は召喚する物自体は、そこまで重要じゃないよ」


「へ? それってどういう」


「亜属性の魔法は、神器召喚魔法オラクルのみ。でも、その召喚した物に魔力を流し込む事が出来るんだ」



 亜属性の魔法がオラクルのみという新事実を聞き、リョウは一瞬思考を停止させるも、その次の言葉によって我に返った。



「こういうことすか? でも炊飯器動かした所で戦いには何の役にも立たないっすよ?」



 リョウは召喚した炊飯器に魔力を流し込み、電源を入れた。

 ピッという電子音が流れ、炊飯器のボタンを適当に押していく。

 他の亜人が召喚した神器なら、魔力を流し込めば戦闘に役立つ能力が得られたのかもしれないが、炊飯器はあくまで炊飯器のままであった。



「リョウ君、もっとマナを流し込んでみて」


「了解っす」



 無駄だとは思いつつも、ルースの指示通り更にマナを炊飯器へ流し込んでいく。

 


「ルースさん、やっぱ駄目っすよ――あれ?」



 リョウが諦めの言葉をルースに掛けようとした時、リョウは炊飯器が変化していることに気付いた。



「なんか……横に伸びてる?」


「ゆっくりではあるけども、形が変化してきている。神器として進化し始めているんだろう」

 

「まじすか……!?」



 リョウは一気にマナを炊飯器へ流し込む。

 この炊飯器が神器となる可能性、その可能性を試さずにはいられない。

 それと同時に炊飯器の形状も、流し込む量とスピードに合わせてより早く変化していく。



――が。



「……マナ切れって奴か……」



 炊飯器は神器の形状になるには至らず、不自然に炊飯器の前方部分が突出するまでに留まった。

 もはや炊飯器かすらわからない形状ではあるものの、やはり武器であるとは言い難い。

 楕円形の鈍器から、先端が少しだけ細い丸太のような鈍器になった程度。流石にこれが神器だとはリョウも思わない。

 まだこれは形状変化を終えていないと、理解できる。



「オラクルの初召喚の際は、膨大なマナを消費しなくちゃならない。おそらくマナが回復しきって無いんだと思うよ。初召喚だけでマナ切れになる亜人も多いと聞く……本題がずれたね、才能を調べてみようか」


「痛かったりしないすか?」


「大丈夫、痛みは無いよ。時間的にも数秒で終わる。目を閉じてくれるかい? 手を当てるけど、驚かないように」



 リョウはルースに言われるがまま、目を閉じる。

 目を閉じるとルースが呪文のようなモノを呟き始め、リョウの額に軽く手を当てた。

 リョウは自分の頭の中をルースに触れられているような感覚を感じるが、不快感は無い。

 ルースの言う通り、数秒間で額から手は離れ、



「終わったよ、リョウ君」


「どうでした?」


「正直驚いたよ。ここまで精霊からの愛に恵まれた人を見ることは滅多にない。」


「おお、それは良かった」



 魔法の才能に恵まれてると言われても、リョウは正直どうでもよかった。

 なぜなら亜属性の魔法はオラクルだけ、才能があるからと言ってどうなるのだろうか。



「……亜属性の才能があったら、どういうメリットがあるんすかね……」


「おそらく、神器に流し込める魔力の量だろう。僕は今まで三人の亜人に会ってきたけど、神器から感じる魔力には差があったからね」


「全てはマナが回復し次第ってことすか」


「そうなるね、一晩寝れば回復してるだろう。夕飯はここで食べて行くといい、泊めてあげることはできないけど」


「リョウには悪いが宿で泊まって貰うぞ、金は渡すから安心せい」


「了解っす。で、実は夕飯のことなんすけど――」





            ※





「……炊飯器で炊いた米が焦げるって、どんだけ不器用なんだよ自分……」


「ご、ご飯はおこげが美味しいって言いますよ! 落ち込まないで下さい! ……残しちゃいましたけど」


「確かワシが聞いた限りでは、スイハンキを使って炊いた米は焦げないと聞いたのじゃが……」



 セティアとの約束通り、リョウは炊飯器を使い米を炊いた。

 炊飯器の動かし方は、炊飯器の一部分に触れて魔力を流し込むだけ。

 そうすると動作する仕組みだ。驚くほど簡単ではあるが、見事にリョウは米を焦がしてしまう。

 米と言うよりは、黒米だった。



「……リューシャさんの言う通り、基本的には焦げることなんてあり得ないはずなんすけど」


「……もしかしたら、魔力を流し込む量が多すぎたのかもしれないね……」



 自分の不器用さを、改めて痛感するリョウであった――


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