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勝ったのはフェリーユさんだった。
タッチの差でママさんが二位。
三位は少し差がついたものの、ヒミカがゲットした。
その後ろにアリサさん、オードリアさん、ミルクちゃんと続く。
通常のレースなら、着順で表彰台に上るところだけど、今日だけは違っていた。
最終戦ということで、着順のポイントと美しさポイント、減点をすべて加算した総合ポイントが発表され、その上位三人が表彰台へと上がるのだ。
巨大なモニターに、「最終結果発表!」の文字。
全員が固唾を呑んで見守る。
大げさなドラムロールが鳴り響いたあと、モニターに最終的なポイントランキングが、下位から徐々に映し出されていく。
二十位から順に表示されていき、六位にミルクちゃん、五位にオードリアさん、そして四位にアリサさんが表示された。
アリサさんは自分の順位がわかると、あからさまに悔しそうな表情をヒミカに対して向けてきた。
「く~~~っ! ヒミカさんに負けた~~~!」
「……勝っちゃった。けど、勝敗なんて関係ない」
一方のヒミカは、落ち着いていた。いつもどおりのヒミカだ。
「あんた、卓越しすぎ! 三位なんだから、もっと喜びを全身で表現しなさいよ!」
「にゃははっ! でもまだ、チャンピオンの可能性だって残ってるよっ?」
ヒミカとアリサさんの言い合いに、ミルクちゃんが明るい声を挟む。
確かに、三位以上の発表はまだだ。運営委員会側も、盛り上げるためなのか、発表を引っ張っている様子が見受けられる。
だけどやっぱり、ヒミカは落ち着いたもの。
「ありえない。チャンピオンは、フェリーユさんかママさん」
素っ気なく答える。
ボクも同じ思いだった。
「あらぁ~、でも、もしかしたら、ってこともあるかもしれませんよぉ~?」
パチンと両手を重ね合わせ、楽しそうに微笑みながら、オードリアさんまでもが囃し立てる。
とはいえ、いくら天然のオードリアさんでも、本気で言ってはいないだろう。
あの白熱した先頭ふたりの戦いを見ていれば、否応なくわかる。
今年のチャンピオンにふさわしいのは、フェリーユさんとママさんのどちらかであるということが。
その考えのとおり、続く三位にヒミカの名前が表示された。
参戦初年度で年間三位というのは、異例の好成績だ。
大きな歓声と惜しみない拍手が、ヒミカを祝福してくれる。
それでもヒミカは、微かな笑顔の中にも、ちょっとだけ残念そうな陰を見せた。
わかりきってはいたけど、もしかしたらさらに上に……という可能性も考えてしまっていたのだろう。
そんなヒミカに、温かい声がかけられる。
「三位おめでとう、ヒミカさん!」
「……ありがと」
なんだかんだと突っかかる物言いをし続けてきたアリサさんからの素直な賛辞に、ヒミカは少し戸惑いながらも、はにかんだ笑顔を返していた。
結果発表は続く。
残るはふたり。
フェリーユさんとママさんだけだ。
いったい、どちらが勝つのか、誰にも想像がつかなかった。
最終戦直前までのポイントとしては同点。
今日の最終戦では、フェリーユさんがママさんより先にゴールした。
といっても、後半六戦分の美しさポイントと減点がまだわかっていない。
減点があるとは思えないふたりだから、美しさポイントの差を考えてみる。
若さという点ではフェリーユさんが有利ではある。
ただ、ママさんも三十を越えた年齢とは思えない美しさで、また、飛行スタイルのブレのなさは、フェリーユさんをも凌ぐ。
ゆったりとした流れるようなフォームを崩さないママさんのほうが、美しさのポイントでは優位のように思えた。
つまり、どちらにもほとんど同じくらいの可能性があるということだ。
再び、ドラムロールが鳴り響く。
ようやく最後の発表がなされるのだ。
会場が静まり返り、みんな息を呑んで、結果が映し出されるのを待つ。
やがて、二位と一位が同時に表示された。
爆発的な歓声が轟く。
「わ~っ! やりましたね! 四年連続!」
アリサさんが満面の笑みで歓喜の声を上げる。
そう、四年連続。
こうして、今年度のスターウィッチのチャンピオンは、フェリーユさんに決定した。
両手を振って、祝福の言葉をかけてくれる観客たちに応えるフェリーユさん。
その横では、やはり優しい笑顔を浮かべたままのママさんが、控えめに右手を振っていた。
☆☆☆☆☆
表彰台に、ヒミカ、ママさん、フェリーユさんの三人が上がる。
表彰台での写真撮影をしたあと、普段は別の場所でインタビューを受けるのだけど、最終戦だけは表彰台の上でそのままインタビューまで行われることになっている。
最終戦のインタビューでは、運営委員長であるアイカさんが直々にマイクを向けることになるのだ。
まず、三位のヒミカにマイクが向けられた。
