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部屋の中に閉じこもる日々には、すぐ終止符が打たれることとなった。
不意にドアを叩く音が響いたからだ。
「はい」
ボクが応対に出ると、そこにはマナミンとカナミンを従えたアイカさんが立っていた。
ついに来てしまったか、といった感じで、思わず身構えてしまう。
「ごきげんよう、セスティリアフォルナさん。さて、わたくしどもの用件がなにかは、言わなくてもわかってもらえますね?」
「……はい」
ボクは観念して頷く。
結局、どうやってごまかせばいいか、これといった案も出ないまま、このときを迎えてしまった。
もうこうなったら覚悟を決めるしかない。ボクはそう考えていた。
「話が早くてありがたいわ。それでは、室内にお邪魔させてもらって、身体検査をさせていただきますね」
アイカさんが有無を言わさぬ鋭い口調でそう宣告し、マナミン・カナミンを伴って部屋の中に足を踏み入れようとした……まさにそのとき。
普段はボクの後ろに隠れているようなあのヒミカが、大胆な行動を起こした。
ボクをかばうように両手を広げると、アイカさんとのあいだに割り込んできたのだ!
「あら、ヒミリエリュフィーカさん。どうしたのかしら?」
「勝手に部屋に入るなんて、横暴。しかも身体検査だなんて、ひどすぎる」
いつものヒミカからは考えられない強い言い方に、アイカさんも少々たじろいでいるようだった。
「そ……そうかもしれませんが、わたくしどもとしましては噂となっている件を確かめなければなりません。セスティリアフォルナさんの身体検査を行う義務があります」
アイカさんは戸惑いながらも、しっかりと事情説明を続け納得させようとする。
そんな彼女に、ヒミカはなおも食ってかかる。
「だけど、プライベートに踏み込むのは、たとえ運営委員会だって許されないはず」
「わたくしどもとしましても、引き下がるわけにはいきません。それに、身体検査を拒否するようですと、怪しいと疑わざるを得なくなってしまいます」
負けじと強い口調で言い返してくるアイカさんに、あれやこれやと考えを巡らせて必死に侵入を拒もうとするヒミカ。
「でも、セスナの身体検査なんて、させたくない。……セスナの体は、わちだけのものだから」
………………。
ヒミカ……、テンパっているからだろうけど、いくらなんでもその言い訳は……。
ボクが恐る恐る瞳を上げてみると、アイカさんもマナミン・カナミンのふたりも、呆れ顔でぽかんと口を開けていた。
「ま……まぁ、この世界には、そういう人も結構多いようですけれど……」
どうやら、思いっきり勘違いされてしまったようだ。
でもその言葉から、とりあえず今のところ、アイカさんは噂を信じていないということが読み取れた。
「わかりました。今日のところは退散致します。ですが、後日正式に身体検査をさせていただきますので、そのときには今日のように拒否しないでくださいね。……あなたたちの、未来のためにも」
さっきの発言で呆れてしまい、勢いが削がれたというのもあるのだろう、アイカさんは引き下がってくれた。
歩み去るアイカさんたちの足音が遠ざかっていくのを聞きながら、ボクはほっと胸を撫で下ろすと同時に、早くどうにかしないと、という焦りに包まれていくのだった。
☆☆☆☆☆
「う~ん、どうしよう……」
ボクは部屋にこもったまま、ヒミカと話し合っていた。
もちろん議題は、今問題となっている事態をどうやったら切り抜けられるかについてだ。
「フェリーユさんやママさんに相談してみるっていうのは、どうかな?」
「ダメ」
ボクの提案は、一瞬で却下された。
「ウィッチレースは女性の世界。いくらチャンピオン争いしてる伝説級のホウキ星でも、その観念は同じはず」
確かに、ウィッチレースで戦う魔女の中には男性を毛嫌いしている人すらいるというのは、よく聞く話だ。
そんな世界なのだから、真実を知られたら追放は免れないだろう。
たとえフェリーユさんやママさんに対してでも、この事実を漏らすわけにはいかない、ということか。
ボクは再び考え込む。
「さっきはヒミカの機転でどうにかなったけど、逃れ続けるのも限界があるだろうし……」
ふと漏らしたつぶやきに、ヒミカは怪訝そうな顔をして言葉を挟んでくる。
「機転? わちは事実を言っただけ。セスナはわちのもの」
うわ、ヒミカのやつ、言いきったよ……。
さすがに抗議の声を上げようとしたのだけど、それよりも早くヒミカが提案した。
「決めた。わちが代わりに、身体検査を受ける」
「……え?」
ボクには、わけがわからなかった。
「セスナはわちと背丈も髪質も近い。いつもセスナが使ってるウィッグをわちがつけて、恥ずかしいからって顔を隠しながら身体検査を受ける。これで、完璧」
ヒミカは自信満々に解説を加える。
う~ん、そうかなぁ~?
ボクにはどこが完璧なのやら、まったく理解できなかった。
それなのに、どういうわけだかヒミカはやる気満々。
わちに任せろ、と平らな胸を叩く。
「でもさ、ヒミカ……。アイカさんたちだから知ってる仲ではあるけど、身体検査されるのなんて、やっぱりイヤなんじゃない?」
ボクはヒミカの気が削がれてしまうのを怖れながらも、そう尋ねていた。
ヒミカは極度の人見知り。ある程度慣れている人が相手だったとしても、ほとんど話せないくらいなのだ。
そんなヒミカが、いくら調べるのが女性だからって、身体検査を受けて素肌をさらすなんて、とうてい信じられなかった。
「そりゃ、イヤだけど……」
口ごもるヒミカ。
そのあとにボソッと続けられた言葉を、ボクは聞き逃さなかった。
「セスナのためだし……」
「……え? なに?」
しっかり聞こえてはいたのだけど、ボクは聞こえなかったふりをして訊き返す。
だって、すごく恥ずかしかったから……。
訊き返されたヒミカのほうも、耳まで真っ赤になりながら、
「う……あ……、セ……セスナのことがバレたら、わちも困るから、って言っただけ」
ボクには視線を向けることなく、そう言ってごまかしていた。




