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ソラボシ! ~青空(そら)駆けるホウキ星~  作者: 沙φ亜竜
第4翔 わち、やめたくない
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-1-

 ウィッチレースも一年の中盤となり、第五戦、第六戦と、暑い中での白熱した戦いが繰り広げられた。

 ただ、暑さにやられたというわけでもないだろうけど、ヒミカはどうもいまいち、ぱっとしない成績しか残せないでいた。

 開幕戦はともかくとして、上位の六人がほぼ固定化されていた前戦までとは違い、ヒミカは他の魔女にも遅れを取り、ここ二戦は八位と九位という結果に終わっている。


 第六戦のあと、魔女ホテルの自室へと戻るヒミカは、肩を落としているように思えた。

 意気消沈し、戦う気力も失くしてしまっているのではないかと心配だったけど、それは杞憂に終わる。


「次こそは、勝つ」


 部屋に戻るやいなや、ヒミカはぐっとこぶしを握り、珍しいほどの気合いを見せてくれた。

 大声で叫ぶなんてことはなかったものの、心の奥底から湧き上がってくるような力強さを感じさせる声だった。


「うん、頑張ろう! ボクもサポートとピット作業と応援、頑張るよ!」


 笑顔を向け、気持ちを後押しする言葉をかけた途端、ヒミカはボクの頭をバシバシと平手で叩き始めた。


「痛たたたた、痛いよヒミカ! なにするのさ!?」

「セスナのサポートとピット作業の手際が悪いのと、応援が不充分だったのが、わちが負けた一番の原因」


 抗議の声を上げるボクに、ヒミカは平然と言ってのける。


「えええ~~~っ? ボクのせいなの!?」

「当然」


 バシバシバシッ! と平手打ちは続く。


 ううう、なんて不条理な……。

 とは思ったものの、いつものことだから無駄な反論なんてしないボクだった。


「お詫びが必要」

「……はいはい。カフェテリアのショコラケーキ、食べさせてあげるから」

「よし、許す」


 ショコラケーキという魔法の言葉によって、一瞬にして満足顔へと変わる。

 ヒミカは最近、カフェテリアのショコラケーキに夢中なのだ。


 カフェやレストランは、どこの都市にある魔女ホテルでも同じ系列らしい。

 地域ごとの特別メニューなんかも用意されているけど、基本的なメニューについてはどこの魔女ホテルに移っても食べられるようになっている。


 ショコラケーキを思い浮かべて早くもヨダレを垂らしそうになっているヒミカを見ながら、ボクは微笑ましい気持ちに包まれていた。


「約束。次のレースに勝ったら、おなかいっぱいのショコラケーキ」


 カフェテリアでケーキを食べ終え、部屋に戻ってきたヒミカは、そんな提案をしてきた。

 モチベーションを高めるためのご褒美、ということなのだろう。

 ヒミカの提案を棄却する気なんて、ボクにはさらさらなかったのだけど。

 なんとなく口答えしてしまう。


「そんなにたくさんは、食べられないでしょ?」

「甘いものは別腹」

「……太るよ?」


 ヒミカの機嫌をそこねたボクは、ひたすら連続で頭を叩かれる羽目になってしまった。




 ところで、ボクにはひとつ気がかりなことがあった。

 ヒミカのお母さんからの電話だ。


 今までどおり、第五戦、第六戦のレース前にも、おばさんから電話がかかってきた。

 やっぱりヒミカが心配だという内容だ。

 しかも、その思いは次第に強くなっているようで、どうにかレースに出るのをやめさせることはできないか、といった相談まで持ちかけられるようになっていた。


 ホウキ星としてレースに出るのは、幼い頃からのヒミカの夢だ。

 だから、ボクは全力でサポートしてその夢を叶えてあげたいと思っている。

 村を出てくるとき、おばさんだって同じ思いを語ってくれていたのに。

 今さらそんなことを言うなんて……。


 そりゃあ、大切な娘なのだから、ヒミカを心配する気持ちもわからなくはない。

 だけど、スターウィッチでのヒミカの活躍は、おばさんだってテレビで見て知っているはずじゃないか。


 ちょっとした怒りを覚えはした。

 だからといって、ヒミカのお母さんを相手に、文句なんて言えるはずもない。

 ボクは結局、適当に相づちを打ちながら話を聞き流し、曖昧に返事をするだけで電話を切ることしかできなかった。


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