さすがに緊張の面持ちといった様子のヒミカ。
頑張れ! ボクは思わず心の中で応援する。
ふと、ヒミカと目が合った。
ボクが黙って頷きを返すと、ヒミカはわずかに微笑んだ。
そして彼女は軽く深呼吸をすると、マイクに向かって話し始めた。
「えっと……、参戦した最初の年で、三位にまでなれて嬉しいです。これも応援してくれたみなさんのおかげ。それと、支えてくれたセスナのおかげ。ほんとに、ありがとう」
大勢の人を前にしてちょっと引きつっているようではあったけど、ヒミカは精いっぱいの笑顔を浮かべ、そう言って深々とお辞儀をした。
自分の名前が出たことに恥ずかしさを感じながらも、ヒミカの言葉は深くボクの心に響いてきた。
気がつくと、ボクの頬には自然と涙がひと筋、流れていた。
ヒミカはお辞儀をしたまま、なかなか顔を上げない。
キラキラと光を反射する雫が、ポタリポタリと足もとへこぼれ落ちる。
ヒミカも感動で胸がいっぱいになり、溢れ出した涙が止まらないのだ。
そんなヒミカを気遣ってくれたのだろう、アイカさんの持つマイクは、次にインタビューを受けるママさんへと向けられた。
「まずはフェリーユさんに、おめでとうと言わせてください。今年は本当に楽しませていただきました。フェリーユさんだけでなく、新たな若い力がウィッチレースの世界を盛り上げているのだということを、心の底から感じました。本当に今まで、ありがとうございました」
ママさんのゆったりとした口調で綴られる言葉。
その流れに、昨夜カフェテリアで聞いた話が蘇る。
『そういえば、ママさんは今年負けたら引退するって、本当ですか?』
そう問われたとき、ママさんはなにも答えなかったけど。
でも今、ママさんの目には深い決意の念が見て取れた。
「わたくしは今年度を限りに引退しようと思います。老兵は去るのみです。長いあいだ、ありがとうございました」
先ほどのヒミカに続いて、ママさんも深々と頭を下げる。
辺りには、悲鳴とも思えるような大声がこだまし始めた。
「そんな! ママさん、やめないで~!」
「老兵なんて、とんでもない! まだまだお美しいです!」
「もっとわたしたちに希望を与え続けてください~!」
そんな声を全身に受けながら、顔を上げたママさんは、清々しさをも感じさせる微笑みを浮かべていた。
決意は揺るがない。
そんな力強さを持った笑顔だった。
「さあ、インタビューを続けましょう。最後を飾るのは、四年連続でスターウィッチのチャンピオンとなりました、フェリシアルファミーユさんです! みなさん、盛大な拍手を!」
割れんばかりの拍手の渦に包まれながら、アイカさんからマイクを向けられたフェリーユさんが口を開く。
「みんな、祝福ありがとう。こうしてまたチャンピオンになれて、あたしは本当に嬉しく思っている」
会場全体を震わせるほどの歓声が沸き起こった。
フェリーユさんは微かに笑顔をたたえたまま、会場全体に視線を巡らせる。
と、その笑顔がふっと、陰った。
というか、若干寂しげな雰囲気を宿したように、ボクには感じられた。
フェリーユさんは、ゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「ママさんとの戦い、とても楽しかった。そして三位以下のヒミカ、アリサ、オードリア、ミルクの戦いも、素晴らしいものだった。もちろん、それ以外の魔女たちも、未来を感じさせる戦いぶりを見せてくれた。ウィッチレースの将来は明るいと心から思えて、今のあたしは晴れ晴れとした気持ちでいっぱいだ」
愛する子供たちに向けて優しく物語を読み聞かせる母親のような声に、会場にいる全員が静かに耳を傾けていた。
そんな中、フェリーユさんは思いもよらない衝撃的な発言を続ける。
「これで心置きなく、舞台を降りることができる」
――えっ?
誰もが耳を疑った。
困惑の表情を浮かべる会場に向け、フェリーユさんはハッキリと言い直す。
「あたしも、今年度をもってスターウィッチのホウキ星という立場から退きたいと思う!」
ママさんのとき以上に大きな悲鳴が、雷でも落ちたのかと思うほどに会場内を揺らした。
しばらくのあいだ、観客たちのざわめきは収まらなかった。
会場内に落ち着きが戻った頃合いを見計らい、フェリーユさんは最後の言葉を発する。
「ヒミカ、アリサ、オードリア、ミルク、それにその他の出場者のみんな……。これからはお前たちの時代が始まる。未来はお前たちに託すことにするよ。時代は常に移り変わってゆくもの。新しい風を止めてしまう壁になってはいけない。だからあたしは、去ることに決めた。だが、あたしはいつでも、みんなのそばにいる。これからも笑顔を忘れず、頑張ってくれ!」
フェリーユさんは鳴り止むことのない盛大な拍手に見送られながら、こうしてスターウィッチの舞台からその身を引いたのだった。




